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最期の祈り(Fate/Zero)

作者:歪んだ光
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Mission Kiritsugu

 
前書き
短めですが…… 

 
 蒼穹を二つのISが駆ける。スコール・ミューゼットと更識楯無。現代においてほぼ最高レヴェルの両人が戦うとなった場合、余計な小細工が命取りになる。現に、その空中戦はお互い実弾のみと言うありきたりなものだった。
 「……そこ!」
 だが、その戦いは苛烈の一途を極めた。マッハを超え入り乱れるように戦いながら、その全ての攻撃に狂いは無い。楯無のガトリングガンから吐き出された銃弾は遍くスコールに向かう。対するスコールは後退しながらその間隙を縫い、逆に制圧射撃用の弾丸を撃ち込む。上下が激しく入れ替わり、世界が何十次元の様な錯覚を与える。日常では主に三次元を常に意識することは滅多にない。どこかの人形師に言わせれば、自分たちの常識が脳を保護しているかららしい。乱暴に言ってしまえば自分たちの視界に映るものを世界として、映らない物を別世界として理解の外に置いてしまう。一々自分たちの世界と三次元の世界を照らし合わせていたら脳が耐え切れない。そんな限界を、このドッグファイトは強いていた。二次元と多重次元の間隙を舞い、それを自分たちの世界に変換することなく受け入れ、自分たちを別世界へ誘う。三十秒後の未来へ銃弾を送り、五秒後の斬撃の為に回避をする。弾が凶がり剣が狂い咲き、一気にチキンレースへ加速する。秀才と天才を大きく隔てる最大の壁、だからこそ空中戦が重んじられている。
 「ちっ」
 だからこそ、スコールは舌打ちをする。更識楯無を見くびり過ぎていたと。このレヴェルに達するには幾千の月日を重ねてもたどり着けない極地。たかが学園の生徒如きに立ち入られて良い領域では無い。本来なら苦戦は予期してもデッドヒートをやる羽目になるとは想定の埒外だった。そう、スコールの残りの目的は楯無では無い。失敗した、引き際を誤ったと。切嗣のISコア奪取に事実上の失敗をした時点で直ぐに撤退すべきであった。だが、可能性にかけてしまった。エムにオータムなら十分に時間を稼げる。その間に勝負を決めれば計画に狂いはあれ問題無いと。
 ――図られた
 衛宮切嗣の手の上で踊らされたと。切嗣は決定的な勝負に挑むことなく逃げ回る様にゲリラ戦の様な戦闘に持ち込んだ。時間は彼女たちの味方では無い。長引けば長引くほど彼女たちの立つ綱は細くなっていく。もう時間的には限界だ。ブレインたる千冬達は潰したとはいえそろそろ立て直してきてもおかしくない頃合い。直ぐにでも撤退したい頃合いだが、しかしそれが出来ずにいた。今背を向ければ確実に楯無に落とされると。厄介なことに楯無は付かず離れず勝負を遅延していた。そう、ここでは勝ち負けは重要ではない。試合に勝っても勝負に負ければ意味は無い。楯無と切嗣の思考は極めて似通っていた。確かにその実力には天と地ほどの差が在る。だが、今回のミッションの終わりを二人とも正しく見据えていた。自分たちは勝つ必要が無い、言い換えれば自分が最強である必要は無い。
 ――勝負に出たいところだが……
 下手を打つと逆に此方がやられかねない。他の仲間だが、クライアントの一人は退路の用意に戦力に数える事が出来ない。エムは衛宮切嗣の相手をする以上、それで限界だろう。一度負けた相手に再度挑ませるのに躊躇いは在ったが、少なくとも接近戦特化のオータムを立ち向かわせるのは得策とは言えなかった。その点、遠距離攻撃の手段を持つサイレント・ゼフィルスなら確実に切嗣の弱点をつける。最初の一戦を例外と見なせば最善の判断と言える。だが、これでエムは迂闊に動かせない。
 ――オータム、動ける?
 ならもう一方の、良くも悪くも信頼できる方に声をかけた。
 

 At 本校
 一夏は確かに成長していた。セシリアと戦い鈴音と共闘し、濃密な時間を過ごしてきた。だが、それだけだ。機械仕掛けの蜘蛛を殺すには一歩も二歩も及ばない。
 「はあ!」
 ブレイドを振るうが最小の動きで回避され、逆に蹴り飛ばされる。そのエネルギーは既に半分を切っていた。当初は零落白夜で一気に勝負を決める予定だったが、その目論見は失敗に終わった。何故か?本来なら打鉄を装備した箒が囮に一夏が勝負を決める予定だった。だが、何故か、その打鉄が稼働を停止したのだ。いや、実際はそうでない。一夏たちはまだ知らない事だが、第一・第二世代機の全てが稼働を強制停止させられていた。この学園に専用機持ちはそこそこの数が居る。だが、第三世代機はそう多くは無い。今年は様々なイレギュラーがあった為、偶々今年の一学年には第三世代機が大量に配備されていただけだ。だが、その一年のほとんどは戦闘不能に陥っていた。今、戦える戦力は一夏、楯無、切嗣の三人。
 結果、彼はその身だけで敵を押しとどめる羽目になった。一応、セシリアと鈴音は箒と駆けつけた候補生達に保護されているため、周囲への被害に気を配る必要が無いが、それだけで如何こう出来るほど目の前の敵は優しくない。
 「そら、どうした!?」
 鉄の足で建物を足場に縦横無尽に移動をし、一夏を討つ。事、地上戦においてはアラクネに地の利がある。ポテンシャルとしては百式は別格の扱いなのだが、その本領は空中戦、それも接近戦に生かされる事が前提となっている。スコールの様に遠距離から攻撃を仕掛け続けるのも戦術としては有りだが、肝心の遠距離専用の武器が無い。結果、一夏は相手に有利な条件で戦う羽目になった。
 ――どうする?どうすれば、

 勝てる?

 その考えが一夏の思考を縛っていた。だが、今回に限っては一夏の勝利条件にドロップは存在しない。白式はエネルギー効率が圧倒的に悪い。持久戦に持ち込まれては勝敗が決してしまう。その先にあるのは、避難した生徒たちが集うシェルター。シェルターである以上ある程度の攻撃には耐える事が出来る。だが、この学園にそもそもシェルターが希求されうる状況が想定されていなかった。核シェルターならまだしも通常の基準を満たしただけの防壁では時間稼ぎにしかならない。
 振るわれた刃は絡めとられる。そのまま得物を奪われる前に蹴りを叩き込み、一旦離れる。
 「ったく、白けた。お前、弱すぎだよ。同じ初心者でも衛宮の方がまだ面白そうだった。最も結局エムに取られてしまったがなあ」
 蜘蛛のように空間そのものを巣とし獲物を眺める。
 ――差が圧倒的にあり過ぎる。
 その程度の分析は彼にも出来る。だが、引けない。引いたら……
 「……スコールか。解った。こちらを片付けたらすぐに行く」
 その逡巡が全てを決した。
 ――瞬時加速で背後に回りこまれ、
 「くっそ」
 ――武器を振るわれる前に蹴り飛ばされ、
 「がはっ」
 「瞬時加速」
 ――宙に浮いたその身を地面に叩き付けられ
 「あ――」
 全てが決した。
 体中の空気が一気に外に叩き出される。ギリギリ残されたエネルギーが一夏を守る。だが、
 「餞別だ」
 投げつけられた剥離剤によって、白式が強制解除された。
 「ば、ばかな……なんでだよ……一体?」
 「悪いが説明している時間が無いからな」
 再度、鋼鉄の足が擡げられる。標的は、心臓。
 死ぬ?俺が?
 (駄目だ。今は未だ負けられない。今、負けたら……)
 じゃあなと声が降り、その刃が心臓を貫いた。



 ……筈だった。
 突如、オータムに入ったスコールの一言が彼を救った。
 「オータム、直ぐに戻って来なさい」
 「スコール?どうした、何があった!?」
 緊張が彼女に奔った。向こうにはエムが居るとは言え、同時に更識と衛宮の危険人物が揃っている。もし、万が一があったら……
 「ミッション終了よ。ターゲットの衛宮切嗣はエムが捕獲した」
 
 えっ、と一夏の口から呆けた様な声が洩れた
『急いで撤退するわよ』
そんな報告が、まるで他人事のように聞こえた。
 
 

 
後書き
 最近Angel Beats!に嵌りTKに始まりTKに笑い天使ちゃ……奏に号泣したその合間に執筆した歪んだ光です。さて、何かネタ探しにまた勤しむとします。 
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