SAO――とある奇術師は閉ざされた世界にて――
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一章 二話 とある野武士はおせっかい
"罪人殺し"
俺――ラークは巷ではそう呼ばれている。
由来は名前の通りだ。
レッドプレイヤーの殺しすぎ。それにつきる。
覚えているだけでも五十人は軽く越えているから、相当だ。自覚はある。
悪人を裁く正義の味方、と言われたいところだが、レッドとはいえ人を殺した殺人者ということにはかわりはないらしく、俺は嫌われて、とは言わないまでもかなり人に避けられていた。
目下フレンドリストにはたったの一人も名前がない状態が続いている。
いや、たった一つだけ名前があるにはある。
俺がまだ"罪人殺し"などと呼ばれる前、単純に人が信じられなかったころに出会った、たった一人心を通わせた人間。
その名前はログアウトを示すグレーに染まっているのだが。
デスゲーム開始時にSAOの開発主任である茅場明彦がだした俺達の解放条件は至って簡単。
SAOの舞台である"浮遊城アインクラッド"を最上階――第百層までクリアすること。
それに対して今の最前線は第五十一層。たったの半分である。
正常な手段でのログアウトは不可能。
·······後は想像で補ってほしい。
まあ、結局のところ、それが俺の戦う理由だ。
ある男を探し出し、俺の手で殺す。
レッド殺しは、その過程でしかない。
俺が、あの男を·····野武士ヅラの、あの······
野武士ヅラ?
「オイ!ラーク!聞いてんのか?」
目をあける。俺の目の前にあったのは、噂の野武士ヅラ。
ギルド”風林火山”のリーダーであり、俺の”知り合い”である、微妙なデザインのバンダナの男、クラインだ。
俺のフレンドリストに名前はない。
が、人と一定以上の距離をおこうとする俺に、しつこくつきまとってくる物好きな奴だ。
「んで?なにか用だって?」
確か朝一番にクラインが俺のホームに押し掛けてきた所までは覚えている。
「オメェが二週間も顔みせねえから心配してきてやったんだよ」
「そりゃどうも」
心底面倒といった調子の俺だが、クラインは嫌な顔一つせず、むしろこちらを気遣うような調子で
「なあ、オメェ大丈夫なのかよ」
「ああ?なにが」
クラインが少し突っ込んだ事を聞くときにする、要領を得ない質問。
「ちゃんと寝てんのかって話」
「ああ寝てる」
即答です。
「いや嘘つけぇ!」
即否定されました。
いやいやなんで嘘って知ってんだよ。
「さっきだって、ソファに座ったとたんにいきなり眠りやがるから驚いたんだぞ」
心当たりがないわけではない。
というか、クラインの言う通り睡眠が足りていないのだ。
こうして座っている今も頭がフラフラする。
「ま、ちょっとな」
あいまいに誤魔化そうとした俺だが、続くクラインの言葉に少し驚く。
「確かレッドギルドが新造されたらしいが・・・・それと関係してるのか?」
「へえ」
これは俺が"罪人殺し"だと知っての言葉だ。
この男は時々変にするどい。
「まさか、奴等と殺り合ってるんじゃねぇだろうな」
「いや、まだだ」
ここ二週間はそのための準備期間だった。PvP戦では経験値が入らない。そのため、時代の波に乗り遅れないためには定期的な徹夜でのレベリングが必要になる。
そうでもしなければ、狂った殺人鬼相手に絶対安全の戦いをすることはできない。
今回は毎度の目標である攻略組の平均までレベルを上げるために、二週間を睡眠時間である1日二時間以外を全てレベリングにあてた
てか我ながらよく生きてんな。キチガイじゃねぇ?
「まだって、オメェ・・・」
呆れたようなクラインだが、すぐに気をとりなおしていう。
「関わんのやめろって言ってもオメェは聞かねえだろうから言っとく。気ぃつけろよ。レッドといえばラフコフのこの時代に、その傘下に入らねぇんだ。なんかある気がする」
確かにSAO最大最強のレッドギルド”ラフィンコフィン”の傘下に入らない殺人ギルドは珍しい。
それはラフィンコフィン――ラフコフのリーダーである男の無駄に強大なカリスマ性と、ラフコフ自体の圧倒的なブランド性によるものが大きい。というかむしろ、ラフコフじゃなきゃレッドじゃねえ!という意見が出るほど、レッド間でのラフコフの存在は大きい。
その風潮のなかで、それでも一団体での活動を貫くというのはよほど腕に自信があるか、訳ありか、ということだ。
まあ、それくらいはじめからわかっていたことだ。
だから俺は迷わずいう。
「俺を誰だと思ってる」
あの男を殺すまで、俺は死なない。
「・・・カッコいいとこわりぃけど、目の下にクマできてんぞ」
「なぬっ」
言われて慌ててそこに指をのばす。
レッドプレイヤーと出会ったときに、多少なりとも弱みを見せるのは避けたい。調子に乗った奴等ほど怖いものはない。
鏡のない俺のホームでは結局言葉の真偽を確認できず、本気で一度大きな睡眠をとるかと検討し始める俺に、クラインが笑って言った。
「ま、SAOのプログラムでも、流石にクマまでは再現できないらしいけどな」
「・・・テメエ・・・・・」
思い切り睨み付ける俺を肩をすくめて受け流し、クラインは俺の部屋を訪ねた時恒例の、俺の”知り合い”たちの近況流出を。
「そういや、エギルの店がこのアルゲードに引っ越したらしいぞ」
「へーえ」
「キリトが片手剣スキルをマスターしたんだってよ。」
「あーっそー」
「あとKoBの副団長殿がオメェを次のボス戦に引きずりだそうとしてるって。」
「なーんだってー」
・・・流れで軽く返したが、最後のは聞き捨てならない気がした。
・・・まあいいか。
というかこいつ、ほっといたらこのままずっとここに居座ってる気がする。
時間もいいころだし。
「おっとメッセージ」
呟いて、右手をふる。
連動して手元にメニューのウインドウが出現する。
ゲームの世界とは便利なもので、メッセージがあると本人にだけ聞こえる音で教えてくれる。
ウィンドウを操作、メッセージの画面を開く。読む。
「・・・・あー、俺ちょっと出てくるわ」
俺はそう言って立ち上がる。
メニューを操作、装備画面から防具一式と愛用の剣を装備、最後に紅のコートを実体化、肩にのせ首もとのボタンを閉めてマントの様に羽織る。
「どこ行くんだ?」
尋ねてくるクラインに、満面の笑みで答えてやる。
「殺し屋さんのお仕事だよ」
十分後、俺はホームタウンから六層下の四十五層にきていた。
ちなみにというかなんというか、仕事というのは嘘である。
先ほど俺はあたかもメッセージで依頼が届いた様に振る舞ったが、そもそもメッセージはフレンド間限定の機能なので、友達0人根暗男の俺には使えないのだ。
よって依頼がメッセージで送られてくることは勿論、”知り合い”からの連絡があることもない。
さらに言うと、年中避けられている俺にレッド殺しの依頼などそうそうこない。めったにない。
というか俺も別に殺し屋家業を継いでいる訳でもないので、依頼などきてもはなはだ迷惑なのである。
いや、きたら受けるけど。報酬すっげぇ高ぇし。
「ま、アイツもまだまだ甘いな」
そんなに感じでどうにかクラインの魔の手から逃れてきた俺なのだが、別にこの層に用がないわけではない。
そうでもなければこうしてフィールドに出てくる訳がない。
四十五層のフィールドは地下へと続く洞窟地帯。
ここの迷宮区のボスである巨大アリが掘ったとされるこの洞窟群には、噂の新造レッドギルド”アベンジャーズ”の本拠地があると言われていた。
後書き
何か話が暗いですね。
早く一章終わらして明るいパートに入りたいです。
と言うわけで、光の差す方に突っ走って行きますので、御愛読、ご感想のほど、宜しくです。
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