兄弟対決
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第七章
如何に秀喜でも打てないと思われた、それが一球目だった。
だが秀喜は冷静だった、バッターボックスで臆していない。
その彼はまた一郎と目を合わせた、それから二球目を待った。
ピッチャーが二球目を投げようとしたその瞬間だった、一郎は走った。
「なっ、走っただと!?」
「まさか!」
これにはサムライジャパンも驚いた、監督もまた。
「サインは出していないぞ」
「ですよね、得点圏ですし」
「それに弟の脚なら」
二塁からでもヒット一本で楽にホームイン出来る、だからだった。
一郎には何もサインを出さなかった、その時にだったのだ。
彼は走った、そしてそれを見て。
ピッチャーに動揺が走った、己のクイックの弱さのせいだと思い。
投げるその瞬間で集中力が乱れコントロールが狂った、低めにやるつもりが。
真ん中に入った、そして秀喜はそれを見逃さなかった。
「これだ!」
バットを一閃させた、ボールは一直線に飛び。
スコアボードを直撃してグラウンドに戻った、まさに一瞬だった。
「ホ、ホームランか」
「スコアボード直撃の」
「サヨナラか」
「サヨナラホームランだよな」
グラウンドは一瞬呆然となった、そして。
その呆然の後でだった。
「勝ったぞ!日本が勝ったぞ!」
「サヨナラ勝ちだ!」
「日本の勝ちだ!」
「やったぞ!」
爆発的な歓喜に包まれた、球場だけでなく日本中が。
まずは一郎がホームインし次に秀喜が。
彼がホームインしたそlの時にだった、ホームベースで待っていたナインは二人を囲んで一斉に囃し立てた。
「おい、やったな!」
「よく打ってくれたな!」
「御前等兄弟のお陰だよ!」
「決勝進出だ!」
「勝ったぞ!」
こう笑顔で言い合う、そして。
二人はその祝福の中でというと。
秀喜が一郎にこう言ったのである。
「あの時よく動いてくれたな」
「ああ、サードスチールだね」
「あれで相手が動揺したからな」
一郎の功績だというのだ、だが一郎はこう秀喜に言ったのである。
「打ったのは兄貴だろ」
「俺か」
「だからこれはな」
秀喜の功績だというのだ。
「兄貴、よく打ってくれたな」
「手柄を譲るって訳じゃないな」
「事実を言ったまでさ」
それに過ぎないというのだ。
「兄貴がチームを決勝まで引っ張ってくれたんだよ」
「じゃあ決勝でか」
「今度は俺がやるからさ」
一郎は確かな笑で秀喜に対して言った、そして。
決勝に向かう、その決勝はというと。
決勝の相手はベネズエラだ、日本にも多くの優れた助っ人を送ってくれているだけあってその実力は折り紙付きだ、少なくとも。
「あの国よりも強いな」
「ああ、本物だよ」
「キューバに匹敵するな」
「それだけの強さだからな」
「かなりな」
勝つのは難しいと思われた、だがだった。
秀喜はベネズエラにも果敢に向かおうと思っていた、一郎もだった。
また顔を見合わせてそして言い合った。
「じゃあ次の試合もな」
「行くぞ」
二人で言う、そしてだった。
このベネズエラ戦では一回表、ツーアウトからアベックアーチをそれぞれ放ち先制点とした。そうしたのである。
そこからは日本のエースが力投し完封に抑えた、このエースは他にも二試合で勝利投手となっておりシリーズMVPになった、二人はこの大会でもどちらもMVPではなかった。
だが二人共また言い合うのだった。
「今度こそな」
「ああ、こっちもな」
「勝つからな、御前に」
「兄貴には絶対に負けないよ」
笑みを浮かべ合い言い合う、それはこれからもだというのだ。
その二人を見て周囲は遂に気付いた、その気付いたことはというと。
「ライバルだよな」
「ああ、兄弟でな」
「ライバルは兄弟か」
「そうした関係なんだな」
このことに気付いた、二人は血を分けた兄弟であり。
そしてライバルにある、だからだった。
「お互いをよく知っていて認め合って信頼し合ってか」
「そういう関係もいいものだな」
「そうだよな」
二人で笑顔で話す、そしてだった。
秀喜と一郎はお互いに現役のまま競い合った、二人は何処までも認め合い競い合った。それは二人にとっても周りにとっても至高のものをもたらすものだった。
兄弟対決 完
2013・2・26
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