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兄弟対決

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第一章

                  兄弟対決
「弟には負けないよ」
「兄貴には負けないですから」
 二人はそれぞれ言う、青島秀喜も青島一郎もだ。
 日本シリーズを前にしてインタヴューの場で言っていた、二人共それぞれのリーグで活躍していた。
 兄の秀喜はチームの四番サード、本塁打王と打点王だ。それに対して弟の一郎は首位打者に最多安打だ。
 二人共バットだけでなく守備もいい、ゴールデングラブも獲得している。
「兄弟共だからな」
「普通そこまではないだろ」
 兄弟のどちらかが凄くなってもだとだ、周囲も言う。
「兄弟一緒っていうのはな」
「しかもシリーズで対決か」
 二人で言う。
「これはいい勝負だな」
「どんなシリーズになるかな」
 ファン達はシリーズにおいてこの話ばかりしていた、それでなのだ。
 秀喜も一郎も言うのだ、時には二人でインタヴューに出て。
「こいつは敵ですから」
「兄貴を倒しますよ」
「俺はずっとこいつを叩き潰したかったんですよ」
「乗り越えます」
 二人は互いでも言い合う、そして不敵な笑みを浮かべ合う。野球というよりもプロレスの因縁の対決めいてもいた。
 それでシリーズがはじまるとだった。
 秀喜がホームランを打てば一郎が会心のタイムリーを放つ、秀喜がラインを抜けるボールを止めれば一郎は貫禄のバックホームだ。
 二人はまさに激突していた、シリーズ全体で。
 第一試合、第二試合でも活躍した二人は。
 第三試合でもだった、ツーアウトランナー二塁三塁でバッターは秀喜だった。
 点差は一点差で相手がリードしている、イニングは八回裏、まさに正念場だ。
 右のバッターボックスに立つ秀喜は長打を狙っていた、その時に。
 ライトにいる一郎を見た、顔は全く似てはいない。彼は父に似ていて一郎は母親に似ているのである。彼は右投げ右打ちだが一郎は左投げ左打ちだ。これもそれぞれ父と母の血である。その弟を見てだった。
 次に相手の守備の配置を見た、右バッターだからかレフトにやや寄っている。
 しかし一郎だけは定位置だ、その彼を見てだった。
「あいつだな」
 右に打つことにした、それは何故かというと。
「見てろ、御前の頭上を超えてやる」
 そして勝利を見せるつもりだった、そしてだった。
 ピッチャーの投げるボールを打った、狙い通り右に打った、広角打法だ。
 だがそのボールは詰まった、相手ピッチャーも愚かではない。
「くっ、しまった!」
 しかしそれは充分長打だった、一郎の頭上を受けてフェンスの上に当たろうとする。 
 一郎はそのボールに向かう、だがそれは。
「これは無理だぞ」
「幾らなにでもな」
「この球場のフェンスは高いぞ」
「ホームランにならないだけましだぞ」
「幾ら追ってもな」
「捕れるものじゃないだろ」
 球場にいるファン達もテレビの視聴者達もそう思った、だが。
 一郎はそれでも走る、そして。
 フェンスのところで跳んだ、グローブを思いきり上に出した。
 捕れる筈がなかった、そして実際にだった。
 ボールは取れなかった、フェンスの上を直撃してしまった。
「やっぱり駄目か」
「幾ら一郎でも無理だろ」
「本当にホームランにならないと駄目だろ」
「しかしそれでもな」
 だがボールを懸命に追った、そのプレイに見たのだ。
「意地だな」
「兄弟のな」
「それ見せたな」
「あれがあいつの意地なんだな」
 彼のそれを見たのだ、この第三試合は秀喜のこの一打が決勝点となり彼のチームが勝った。だがシリーズはまだ続く。 
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