華麗
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第一章
華麗
フランスの財務大臣であるコルベールはこの時頭を抱えていた、そのうえで腹心の部下にこう漏らしていた。
「私としてはだね」
「はい、宮殿の建設はですね」
「反対だ。戦争もだがな」
この二つをだというのだ。
「本音からな」
「どちらもかなりの出費になっていますね」
「普通の宮殿でもかなりだが」
その頭を抱えた顔で言う。
「あの場所への建設はな」
「ベルサイユですね」
「あそこは水が悪い」
まずこれが問題だというのだ。
「砂地が多いんだ」
「森もありますが」
「それでもあそこはまともな水がない」
宮殿を置きそこに多くの人がいるまではというのだ。
「まずはそこからだよ」
「水ですね」
「水をベルサイユまで引くだけでも」
まずそれが多大な出費だった、財政的に。
「相当なものがかかったよ」
「はい、本当に」
「しかもだよ」
無論水だけに終わらなかった、さらにだ。
「それとね」
「犠牲者も多いよ」
「はい、かなりですね」
「困難な建設になっていますから」
「毎日車に一杯の死者を出す」
徴用した者達が事故で死ぬのだ、建設において事故は禁物だ。それが困難で大規模なものなら余計にである。
だからコルベールはこう言うのだ。
「頭が痛いね、私としては」
「ですが王のお考えですし」
「それを止めることは」
側近達も難しい顔で言った。
「無理です」
「王のご命令には逆らえません」
「その通りだよ、これは王のお考えだ」
それならばだった。
「止められない、私にはね」
「ではこのままですね」
「宮殿の造営を続けていくしかないですね」
「そうするしか」
「その通りだよ。予算はやり繰りしよう」
戦争と並行してだというのだ。
コルベールは頭を抱えながらも宮殿、ベルサイユ宮殿造営の為の予算を引き出していた。それはフランスの財政をかなり圧迫していた。
宮殿はその中で出来上がっていく、かなり巨大でしかも華麗な外観と内装である。
芸術家達がその才を如何なく発揮していた、そして。
国王ルイ十四世は出来上がっていく宮殿の中にもういた、その中でこう言ったのである。
「この宮殿は私が住むに相応しい」
「王がですね」
「住まわれるのにですね」
「そうだ、相応しい」
まさにだというのだ。
「これだけの宮殿に住まなくてはならない」
「フランス王ならばですか」
「フランスは今や欧州で最も偉大な国になった」
三十年戦争で神聖ローマ帝国、スペインを支配していたハプスブルク家を退けてからだ。フランスのブルボン家は欧州に覇を唱えていたのだ。
そのフランスの王だからだというのだ。
「その私が粗末な宮殿に住めるか」
「無理ですね」
「そうされることは」
「無理ではない、あってはならないのだ」
こうまで言ったのである。
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