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アンドレア=シェニエ

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第一幕その二


第一幕その二

「あら、また綺麗にやってくれたのね」
 先頭にいるのは中年の女性である。金色の髪を上でまとめ化粧をしている。だが化粧なぞしなくとも整った顔立ちをしている。瞳は湖の色である。
 長身を紅の絹のドレスで包んでいる。その身体もよく均整がとれている。
「ジェラール、皆は何処へ行ったの?」
 彼女はジェラールの姿を認めると彼に声をかけてきた。
「奥方様、只今休憩をとっております」
 彼は頭を垂れて答えた。
「そう、よくやってくれたわ。ゆっくり休んでくれるように言って」
「はい」
 ジェラールはそれを聞き内心怒りに燃えた。その言葉を傲慢と受け取ったからであった。
 しかし奥方にとってそれは傲慢ではなかった。彼女はあくまで親切心からそう言ったのである。
 二人は互いに誤解していた。奥方であるこの伯爵夫人は自分の中にその傲慢さがあるとは気付いていなかったしジェラールは彼女の親切心を見ようともしなかったのである。
(フン、この思い上がった女め、今に見ていろ。正義が貴様等を何時か裁く)
 彼はそう思ったが当然口には出さない。そして顔を上げた。
 見れば彼女の後ろにはあと二人着飾った女性がいた。二人共伯爵夫人より遥かに若い。母と娘程離れている。一人は赤い髪に緑の瞳を持つ小柄な女性である。ピンクのドレスを着て所々に付けボクロをしている。
「綺麗ね、マッダレーナ」
 そして隣にいる女性に声をかけた。
「ええ、ベルシ」
 マッダレーナと呼ばれた女性を見てジェラールはうっとりとした。確かにその少女は美しかった。
 茶がかった金の髪を下している。そしてその瞳は青く澄んでいる。白く透き通るような肌を持ち顔はあどけないながらもまるでギリシアの彫刻の様に整っている。
 その長身もそうであった。均整がとれそれを白い雪の様なドレスで包んでいる。
「今日も楽しい宴が行われるのね。私今日は歌が聴きたいわ」
「ええ、御前の好きなバイオリンを用意しておきましたよ」
 伯爵夫人はマッダレーナを振り向いて言った。
「有り難う、お母様」
 この二人は母娘である。つまりジェラールにとっては主人である。
(この方だけは違う。この腐り果てた城においても)
 ジェラールは密かに想った。
 しかしそれを口に出すことは決してない。ただ想うだけである。
「じゃああとお願いすることは」 
 伯爵夫人は慎重に中をチェックしている。
「シャンデリアだけね。それはあとでね」
「はい」
 ジェラールは頷いた。
「歌手達の様子も見なくちゃ。本当にやることがあって大変」
 彼女はそう言うとその場をあとにした。マッダレーナとベルシもそれに続いた。
「高嶺の花だな」
 ジェラールはマッダレーナを見送って呟いた。
「だが想うことはできる。それを否定することは誰にも出来ない筈だ」
 彼はそう言うと空いている場所に腰を下ろし休んだ。やがて休憩も終わりシャンデリアに灯りが灯された。
 そして客がやって来る時間になった。伯爵夫人は今度は客人達の出迎えに向かった。
「お母様」
 マッダレーナはサンルームの入口で客人達を出迎える母に尋ねた。
「今日は高名な詩人の方が来られるそうだけれど」
「フレヴィルさんかしら」
「あの方は文筆家だったと思うけれど」
「そうだったわね、一体誰だったかしら」
 そんな話をしていた。ジェラールはそれを部屋の端で客人達を席に案内しながら聞いていた。
「フレヴィル?イタリアからわざわざ来たのか」
 彼はそれを聞いて顔を入口に向けた。
「それに詩人も来るのか。どうせいつもの軽薄な奴だろう」
 彼はあまり詩というものを好まなかった。貴族の余興程度に思っていた。
 マッダレーナは両親と一緒に客人達を出迎えている。ジェラールはそんな彼女をしばし見ていたがやがて視線を離して仕事に専念した。
 仕事は順調ではあった。だが忙しい。それは誰もが同じであった。
 だがジェラール達はすぐにその場をあとにした。他の仕事が入ったのである。
「おい、行こうぜ」
「ああ」
 彼は同僚に促されその場をあとにした。
 マッダレーナは部屋の端で自分のドレスを見ていた。どうも今一つ気に入らないらしい。
「何か変じゃない?」
 ベルシに問うた。
「そうかしら」
 彼女は首を傾げた。
「私はそうは思わないけれど」
「そう?」
「ええ。貴女白いのが似合うし」
「いえ、色じゃなくて」
 彼女はベルシに対して言った。
 
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