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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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幻想御手
  Trick18_これでも私、レベル0ですよ




高千穂との戦いの翌日、信乃と白井、初春と御坂の4人は風紀委員177支部で
話し合いをしていた。

佐天は昨日の事件でショックを受けたので、今日は来ていないらしい。

4人は昨日の戦いで"幻想御手"(レベルアッパー)について知ったこと報告した。

「やはり、曲が幻想御手ですの。昨日の男もそれを自供しましたわ」

「そうですか・・さすがちぃくん、最初から信じればよかった」

「まあまあ、いいじゃないですか。木山先生にはさっき曲を送っておきました」

「ありがとうございます、初春さん。でも、たかが曲がどうやってレベルを
 上げるのか答えは出ていないままですよ」

「そうね~、ヘッドホンから電流が出てくる曲とかだったりして!」

授業(カリキュラム)には電気刺激もあるが、イヤホンで出来るはずがない。

「・・あなたの頭は電気のことしか考えられないのか? 御坂美琴」

「うわ、信乃にーちゃん、急にフルネームで呼ばないでよ! 恐いよ!
 冗談に決まってるでしょ!」

「アナタノ脳ミソナラソウ考エテモオカシクナイト思ッテ」

「・・ふざけ過ぎてごめんなさい。だから怒らないでください」

笑顔しか浮かべていない信乃だが、小さい頃の付き合いで怒っていることを
御坂は察して謝った。

「信乃さんってそういう風に怒るんですね」

「いや、イラつく奴らには普通に怒りますよ。殴ってミンチにします」

「とても風紀委員の言葉とは思えませんの。普通も十分危険ですのね」

「まあ、とにかく幻想御手がどういう仕組みか考えないと」

「誰ノセイデ話ガズレタカワカル?」

「ごめんなさい」

「まあまあ信乃さん落ち着いて下さい。でも、曲を聞いただけで効果があるって
 スキルアウトの人は言っていたんですよね」

「そうですの。昨日の光操作の(トリック)も、自動操縦の男(高千穂)も
 他のスキルアウトも全員がそう言ってましたの」

それを聞いて初春が木山との話の内容を言った。

「さっき木山先生に電話したときに聞いたんですけど、音だけ、聴覚だけで
 能力を上げるのは出来ないみたいです。

 でも、大量の電気情報を脳に直接入力する学習装置(テスタメント)という
 装置があれば強制的にレベルが上がることができるみたいです。

 その代わりに聴覚だけじゃなく、視覚、味覚、嗅覚、触覚の五感全てを
 使わないと出来ないみたいです」

「つまり、ただの音楽では出来ないってことね」

御坂が言葉で全員が同時にため息をついた。

「私も意識不明の学生の家を調べた資料を見たんですけど、全員が音楽の
 幻想御手を持っていました。それにちぃくんがこれが答えと言ったから
 間違いはないはずです」

信乃が棚にある資料を出して4人に見せるように広げた。

「そうですわね、答えは間違ってませんの。ですけど、見方の問題ですわ」

「どうにか聴覚だけで五感全てに干渉する方法があったらいいのに・・・」

御坂が適当に言ったその一言に信乃が反応した。

「聴覚だけで・・・そうか! 共感覚性!」

「「「え?」」」

「共感覚性! 赤い色を見て温かく感じたり、青い色を見ると冷たく感じる!
 風鈴の音だってただの音のはずなのになぜか聞くだけで涼しく感じる!
 一つの感覚で複数の刺激を受ける!」

「もしそれが幻想御手に使われてる可能性があれば」

「音だけで学習装置と同じ効果が出せますの!」

信乃の続きを御坂と白井が受け継いだ。

「私、早速木山先生に連絡します!」

初春は携帯電話を持って出ていった。


「信乃にーちゃん良く気付いたね」

「信乃にーちゃん言わない。
 これでもあなたたちより長生きしてますから」

「長生きって、わたくしとはたった3年しか変わりませんわよ?」

「その3年の差にいろいろあったんですよ」

「「!」」

御坂と白井は不意に思い出した。

西折美雪、信乃の家族から聞いた信乃の壮絶な人生を。

簡単にしか説明されてないが、それでも自分が同じ体験をすれば
生きていけない思った。


「美雪から聞いたでしょ? "俺"の過去の話」

「「・・・・」」

信乃が、ゆっくりと、暗い言葉を出した。

「琴ちゃんは美雪と同じ時に言ったよな・・・・まあ、大変だったのは
 最初の半年だけだよ。でも、戦場で過ごした半年、それが一番ひどかった」

御坂と白井は何も返さない。

「といっても、社会に戻ってからは普通に過ごしたから大丈夫だよ。
 あ、普通といっても波乱万丈だな。
 飛んでいる飛行機の上を走ったり、人類最強の赤色と戦うことになったり」

「「は?」」

シリアスな雰囲気から考えられない言葉が出てきて変な声が出てしまった。

「まあ、"私"が言いたいのは、人生いろいろってことですよ。
 あとは普通に私に接してくれてありがとうってことです」

いつの間にか信乃の話し方がいつもと同じになっていた。
信乃の笑顔、そこには偽りもなく感謝の気持ちが現れていた。


「御坂さん、白井さん、信乃さん、木山先生に連絡しました!
 幻想御手の解読には"樹形図の設計者"(ツリーダイアグラム)を使うみたいです!
 私、これから木山先生のところに行って使うところを見てきたいと思います!」

話がちょうど終わったときに初春が部屋に入ってきた。

「あ、それなら私も行きます」

3人の中で手を挙げたのは信乃だ。

「木山先生には前回、会えませんでしたしレベルが上がったスキルアウトのことを
 直接報告したいですから」

「それじゃ、行きましょ行きましょ!」

初春は興奮して信乃の手を引っ張り部屋から出て行った。



「まさか、信乃にーちゃんからあんな話を聞くとは思わなかったなー」

「そうですわね。あんな過去を持っていても全く見せない。でも、お礼を言われる
 ということは、それほど仲良くなったということですかしら?」

「うん、そうね。・・よし! あとは美雪姉ちゃんとの仲を早く直さないと!」

「はいですの。美雪お姉様も信乃さんにありがとうと言われるくらい仲良くなって
 欲しいですわ」

事件とは別のところで新しい目標を決めた御坂と白井だった。





「ふふふふ~~ん♪」

「本当にうれしそうですね、初春さん」

「はい! だって"樹形図の設計者"ですよ!
 あのスーーーパーーーコンピュータですよ! それを動くところを見れるなんて
 最高じゃないですか!!」

「ははは。"樹形図の設計者"は逃げたりしませんよ。落ち着いて行きましょう」

信乃と初春は木山の研究所に向けて歩いていた。

どうやら初春はちぃくんの事といい、今回の事といい、コンピュータ関連のことが
かなり好きらしい。


プルルル!

初春の携帯電話が鳴った。

初春は信乃に『ごめんなさい』と目配せをして電話に出た。

「あ、佐天さん? 心配したんですよ。学校でもよそよそしいし、電話しても
 電話に出ないし」

『・・ちゃった・・』

「はい?」

『あけみが急に倒れちゃったの・・』

あけみとは佐天と初春のクラスメートであり、共有の友人だ。

『幻想御手を使ったら倒れちゃうなんて私知らなくて・・・なんで・・
 こんなことに・・私・・そんなつもりじゃ・・』

「佐天さん、落ち着いてください! ゆっくり最初から」

初春の様子に普通ではないことを信乃は気付いた。そっと耳に集中して
話を聞いた。

『幻想御手を手に入れちゃって、所有者を捕まえるって言うから・・
 でも、捨てられなくて・・それで、あけみ達が幻想御手が欲しいって・・

 ううん、違う。本当は一人で使うのこわかっただけ』

「とにかく、いまどこですか!?」

『私も倒れちゃうのかな? そしたらもう二度と起きないのかな?
 私・・何も力がない自分が嫌で・・でも能力の憧れを捨てられなくて
 "無能力者"(レベル0)って欠陥品なのかな? それでズルして力を手に
 入れようとしたから・・バチが当ったのかな? わたし・・』

電話の向こう側から泣き声が聞こえた。

「大丈夫です!!もし眠ちゃっても私がすぐに起こしてあげます! だから私に
 ドーンと任せちゃってください!!」

『初春・・』

励ますように、明るい声で初春は言った。

「能力が使えなくたって佐天さんは私をいつも引っ張ってくれるじゃないですか!

 力があってもなくても・・佐天さんは佐天さんです!

 私の・・ヒック・・親友なんです!」

声のトーンが、下がっていき、最後は堪えられなくなって初春も泣いてしまった。

「だから、そんな悲しいこと言わないで・・」

『・・・プ、フフフ・・アハハハ!』

「佐天さん?」

『初春を頼れって言われてもね、アハハ』

「もうひどいですよ! それに私だけじゃないですよ。周りにすごい人が
 たくさんいますし!」

『うん、そうだね。迷惑ばかりかけてごめんね。

 あとはよろしく』

「初春さん、電話替わってもらっていいですか?」

「え、信乃さん? あ、はい。佐天さん、信乃さんに替わりますね。 どうぞ」

信乃は初春から携帯電話を受け取った。

そして信乃はすぐ側のバス停のベンチに座り、同じように座るよう初春を促した。
電話の内容を聞けと、そう言うことだろう。

初春もそれがわかり、隣に座って電話の声が聞こえるように近づいた。


「こんにちは、あなたの生活に幸せをお届けする何でも屋の西折信乃です」

『え、信乃さん!? どうして電話に、なんですかそのキャッチフレーズは?』

「ギャグです」

『ギャグ・・?』

「まあそれはともかく。すみません。電話を盗み聞きしていました」

『・・そうですか』

「それで、佐天さんにいくつか言いたいことがあって電話を替わってもらいました」

『・・はい、お説教でもなんでも聞きます』

佐天は初春と話して少し安心したようで、信乃の話もすぐに聞くことを決めた。


「1つ目、ズルしたからバチが当ったとか言ってましたけど、それは同感です」

『そうですか・・ごめんなさい』

「私に謝らないでください。でも反省はしてくださいね。

 私の個人的な考えですが、神様はいないが因果応報はあると思います。
 だから佐天さんがバチが当たると言っていた事ですけど、
 まあ、仕方ないですね。悪いことしたから素直に受け入れて反省してください」

『厳しいですね。でも、わかりました。寝ている間に反省します』

「よろしい。って偉そうに言ってしましましたね。

 では2つ目、佐天さんは努力をすべて出し切った自信はありますか?」

『・・・』

沈黙。しかし信乃は続ける。

「昔々、とある少女がいました。少女は最初は"低能力者"(レベル1)と判定
 されましたが、頑張った努力の末にレベルが急激に上がり
 今では学園都市の7人しかいないレベル5にまで到達しました」

 そして彼女は最強の電撃姫、"超電磁砲"(レールガン)と呼ばれるほどすごい
 力を手に入れましたとさ」

『それって・・・御坂さん・・』

「さて、佐天さん。同じ質問をします。

 あなたは努力をすべて出し切った自信はありますか?」

『ないです』

今度は即答だった。

「なら、逆に考えれば可能性はまだあります。努力は人を大きくする。

 それに、スピネルの助けもあるかもしれません。
 スピネルは向上心や努力を促進してくれます。

 気休めかもしれませんが頼ってみてください」

佐天は自分の手首を見た。

信乃にプレゼントされたブレスレット。
その中央に輝く赤い宝石、スピネル。

『わかりました。戻ってきたら限界まで努力します!』

「いい返事です。それでは最後です。

 レベル0を欠陥品扱いしないでください。

 これでも私、レベル0ですよ」

「『え!?』」

側にいる初春と電話先の佐天が同時に驚いた。

「前に言いましたが、私は薬が効かない体質なんですよ。
 もちろん能力開発のための薬物投与も同じで効果がありませんでした。

 昔も今もレベル0のままです」

『本当なんですか? だって、すごい力持っているじゃないですか』

方向(ベクトル)は違いますけど、あれも御坂さんと同じ努力の結果です。
 能力が使えないと分かってから元々持っていた知識から独学で頑張って
 手に入れった、能力ならぬ技術ですよ。

 佐天さんも頑張ればできますよ。やりかたを教えましょうか? 地獄の特訓で」

『あ、いえ、遠慮します』

「だから、レベル0がダメだってわけじゃないんですよ。人間、他にも出来ることが
 たくさんある。大事なのは自分にできることを理解すること。
 そして諦めずに努力することです」

『はい、わかりました・・』

電話の向こうから泣き声が聞こえた。

恐怖ではなく、自分の考えの恥ずかしさ、そして信乃の励ましがうれしくて。

佐天は泣いていた。

「あちゃ・・女の子を泣かしてしまいましたね」

バツが悪そうに信乃はつぶやいた。

「ごめんなさい佐天さん。あの、反省しろと説教しましたが泣かせるつもりは・・」

『いえ、気にしないでください! これは反省のための涙です!
 信乃さんが悪くありません! ありがとうございます!』

佐天は涙を拭いて言った。

「そうですか・・あ、あと、お詫びというわけじゃないでけど
 幻想御手の犯人に会ったらどんな仕返ししたいですか?」

『え?』

「だって仕返ししたいでしょ? 私が代わりにやりますよ。
 佐天さんが起きた時には犯人は刑務所の中なんですから」

『プ! 何言いだすんですか信乃さんは、もう!

 でも、それだった一つだけお願いします』

「はい、何なりと」

『デコピン』

「デコピンって指を弾いておでこに当てるあれですよね?」

『信乃さんの力い~~っぱいの痛いのを一発ぶつけてやってください!』

相手を殴ってほしいと言われると思った信乃だが、佐天は意外と可愛いお願いをした。

「はい、その依頼、西折信乃が確かに請け負いました」

どこかの赤色の言葉を真似て、絶対に果たすと誓って信乃は言った。

『よろしくお願いします。・・・なんだか、眠くなってきたな・・』

「お休みの前に親友に何か言ってあげてください。すぐ替わります」

『・・・ありがとうございます』

「はい、初春さん」

信乃は初春に電話を渡した。

信乃と佐天の話を聞いていたのですぐに受け取った。

「この話は盗み聞きしないんで安心してください」

信乃は初春から少し歩いて離れた。

初春たちが何を話しているかわからない。
でも、泣いている初春を見て、犯人を捕まえることを、佐天を助けることを決心した。





電話の後、信乃と初春は急いで佐天の住んでいる部屋に向かった。

到着した部屋に、佐天は穏やかな顔をして眠っていた。

手首に付けたブレスレットを握りしめながら。

「信乃さん・・佐天さんのことお願いしてもいいですか?」

初春が佐天を見て、決意したように言う。

「かまいませんが・・初春さんはどうするんですか?」

「私は今できることを、木山先生のところに行きます!」

「・・わかりました。佐天さんのことは任せてください。

 その依頼も、西折信乃が請け負いました」


つづく
 
 

 
後書き
信乃の能力判明。
学園都市の能力開発には薬が必要と設定を見た事があります。
これを拡張理解をして、薬の効かない信乃は能力を開発できない事にしました。
実はすごい超能力を隠し持っていました、ということはありません。


作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。

皆様の生温かい感想をお待ちしています。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。

 
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