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好き勝手に生きる!

作者:月下美人
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第二十八話「ケルベロスは本当は可愛い生き物なんです」



 正門から突入した俺たち。俺は早々にプロモーションで【女王】に成る。


「――っ!」


 校庭に出た俺たちは異様な光景に目を見開いた。


 校庭の中央に神々しい輝きを放つ四本の剣が浮遊している。それらの剣を中心に校庭全体に魔方陣が描かれていた。


 初老の男――ハルパー・ガリレイが魔方陣の中央に立っている。


「……来たか、悪魔たち」


「なにをしようというの?」


 部長の言葉にハルパーは、にぃっと唇を歪ませた。


「四本のエクスカリバーを一つにするのだよ」


 喜悦の笑みを浮かべながら楽しそうに体を揺するハルパーに上空から声がかかった。


「ハルパー、統合までどのくらいかかる?」


「五分もいらんよ、コカビエル」


「ふむ」


 空には玉座のような椅子に腰かけた堕天使が足を組んで冷めた目を向けていた。その背には五対の漆黒の翼が生えている。


 あれがコカビエル……。堕天使の幹部か。


「サーゼクスたちが来るまで暇だな。少しこいつらで遊ぶとしよう」


 コカビエルが指を鳴らす。すると、夜空にポッカリと穴が開き、その奥から腹の底に響くような足音が聞こえてきた。


 なにか、とてつもないモノが近づいてくる……。


 本能が警報を鳴らす。


 そこから現れたモノは俺の想像を遥かに超えたものだった。


「可愛いだろう。私の自慢のペットだ」


 わ、わんちゃん?


 現れたモノは漆黒の犬だった。けれど、普通の犬ではない。


 なんか体長が十メートルくらいあるし、獰猛な顔をした首が三つもついてるし、なんか餌を見るような血走った目でこっちを見てるし、なんか口からダラダラと涎がこぼれてるし……。


 わんちゃんなんて可愛らしいものじゃないって! 絶対、魔犬ケルベロスとかその辺だよ!


「ケルベロス……!」


 って、本当にケルベロスだったぁぁぁぁぁ!!





 ――ギャォォォォォオオオオオオオオン!!! ………………オロロ~ン。





 ぬおっ! なんつう声だよ! あまりの声のでかさに校舎の窓ガラスが振動してんぞ! 衝撃波出ちゃうよ!


 夜空に向けて大きく吠えた犬――ケルベロスは紅く光る目をこちらに向けた。


 ――っ! 来るっ!


 体を撓めたケルベロスは一気に跳躍してきた。


「散開ッ!」


 部長の声に合わせて散り散りになる。


 ちくしょう、やってやんよ! 犬っころなんかに舐められてたまるかっ!


『Boost!』


 籠手の能力で俺の力を倍加する。


「おらぁっ!」


 無防備な脇腹辺りを目掛けて拳を突き出す。


 大地をしっかりと踏みしめての一撃。重い手応えが拳から肩へと通じる。


 しかし、俺の拳は数センチ沈んだだけで応えた様子は見られなかった。ギロッと紅い目が俺を見下ろす。


「効いてねぇし!」


「先輩、ナイス陽動です……」


 ケルベロスがこっちに意識を向けたその隙をついて小猫ちゃんが反対サイドから飛び出した。


 大きく跳躍し、天高く振り上げた踵を振り下ろす。


 空気を裂いて振り下ろされる踵。


 それはまさに、断罪の一撃。ルークの力を如何なく発揮した小猫ちゃんの一撃は見事、ケルベロスの頭部に命中し、その頭を地面に叩きつけた。


 ――グルゥゥゥオオオオオオオオン……!


 苦しげな咆哮を轟かせるケルベロスだが、まだ無事な首が二つある!


 残った二つの首は小猫ちゃんに敵意の眼差しを向け――その大きく開口した咢から炎を吐き出した! うぉっ、マジで怪獣だぜ!


 って、小猫ちゃん空中に居るから身動き取れないんじゃ――。


 慌てて小猫ちゃんに駆け寄ろうとするが、視界に映った部長の姿に踏みとどまった。


「させないわ!」


 その翳した手から放たれるのは滅びの一撃。触れた物をすべて消滅させる部長の魔力の塊だ。


 炎の塊と魔力の塊が衝突し拮抗し合う。


「これもおまけですわっ」


 朱乃さんが腕を一振りし、その身体から雷光を迸らせる。


 朱乃さんの後押しで拮抗は崩れ、部長たちの魔力が火炎を飲み込んだ。そのまま滅びの魔力と雷光の一撃は勢いを止めずにケルベロスの元へ向かう。


『Boost!!』


 ドライグっ、いまので何回倍加した!?


【丁度二十回目だ。そろそろ仕掛けるにはいい頃合いだぞ】


 よし、ならこの倍加を部長たちの一撃にトランスするぞ!


【招致!】


『transfer!!』


 籠手から力が部長たちの一撃に流れる。肥大化したすべてを飲み込む滅びの雷光はケルベロスの横腹に直撃した。


 ――ギャォォォォオオオオオオオオオンッッ――――!! …………オロロ~ン。


 しかし、ケルベロスの消滅までには至らず、その横腹を削り取るに留まった。


 犬っころの横腹からドス黒い血が噴き出す。


 グルルルゥ……、と苦悶の表情で睨みつけながら姿勢を低くする。手負いの獣特有の危険性が孕んだ緊張感があった。


 くそっ、あれだけの攻撃を受けてもまだ動けるのかよ。


 俺の倍加は――大丈夫。まだ限界じゃない。


 けれど俺は未だ『女王』になることが出来ない。これは単に俺の修業不足だ。


 基本的に俺の悪魔としての性能は下だからな。


 もっと強くなってやる。もっともっと修業して、部長の言う最強の『兵士』になるんだ。そんでもってウハウハのハーレム人生を謳歌してやるんだ!


 だから――、


「こんなところで躓いてるわけにはいかないんだよぉぉぉッ!」


 足裏から魔力を瞬間的に放出し倍加する。


 一気に加速した俺は犬っころに対抗させる暇を与えず懐に潜り込んだ。


 左脚で地よ砕けと言わんばかりに大地を踏みしめる。


 大きく引いた右手の指を揃えて手刀の形に。


「くらえ! レイ直伝――劣化版螺旋抜き手ぇぇぇ!」


 ドリルをイメージした手刀をその穴が開いた横腹に叩きつけた。


 あの時、レイに修行をつけてもらった時に受けた一撃。あまりの威力に気絶してしまったけれど、覚えている限りを思い出しながら日々練習してきたんだ。俺なりの改良を加えながら。


 まだオリジナルには到底届かない完成度だけど、これが俺の唯一の必殺技だ!


『Boost!!』


 指先から魔力を螺旋状に放出し倍加によって回転数を上げる。


 肘の辺りまで突き刺さった腕を引き抜き大きく後退した。これでどうだっ!


「いい攻撃だわイッセー! これで終わりよ!」


 部長の放った滅びの一撃が、今度こそケルベロスを飲み込んだ。


 肉片すら残さず消滅した強敵にふぅっと一息を吐くが、まだ戦いは終わっていなかったと思いだし気合を入れ直した。





 ――グルルルルルゥゥゥ……。





 不穏な気配と唸り声に思わず背筋が凍りつく。


 ゆっくり振り返って見ると、そこには今にも虚空から現れようとしているケルベロスの姿が。


「もう一匹いんのかよっ!?」


 虚空にぽっかり空いた穴から出ようとしているもう一匹の犬っころ。そのすぐそばにはアーシアの姿があった……!


「アーシア!」


 アーシアは恐怖から身体が竦んでしまっているのか身動きが取れない様子。今にも自分の目の前に顕現しようとしている最悪の権化に顔色を真っ青にしていた。


 駆け出した俺はアーシアとケルベロスとの間に割って入る。それと同時に虚空から現れたケルベロスが腕を一閃した。


「がぁっ!」


 あまりの衝撃、あまりの力。


 俺の身体は難なく吹き飛ばされて、校庭を二転三転した。


「イッセーさんッ!」


「イッセー!」


「イッセーくん!」


「先輩……!」


 いってぇ……くそっ! よくもやってくれやがったなあの犬っころ……!


 傷は思ったより浅いのか痛みはあまりない。これならすぐに戦える!


 立ち上がろうと足に力を入れて――まったく力が入らないことに気が付いた。いや、それどころか下半身の感覚がまったくない。


「ぁ……ぁぁ……っ!」


 俺の側に走り寄って来たアーシアが目を大きく見開き、手で口元を覆い隠した。その蒼い双眸から涙が次々と零れる。


「イッセー、あなた……」


 ケルベロスを警戒しながら近づいて来た部長がこっちを見て絶句した。


 なんだよ皆、なんでそんな驚いてんの?


 つーかいつまでも寝ていられないな。はやく起き上がらないと。


 上半身を起こそうと首を動かして自身の身体を見下ろし、絶句した。





 ――アレ? なんで足が……下半身が、ないんだ?





 頭に過った疑問はただ、その一言に尽きた。





   †                    †                    †





「ごふ……」



【おい相棒! しっかりしろ!】



 喉から込み上げてきた血を吐き出す。



 失血のせいか急激に薄れてきた視界の中に確かに俺の下半身があった。



 遠くに転がる、無残に引きちぎられた俺の半身が。



 アドレナリンが過剰分泌されているのか、痛みは全く感じられない。



「イッセーさん! 治します!」



 わざわざ俺の下半身を持って来たアーシア。切断面に合わせると手を重ねて癒しの力を発動させた。



 緑色の優しい光が切断面を包み込む。が、しかし――。



「なんで……なんで治らないんですかっ?」



 出血を弱らせるくらいで癒着するほどの効力はないようだった。



 ――グルァァァアアアアア!



 轟く方向に視線を向ける。見ると部長たちがケルベロスを引き付けてくれているようだった。



 部長と朱乃さんはその目に涙を浮かべながら憤怒の形相で苛烈な攻撃を繰り出し、いつもクールで無表情な小猫ちゃんも全身から怒りを漂わせながら黙々と拳を加速させる。



「なおって……治ってください! いや、死んじゃイヤです!」




 アーシアが泣いてる……。くそっ、俺はまた、彼女を泣かせて!




【死ぬな相棒! こんなところで死ぬなんぞ許さんぞ!】





 ったりめぇよ。なに当然のこと言ってんだドライグ……。俺が死ぬのは美女の胸の中って決まってんだ……。





 やべぇ、なんだか寒気がしてきた。視界もぼやけてやがるし。





 ちくしょう、死ねるかよ。ハーレム王になる俺が、こんなところで死ねるかってんだ……!





 しかし、俺の気持ち(想い)なぞ知ったことかとでもいうように、この身体の熱は奪われていく。








 赤い血が大地を濡らす中、アーシアの涙声だけが、妙に耳に入って来た。








「私を置いていかないでください……イッセーさん!」











 ――……あーしあ…………。











 泣くなよ……お前の鳴いてる顔なんて……














 みたく…………。














 ……。


























【適応者Aの生命活動――著しく低下】


【生命維持レベル段階C、意識レベル二。状況Bと判断】


【クロックアウトによる凍結制御術式、解放。マナローン起動――適応化開始】


【適応まで残り――八十%……五十三%……二十四%……七%……適応完了】


【対象総合情報抽出。損傷度数レベルC、損傷部位第四腰椎部、腕部上橈側面、脚部背面】


【限定術式選出――選出数一、使用不可。補強……再補強……強制使用可能】


【警告、術式使用による肉体変異の可能性あり】


【警告、多術式併用による神器変異の可能性あり】


【強制許諾――完了】


【全工程完了。限定術式『女神の抱擁』発動】


【全損傷部位強制治癒――完了】


【限定術式『無色の核変動(アフィン・コフィン)』発動】


【対象魂と同調開始…………完了】


【適応者A再起動】

 
 

 
後書き
何気に伏線回収。
感想お待ちしておりやすっ! 
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