久遠の神話
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第四十六話 また一人その十一
それで彼にこんなことも言った。
「商店街の食堂なんか凄いじゃない」
「あのお店確かに奇麗だよね」
「一日一度は大掃除よ」
日本船舶振興会がかつてCMで言っていた言葉である。
「そうしないと駄目なのよ」
「だからお風呂も」
「そう。わかったら入って」
そしてだというのだ。
「奇麗にしておいてね」
「わかってるよ。じゃあお風呂に入って身体もお風呂場もね」
「お酒も抜いておきなさい」
母は息子にこの注文もつけた。
「本当はお風呂でお酒を抜くのは危ないけれど」
それでもだというのだ。
「明日も学校でしょ」
「うん、あるよ」
「学校に二日酔いで行ったら駄目よ」
また息子に言う。
「ちゃんとして行かないと何もできないでしょ」
「部活も授業も」
「お母さんもお父さんもどれだけ飲んでも次の日には残らない様にするのよ」
二日酔いは人の能力を極限まで落とす。だからそれには気をつけているというのである。
「わかったわね。じゃあね」
「うん、わかったよ」
「お酒も抜いてお掃除もして」
「それでだよね」
「今日はもう寝なさい」
「わかったよ」
こうしたやり取りをして風呂場に入って身体も風呂場も奇麗にした。
そしてその次の日に上城は学校で高代にこんなことを言われた。
場所は屋上だ。そこでの話だった。
「また一人ですか」
「はい、どうやら」
高代は己の前に立つ上城に対して述べる。
「出てきました」
「そうなんですか」
「剣士は十三人ですが」
「また一人ですね」
「そうして私達とそれぞれ戦うことになるでしょう」
「あの、それでなんですけれど」
ここでこう問うた上城だった。高代もそれに応える。
「それでとは?」
「その剣士の人はどういう人ですか?」
「まだ声から出て来たと聞いただけで」
「それでなんですか」
「はい、他のことは全く」
「そうですか」
「ただ。剣士は剣士です」
このことは変わらなかった。
「やはり注意が必要です」
「そうですね。それにしても十三人ですね」
「その十三人で一人だけがです」
「生き残るんですね」
「そしてそれは私です」
このことは変わらない、高代の今の言葉にはそうした断固たる意志さえあった。
そしてここで上城もこれまで氏素性がそれぞれ程度こそあるがわかっている剣士の名前を出したのだった。
「僕に先生に」
「大学の彼等ですね」
「中田さんに広瀬さん」
「そして警官と自衛官のお二人」
「工藤さんと高橋さんに神父の先生」
上城は残り二人の名前も出した。大石の名前もまた。
「権藤さんに最後に加藤さん」
「八人です」
「今度で十人目ですか」
「その十人目が誰か」
高代もその言葉を強くさせる。
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