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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
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その身に騎士を宿せし少年の御話・Ⅲ

 
前書き
7/27 ちょっと言葉足らずだった部分を加筆。 

 
言うなれば運命共同体。互いに頼り 互いに庇い合い 互いに助け合う。

一人が全員の為に 全員が一人の為に・・・だからこそ現代社会で生きられる。

家族は宝、家族は支え・・・



 嘘 を 言 う な っ ! !



猜疑に歪んだ暗い瞳がせせら嗤う。

無能、無職、コミュ障、引きこもり、どれ一つ取っても就職では命取りとなる。それらを纏めてニートで括る。

誰が仕組んだ地獄やら・・・兄弟家族が嗤わせる。
   
お前もっ!
お前もっ!
お前もっ!

だからこそ――俺の為に貢げっ!!




「・・・はっ!夢・・・」
《大丈夫か、少年》
「一番いい夢を頼みたかったです」

酷い夢だった・・・そして見上げた先には再び知らない天井。だが今日はこの天井がどこの天井か分かっている。
ここは人が良すぎるくらい人がいい高町一家の住む一軒家であり、この部屋はその空き部屋の一つである。
お寺の床よりははるかに寝心地がいい。

気が付いたら高町家に連れてこられ、気が付いたら名前を決められ、気が付いたら家族になってました。みんな士郎さんが「今日からこの子を我が家に迎え入れる!」と宣言した時は随分驚いてたけど、皆事情を聞いた途端すぐに受け入れてくれたみたい。・・・その事情を聴くに、僕は親に捨てられたショックで記憶喪失になった少年という事になっているらしい。
適当に誤魔化すはずがどうしてそうなったのだろうか。皆の妙に優しい目線がちょっと胸に刺さる。
でも僕は悪くない!これはそう、僕が死ぬ理由を作った愚物がすべて悪いんだ!!


ふと時計を確認すると、時刻はまだ6時になったばかり。何だか夢のせいで目が覚めてしまったのでちょっと散歩でもしようか。僕の唯一の持ち物でありお父さん代行であるゼルギウスさんを掴み、リボンを髪に結び付ける。サイドテールというんだろうか、この髪型。それほど髪が長くないせいで先端がヤシの木みたいな形になっている。

「ネックレスとかならもっとつけやすかったんだけどなぁ」
《多少の形状変化ならできるが、ネックレス型にするか?》
「それって時間かかります?」
《数時間かかる》
「じゃあ今日は止めておきます」

寝ている間にやってもらおう。父さん(代理)に夜なべさせるというのも如何なものだろうか。
足音を立てずに階段を下りてそのまま真っ直ぐ玄関へ。実は昨日ここに来たときに気になる物を見た。この家の庭の一角に倉庫にしては妙に大きい建物があったのだ。昨日はうっかり聞き忘れたがせっかくの機会なのであの建物がなんなのか調べてみよう。

そういえばいつか見たテレビで「男はやたらと自分で探したがる」と言っていた。素直に他人に聞けよという女性からの遠回しな忠告だったんだろうか。まぁ僕もご多分に漏れずのようだが。




という事で建物の中に入ってみた。鍵が掛かっていたらどうしようかとも思ったがその心配はなかったようだ。

「・・・クロエ君?どうしたんだい、こんな朝早くに?」
「目が覚めてしまって、散歩してました」
「そうかい・・・まぁ慣れない環境だろうからそれも無理はないかな」

そこにいたのは僕の義理の兄に当たるらしい人にしてこの家に来る直接的な原因になった人、恭也さんだった。
見れば木刀を持っており、素振りをしていたらしい。それを見て僕はようやくここが小さな道場であることを理解する。端に置いてある剣道の練習道具。奥には神棚も見え、明かりが差し込みやすいように高い位置に設置された窓からもここがそういう場所であることが伺えた。

・・・ふと練習道具をよく見てみると、竹の薙刀、棒、竹刀、それそれ長さの違う木刀が置かれている。木刀はあちこちに小さな傷が出来ているのに対し、他の練習武具は全く使い込まれた形跡がない。恐らく他は一応置いているというだけなのだろう。

「ひょいっと」

何とはなしに棒を掴んで持ち上げてみる。男の子はやたらと長いものを持って振り回したがる生き物なのです。
何となく使い方が分かるような気がするので、頭に浮かんだイメージ通りにぶんぶん振り回してみる。しかし何故か動きが棒術じゃなくて槍術っぽかった。これも騎士の力の影響なのかな?

《そのようだ。オリジナルの使える武器は剣と槍のみだったらしい》
『騎士ならそれだけできれば十分だよね、多分』

そもそも騎士って剣の道一本っていうイメージがある。ひょっとして僕の考えが古いの?
気のせいか様になっているような気がしないでもない槍術だが、小学生が振り回して様になるも何もないだろう。
ふとこんな事して恭也さんの気を散らしてしまってないかと不安になる手を止める。思った通り邪魔になっていたようで、恭也さんは険しい目でこちらを見ている。取り敢えず謝っておこう。謝罪しすぎる日本人である。

「あの―――」
「なぁ、クロエ君。ちょっとチャンバラごっこでもしてみないか?大丈夫、軽い遊びみたいなものだよ」
「―――・・・分かりました」

ごっこって言ってるから大丈夫だよね?軽く遊ぶだけだよね?ならば正直やってみたいです!
だってチャンバラごっこなんて全然やったことないし、正直興味津々です。

こうして二人のチャンバラごっこが始まった。

―――ただし、それは他者から見たら”ごっこ”では片づけられないほど苛烈なものだったが。


そう、この時僕は甘く見ていたのだ。
あのおじさんがくれたという騎士の力を。
僕の身体に眠る”らぐずの因子”の力を。
”スキル”という形で僕の身体に馴染んだ数々の力、そして無自覚に受け継いだ最強の騎士の”実戦経験”の事に。





~side 恭也~

クロエが棒を振り回しているのを見て、俺は正直ちょっとホッとした。
初めて彼が家に来たとき、彼の目は何も映っていないかのように何所までも深く透き通っていた。感情の起伏が全く読み取れない、まるで人形のような瞳。だからこそ、練習用の棒を興味深げに振り回すその姿は年相応に幼く見え、微笑ましかった。
だが、俺は直ぐに浮かべた笑顔を凍りつかせた。

クロエの構えが、足運びが、突きのキレが、一つ一つのアクション全てが明らかに素人のそれではない。いや、むしろ何十年も鍛錬を積んだ達人のそれと言っても過言ではない動きだった。

(・・・あれは棒術ではない・・・薙刀、とも違うな。西洋の槍術か?)

目を細めてその動きをよく観察する。実力のほどは戦ってみなければ分からないが、少なくとも素人でない事だけはハッキリ感じ取れた。そして、その動きを見た俺は、クロエの実力を確かめたくなった。これだけの動きを見せる槍術の使い手ともなるとその辺りにそういるものではない。彼の実力と槍術の特徴が分かれば彼の親を探す手掛かりになるかもしれない。
何より武人として、この目の前の子どもにどれだけのポテンシャルがあるのかを確かめたかった。

「なぁ、クロエ君。ちょっとチャンバラごっこでもしてみないか?大丈夫、軽い遊びみたいなものだよ」
「―――・・・分かりました」

返答に迷いのようなものは見られない。
無論子ども相手に本格的な稽古など付けはしないが、彼の実力次第では少々本気で受け止めなければいけないかもしれない。

「使うのはその棒でいいかい?」
「・・・はい」
「ルールは簡単、今から5分以内君が俺に一撃を加えることが出来れば君の勝ち。逆に当てられなければ俺の勝ちだ。体格差もあるし、怪我をさせちゃうと大変だから俺からは攻撃しない。だから君も体に不調を感じたらすぐに言う事、いいね?」
「分かりました」
「では・・・始め!」



瞬間、クロエから凄まじい闘志が噴出した。

「・・・ッッ!!!」
「行きます」


全盛期の自分の父に勝るとも劣らない威圧感。


その時、俺は確かに彼の後ろに佇む青髪の騎士を幻視した。


そして、全身全霊をかけた”ごっこ遊び”が始まる。







道場に踊る二つの影。一つは激しく動き回り、もう一つはその影の攻撃を防いでいる。


動き回る影の正体は、昨日この家に来たばかり男の子、クロエ。
そのクロエが、練習用の棒で恭也を果敢に攻めていた。

その攻めを一言で表すならば、熾烈の一言に尽きる。

たっぷり遠心力を持たせた棒による横凪ぎや突きは床が抜けるほど深い踏込によってその威力がさらに増大され、次々に繰り出される連撃はまるで暴風。体格で勝るはずの恭也が苦悶の表情を浮かべながら猛攻を防いでいる。その顔に余裕は全く見られない。


(クロエ君、君は本当に人間なのか!?)

そう思うのも無理はないほどに、クロエの攻撃は重かった。外見から予想できる筋力の10倍以上はあろうかという力が、しかも達人級の槍術に乗せて繰り出される。
こちらから攻撃しないというルールを今更破る気はないが、果たして破ったところで彼の猛攻の隙を自分が突けるかという根本的な部分さえ疑わしく思えてくる。それほどにクロエの攻撃は鋭くて容赦がなかった。御神流を継ぎ、彼より年上である自分が防戦一方などと、本当に笑えない。


だが、この状況に苦戦する一方で、恭也の頭の冷静な部分は絶えずクロエを観察し続けていた。
あの体格からこれだけの威力ある攻撃を繰り出すのはいくら達人級の腕前があろうと生物学的に無理がある。
ならば考えられる可能性は二つ。

一つは変異性遺伝子障害と呼ばれる難病の中でも20分の1ほどの割合で生まれるという超能力者―――高機能性遺伝子障害者、略称HGS。もしそうなら超能力の一つである”念動力”若しくは別の異能で身体能力を底上げしているという仮説が成り立つ。だがこの仮説には穴がある。HGS能力者はその能力を行使した時に『フィン』と呼ばれる光の翼が現れる。そして彼にはそれが現れていない。よってこの仮説は成り立たない。

ならばもう一つの可能性だ。それは、彼の筋肉の”質”が人間のそれとは違う可能性。質が違えば発揮するポテンシャルも変わってくる。”質”が違えば―――そう、例えば”夜の一族”のような存在ならばあり得る。あり得てしまう。

(もしそうなら・・・彼が捨てられた理由は・・・迫害?)

彼に力がありすぎたから。若しくは親もろとも受けたのかもしれない。それこそ記憶を無くしてしまうほどの辛さを、醜い人間の姿を忘れるために。悲しいが、人間にはそういう自分と違う存在を唾棄しようとする側面がある。
その仮説に行きついた恭也は、ほんの一瞬だけ思考に気を取られてしまった。それが、勝負の分かれ目になった。

「・・・ふっ!!」
「くっ!?」

ボッ!と一際鋭い突きを、反応が遅れたせいで捌き損ねて頬に掠った。
防ぎきれなかった。これで一撃―――クロエの勝ちだ。クロエは棒を突きだしたままの体制で止まっている。


「・・・やられちゃったね。俺の負けだよ」
「・・・恭也さん」

武芸者の一人としては悔しい思いがあるが、そもそもこれはクロエの事を確かめるためのもの。それに自分が決めたルールは自分で守るのが筋というものだろう。素直に負けを見つめる恭也に対し、クロエは何かを言いたげに棒を下げる。

「どうかしたかい?」
「その・・・すみません。もう5分過ぎてました」
「え?」

驚いて時計を確認すると・・・確かに試合開始から5分以上過ぎていた。どうも互いに戦いに熱中しすぎて時計の確認を忘れていたようだ。つまりこの試合、ルール上は恭也の勝利である。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あの」
「・・・あ、何だい?」
「その、頬から血が・・・」
「ん?本当だ・・・まぁこれくらいの怪我は良くあることだから気にしなくていいよ」

何でもないように血を拭うが、クロエは僅かながら落ち込んでいるように見えた。チャンバラごっこで相手に怪我を負わせてしまったことの後ろめたさを感じているのだろうと思ったが、彼の眼には微かに『恐怖』が浮かんでいた。
それは恐らく、相手を傷付けるという行為そのものに対する忌避なのだろう。
この子は間違いなく優しい子だ。表情や言葉には出ずとも、それだけははっきり分かった。恭也は笑いながらクロエの頭をなでる。

「人の痛みを理解できるのは大切なことだ。それが出来なかったら振るう力は唯の暴力になってしまう・・・今はそれさえ分かっていたらいいさ」
「・・・はい」
(とはいえ、親父に話さなきゃならないことが増えたかもな・・・)

クロエの武術、異常な身体能力、凄まじい気迫、そしてそれに不釣り合いな優しさ・・・

まぁ、これだけは言える。彼の正体が何であれ、高町家は彼を歓迎するだろうということは。

「さて、そろそろ朝ごはんの時間だ。一緒に行こうか」
「・・・はい」





『どどどどうしようゼルギウスさん!!血が!血がでで出てたって!』
《・・・・・・》
『体は勝手に動くし怪我させちゃうしルール破るしもう最悪だぁ!!絶対嫌われたぁぁ~!!』
《少年は血が苦手なのか?》
『血を見ると背中を悪寒がサァーっと走って体が震えます・・・時々気が遠くなったり・・・』
《・・・少年は、つくづく争いごとに向いていないな》


表情には出ていないが内心は子ウサギのように臆病なクロエだった。



┌―――――――┘\
│To Be Continued? >
└―――――――┐/ 
 

 
後書き
クロエ少年はゼルギウスさんの能力がログインした所為か表情筋が固くなってしまっています。完全に説明するの忘れてた・・・

そしてリアルの事情で暫く更新停止である。宇宙のどこかでまた会おう。


転生者の法則その4、成長性が妙に上昇する
 
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