仮面ライダーディザード ~女子高生は竜の魔法使い~
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epic8 聖剣…全てを断つ力・ヴァルムンク Aパート
身動きが取れず地面に伏せているエリカに今、死の宣告が下されようとしていた。
ゆっくり、そして確実に訪れる死へのカウントダウン…。
『さぁ、これで…終わりだアァァァァァッ!!』
「……。」
『エリカちゃん、あきらめないで!このままだとやられるよ、早く起きて!』
終わりました…エリカは完全に諦めたのか静かに目をつぶり覚悟を決め、マギカドラゴンの声すら全く聞く耳すら持っていない。
今度こそ死の国へ送ってやる…パワードタイガーの手にした大剣がうなりを上げて振り下ろされた、その時。
ジャラジャラジャラッ!!
鎖の様な音と共に何かが大剣にからみつき、動きが急に止まった。
剣が重い…一体、何があったんだ?
パワードタイガーが上を向くと、光り輝く数本の鎖が剣に何重にも巻きついて固定されている。
鎖を放ったのはパワードタイガーから数m離れたところにいるセシリアであり、彼女はエリカの危機に瞬時に気づくと念力で両手から光の鎖を作り上げ、パワードタイガーが振り下ろそうとしていた大剣に向かって鎖を放ち、動きを封じたのである。
しかもその鎖を引く腕力たるや尋常ではなく、まるで強力なウィンチで巻き取っているかの様にたぐり寄せている。
『くっ、女め!まさか超能力者だったとはな!』
「エリカちゃんには指一本触れさせないよ!ゴツい猫さん!」
『悪かったな、ゴツくて!それに俺は猫じゃなくて虎だ、見てわからないのかアァァァァァッ!!』
え、助かったのですか…?
薄目を開け、何とか自分が生きているのを知ったエリカは跳ね上がる様に起き、以前叔母のサヤカから貰った爆弾の絵が彫り込まれたリングを右手中指に装着し、ディスクにふれた。
『ボム!プリーズ!!』
するとディスクから握り拳大の火球が生成され、パワードタイガー目がけて発射された。
火球はパワードタイガーの胸部アーマーに命中し、大爆発を起こして巨体を吹き飛ばす。
『ぐわあアァァァァァ!!』
「…エリカちゃんそこを動かないで、今そちらに行くから!」
アームズはその一瞬をついてかかとに装備されているダッシュローラーを使い、エリカのそばまでやって来ると彼女を脇に抱きかかえ離脱し、セシリアの元へと戻っていた。
『…しまった、あと一息で竜の魔法使いを倒せたものを!やむを得ん、また仕切り直しだ!!』
分が悪いと感じたパワードタイガーは、煙を上げてくすぶる胸部を押さえてヨロヨロと立ち上がるや大剣で地面に魔法陣を呼び出し、そこへ飛び込んで退却していった。
その後エリカはロータリーの隅にあるベンチに座り、暮れゆく空を見ながら一息ついていた。
「エリカちゃん、ケガはないか?」
「片桐さん、私は大丈夫です。しかし…。」
もしあの時…瞬間的に二刀流防御をしていなければ、今頃エリカは深刻なダメージを受けていただろう。
正直な話、エリカとパワードタイガーの力の差は…あまりいいとは思えない。
実際、ナイトやルークを用いて戦ったものの決定打には程遠く、なかなか打倒できずにいる。
しかもパワードタイガーは『仲間の敵を討つ』まで、しつこく攻めてくるに違いない。
そんな『復讐の鬼』と呼んでもおかしくないパワードタイガーに、本当に勝機はあるのだろうか?
そんなエリカの空気を読んだのか読まなかったのか、セシリアがエリカにベクターノイドの話を切り出した。
「あ、そう言えば、さっきの白い宇宙人型ね。」
「あの白い人型ですね。あれがどうしたのですか?」
「あれね、ベクターノイドって言うんだって。」
「しかもそいつ、魔法が効かないときているから…たちが悪いよ。」
「え、魔法が通用しない敵…ですか!?」
セシリアと片桐の話に、エリカは渋い顔をして考え込む。
ただでさえパワードタイガー相手に苦戦しているのに、魔法が効かないベクターノイドまで襲いかかられたらたまったものではなく、体がいくつあっても足りない程だ。
となれば、方法は一つしかない。
(やはりあのリングを使うしか、勝つ方法はないのかもしれませんね…。)
エリカは点々と瞬く星を見上げながら、はぁ…と深くため息を突いた。
「なるほど、白い宇宙人型ですか…確かに厄介な事この上ないですね。」
『しかも竜の魔法使いだけじゃなく、超能力者までいやがった。おかげでこのざまだ…。』
一方、何とかベルフェゴールの元に帰ってきたパワードタイガーは、先程の状況をベルフェゴールに報告していた。
まさかのベクターノイドや超能力者の乱入に、ベルフェゴールも少し表情を曇らせる。
彼もベクターノイドの存在は以前から知っていたが、このままのさばらせておくと今後に影響が出てしまい…しかも、『現在進行中の計画』までも水泡に帰してしまう。
ベルフェゴールは考えた末、パワードタイガーに今後どうすべきかを話した。
「では、こちらは慎重に様子を見るとしましょう。何より彼らは魔法使いや超能力者のみならず、我々すら敵視していますから、策を十分に練る必要があります。」
『じゃあ、竜の魔法使いはどうすんだよ!?奴らに倒されたら、俺の今までの苦労が全て水の泡だ!!』
「ですが、あなたに打つ手はありますか?魔法すら一切効かない彼らに。」
『なっ、…ぐぬぬ!』
そう、ベクターノイドには魔法が効かない…そうなれば、魔法生物たるホムンクルスでは勝負にならず、一方的に押されてしまうのは目に見えている。
さすがのパワードタイガーも返す言葉がなく、ひたすら地団太を踏むしかなかった。
それから数日後、城北学園芸術科では学生の体力向上のため体育の自習が行われており、他の生徒はバトミントンやバレーボールで日頃の運動不足を解消していた。
そんな皆をよそに、エリカとセシリアは二人きりで自習を開始していた…と言っても、彼女達は他の皆みたいに『普通に』体を動かす訳ではない。
エリカはセシリアを連れてグラウンドの左隅に来ると、コネクトリングで模造刀二振りを取り出すや一振りをセシリアに手渡し、エリカは模造刀を両手に持ち腰を落として構えていた。
「セシリアちゃん、いきますよ!」
「OK、いつでもいいよ!」
セシリアは模造刀を片手に…しかも逆刃に持ち、走りながらエリカに向けて横一閃に一太刀を繰り出し、エリカも模造刀を縦に構え受け止めた後返す刃で反撃した。
「はあぁぁぁぁぁッ!!」
「…ほっ!…はああぁぁッ!!」
たった数秒であるにも関わらず、二人の鬼気迫る殺陣に他の生徒も呑み込まれ、凜として張り詰めた空気が周囲に漂う。
「…あの二人、すごい気迫だな。」
「まさに技と技のぶつかり合い…時代劇の御前試合を見てる様だ。」
「いつものエリカちゃんやセシリアちゃんじゃないみたい…。」
「仕方ないわね。エリカちゃん達に、私達の未来がかかってるんだから。」
その後も、二人はお互いの剣技を繰り出しながら太刀筋のチェックや動きの切れを確認し、終了のチャイムが鳴るまでそれは続いた。
二人がここまで打ち合うには理由がある。
それは言わずもがな、パワードタイガーやベクターノイドと言った強敵に対抗するためである。
特に魔法が効かないベクターノイドが相手の場合、魔法よりも物理攻撃が有効と踏んだエリカは、剣技を鍛える事でベクターノイドに多くのダメージを確実に与えるだけでなく、これからも現れるであろう強力なホムンクルスにも対抗するために、体育の時間を利用して剣技を鍛えていたのだ。
そして放課後になり、二人は感覚を研ぎすまして辺りをキョロキョロと見回していた。
当然、パワードタイガーやベクターロイドを探し出すだけでなく、他のホムンクルスも見つけ出し次第迎撃するためである。
特にエリカはベクターノイドとの交戦経験がないため、尚の事神経を張りめぐらせていた。
商店街を抜け、ドーナッツ屋「たちばな」に立ち寄りながらも警戒を強めていたが、いまだに互いの反応は0。
「セシリアちゃん、反応はありました?」
「ううん、まだないよ。」
「そうですか…。」
結局、館に帰ってくるまでにかかった反応はなく、この日は平和に過ぎていった。
次の日。この日は土曜日と言う事もあり、スケッチブックと画材一式を手に城北町立美術館に来ていた。
ここは町でも有数のデートスポットであり、若いカップルが手をつないで画家達の作品を見て歩く光景が見られる。
「ねぇ、そこの姉ちゃん達…今日ヒマ?」
「「……。」」
「ちょっ、無視って…まだ何もしてないのにイィィィィィ!!」
当然ながらエリカやセシリアに声をかける若い男もいたが、二人は無視して先を急ぐ。
そして二人は美術館の中庭まで来ると、スケッチブックを広げ庭内をスケッチし始めた。
この美術館の中庭は、二つの噴水をはさんだ中央に初代館長のブロンズ像があり、そこの周りには各ブロックに行き来できる回廊が整備されている。
更に市の職員により花壇も整えられ、まさに憩いの場である。
エリカは中央にあるブロンズ像をメインに木炭で濃淡をつけながら描き、セシリアは庭園の回廊を精密に描く。
だが、そんな平和な光景も長くは続かなかった。
それは、描き始めてから数分後の事だった。
キイィィィィ…ン。
ザッ、ザザザザァ…。
二人に敵の接近を警告するサインが聞こえたからだ。
二人は画材一式を片づけ、エリカはディスクを具現化させドライバーオンリングでディザードライバーを展開し、ディザードリングを左手中指に装着。
セシリアは念力を用いて右手刀から光の刃を引き出し、横水平に構える。
「セシリアちゃん、準備はいいですか?」
「うん、準備は万端だよ…来た!」
敵は空中から光の輪を通過して現れ、ゆっくりと降下してきた。
そしてスタッと着地すると、鈍色の目がカッと瞬き周囲を威圧する。
「わぁっ、あれは何だ!?」
「何か恐ろしいけど、逃げろオォォォォォ!!」
それを見た周囲の人々は、驚きのあまり四方八方に逃げまどい、美術館内に避難していく。
そして最後に残された二人は、迫りくる強敵ベクターノイドに立ち向かう。
「…あれもベクターノイド、と見ていいですね?」
「うん、でも気をつけて。あれは前に見たのと、全くちがうタイプだから。」
『エリカちゃん、気をつけて…相手は実力が未知数だから、慎重に!』
エリカの中にいるマギカドラゴンも警戒する様声をかけ、ゆっくりと迫るベクターノイドとの間合いを計る。
見た目は前回セシリアと片桐が戦ったガンナーベクターに形状は似ているが、両腕が鋭角な水晶の形をした小手を身につけており、更に右手には長柄の巨大な鎌がにぎられている。
エリカは、コネクトリングでディザーソードガンを取り出しガンモードに変形させ、慎重に構えながら目の前にいるベクターノイドに問う。
「あなたは一体、何者ですか?」
『俺の名は、死の使い…デスサイズベクター。貴様が竜の魔法使いか?』
「…はい、私がそうです。」
『そうか…ならば、まずホムンクルスを片づける前に、貴様から片づけるとしよう。覚悟するのだな。』
すると、デスサイズベクターは空中にフワリと浮くやエリカ目がけて空を走り出したのである。
どうやら、エリカ達との距離を詰めて一気に決めるつもりらしい。
がしかし、エリカは手形を左に操作すると…何と、彼女までデスサイズベクター目がけて走り出したのだ!
「!?」
『むっ、あやつ…死に急ぐ気か!!』
セシリアが驚きキョトンとする中、エリカは待機音が鳴り響く中…軽くジャンプすると、デスサイズベクターの真下まで接近し。
バキッ!!
エリカのハイキックがデスサイズベクターのあごを蹴り上げ、そのまま上空に跳ね上がってゆく。
そう、エリカは一か八かサマーソルトキックを決めに行き、それは見事に命中したのだ。
そして、上空に上がった勢いを生かし、空中でディザードリングをディザードライバーにふれ空中に魔法陣を展開、そこを通過してディザードに変身する。
「変身!」
『ディザード・プリーズ!…ディーディー、ディーディーディー!!』
ディザードは空中できりもみ三回転半を決めると、落下の勢いを生かしディザーソードガンを吹き飛ばされているデスサイズベクターに向け砲撃した。
サマーソルトを決めてから砲撃するまで、その間わずか5秒…その電光石火の攻めに、セシリアは思わずパチパチと拍手してしまった。
そしてディザードはピタッと着地を決め、デスサイズベクターに向けて一言せりふを言い放つ。
「…お見事!」
「イッツ…ショータイム!!」
『おのれ、調子に乗っていられるのも今のうちだ!』
一方デスサイズベクターは、倒れて尚砲撃を喰らってはいたが、何事もなかったかの様に立ち上がり再び手にした鎌…キラーシザーズを振り回し、ディザードに向かって走り出した。
ディザードもディザーソードガンをソードモードに切り替え、デスサイズベクターを迎撃する。
まずディザードが斬撃を数回繰り出しデスサイズベクターを牽制すると、セシリアが左から回り込んで光の剣を振るいデスサイズベクターに追撃の一太刀を浴びせる。
『ぐわっ!!?』
「私達の攻めは、まだ続くよ!」
「これでも受けなさい!」
更にディザードがセシリアと共にミドルキックを胴に繰り出しコンビネーションを決めるが、デスサイズベクターは何とか体制を立て直すやキラーシザースをディザードに向けて横一閃に振り回し、ディザードもディザードライバーを構え死の鎌を受け流しながら軽く跳ね上がり、頭部に回し蹴りを繰り出す。
「くっ、なかなかやりますね。」
『ふむ…竜の魔法使いよ、先程の奇襲戦法といい、敵ながらあっぱれな奴。しかし!』
すると、デスサイズベクターはキラーシザースを背中にしまうや両腕の小手にある水晶がごとき鋭角な刃で二人に反撃し、セシリアに手傷を負わせた。
「うわっ!…くっ。」
「セシリアちゃん!…ならば!!」
更にセシリアが後方に吹き飛ばされ地面に叩きつけられるのを見て、ディザードは腰に下がっているリングホルダーからブレイズリングを取り出すと、右手中指のコネクトから変更しディザーソードガンの手形を展開、一気に決めるべく手形にふれた。
「エリカちゃん!あいつには…。」
「わかっています、ですが相手の魔法耐性を知るために…あえて魔法を使います!」
「エリカちゃん…わかった、でも無茶はしないで!」
「…はい!」
『ブレイズ・スラッシュストライク!!』
セシリアからの励ましを受け、刀身から真紅の業火がほとばしるディザーソードガンを手に近くの柱に向けてジャンプし、三角蹴りを決めつつデスサイズベクターへと渾身の一撃を振り下ろしたディザードであったが。
ガキイッ!!
肩口に鈍い音を立てて命中したはずの真紅の業火の一太刀は全く刃が通らず、しかも切り口すら全く見られない。
恐るべき、ベクターノイドの魔法耐性力…と言ったところか。
『ん?今、何か当てたのか?』
「くっ、相当固いですね…ならば!」
『エリカちゃん、次を用意して!連続で攻め続ければ、いくら魔法耐性が高いからって!!』
マギカドラゴンのエールに応えるため、ディザードは次にライトニングリングへと交換し、ディザーソードガンの手形にふれライトニングスラッシュを発動させる。
真紅の火から緑の轟雷に切り替わった刃を再び振るい、今度は胴に向けて横一閃に決めたが…結果は先程と一緒だった。
『ふん…俺に魔法が通用すると思うたか?甘い甘い、甘すぎるッ!!』
「まだまだっ!いくら魔法が効かない相手とて、『全く』効かない訳ではありません!!」
デスサイズベクターの左拳による一撃をすかさずかわしたディザードは、一旦間合いを離れ左手のリングをナイトリングに変更し手形を左に操作すると、左手を手形にふれDZナイトに変身した。
そして、右手のリングをクリスタルリングに変更、三度ディザーソードガンの手形にふれる。
「私は、負けません!」
『ナイト・プリーズ!…セイバーセイバー、セイヤーセイヤーセイヤー!!…クリスタル・スラッシュストライク!!』
怒涛の三連発に、デスサイズベクターは頭部の円形のパーツ…レドーム内にあるコンピューターを起動、スカウターモードに切り替え計測を開始した。
分析は数秒で終わり、データが頭部主要コンピューターにダウンロードされる。
(なるほど…あの魔法、攻撃力はありそうだな。だが、俺の敵ではない!)
すると、デスサイズベクターは何の抵抗も示さず両手を広げ、わざと真っ向から斬られた。
もちろん、自身の魔法耐性に自信があるからこその余裕である。
「はあぁぁぁぁぁッ!!」
ザシャアッ!!
渾身の一撃が決まった…と思われていたDZナイトの攻撃は、やはり全く通用せず無傷のまま。
ここまでくると、さすがのDZナイトも戦慄を覚えずにはいられなかった。
『…この程度か?貴様の力は!!』
「…それでも魔法が効かないなんて…強すぎます!!」
『くっ、何という耐久性なんだ!』
それでもDZナイトは次にフロストリングへと変更し、四度手形にふれフロストスラッシュを発動、今度は一気に刺し貫こうとしたが…今度はまるで壁にナイフを突き立てたかの様に弾き返された。
『…ふん。』
「うぅぅ…。」
DZナイトはソニックリングに変更し、一気に決めようとして…リングホルダーから手を離した。
おそらく、どのリングを使っても結果は同じ…そう踏んだDZナイトは、やむを得ず元のディザードに戻ると、今まで使わずにいた『あの』リングをリングホルダーから取り出し、右手のリングと交換した。
そのリングとは、以前サヤカからもらった剣とユニコーンの角が交差したリングである。
そして、新たなリングを手形にふれさせた時…ここで思いもよらない事態が起こってしまった。
『エラー!!』
「…え?」
『エラー!?そんなバカな!!』
そう、リングが拒否反応を示したのだ。
しかも、何度もやったものの結果はエラーの連発ばかり。
いつもならエラーが起こるのは魔力が尽きた時だけで、今現在魔力はかなり残っている。
それなのに、どうしてエラーが…?
だが、こうしている間にもデスサイズベクターは美術館内にいる人々に向かって死の鎌を突きつけ、じりじりと迫っている。
と、そこへ。
「させないよ!ここは通さないから!!」
『…くっ、じゃまだ!そこをどけ、小娘!!』
手傷を負い、動けなかったはずのセシリアが美術館の入り口に仁王立ちし進入を防いでいたが、正直焼け石に水なのは否めない。
何より、負傷した傷口から一筋の血が地面に向けて流れており、正直な話大丈夫だとは言えないからだ。
それでも彼女は、負傷箇所を念力で手当てしながら光の剣を展開し、デスサイズベクターに立ち向かっていった。
だが、そんなセシリアの奮闘とは逆に…ディザードはいつもの冷静さを失い、内心焦っていた。
何とかしなければ、被害者が出てしまう…早く止めないと…!!
でも、私はどうしたらいいの?
ディザードは正直迷っていた。
相手は魔法が全く効かず、しかも頼みのリングもエラーばかりで役に立つかわからない。
セシリアも何とか奮闘しているが、傷を負っているためいつまで持つか…。
が、ディザードは無意識の内に右手のリングを太陽にかざし祈り始めた。
まるで、太陽を求め茎を伸ばすひまわりの様に。
みんなを守りたい…限りある生命(いのち)を助けたい…だからお願い、リングさん…。
私に力を貸して!!
ディザードは悲痛なる願いをリングに込め、かかげた右手を再び手形にふれさせた。
するとどうだろう、リングからまばゆい光が放たれたかと思うと、ディザード自身が光に包まれてゆくではないか。
そして、ディザードの意識は湧き上がる光の中に包まれ、そのままリングの中に取り込まれていった。
どのくらい時間が経ったのだろう…気を失っていたエリカは、ゆっくりと目を開け辺りを見回した後、体を起こしてみると。
そこは中世ヨーロッパの世界…しかも、目の前には広々とした平原が広がっているではないか。
とここで、彼女は変に違和感を感じていた。
(…あれ、そう言えばマックはどこにいるのでしょう?)
そう、いつもなら近くにいるはずのマギカドラゴンが、そこにいないのだ。
当然、彼がいなければ魔法を使う事すらできず、的確なアドバイスも聞けない。
エリカは、彼を呼ばなくてはとマギカドラゴンを大声で呼んでみたが。
「マック、どこにいるのですかぁー?返事をして下さーい!」
しかし、呼べど叫べど返事は帰ってこず…エコーだけがむなしく帰ってくるだけ。
仕方なく、エリカはその場で状況整理を始めた…まずリングを使った時点で光が起き、気がついたらここに倒れていた…。
そもそもここは一体どこなのか?…おそらくリングが記憶している世界の様だが、それなら何故マギカドラゴンまで急にいなくなってしまったのか?…理由はさっぱりわからない。
考えれば考えるほど頭は混乱し、一体どうしたらいいのかと腕組みしていた…丁度その時であった。
「そこのお嬢さん、どうされました?」
「キャッ!だ、誰ですかあなたは?」
急に後ろから声が聞こえたので、エリカはとっさにビクッと反応して後ろを向き、声の主に質問した。
すると、背後に立っていたのはエリカと同じ魔法使い…しかも、かなりのイケメンである。
腰まである栗色の髪を白い紐で束ね、整った面立ちに戦国武将に似た口ひげ、スラリとした体型を包む黒一色のズボンと同色のローブに革のブーツとグローブ。
頭にかぶるは巨大な羽根つきの幅広の三角帽、そして腰に差した強力な魔力が感じられる、竜をかたどった手形つきの長剣。
更に胸に着けし鎧はディザードとよく似ている、青い魔法石をふんだんに使用した、贅を極めた逸品。
その何もかもがディザードに似た男は、エリカに向かい自己紹介をした。
そう、彼こそ……
「おどろかせて本当にすまなかった。私の名はゴダード・エッセンブルク、またの名を…竜の魔法使い!!」
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