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とある覚悟は金剛不壊

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『東方晟成』 ①

七月十四日 とある高校



「海の日」の前日。梅雨もあけ、ジメジメとした空気もカラッと乾き、いよいよ夏も本格的に始まろうとしていた。とある高校では、もうすぐ始まる夏休みをどう過ごすかと生徒達は盛り上がっていた。


「ふぁ~……もうすぐ夏休みだなぁ…」


だらしない欠伸を大きくかいて、青年『上条当麻』は頬杖をつき呟いた。


「お、なんや『カミやん』。もしかして夏休み、デートの約束でもしとるん?」

「にゃ~に~? それは聞き捨てならないにゃ~♪ 」

「んなわけねぇだろぉが。この上条さんが、そんなラッキー野郎に見えますか?」


「「見える (キッパリ) 」」


真顔(無駄にいい顔)で答える友人達に、上条当麻は何も言えなかった。


「……そう言うお前等はどうなんだよ? 何か予定でもあんのか?」


話題を自分から離そうと、上条は友人『土御門元春』と『青髪ピアス(アダ名)』に訊ねた。


「そらぁ~もぉ~♪ ありまくりやわぁ~♪ まず初日は補習で『小萌先生』と、次の日はまた補習で先生と、その次の日も補習で先生と♪ 毎日毎日先生と会う予定が入っとるんやで~!」

「いやいや、それお前が頭悪くて夏休み返上されているだけじゃねぇか!」

「カミやん、家でゴロゴロするだけが夏休みやないんやで。重要なのは『どれだけ良い思い出をつくるか』やで? (キリッ)」

「だからその無駄にいい顔やめろ!」

「俺はそうだにゃ~……特にどっか行く予定はないにゃ~。毎日義妹とイチャイチャする予定はあるけど♪ 」

「お巡りさ~ん! ここに犯罪者が二人います!」


友人達のアブノーマルな性癖に上条は国家権力の召集を募った。


「心外だにゃ~、カミやん! 今日日「僕は妹に恋をするぜよッ!」なんて倫理を問われかねない映画が大ヒットする世の中ぜよ? 近親相姦なんて今どき普通ぜよ?」

「全然普通じゃねぇよ! 立派に犯罪だよ! 執行猶予なんてつかねぇよ! 」

「落ち着け、カミやん。それに俺と『舞夏』は血は繋がってない……ギリギリセーフぜよ」

「アウトだよ! ストレートを空振りする勢いでアウトだよ! 」


義妹ならOKなどという法律があってたまるかと、上条は土御門にツッコんだ。


「それ言うならカミやん、『青ピ』の方がアウトだと思うぜよ。古今東西、ロリコンは重犯罪者の代名詞だぜよ?」

「いやいや、何言うてますの~。僕はロリコンちゃうで~……ロリ『も』好きなんやで~!」

「どっちにしろ犯罪者であることには変わらねぇじゃねぇか!」


友人二人のマジなのか冗談なのかよく分からないボケをツッコんで、上条はどっと疲れた表情で机に倒れこむ。ちなみにこのやり取りは、このクラスの名物にもなっているほど日常茶飯事なので、周りの生徒達は「またか……」と呆れた目で三人を見ていた。


ガラララ……

「はいは~い! 席につくですよ~!」


教室の扉が開くと同時に、舌ったらずで甘ったるい声が生徒達に向けて発せられた。声の持ち主は、その幼い声に似つかわしく小柄で、おそらく十人中十人が小学生と認識してしまう程の童顔な女性であった。彼女こそ先程青髪ピアス(変態)が言っていたこのクラスの担任、ランドセルが似合う外見とは裏腹に実年齢は飲酒・喫煙クリアな年齢である『月詠小萌』であった。


「いや~、暑いですね皆さん。でも後少しで夏休みですので、皆さん暑さに負けずがんばりましょう~♪ 」

「は~い! 頑張りま~す!!」


元気よく返事したのは、言うまでもないが変態(青髪ピアス)である。


「さて、皆さん。今日は皆さんに重大発表があるのですよ~♪ 」


小萌の言葉に生徒達はどよめき始める。彼女は生徒達が驚愕すること間違いなしと確信の笑みを浮かべ、その重大発表を告げた。


「なんとですね~…………今日このクラスに、転校生が来るんですよ~!」

「「「えぇええええええ!?」」」


小萌の重大発表は生徒達を驚愕させた。予想通りの反応に満足なのか、彼女は笑みを浮かべたままである。


「ビックリするのも分かりますよ~。なにせ一学期も終わり間近というこの時期に転校生ですからね~。それにその転校生ちゃんは『外』から来るんですよ~♪ 」


小萌の発言に生徒達は一瞬で転校生に興味がわいた。学園都市で転校は殆どおこなわれない。最初の入学試験で生徒に最も適した学校が決められるからだ。転校生だというだけでも珍しいのだが、件の転校生はそれに加え『学園都市の外』から来るのだという。こんなビッグニュースに、生徒達がくいつかないわけがなかった。


「おいおいおいおい、まさか夏休み突入前にイベントフラグがたっちゃう系!?」

「いやいや、何で転校生『女』って決めつけてんだよ」

「何言うとるん、カミやん! こんな時期に転校してくるんは、美少女と宇宙が創られた時から決まっとるんやで!」

「初めて聞いたぞ! そんな宇宙の法則!」

「はいそこ~、上条ちゃんに土御門ちゃんに青髪ちゃん、いつまでコントしているんですか~静かにするですよ~♪ 」


「「はいッ!!」」

「………はい…」

「よろしい♪ ではでは、さっそく噂の転校生ちゃんをご紹介しましょう。入っていいですよ~、『東方』ちゃん~!」


小萌の呼び声に答えるように、教室の扉に人のシルエットが浮かび上がった。生徒達は転校生との邂逅に緊張を隠せなかった。


「ほぉおおおおッ! 『東方』やてッ!? 何ともそそられる名字やな~♪ 名前は何やろ? 『魔理沙』か!? それとも『霊夢』か!?」

「いや! もしかしたら『美鈴』とか『咲夜』とかかもしれないにゃッ!」

「何で全部「東○project」なんだよ!?」


三馬鹿がキャアキャア盛り上がっていると、教室の扉が開かれ件の転校生がその姿をあらわした。

そして、三馬鹿のうち二人の犯罪者(土御門と青髪)はフリーズした。

転校生は黒板に自分の名前を書き、生徒達全員に向き直り挨拶をした。


「えぇ…と、仙台から越してきました『東方晟成(まさなり)』っス。宜しくお願いします……」


185cmはあろう背丈、制服の上からでもわかる鍛えられた体、少し『彫り』の深い顔立ち、低音の声質、どれをとっても『魔理沙』とか『霊夢』とか『美鈴』とか『咲夜』といった名前が似合わない青年は、生徒達に向けて一礼をした。


「…………あれ? 『魔理沙』は? 『霊夢』は? 美少女は?」

「あ、分かったぜよ。きっと転校生は二人いるんだぜよ。もう一人が『美鈴』か『咲夜』ぜよ」

「おい、現実を見ろお前等」

「こ、小萌先生! もう一人の紹介を、美少女転校生の紹介を早くしてくださぁいッ!」

「じゃ、じゃないと法則が……宇宙の真理がぁッ!」


「転校生は東方ちゃんだけですよ?」


「「NooooOOOOOOOOOOO!!」」


馬鹿の叫びが虚しく響く。件の転校生『東方晟成』は、どういう事態なのか把握できず茫然としていた。そして……


「…………やれやれだぜ……」


ため息混じりに呟いた。






 
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