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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
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もしも最強の騎士の力を手に入れたら・・・?

 
前書き
ネタが思いつく限り我はほろびぬ。でも今回は前回より更にグレードダウンしてる。
この短編、思いがけず好評らしい。ちょっと嬉しい。

10/22 書き忘れ発見(後書きに) 

 
~???~

『おめでとう!あなたが記念すべき3人目のチート転生者です!』
「一番とかじゃないのに『記念すべき』なんですか?」
『一先ずこれで区切りだからね』
「???」

良く分からない人だ。・・・人、なのかな?なんか自信なくなってきちゃった。
僕は何故こんな本に囲まれた場所にいるんだろうか。まさかこのオジサンに拉致られたとか?

『失礼な。自慢じゃありませんが我々”フラスコを揺らす者”はそんな非常識な真似はしませんよ!うっかり現世の人をミスで殺しちゃったりトラックに跳ねられて死んだ少年にゲートオブバビロンやら何ややら型月的能力を上げまくったりもしません!アルビノや謎オッドアイやらもしません!でもチートは一つだけあげちゃうけどね!!』
「あげるんだ?」
『あげちゃうのよ』

そうです貴方が変なおじさんです。

『人をどっかのバカ殿様みたいに言わないでください。さて・・・それでは君の願いを聞こう』
「んー・・・騎士ってなんか憧れる。という訳でチートな騎士になりたいです」
『うん、さっきの二人と比べて明確な方向性を示した君は見どころがあるね!』
「そうなんですか?」
『そうなのよ』

そんなことよりお腹すいた。お家帰ります。出口はどこですか?

『あ、君はもう死んでいるからお家帰れないよ?』
「まじ?」
『真剣本気と書いてマジマジ』

マジマジと見つめ返したが効果は無かった。そうか、僕は死んだのか。でも何で?

『君のパパが吸ってたたばこの副流煙のせいで随分体に異常が起きてたみたいでね?それが主な原因で喘息が悪化して死にました』
「・・・パパなんか死んじゃえ」
『しかも君のパパがたばこ吸ってなければそもそも喘息にならなかったはずなんだ・・・享年12歳、早すぎる死でした』
「・・・もうあのおっさんをパパとは認めない。これから愚物って呼ぶ」
『ちなみに君のパパは未だに喫煙してます。ママさんとは離婚寸前だね』
「・・・愚物なんか煉獄に堕ちて荼毘に付しちゃえ。ママはその先に幸福のあらんことを」

知りたくない事実てんこ盛りだった。うらみま~す~・・・・・・でも涙は出さない。男の子だもんッ!

『では、そろそろ夢と希望と謀略と下衆と餓鬼と狂鬼と無謀と理不尽に満ちたリリカルワールドへ行っておいで。あちら側なら君も愚物とは違っていいパパを見つけられるさ。君はいい子だったから特別にチート能力の一部をデバイスに変えておいたよ』
「・・・ありがとう。オジサンは、甘い人だね」
『優しいとは口が裂けても言えないからね?気を付けるんだよ賢い坊や』

こうして僕は妙に凝った装飾の扉を潜り、言われるがままにリリカルワールドという世界へ歩いていった。



―――――――――――――――――――――――――――




その日、月村すずかは恐怖に支配されていた。

確かに自分は学校から自分の家へと帰る途中であったはずである。それが、どうして手足を縛られてこんな暗くて狭い場所にいるのだろうか。声を出そうにも口にはガムテープが張り付けてあり、立しけを求める声さえ出すことが出来ない。
周囲を見渡すと、数人の大人が立っていた。それぞれスーツを着ていたり普通の私服だったり作業員みたいなつなぎを着たりしている。ただ、全員が懐に”何か”をいれている事を除けば、普通の人に見えた。

聡い彼女はぼんやりながら自分に何が起きたのかを察した。自分は恐らく、誘拐されたのだと。
彼女の家は少なくともこの町の中ではかなりの金持ちである。その家の人間である自分を誘拐すれば多額の身代金を得られると考えたのかもしれない。

だが、それと同時にすずかは別の可能性が頭にこびりついて離れなかった。
すなわち自分たち――”夜の一族”の事を知って誘拐したのではないかという可能性だ。考えにくい事ではある。その情報は誰にも知られてはならない月村家の秘密であり、知ったものはその記憶を消し去られる。それでも秘密は完璧に守れるわけではない。
夜の一族は普通の人間ではない。人の生き血を啜り、人間を越えた力を持つ種族。それが私達だ。ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』ほど馬鹿げた力は有していないが、それでも人間から迫害されてもおかしくないほどの異常な存在、化物だ。
もしどこかでその情報が漏れたのならば・・・最悪、人体実験の道具にされるかもしれない。特に未だ体が未熟な私は捕まえるのにおあつらえ向きだろう。
姉に昔から自分たち一族の事を散々聞かされていた彼女は、その可能性があることをよく理解していた。

『ーーーーーーー』
「ーーーーー?」
『ーーーーーーーーー』

周囲の大人たちが何か話している。が、上手く聞こえない。ご丁寧に耳栓までされているようだ。

これからどうなるか分からない不安と何をされるか分からない恐怖の二重苦は、じわじわとすずかの心を蝕む。何も出来ずに待ち続ける事しかできないすずかは、次第に不安に耐え切れずに体を震わせ始めた。視界は溢れてきた涙でぼやけ、呼吸が苦しくなる。まだ9歳の子供である事を考えるとその反応は当然と言える。いや、むしろそれだけ正確な思考を今まで続けられていた事の方が不思議なくらいだ。

そんな中、ふともたれかかっていた背中に小さな振動が伝わってくる。反射的に自分の横を見たすずかの瞳に映ったのは―――


(・・・・・・おっきい)

高さ2メートル以上はあろうかという、真っ黒な鎧戦士の姿だった。



 = =



目が覚めると、そこは知らない天井でした。
暗く埃臭い謎の個室。何とも辛気臭いが、ここがリリカルワールドなのだろうか。

《聞こえるか、少年》

不意に自分の頭の中に直接響くようなダンディーな声が聞こえた。

「誰・・・ですか?」
《先ほどの男が、「能力の一部をデバイスに変えた」と言っていたろう。わたしがその”デバイス”という媒体に宿る意思・・・少年に助言をするのが私の仕事だ》
「・・・良く分かりませんが、分かりました」
《今は分からなくともよい。それよりも、この部屋の向こうに複数の人間がいる・・・気配からしてゴロツキの類だ》
「えっ・・・!」

血の気が引く。僕は小学生の身だ。ごろつきに絡まれれば為す術など無い。しかもこの部屋には出入り口は一つしかないようだった。だが続くダンディーな声が僕に落ち着きを取り戻させた

《我々の力があれば追い払うのは可能だ。だが、顔を覚えられると少々面倒になる》
「・・・あのオジサン、本当に力を?」
《そうだ。少年よ・・・私を使えば顔を隠すことが出来、体格も誤魔化すことが出来る・・・私を掲げよ》
「はっ、はい!!」

僕は急いでポケットからダンディーさんを取り出す。ダンディーさんは真赤なリボンが付いた黒真珠のような姿だった。

《唱えよ・・・”汝、身の程をわきまえるべし 漆黒(ブラック)騎士(ナイト)、顕現”》
「な、汝身の程をわきまえるべし!ブラックナイト、顕現!!」

こうして僕の躰は眩い光に包まれ、気がついたら・・・体が大きくなっていた!

「確かにこれなら僕だってばれないよね!・・・身体の割に声が元のままだけど」
《それは、致し方なし》

こうして僕はドアノブを回し、狭い部屋から抜け出した。
・・・・・・頭が扉の上にぶつかりそうになって焦った。



 = =



ただ年端もいかないガキを一人攫い、指定の時間まで待てばいいだけの楽な任務だった。
それなりに裏の仕事をしてきたが、これだけあっさり終わる仕事も珍しい。だが、楽ならそれが一番だ。この世界で一番やってはいけないのは欲張りと不要なリスクを冒すこと。それだけ守ってれば、それなりの金が手に入り、マッポーからも逃げられる。

そんなことを考えながら、ふと一緒に雇われた男がクライアントと通話しているのを盗み聞きした。

『こちらからは迎えに行けなくなりました・・・何せこの騒ぎですから』
「さっきちらっと外の様子見たよ。すぐ消えちまったが、ありゃなんだったんだ?」
『残念ながら心当たりはありませんね。ですが問題はあれのせいで町中が大混乱になっており、ターゲットを運び出せるのがあなた方しかいないという事です』

―――話から察するに、町で何かが起きたようだ。まぁもう収まったようだから俺にはあまり関係ない。
ターゲットのガキを横目で見る。涙を流しながら震えるその姿を気の毒だとは思うが、逆を言えば俺が感じるのはそれだけだった。どんなに良心を持っていても、しょせん人間は自分本位な生き物だからだ。
だから、同情はしても助けはしない。

ガチャッ

「?」

突然奥に続く扉が開かれる。はて、あそこにはだれも入っていなかったはずだが―――



「・・・・・・・・」


「――――」



なんかいるーーーーーーーーー!!!


まるで「やぁ」と気さくに話しかけてくるような雰囲気で、それは扉から出てきた。


それは、巨大な鎧だった。全身を包む漆黒の鎧に、赤くたなびくマント。まるっきりどこかのファンタジーに出てくる闇の剣士の様な姿に、俺の脳は一時的なフリーズを起こした。

「な・・・何だてめぇは!!どこから入ってきやがっ―――」

扉の近くにいた男がその鎧に果敢にも詰め寄り・・・

 ご っ !
「―――あじゃぱぁ!?」

奇声を上げながら吹っ飛んだ。空中で四回転半した男の身体は頭からコンクリートに激突し、ダラダラと血を流しながら動かなくなった。よく見ると鎧が拳を突きだしたまま固まっている。殴られた、という事らしい。鎧からは「この鉄拳はサービスだから、先ずは喰らって死んでほしい」といった感じの雰囲気を醸し出している。

俺は迷わず銃に手を伸ばした。倒れた男の容体は知らないが、少なくとも意識はないらしい。あれをもろに喰らえば最悪即死しかねないという判断からの咄嗟の行動で、俺はすぐさまその鎧に銃弾を叩き込んだ。

ばん!ばん!ばん!

放たれた弾丸は鎧に当たり跳弾、だが最後の一発が頭部の兜の隙間に吸い込まれるように入っていった。何故鎧を着ているのかは知らないが、中身は人間の筈。ならば鎧の隙間を縫った攻撃なら効く。

「よし!」

で、次の瞬間その隙間から弾丸がポロッと出てきた。
うん、意味が分からない。
しかも跳弾した弾が何と周囲にいたほかのごろつきの足に器用に命中しており気が付いたら立っているのはクライアントと話をしていた男と俺だけになっていた。

鎧は「うん、「絶対に勝てない」んだ。済まない」とでも言いたげな態度でゆっくりこちらに迫ってくる。


俺は残っているもう一人に目線を配った。


―――帰るか。

―――おk。


その瞬間、俺達は確かに互いの心を通じ合わせた。

まじやってらんねぇべよこげん仕事。実家帰って稼業継ぐっぺ。



(・・・勝っちゃった)

すずかは目の前で起きたことを、まるで演劇を見るようにぼんやりと眺めていた。
唐突に現れた鎧は唐突に怖いおじさんたちを倒し、追い払ってしまった。
不思議と自分が助かったという安堵は感じなかった。そして、鎧に対する恐怖も感じなかった。
ただその鎧の騎士に見とれるように眺め続けた。

姿は悪役のようだけど、まるでおとぎ話の勇者様みたいだな。
でも実際は化物の少女を助ける暗黒の騎士、かな?

などと考えたた矢先―――鎧の姿が光と共に掻き消えた。

全く何が起きたのか分からなかった。あの鎧さんは一言もしゃべらず、そして私も猿轡のせいで話しかけることが出来ないままの別れだった。
やがて自分の家族が助けに現れて、すずかは姉の胸に抱かれながらもずっと同じことを考えていた。
これは夢じゃない。なら、自分を助けてくれたあの鎧の騎士さんも、夢じゃないんだ。




鎧の騎士さん、また会えるかな?



 = =



「うわぁぁ~~~~ん!!」
《・・・少年》
「血が!血がだら~ってぇぇぇ~~!!」
《・・・・・・少年》
「僕そんなつもりじゃ!怖かったから!ひっぐ、ちょっと手を翳しただけなのにぃぃ~~~~!!!」
《・・・これは、先が思いやられる》

精神年齢12歳、肉体年齢9歳(本人はまだ気づいていないが)の少年に、流血沙汰はまだ早すぎたようである。



        〈 ̄ヽ
    ,、____|  |____,、
   〈  _________ ヽ,
    | |         | |
    ヽ' 〈^ー――^〉  |/
      ,、二二二二二_、
     〈__  _  __〉
        |  |  |  |
       / /   |  |  |\
   _ __/ /   |  |__| ヽ
   \__ /    ヽ_____)

 
 

 
後書き
さいきょうのきし:正式名称『ゼルギウス(漆黒の騎士)』 作品元・・・ファイアーエムブレムシリーズより

能力・・・
設定は「蒼炎の軌跡」及び「暁の女神」から取り、より強いと思われる方を準用してます。

デイン王国の【四駿】の一人にして狂王アシュナードと遜色ない実力を秘めた騎士。全身に漆黒の鎧を纏い、神剣エタルドを駆る。実は剣術だけでなく槍術にも長けている。

 女神の祝福(装備品に施された祝福。女神の祝福を受けた武器以外の攻撃を全て無効化する)
※続編である『暁の女神』では加護が失われたが、この話では関係ない。
  漆黒の鎧(女神の祝福を受けている。なのは世界では突破不可能)
神剣エタルド(上と同じく女神の祝福を受けている。耐久力無限)
神剣ラグネル(ムービーでのみ使ってたエタルドと対を為す剣。エタルドと同じ性能を誇る)
    月光(相手の防御力を無視し、更に威力に力×5の補正が掛かるスキル。なのは世界ではレアスキルに相当)
   見切り(相手の全スキルを無効化するスキル。なのは世界のレアスキルはスキルに該当しないので言葉のままの意味となる。つまり、自分の技量次第で相手の攻撃を完全に見切れる)
    治癒(毎ターン魔力分のHPを回復するスキル。なのは世界では単純に傷や体力の回復が早くなる)
  体当たり(自分より重量の軽い相手を吹き飛ばすスキル)
    魔術(転身(精神と鎧を転移させる、簡単に言えば分身。本体より能力が劣る))
  転移の粉(本人の体力を大きく消費する代わりに空間転移が出来る魔術媒体)
   印付き(ベオク(人間)とラグズ(亜人に相当する)の混血児の中で体に特徴的な痣があるものを指す。一般のベオクに比べ長命だったり身体能力に優れているのが特徴だが、なのは世界では精々夜の一族と同程度の強化となる)


いまさらですが、転生者たちは全員肉体年齢9歳で統一されてます。2人目の子は単純に混乱してて自分の体に起きたことに気付いてなかっただけです。
一先ず『物量チート』『設定チート』『肉体チート』と揃ったので暫く転生者は現れません。(ひょっとしたらもう現れないかも?) 
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