魔笛
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第二幕その十六
第二幕その十六
「パパゲーナはおいらの恋人だね?」
「そうよ」
パパゲーナは満面の笑みで彼の言葉に応える。
「その通りよ」
「そうか、それなら」
「私達はずっと一緒よ」
「神様がおいら達の愛を祝ってくれて」
パパゲーノはもう上機嫌だった。
「私達に小さい子供達を授けれくれたら」
「そうだよな、それだけで」
「どんなに幸せか」
「はじめは」
まず言ったのはパパゲーノだった。
「小さなパパゲーノ」
「次は小さなパパゲーナ」
「そしてまた小さなパパゲーノ」
「また小さなパパゲーナ」
二人で手を取り合って笑顔で回りながら話す。
「パパゲーノ!」
「パパゲーナ!」
「パパゲーノ!」
「パパゲーナ!」
二人で話をしていく。すると二人の周りに大勢の彼等によく似た子供達が出て来てであった。二人を取り囲み一緒に踊りはじめた。
「家族で幸せに暮らせることも」
「この世で最も楽しいことの一つだから」
皆で笑顔で話していく。二人も明るい喜びを得たのだった。
そして最後にだ。モノスタトスの先導で夜の女王と侍女達がピラミッドの奥に向かっていた。そこであれこれ話をしていた。
「遂にあの男にやり返せる」
女王はその中で言うのだった。
「忌々しい。昼の世界などというものは」
「それでなのですが」
案内をするモノスタトスがここで女王に言う。
「成功したらお嬢さんは俺に」
「わかっています。仕方ありません」
女王は少し憮然としながら述べた。
「それは」
「わかりました。それじゃあ」
「しかし何か」
「光が迫る様な」
「その感じが」
女王の後ろにいる侍女達は不吉なものを感じる顔であった。
「します」
「女王様、ここは御気をつけて」
「どうか」
「わかっています。ザラストロめ」
扉の前に出た。女王はいよいよ意を決して言う。
「今度こそは」
「そう、御前達もだ」
ここでだった。ザラストロの声がしたのだった。
「昼を知るのだ」
「!?これは」
「この光は」
女王達が驚いたその時にだった。太陽の光が彼等を照らす。その光を受けた女王達は最初は唖然となっていたがすぐにだ。光の中で少しずつ恍惚とした顔になっていった。
そしてその顔でだ。それぞれ言うのであった。
「これが昼の世界・・・・・・」
「昼の世界が持っているもの」
「これが」
「昼だけでも駄目で夜だけでも駄目だ」
ザラストロが出て来て言う。そこにはタミーノとパミーナもいればパパゲーノとパパゲーナ、そして子供達もいた。僧侶達に兵士達、それに民衆もだ。誰もが集まっていた。
ザラストロはその中で妻達に対して静かに告げた。
「そなたも昼を知った。これからはだ」
「また一緒に」
「そうだ。どうだ?」
「貴方が夜を知り私が昼を知る」
女王も自分の前に来た彼を見詰めながら言う。
「世界はそうあるべきなのね」
「その通りだ。それではだ」
「ええ、また一緒に」
「モノスタトスよ」
ザラストロは彼にも声をかけた。侍女達は静かに女王の後ろに控えた。
「そなたにもやがて相応しい相手が見つかる」
「だといいですがね」
「月も一人では寂しいものだ」
そしてこうも言うのであった。
「そして一人では何にもならないからだ」
「それでは」
「悔い改め心を落ち着かせるのだ」
穏やかな声で彼に告げた。
「わかったな」
「はい、それでは」
「皆の者、讃えよう」
全てが終わったと見たザラストロは一同を見回して言う。部屋の中は太陽の輝きに照らされている。
「昼と夜が一つになったことを」
「はい、そして神々に」
「深く感謝を」
タミーノとパミーナも言う。
「勇気ある者達が勝利を収め」
「その報いとして美と叡智が永遠の冠を頂かせる」
「そしてそれをつかさどるのは愛」
ザラストロも厳かに言った。
「愛が全てを幸福にするのだ」
皆このことを心から感じ恍惚となっていた。今二つの愛が成就し昼と夜は元に戻った。誰もがこのことを心から喜んでいた。
魔笛 完
2010・2・25
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