最期の祈り(Fate/Zero)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
不可思議「修正」
前書き
お久しぶりですand更新が非常に遅れてすみませんでした!(土下座)事情はオイオイつぶやきの方で書かせて貰うとして……この話、タイトルは変わりませんが内容は大きく変わっています。取り敢えず、一週間後に前の話を削除させて頂きます。
シュヴァルツェア・レーゲン、セカンドシフト。その名に2を意味する語をつけ、改めシュヴァルツェア・レーゲン・ツバイと呼ぶ。特に捻った名は持ち合わせていないが、その性能は格段に向上している。
AIC、それはラウラの切り札であると同時に足枷でもあった。今まで、絶対の盾はラウラの機動力を根こそぎ奪っていた。そもそもが数年前ならドッキリ科学だった代物を実戦投入したのだ。個人が扱うどころか、IS ですら装備すれば他の武装が満足に装備出来ない。加えて集中力を割く上、重い。稼働中は完全に攻撃が封じられるだけでなく、展開中の移動は燃費が酷い。しかし、其れを全て解決したのがツバイだ。
システムとしてのAICを分散し、小型化し、自律可能なポッドに落としたのがツバイの新たな武器“None line as border ”略称NLAB。出力を弱めた結果、対象の運動エネルギーをゼロにする程の力を失った代わりに、シュヴァルツェア・レーゲンの機動力を大幅に取戻し、また自律式にしたのでそちらに集中力を割く必要も無くなった。つまり、ラウラ・ボーデヴィッヒが新たに手にした機体は、極めて攻撃的な防御を誇るものだった。
ザンと、唸りをあげながら、七機目の無人ISがプラズマブレードの錆びになる。腕を振り切った隙をつくように、背後からミサイルが向かって来るが、NLABによって被弾するまでの時間が一秒から数千秒後までの未来に引き延ばされる。しかし、その未来にラウラはおらず、無人機のカメラが捉えたのは自分に向かいくる悪鬼羅刹だった。
彼女の周囲をNLABが囲むように護衛する。その数、僅か6。頭数では到底敵には及ばない。しかし、それを覆し得るからこそのラウラ・ボーデヴィッヒだ。
「……起動」
ラウラの口から切り札を発動するためのキーワードが洩れる。瞬間、対峙していた無人機の動きが急激に遅くなった。そして……
「解除」
急に外部からの負荷が消えた為自身の力で地面に叩き付けられることになった。無人機の最大の強みは効率的な戦いだ。確かに確率の入る余地のない戦いは堅実的だ。文字通り実力通りの結果を出せるのだから。しかし、裏を返せば、それは自分より強い敵と相対すれば負けるしかないという不条理を含んでいる。その点で言えば、ラウラは限りなく相性が悪かった。
地に伏した自機に敵が鎌をもたげてやって来る……
――回避。――不可。自機、欠損。援軍を……
また一つ、ISのコアが破壊される。
数の暴力で押せばいいという話ではない。ラウラは常に一対一で戦えるように戦術を練っていた。たかが機械ごときに超えられる壁ではない。
腕を振るうたびに敵のパーツが飛び散る。一言、口を動かすだけで周囲の敵が倒れていく。肩に装備されたレールガンから凶弾が弾け出す。弾が生み出す軌跡を見る事無く、それの下を滑る様に並走し獲物を屠る。
正確な演算が可能な人工頭脳だからこそ解る。どうやっても、この敵には敵わないと。
足を蹴り払われると同時に、コアの部分にブレードが刺さり自身を炎の爆発に包み込んだ。
「これで……八体目か。切りがない……」
周囲を囲む炎の先に居るのは、残り12体の無人IS。経過時間は15分。一夏と鈴音が死力を尽くし改良前の敵を一体、漸く破壊した事を考えれば有り得ない戦果だが、白銀の少女は本気を出せない状況に忸怩たる思いを感じていた。
確かにラウラは全力を出しているが、本気を出していない。否、本気で戦えずにいた。
その身が背負うは彼女だけの命にあらず、片腕に衛宮切嗣の命をも背負っていた。……違うか。告白するなら、彼女は、衛宮切嗣を守るため戦っていた。
一度は殺すと決めた怨敵を。
笑うだろうか。誰かが聞いたら、笑うだろうか。今更何をと、軽蔑するだろうか。その矛盾に。偽善?改心?行為だけを見ればそれも頷ける。しかし、人は結果論では語れない。語れないからこそ、人間なのだ。
(何故、私はこいつの為に戦っている……?)
曖昧さ。分析して、それでも尚届かぬ答。それを抱いた瞬間に人間は人たる。ラウラは非情な人間でなければ、機械でもない。ただ少し、ほんの少しだけ気付くのが遅かっただけだ。
一瞬だけ飛来した答えは、追いすがるには早すぎて、実感はできても理解は出来なかった。だが事実として、彼女の機体はラウラの回答に答えてみせた。
(お前は、一体何を知っている、シュヴァルツェア・レーゲン?)
自身でも合理的だという自負があるくらい、彼女は合理的だ。負傷兵を抱えて戦うなど、少し前の自分が聞いたら一生の笑い種にしていた事だろう。怪我を悪化させないよう、速度も動きも制限される。その上で敵を倒すなど、馬鹿の諸行かラウラ程の天才にのみ許された領域だ。逆を言えば、それほどの技を潰す事である。
しかし、今はそんな無駄が嫌では無かった。誰かのために生きる、それは今まで見た事の無い未来のビジョン。そんな在り方に優しい息吹を感じ、それを火薬に変えて戦う。
「いける……私は……」
炎の中、敵を切り裂くその姿は限りなく鬼に近かった。だが、自ら肯定する。これで良いと。高らかに謳う。自分の力を。それは、まだ幼いながらも必死に生きてきた彼女が、初めて自分の力を肯定した瞬間だった。
未だに昂揚する自我を抱えながら、それでもラウラの頭は敵を倒すための策を冷徹に講じる。
(敵を倒すのに余計な思考回路は要らない。コイツが生きている事を確認するだけで充分だ)
切嗣を傷付けない程度に機体を加速させる。切嗣の怪我は予断を許さない。死に至ってもおかしくない程の血を流した結果、その身は冷たく冷えきっていた。心臓の鼓動だけが彼を感じる全てだった。傍目に見れば彼は死んでいる様に見える。だが、切嗣は生きていた。そこにどんなロジックが在るかは解らない。だが、事実としてその心臓は必死に体に血液を送っている。
彼の延命をするのに、ラウラはあまりに無力に過ぎた。簡単な止血を施す暇も無く、ただ無慈悲な刃から彼を守る事しか出来ない。
だが、十分だ。
「所詮、私に出来ることはたった一つしかない。なら、それをするだけの事だ……!」
その身を9機目に駆る。周囲を絶対の壁が遮り、シュヴァルツェア・レーゲンが真価を発揮する1対1にフィールドを創りあげる。
そう、1対1ならラウラは無敵だ。ならば、その先の展開に苦しむ。
天上の最強に仇なした赤いISはなんだ?
突如、横合いから紅いISがラウラを襲った。
「ちっ」
寸でのところで回避したが、それは畳み掛ける様にどす黒い剣を振るう。突然の襲撃、何者かという疑問はある。襲撃者はバイザーを着けていて、その正体を推し量るのは難しい。だが、倒すべき敵である、その事実があれば十分だ。
「今更、獲物が一匹増えたところで……」
――戦う――
それだけだ。迫り来る斬檄を紙一重で見切り、NLABで敵の態勢を崩す。が、其れを強引に引き戻した刃で牽制される。と同時に肩のポッドから誘導弾が発射された。
(旨い……)
其れをプラズマブレードで切り裂き、間合いを詰める。
「はあっ」
気合と共に手刀が振るわれる。が、絶妙なタイミングで躱され逆に蹴り飛ばされる。
「グッ」
黒い刃を振る謎の赤いIS。顔はバイザーに覆われ解らないが、1つわかる。旨いと。
技に繊細さは無い。寧ろ暴風の様な出鱈目さがある。しかし、それは隙がない。振り抜いた瞬間には、次の嵐が始まっている。
(何だ……?コイツは……)
不意打ちとは言え、ラウラが完全に防御に徹する程の腕。加えて、
「喰らえ!」
隙をついて横合いから無防備に接近してきた無人機を狙いすまして避け、そのまま紅いISに向けて蹴り跳ばす。出方によって、相手の力量を測る。接触を嫌い、避けるだけならば二流。避けながら向かって来るなら一流。
しかし、ソイツは無人機を躊躇いなく切り払った。瞬間、黒い刃は絶対防御を無視し、その上半身をもぎ取った。まるでバターを掬うように……アッサリ無人機を二つに分けた。
ゴトンと、地に倒れ臥したISが断末魔の音を鳴らす。
(間違い無い、やはり狂人の類いか……!)
馬鹿にハサミとは誰が考えたものか。あんな危険人物には、絶対に与えてはならない武器だった。
未だ残心する敵から距離をとり、一時的に休戦する。
(不味い……)
状況はイーブンから大きく揺らいでいた。不意打ちとはいえ、ラウラと拮抗する敵の登場。加えて周りを蠢く無人機の群れ。今にも死にそうな切嗣の状態。幾らラウラとはいえ、その全てを覆す事は叶わない。
――だからこそ、切嗣が打った最後の布石が意味を持つ――
「ラウラ!」
曇天の空から、懐かしい声が聞こえた。
シャルロット・デュノア。この闘いにおいて、唯一消耗していない戦力。アリーナの外を覆うエネルギーシールドを突破し、漸く振り切りここまで来たというわけだ。
「シャルル!無事だったか……」否、そうなるよう切嗣が状況を創り上げたのだ。
ラウラ・シャルロットというペアに、戦闘力どころか経験皆無な本音をタッグ相手に選んだのはこの為だ。……切嗣は布仏本音を弱いと信じてパートナーに選んだ。
そもそも今回の事件、切嗣はある程度予感のようなモノを覚えていた。ラウラやシャルロット、切嗣が必然的に消耗するこの一戦、学園に敵対する者なら利用しない筈が無い。敵対するものが意図的にこの状況を作ったのだとしたら、あまりに危険だ。ラウラの協力が得られない現状、切嗣の描いたベストなビジョンは「シャルロット、切嗣が戦闘可能な状態で不足の事態に対処」する事だ。その為、本音には逃げ回るよう指示をだした。無論、この事は誰も知らない。全ては切嗣の手の中にあった。勝っても負けても旨味が無いこの大会に、わざわざ切嗣が腐心した理由はこれだった。
彼に誤算があったとすれば、敵の襲撃が余りに予想を上回る規模だった事、現在切嗣が虫の息だという事実だ。だが、それはラウラの心境変化によって帳消しになった。当初、ラウラの協力が得られるなら切嗣がやられ役になる予定だった。実力的なモノを考えればソチラの方が効果的だ。現状はベストを上回る状況だと言っていい。
「き、切嗣!?」
足が千切れ蒼白になった顔を間近にし、シャルロットの声が上擦る。
「安心しろ、生きている。それより……シャルル?」
「あ、ああああああああ……」
しかし、どうもシャルロットの様子が尋常では無い。訝しげにラウラが声をかける。
――では、ここからは負債の話に移ろう――
切嗣が予想し得なかった4つ目の事柄。VTシステムがラファール・リヴァイヴ・カスタムIIに組み込まれていた事。
「ああああああ!?」
切嗣の最大の誤算が最悪の状況に生まれ変わった。
「シャルル!?」
「い、いや!」
突如として身体をヘドロのような物がラファール・リヴァイヴ・カスタムIIを覆いだした。VTシステムの本性は、過剰防衛だ。登場者の深層心理を感知し起動する。シャルロットは自分よりも切嗣を愛し、大切に想っている。
「助けて……」
ならば、VTシステムが起動する条件は満たされてしまったのは道理だ。泥に覆われるその身で、必死に手を伸ばす。頬を涙が伝うが、泥は彼女を包んでいく。
「クフ……」
謎の赤いISに乗る少女が初めて笑った。本当におかしそうに、ラウラが必死にシャルロットを引きずり出そうとするその姿を、嘲笑う。
「いや、あああああ……」
迷っている暇、選択肢は無かった。その泥が全身を覆い尽くす前に、プラズマブレードがリヴァイヴ・カスタムIIを解体せしめた。発動前に
結果、シャルルが敵に回るという最悪のケースだけは回避できた。だが回避した結果が、必ずしも良いものは無かった。シャルルは気を失い、戦力どころか護衛対象になる。
――限界だ。
彼女をしてそう思わざるを得なかった。幾ら彼女が反則じみた力をもっていようが、所詮は有限だ。全てを救う正義の味方にはなれない。だが、それでも
――この温もりは手放したくない。
頭の中で、五月蠅いまでに訴えかける自分が居た。生きることに喜びを見出した彼女だからこそ、その想いは尊く、切実だ。
「行け」
淡々と行動を移す。
――名誉ある死?尊い犠牲?違う!人の尊厳は、意義は、生に在る。
もう死に幾何ほどの救いも見出さず、生きることから逃げ出さない。そう誓った。
――戦え
NLABが対峙する真紅のISに高速で向かう。それを切り裂こうとした瞬間、
「爆破」
その身を代価に、NLABは爆風の中に敵を道連れにした。
「!?」
今まで余裕の体を崩さなかった敵が、初めて動揺を見せる。その瞬間に全てが決した。否、決するべくラウラが動いた。風を切り、音を超え秒を切り敵を凪ぐ。
「お前に、お前如きに――!!」
腕が捥げるほどの衝撃が襲う。が、敵はそれ以上のダメージを被っていた。
「スカーレッド……くそ!」
後に残ったのはバイザーを付けた女だけ。ISは解除されている。今なら赤子の手を捻る様に倒すことも出来る。が、ラウラはそれを選択しない。彼女に背を向けると、切嗣をシャルロットのそばに置き、再び周りを囲む敵と戦闘に入る。殺さないのではない。その必要が無いからだ。
――恐らく、敵の無人機には紅いISのパイロットを攻撃しないようにプログラミングされている筈だ。ならば、戦場の中に巻き込むだけで人質になる。
果たして、ラウラの予想通り敵の統制は崩れきっていた。実際には僅かな綻び。しかし、機械に綻びが出ること自体が異常なのだ。たった一つの綻びは滑り坂のように、さらに大きな過失を呼び、遂には残る機体を3とするまでの破滅を招いた。
「馬鹿な……」
時間にすれば僅か1分。その間に形勢は大きく傾いた。敢えて5を残したのは、例の女に対する牽制だ。切嗣等を人質に取ろうにも下手に動けば戦火に巻き込まれる。それが戒めとなり、彼女を束縛していた。だが、それだけでは無い。ラウラは地面に横たわる二人を完璧に守りながら戦い抜いたのだ。
「っ……スコール、後は任せた」
実力でも相手の方が上手だと判断したか、女は歯ぎしりを鳴らしながら後ろの方に逃げていく。
「スコール……」
代わりにその場に現れたのは、金髪の髪を靡かせ、天からラウラを睥睨するスコール・ミューゼットだった。
見上げる敵は、優雅に、酷薄に笑う。極上の獲物を前にしたような狩人様に……彼女のISは白と黒が入り乱れたカラーリングに、背中には何らかの装備が装着されていた。
一方のラウラは、どこまでも無感動に、無表情に、それを見上げる。
「お前が、この件の首謀者か」
疑問文でありながら、疑問符は付かない。仮にスコールが何と言おうがラウラの行動は変わらないから。
「要らない質問だったな。忘れろ」
つまらなさそうに告げる。それが戦いの狼煙になった。ラウラのレールガンが唸りをあげる。狙うは必中。
対するスコールは手にハンドガンを携える。切嗣を貫いた、絶対防御を無視する銃。それが火を吹きレールガンの威力を相殺、しなかった。レールガンから放たれた弾は、ハンドガンから放たれた弾に当たる前に爆発した。瞬間、世界を光が覆った。
「閃光弾……しまった」
懸念も束の間。如何なISといえども五感を攻撃されては手の打ちようが無い。全てが収斂した世界にあったのは……
「一瞬で残りのゴーレムを破壊とは……恐れ入ったわね」
ラウラの周囲にはコアが破壊された無人機が散乱していた。動力炉は前もって破壊していたとは言え、それは神業の領域に差し掛かる。
「何年これを触って来たと思っている」
事もなげに答えるラウラには、そこに感動は無い。彼女からしてみれば、動けないISなどただの的に過ぎない。構造を理解し、欠陥を把握し、それを弱点にもメリットにも変容する事が出来る彼女。ただの弱点を突くだけの作業に手間はさしてかからない。
「邪魔だ。消えろ」
敵を牽制する意味を失った瞬間から、ゴーレムはただのスクラップだ。残しておく意味は無い。
「いいわ……」
しかし、何が可笑しいかスコールは笑う。
――何が可笑しい?状況が完全にイーブンに戻されたのだ。何故笑う?
「その顔、何が可笑しいのかっていう顔ね。単純な話よ」
嬉しいのよ
「折角ゴーレムを大量に作ったのに収穫が無いとつまらないでしょ?それだけの事。織斑一夏もセシリア・オルコットも期待外れ。これでは織斑千冬と衛宮切嗣に期待するしかないと諦めていた。でも、貴方が地の底から這いあがってきてくれた。人形の殻を破り人間に昇華してくれた。これで漸くモチベーションが上がってきてくれたわ」
――つまり、最初から狙いは衛宮と教官だけか。
「私はおまけか?なら精々油断して足元を掬われろ」
「冗談。むしろ現時点での最重要人物よ。丁重に扱わないと。
……織斑千冬よりは持ち堪えてね」
――待て。今、何と言った?
「ああ。残念ながら貴女の好きな教官様はこの通り」
そう言うと、スコールは胸元から何かを取り出した。女の、髪だった。ラウラの見覚えのある、女の髪だった。
「ま、さか……」
「生身で良く善戦したわよ、彼女。最も、あくまで善戦だけど」
ハラハラと風の中に散っていく。
「教官……」
意図せず、暴力の様に在りし日の過去がよみがえる。幸せな思い出が、暴力の様にラウラを蝕む。
私は、お前の……
もう戻らない過去。もう実現しない未来。夢。理想。想い。
「き、さまあああああああああああああ!」
その全てが怒りに変わり、身を焦がしながら敵に矢を放つ。
風より早く、音より早く、その身を怒りが焼き尽くす前に、敵の喉元に手刀を叩き込む。周りをソニックムーヴが襲うが、それより早くラウラはスコールの前に立った。
「なっ」
「死ね」
銀の髪を振り乱し襲い掛かるは死神の様。少なくともスコールにはそう映った。
機体にプラズマブレードが突き刺さる。絶対防御が発動してスコール自身には影響が無いが、確かに機体にダメージを与えていた。
嫌な音を立てながらブレードが引き抜かれる。そこにはISの中核を担うコアが露出していた。
ここに勝負は決した。決したが……その結果は、あまりに不条理に過ぎた。
「馬鹿な……」
その驚愕もむべなるかな。銀の少女のISは解除されていた。彼女がプラズマブレードを引き抜いた、その瞬間に……
結果、ラウラは生身で敵の前に立つこととなった。
「驚いた?でも説明はしないわよ」
説明されるまでも無く、何が起こったかは大体推測できる。
――恐らく、あのISの能力は触れた対象がISなら問答無用でそれを解除するもの。情報ネットワークの干渉を応用すれば不可能ではない。不可能ではないが……
非常にデータが重い。それを搭載するだけで他の装備が申し訳程度のものに成らざるを得ない。
だからこその、あのハンドガンなのだろう。最小の威力で最大の効果を。
「グッ」
しかし、その目論見は成功してしまった。首を締め上げるように持ち上げられる。
「シュヴァルツェア・レーゲンは頂くとして、貴女には……」
ズブリと、その手がラウラの心臓を穿った。
「貴女には、暗闇を差し上げます。永久の闇の中で永遠に揺蕩いなさい」
**************
手を引き抜く。瞬間、少女の体から止めどなく血が溢れ出した。その赤に眉を顰める事無く、スコールは笑う。その関心は新たな獲物に向かっていた。
「衛宮、切嗣」
この計画の最大の目的は、切嗣のISだ。それに比べればラウラも千冬も前座だ。目を周囲に泳がす。幸いなことにアレの足は千切れている。仮に目を覚ましたとしても遠くには行ってはいまい。
そう高を括った瞬間、スコール・ミューゼットは吹き飛ばされた。
「かはっ!?」
一瞬意識が飛んだ後、次の瞬間には仰向けに空を仰いでいた。
「何が?」
身を起こし、最後に自分が居た所を見る。そして、彼女はあり得ない物を見ることになった。
「衛宮、切嗣!?どうして……」
そこには、五体満足でコンテンダーを構える暗殺者の姿があった。足は血に濡れ、コートは鮮血で染まっているが、確かに彼は立っていた。
太陽を背に、周囲の炎に身を焦がしながらもただずむその姿からは表情は見いだせなかった。いや、見出す必要が無かった。
「っ!」
反射的にハンドガンを彼に向けて放つ。絶対防御を無視して相手に傷を負わせる弾丸。それが切嗣に当たった瞬間、消し飛んだ。
怖い。
素直にそう思った。
怖い怖い。
あの顔が
怖い怖い怖い……
あの銃が
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
彼を取り巻く炎が、彼の後ろに在る太陽が。
全てが怖い怖い怖い怖い怖い怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖怖怖怖怖怖怖イ。
あの、男の後ろに居る白の聖母が怖い。
男は告げる。
「任意プログラム起動。ISシルバームーン。セカンドシフトに強制移行」
終焉の鐘を。
後書き
復帰そうそうすみませんが、少し期間をおいて投稿します。大学の期末テストが……ね。
ページ上へ戻る