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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~

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Chapter9「冗談もほどほどに」


「これからルドガーの服を買いに行こうと思う」

「………」

ああ、はやてという女の子と知り合ってから思う……何故彼女はこうも突拍子のない事を言い出すのかと。変わった人間やら人外を相手にするのは慣れてはいるが相手にするのは得意ではないし、得意にもなりたくはこの先毛頭ない。

ジュードみたくこめかみに指を当て冷静に考えれば何かわかるのではないかと思い試すが、何も出てはこなかった。

「何か反応せんか」

「…言いたい事はわかった……だがもう少し物の順序をだな……」

わざわざ館内放送での呼び出しで何かあったのではと心して部隊長室に入ってみればこれだ。
呆れてものも言えないかと思ったが意外と口が開く物だと自分に感心してしまう。

「部隊長っていう立場は忙しいんよー、せやからそんなんはもう省く省く!」

「そのお忙しい部隊長様はさっきの口調からしたら、俺の服を自ら買いに行くみたいな事を言ってなかったか?」

「そのとおりや。今日の昼から夕方までは私は非番とらなアカンのや」

「何でまた?」

仕事をしろというのはわかるが、休まなければならないとはどういう事だろう。
何か特殊な事情でもあるだろうか?

「いや~私、六課設立以前から一度も休み取ってなくてなー」

「は?」

「この前上に勤務表を報告書と一緒に送ったら、休みを取れって言われてもうたわぁ」

六課設立以前からって……単純に計算しても六課が立ち上がってからあと少しで1ヶ月は経とうとしている。そんな中で一度を休みを取っていない?どんだけワーカーホリックなんだよとむしろ尊敬したくなってくる。おまけに他の隊長達までこれを当たり前のように率先してやっているのだから。

「たまに休めよ……」

「そういうルドガーやって休みなんか取ってないやんか」

「俺はいいんだよ。俺はここで保護させてもらってる身だからな」

「良くあるか!シェフから聞いたで。休みを取れと言っても全く言う事聞かないからどうしようかわざわざ部隊長室まで相談に来よったわ」

言われて思いだす。確かにここ最近シェフから休みを取れと必要以上に言われているルドガーだが、何処か遠く見るような目で「念願の転職ですから」と話すせいでそれ以上シェフは何も言えなくなり目尻に涙を為て厨房から出ていっていた。おそらく部隊長室に向かっていたのだろう。

「ダメやないの。ルドガーは保護観察扱いでもここの食堂のコックでしかも前線メンバーに教導までやってるしもう立派な六課のスタッフやで」

「いやでもな……」

「デモもテロもあるか!と・に・か・く!今日は昼からルドガーは私とお出かけや!」

「だが断--」

「だが断るなんて言ったら今日からルドガーを無職にしたるからな」

「…………」


権力きたぁぁぁぁぁ!!

と踊り出したくなる有無を言わせないはやての言葉に黙って頷くしかないルドガー。
仕事を奪われるとなると従う以外他ない。

「二時間後に玄関前に集合や。逃げたりしたら…わかっとるな?」

盛大にため息を吐き拒否権なしの命令を受け取るルドガー。
こうしてルドガーは半ば強制休暇をはやてと共に取らされる羽目になったのだった。


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昼のシフトを終え、身だしなみを整えるとルドガーはいつもの服装で玄関前に立っていた。

「主を待っているのか?」

背後からただ者だと思えない太い声が聞こえそちらを振り替える。そこいたのはかなり大型の青い全身に白いたてがみを生やした犬……いや狼がルドガーを見ていた。

「まぁね。お前のご主人様は強引で大変だよザフィーラ」

狼が喋る時点で仰天物だがここでは当たり前のような事。この狼の名はザフィーラ。はやての守護騎士ヴォルケンリッターの一人盾の守護獣の2つ名を持つ共に、はやての大事な家族の一人でもある愛犬……いや愛狼だ。

「そこが主のいいところだ」

「危うく職を失う所だったよ」

「それはお前が悪い。それにお前は何だかんだ言っても最後は主の話に乗ったのではないか?」

「………」

突如ルドガーは身体に存在しない何かがコソばゆくなってくる感覚が感じられてきて、頬をかく。
ザフィーラからノミでも移ったのだろうか?

「……私にノミなど付いてはない」

「うぇ!?」

考えていた事を詠まれ変な声を出してしまう。

「…まぁいい、とにかく主の事は任せたぞ」

誰が見ても“漢”と思える後ろ姿を見せつけ、ザフィーラはその場を離れていく。素直にその姿を見てルドガーはかっこいいなと思ってしまっていた。

「ルドガー!」

そうこうしていると再び背後から名を呼ばれ、声が待ち人の物だと悟る。振り向いた先にははやてがいた。薄い緑の肩が露出したワンピースに黒のデニムの裾を脛より少し上に曲げ、靴は焦茶のショートブーツを履いていた。

「何か言う事あるんやないの?」

「そうだな……」

ルドガーに全身を見せつけるように一回りし飛びっきり笑顔を送る。それを見たルドガーは深く考えるようにはやてをジィーと見つめ、はやてははやてでその力強い眼差しに頬を朱に染めてしまう。はたから見たらリア充爆発しろな光景だ。まぁ……

「肩出てるけど肌寒くないか?」

ズルっ

そう何でも上手くいくものでもない。転けかけたが何とか態勢を立て直しはぁと何とも言えないため息を吐く。

(期待した私がアホやった……)

「どうかしたか?」

「ううん、何でもあらへんよスケベ大魔王」

報復代わりの呼称に先日の一件を思い出してしまい、再び某親善大使のセリフが出かけるが寸での所で踏み止まった。

「何かいつもこういうシチュエーションの時は私がルドガー待たせてんね」

「そうだな。まぁ約束の時間は過ぎてないんだし問題ないだろ?」

「なんや珍しく私に優しいなルドガー。まさかまた何かやらしいこと企んどるんか?」

先日の黒歴史を引っ張り出して水を得た魚のように指でわき腹を突きからかう気全開のはやて。だがルドガーもただ弄られ続ける気は毛頭ない。

「何だ?はやては俺にいやらしい事をしてほしいのか?」

「なな、乙女に何て事聞くんや!」

突いてくる手を両手で包み片手は触るか触らない程度で触れ擦る。その行為だけではやてがドキッとしているのが目にわかる。

「俺ならはやてに今までにないくらいの快感を与えらるれると思うぞ?」

「な、なな…」

完全に話の流れを掌握し普段では決してみられないはやての姿を見てルドガーの目は完全に面白いおもちゃを見つけた目となっている。そして更に顔をはやての顔に近付け首筋に息を当てる。

「っふゅ!?」

「これくらいで動揺してるのか?ダメだなはやては、まだまだお子様なんだな」

今ルドガーは以前ミュゼに自分がやられた事と彼女のからかいを逆に返し逆手に取った方法をそのままはやてに使っている。物は試しでやってみたが想像以上に効果が出ている。

「はやてはまず何処を見てもらいたいんだ?」

ミュゼになりきり、言葉も彼女に近い発言を続け、確実にはやてを追い詰める。

「ふみゃ!」

「ここか?こっち?それとも……」

舐め回すようにはやてを下から上へとゆっくりと見続ける。かなり自分でもらしくない事をしているのはわかっているが、意外と相手の狼狽している姿を見ていると楽しい。あの普段人をからかうはやてがこうなるとは……案外ストレートにやられるのは彼女も慣れていないのかもしれない。
ミュゼもこの何とも言えない高揚感を感じる事が楽しかったのだと理解できる。だが流石にやり過ぎたと思い、そろそろ冗談だと言って切り上げようとする事にする。

だが……

「オラっ!!」

「ぐおっ!?」

左側頭部に凄まじい衝撃が襲い、玄関から地面に当たり何度かバウンド、6メートルほどふっ飛ばされ、最後は地面にキスをした状態で倒れる。

「る、ルド」

「テメエ今はやてにエロい事してただろっルドガー!!」

目の前の惨事に、その惨事にあった男を心配するはやてだが乱入者の怒号によりその声は完全にかき消されてしまう。ルドガーをふっ飛ばした張本人---ヴィータは並の者が腰を抜かすほどの殺気をギンギン放ち、右手にあるグラーフアイゼンからは熱気がたぎるように溢れ出ていた。どうやらアイゼンでルドガーを殴ったようだ。だがそれだけでは怒りが収まらないのか、ツカツカと倒れているルドガーの下まで行き、胸ぐらを掴む。

「昼寝してんじゃねぇ!!」

「ぶほっ!?」

ヴィータの小さい手で往復ビンタに気絶?していたルドガーは強制的に覚醒させられる。絵的には低学年の小学生に大人がカツアゲしている光景なので事情をしらない者がみれば学芸会の演劇にも見えなくはない。などと思っていたはやてはヴィータがルドガーの顔面を殴った効果音で現実に戻りヴィータを止めにかかる。

「は、離せよはやて!こいつははやてにエエ、エロい事しようとしてたんだろっ!!」

暴れるヴィータを必死に羽交い締めで押さえるが、力が弱い彼女ではいつ突破されるかわからない。念話でシグナムとフェイトを呼び出し至急ここに来るよう告げ事態の収拾させようと働く。

(調子に乗りすぎたな……)
地べたに座りながら羽交い締めにされているヴィータを見て自分が調子に乗りすぎた事に気付き反省するルドガー。とにかく謝る事にする。

「わ、悪かった!今やってたのはちょっとした悪ふざけでさ、な?はやて?」

「へ?あ、あーそうやそうや!もう私達2人の冗談やったんよー、アハハハ……?」

被害者と思われているはやてが加害者と思われているルドガーの言い分を肯定すればヴィータも納得するのではと考え、はやてもルドガーの策に気付き乗る事にした。いつもならヴィータを軽く止めルドガーを弄る事をしていたが、今日は不覚にもルドガーの演技に惑わされた為いつもと同じ事はできないのでルドガーを擁護する。

しかし……

「うおぉぉぉぉ!!このケダモノ野郎ぉぉぉぉ!!」

はやての事になると周りが見えなくなるヴィータには今彼女が話した事など耳に入るはずもなくひたすら暴れ続けていた。

その後この珍騒動は駆け付けたシグナム、フェイト、偶然居合わせたシャマルによって沈静化させる事に成功した。シャマルのリンカーコアへの直接攻撃で半日は目を覚まさないという術者自身の説明を聞き、何とも申し訳なさそうな表情と心情でルドガーとはやてはクラナガンの街へと向かったのであった。
 
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