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蒼碧の双銃剣舞~紅姫と幻視の魔王~

作者:夜叉猫
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chargeⅠ:宵の双銃剣舞[前編]




──傀儡眼(かいらいがん)。
俺こと紫桜七音の祖母にあたる家系が代々継承している魔性の瞳の名称だが、あくまでもそう呼んでるだけで正式な名称は不明。
この力は俗に言う『魔眼』の変異種らしく、本来の魔眼とは異なる能力を有する。
北欧では本来、魔眼とは魔女が持つことが多いとされ、目を合わせた者を不幸にするらしい。
しかし、俺の死んだ婆ちゃんが魔女だと言う確証はなく、現在に至るまでその証拠は見つかっていない。
まぁ、俺の血族に課せられた一種の呪いのようなものと思ってもらってもいい。
その効果と言うのが目を合わせた者に強烈な暗示のようなものを仕掛け、数秒の間、あるはずもない幻覚を見せ、操ると言うシンプルなもの。
だけどシンプルなだけにある程度条件が合わないと使えないのが困るし、使うと物凄く体力と精神を消費する。
同じ人にもう1度使うには48時間以上の猶予が必要で、さらには対象1人に対して1日1回が上限。
もしもそれを超えると、強烈なリバウンドのせいで俺はこの世で一番惨い死に方をする羽目になるだろう。
……それだけはマジで勘弁だぜ。
生まれつき持ったこのじゃじゃ馬な目のせいでどれだけ大変な思いをしたか。
思いきりつぶしてやろうかと、幾度となく思ったぐらいだ。

「七音ぉ?今日の依頼(しごと)って4時からでしょ?大丈夫なの?」
「あぁ。あそこで半日分の体力と精神力を消費したのが痛いが……。まぁ何とかなるだろう」
「仕方なかったもんね?ってか、夕飯いつ食べるの?お腹空いた」
「燃費悪い野郎だな、お前は?……そう言えばさっき『ほこべん』のしょうが焼き弁当の特盛、2人分食べたばかりだろ!」
「そんなこと言ったってこればかりは仕方ないんだもん!能力を維持するにカロリーを摂取しなきゃ、使いたいときに使えなくなっちゃうんだよ」

──アリアから逃げた後、俺たちは依頼を遂行するため、新宿の歌舞伎町に来ていた。
ブス~っ、と可愛らしく頬を膨らます一哉。
その可愛さと言ったら女の子の比じゃない。
……女の子と比べるのは間違ってるような気がするのは俺様だけか?
一哉の言う『能力』と言うのは、彼が生まれつき持つ異能のことだ。
こいつも俺と同じ、巷ではあまり知られていない異能力者(イレギュラー)の1人。
ま、説明するより見た方が早いんだけど。
そう思いながら知り合いから譲ってもらった漆黒のNISSANスカイラインGT-R3600の運転席に収まり、さっき買ったマールボロのブラックメンソールを箱から一本取り出し、口にくわえてターボライターで火を着ける。
助手席に乗る一哉は相当腹が減ったのか、ご機嫌ななめの模様。
だってさっき『ほこべん』の特盛、だいたい並盛の2倍の量の弁当を2人分食べたんだぞ?
それで腹が減ったって、こっちからしてみればふざけた話だ。
正直、ただでさえ稼ぎが少ないから食費だって切り詰めて生活してるんだからな。
報酬金(きゅうりょう)が安定しないのが、この武偵(しょくぎょう)の痛いところだ。

「七音ぉ、お腹空いたぁ」
「知るか。依頼を完了するまで待ってくれ。夕飯はそれからだ」
「うー、夕飯が朝飯になっちゃうよぉ」
「どこぞのサバイバル伝説だよ?つーかそんなに時間は掛からん。目標(ホシ)を取っ捕まえればそれで終わりだ」
「誰かぁ~~。あんパンでも良いから差し入れてくれぇ~~。お腹が空きすぎて死にそうだよぉ」

ぐったりと前に頭を垂れる一哉。
張り込みと言うこともあり、迂闊にここから離れるわけには行かない。
ここは辛抱あるのみ。
心でそう呟いたその時。
コンコンと運転席の窓を叩く音がした。
なんだよこんなときに。
ゆっくりと窓を開けるとそこには──。

「よっ!!やっぱ見たことある車だと思ったら七音じゃん!!3日も学校サボった挙げ句、こんなところでなにしてんのさ?」

窓から覗かせた可愛いらしい笑顔。
アッシュグレーのサイドアップポニーテールに長い睫毛、透き通る琥珀色の瞳。
男を誘惑する動く度に揺れるほど大きな胸、すらりとした脚線美が綺麗な脚。
武偵高の臙脂色のセーラー服を着、ミニスカをギリギリまでたくし上げている。
どんだけパンツ見せたいんだよ。
身長も俺とさほど変わらず、もはや雑誌の表紙を飾るモデルみたいだ。
彼女の名前は青野 雲雀(あおの ひばり)。
俺たちが1年生の頃からずっとつるんでる女の子だ。
俺と同じ強襲科に所属するとても元気な女の子で、最近ではそのセクシーなスタイルが話題を呼んで人気急上昇中のクラスメート。
初めて会ったときは、顔を見るなり口喧嘩していたぐらいだったが、今ではちょっと落ち着いて、友達のような良好な関係を保っている。
何度か一緒に依頼をこなしているが、常に前線で敵を引き付けたり、単騎で敵陣へ乗り込んだりと男勝りで勇敢な所がある。
しかし、自分の実力を把握していないようでいつも危険な目に遭う。
3日とは言え、今年に入ってからまったく喋ったことがなかったので、あっちから話し掛けてくれるなんて正直ちょっと嬉しい。

「うるせぇ。3日も費やして仕事の段取りをしてたんだ。今もうすでに仕事中だっつーの」
「マジで?ごめん、邪魔して。実はオニギリ作ったから差し入れに来ただけなんだ。みんなで食べようよ?」
「──ハッ、差し入れ!?待ってましたぁああああ!!」
「え?カズっち!?あんたもいたのか!?」
「あぁ。腹ペコで元気がなかっただけだ。気づかないのもムリねぇよ」

いきなり元気になる一哉を見て、俺は呆れながら言う。
助手席を開け、無理やり一哉を下ろすと、座椅子を上げて後部席に乗り込んで座る雲雀。
相変わらず図々しいヤツだな。
そして座席に座るな否や、持っていたビニール袋から特大のオニギリを取り出す。
……これ、オニギリっていうのか?
笹蒲やら明太子やらソーセージやら色んな物が、直径15センチあろうかという特大オニギリを包む海苔を突き破って飛び出してるんだが。
たっ、食べる気が失せていく。

「はい!七音の分!」
「あ、はぁ、ありがとう……」
「どうしたの?嫌いなものでも入ってた?」
「ん?いや、その……な、中身が見えるオニギリってのも珍しいなぁと思っただけだ。べ、別に深い意味はないから気にすんな」
「そっかそっか。んじゃ一口で全部食べてね♪残したら『投げっぱなしジャーマンの刑』だから♪」

な……に……をっ!?
直径15センチもある特大オニギリを一口で丸飲みにしろと!?
無理無理無理無理無理無理っ!!
蛇でもねぇ限りこんな大きなの丸飲みに出来るわけねぇだろ!!
挙げ句、食べれなきゃ投げっぱなしジャーマンって。
どんな罰ゲームだよ!!

「ぅんめぇ~~♪」
「そう?そう言って貰えて嬉しいよカズっち♪なでなで♪」
「うん♪ねぇ?おかわりはあるの?」
「おかわり!?カズ、おま」
「あるよ!そう言ってくれると思ってたくさん作ってきたんだ!七音も食べるよね?」

煽るなバカ野郎っ!!
これ1つで充分だっつーの!!
殺す気か!?
お前、俺を殺す気か!?
なんて内心、毒づきながら。

「わ、悪い。俺は1個で足りる」
「そっか。んじゃ仕方ないね。無理に食べさせて吐かれちゃこっちも困るから。七音の分もカズっちが食べる?」
「うん♪食べる♪」
「カズ……お前の胃袋は底無しか?」
「ん?多分そうかもしれない」

認めた!?
まさかの肯定ですかカズ?
そんな俺を尻目に黙々と食い始めた。
拍子抜けして突っ込めない俺。
一体どこまでボケ続ける気だ、お前ら?
突っ込む俺の身にもなれ。
変に疲れるわ。
と内心呟きながら、吸い終わった煙草の日を消し、特大オニギリにかじりつく。

「……うまっ!?」

あまりの美味しさに小声で驚いた俺。
見た目によらず美味いなこれ。
これで不味かったら最悪だよな。
そう言えば張り込んでいるのを忘れるところだった。
オニギリを片手に、手前にあるビルの入口に視線を向ける。
今回の依頼は人探し、だ。
今からちょうど5日ぐらい前、仕事を終えた俺たちのところへ1組の夫婦が現れた。
彼らいわく『家出をした娘を探して欲しい』と言う。
詳しく話を聞くと……。
ちょっとしたことで父親と口論になった娘さんは、家出をしたっきり一度も帰ってきてないらしい。
しばらくすれば帰ってくると思っていたが、さすがに心配になった彼らは警察に捜索願いを提出するも、それから1ヶ月以上経っても音沙汰がないと言う。
痺れを切らした彼らは、たまたま巷で有名になりつつある俺たちに頼み込むことにしたそうだ。
2日間の話し合いの結果、彼らの依頼を正式に受理した俺たちは、彼女の所在を掴むため、3日3晩寝ずに調査をし続け、学校をフケる羽目になった。
で、ようやく所在を掴んだ俺たちはこうして張り込みを続けているわけだ。
親切心から始まったこの依頼だが、調査に使ってくださいと夫婦が報酬金の他に前金で10万円を口座に振り込んでくれたが、俺たちはそれを受け取らずに返した。
何がともあれ、信頼してくれている彼らを裏切るわけにはいかない。

「ねぇねぇ?今回の依頼はどんなの?雲雀にも教えてよ?暇だから手伝ってあげる」
「いいよ。せっかくの休日なんだから満喫しとけ。もったいないぜ?」
「いーじゃん!!久しぶりに3人揃ったんだから!!雲雀も交ぜてよぉ」
「ねぇ七音?雲雀ちゃんもいれてあげなよ?仲間外れは可哀想だって」
「……まったくうるせぇな。好きにしろ。もしも俺の足引っ張ったら、直ぐにでも任務から下ろすからな」

めんどくさそうに言う俺に、ハイタッチを交わす一哉と雲雀。
雲雀に内容を教えるため、資料が綴られたファイルを出したちょうどその時、入口のシャッターが開き、中から黒光りする高級車メルセデス・ベンツが姿を現す。
その助手席に、資料に貼られた娘さんの写真同じ人物が乗っていたのを俺は見逃さなかった。
 
 

 
後書き
大変お待たせいたしました!
第2話『宵の双銃剣舞』はあまりにも長すぎるので、2部または3部構成でお送り致します!
今回の話は如何だったでしょうか?
オリジナルの用語が多数出てきていますが、その解説は次回の後書きで♪
それでは感想をお願いいたします!
 
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