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暗殺者の誇り

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第一章

                暗殺者の誇り
 ニコラ=プリマッティはマフィアの一員だ、ニューヨークのその世界では凄腕の殺し屋として知られている。
 指定されたターゲットは決して逃さない、その銃の腕は百発百中だ。
 だからファミリーのドンであるパオロ=ファンティーノからも信頼が深かった。それでここぞという時には彼に仕事を依頼していた。
 その仕事をしくじったことはない、だがだった。
 ファンティーノは今回も仕事をしてくれたプリマッティに対してこう言ったのだった。
「今回も殺ったのはターゲットだけだな」
「はい」
「殺し方は狙撃のみだな」
「それが俺のやり方ですから」
 黒い髪をオールバックにしている、ラテン系の顔の黒い目の光は鋭い。そしてまさにマフィアの高価だが黒い独特のスーツ姿でドンに返す、ドンも恰幅がよく如何にもマフィアのドンとして相応しい外見と服装だ。
「ですから」
「ライフルでだな」
「はい、そうです」
「毒は使わないか」
「毒については知らないので」
 だからだというのだ。
「そっちは使いません」
「そうか、爆弾はどうだ」
「あれは嫌いです」
 その鋭利な、ラテン系だが明るさはなく冷徹さが見られる顔で答える。
「ああしたものは」
「どうしてだ?テロリストみたいだからか」
「そういうところです」
 だからだというのだ。
「俺は爆弾は嫌いです」
「まあな、マフィアはテロリストと違う」
「はい」
「あの連中はすぐに政治とか言う、そこには儲けとかはないからな」
 それがないからだというのだ。
「マフィアは儲けないといけない、賭場にしろ麻薬にしろな」
「テロリストはただ壊すだけですから」
「俺達は社会が必要だ、しかしあの連中はその社会を必要とは考えない」
「その社会を壊したいだけですね」
「俺達は狂っているとやっていけない、だが連中は狂っていないとやっていけない」
「そこが俺達と奴等の違いですね」
 マフィアとテロリスト、共に犯罪を犯す者達だがそこで全く違っているというのだ。
「それに俺達はカタギは襲わないですから」
「利用することはあってもな」
 麻薬や売春でだ、彼等にしても一般市民はそうした意味で必要なのだ。裏社会で儲けるにもだ。
「それでもな」
「お客さんを殺す奴はいませんね」
「そういうことだな、だから爆弾もか」
「獲物を殺せますが周りも巻き込みます」
「それでだな」
「それはテロリストですから」
 またこう言うプリマッティだった。
「そういうことはしません」
「わかった、じゃあそれでいけ」
「これまで通りですね」
「俺としては消したい奴さえ消せればいいがな」
 これがドンの基本的な考えだ、だがそれでもだというのだ。
「御前のやり方には何も言わないからな」
「そうしてくれますか」
「ああ、御前が確実に殺せるならそれでいけ」
「わかりました、では次の仕事も」
「頼んだからな」
はい」
 こう話すのだった、そしてだった。
 プリマッティはドンに言われた仕事をしていった、その中で。
 ある仕事の時だ、彼はドンからマフィアと癒着していたが今は手を切り彼等の情報を警察にリークしようとしている市会議員の暗殺を依頼された。
 彼は早速議員の身辺に張り付いた、そのうえでライフルを手に隙を窺いだした。
 その彼にだ、彼の身辺の雑事を担当するファミリーの新入りジュゼッペ=アルカーノが問うた。
「もうすぐ獲物が来ると思いますが」
「そうだな」
 プリマッティは部屋の中にいた、カーテンで隠した窓から獲物を待ち受けている、既にその手にはライフルがあり構えている。 
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