愛らしい乙女よ
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第二章
「それじゃあな」
「お互いにかみさん見せ合おうな」
「じゃあいいな」
「一二の三でな」
こう話してそしてだった。
お互いにスマートフォンの写真を見せる、するとそこにいるのは。
どっちも麗しい女子高生だ。制服は二十五年位前の今ではややデザインが古い、どちらもそうであるブレザーだ。
その写真をそれぞれ見てそしてまたお互いに言い合った。
「おいおい、娘さんか?」
「そっちこそ何だよ」
「それ御前の娘さんだろ」
「御前こそなんだよ、その娘は」
「かみさんの若い頃だよ」
「こっちもだよ」
何と二人共そうだった。
「だってな、昔から変わらないからな」
「こっちもだよ」
それでだというのだ。
「これでいいんだよ」
「それならこっちもだよ」
「幾ら何でもそれはないだろ。女子高生から同じなのは」
「その言葉そっくり返すよ」
二人でそれぞれ言い合う、まさにどっちもどっちだった。
それでこれまたお互いに言い合う、今度は苦笑いでだった。
「お互いそうっていうのは」
「かみさん好きだってことだよな」
「というか今でも最愛の相手だよ」
「こっちもだよ」
二人共今度は愛妻度の勝負に入った。
「俺もすっかり髪の毛が薄くなったけれどな」
「こっちは太ったよ」
二人共見事に中年である、中年にもなればまず外見がそうなってしまう、続いて成人病の恐怖が襲ってくる。
「高血圧に糖尿病な」
「痛風とかな」
「けれどかみさんは変わらないな」
「魔女みたいにな」
所謂美魔女である。
「だから大好きなんだよ」
「こっちだよ」
二人で話す、そうしてお互いの妻のことを話すのだった。
やがて帰る時間になり店を出た、匠が自宅に帰ると。
パックをしたパジャマの中年の女が顔を向けて来た、髪型はパーカーをしているせいかある国民漫画の海の幸の名前をした奥さんに似ている。
その一目で中年とわかる人がこう言ってきたのだ。
「お帰り。御飯食べてきたでしょ」
「飲んでな」
「あの娘達がそう言って全部食べちゃったわよ」
「ああ、そうか}
「二人共育ち盛りだからね」
それで全部食べたというのだ、父親の分まで。
「お風呂あるから入ってね」
「俺が最後か」
「最後だから洗っててね」
実に素っ気なく言う、そのパックの顔で。
「そうしてね」
「ああ、わかったよ」
匠は妻のその言葉に頷く、そして自分で服を脱ぎ風呂の湯船に浸かってからしみじみとした顔でこんなことを言ったのだった。
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