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レッスン

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第四章

「向上心は、ですが」
「それでもですか」
「そういえば神父様は先程今は、と仰いましたね」
 オーナーはこのことを指摘した。
「そうでしたね」
「はい、確かに」
「といいますと今後は」
「向上心はいいのです」
 この感情はいいというのだ。
「それは人を引き上げるものです、それであるうちは」
「けれどそこに、ですね」
「嫉妬やそうしたものが入りますと」
 何処でもあるものだ、他者にそうした感情を抱くということは。そしてそれがここで入ってしまえばというのである。
「ここにいる生霊達がそうした感情に支配されますと」
「ここはそれこそ悪霊のハウスになる」
「そういうことですか」
「そうです」
 神父はこう答えた。
「その危険があります」
「ではどうすれば」
「まずここに聖書を置いて下さい」
 言うまでもなくキリスト教の聖典である、これだけであらゆる魔を払うとされている。
「そして十字架も」
「よからぬ連中をそれで、ですか」
「清めますか」
「塩と松脂もあるといいでしょう」
 こちらもだった、こういったものもよからぬものを清めるものだ。
「そして聖水も」
「色々ですね」
「どうもこの教室は人の念が集まりやすい場所なので」
 だからだというのだ。
「用心されて下さい」
「この教室はそうだったのですか」
「人の念が集まりやすい場所だったのですか」
「はい、そうです」
 その通りだとだ、神父は二人に答えた。
「レッスンをする為上達したい、よりよくなりたいという念が多いせいもありますが」
 それにだというのだ。
「元々この場所がです」
「そうした場所だからですか」
「ここは」
「はい、気をつけて下さい」
 そうして細心の注意を払ってだというのだ。
「悪霊が来ない様にして下さい」
「はい、それじゃあ」
「今は」
 こう話してそしてだった。
 二人は神父に言われるまま教室に聖書や十字架、それに塩や松脂を置いた。生徒達が気付かない場所にだ。
 そうして結界の様なものを作った、するとだった。
 生徒達がだ、こう話したのだった。
「何か綺麗になった感じがしないか?」
「ああ、そうだよな」
「教室全体の空気がな」
「そんな感じだな」 
 こう話すのだった、教室の中で。
「これまでと大して変わらない筈なのにな」
「空気が違ってきたか?」
「澄み切った感じになって」
「よくなったな」
「今まで以上に」
 空気が変わった感じがして、それでだった。
「レッスンにも身が入るな」
「ああ、純粋に向上心が湧くな」
「今以上に頑張ろうってな」
「そう思えるな」
 こう話すのだった、彼等は。
 そのうえで実際にレッスンに励む、彼等はその理由を知らない。
 だがコーチはだ、オーナーの部屋でそのオーナーに言うのだった。
「神父様が仰る様にしてからです」
「教室の用意がさらによくなったか」
「はい、なりました」
 現場にいる人間としての言葉だ。
「今まで以上に」
「そうか、じゃあやっぱりあの教室は」
「人の念が集まりやすい場所で」
「しかも人が多くいる様になったからか」
「本当に今の様にしなければ」 
 それでどうなっていたかというと、コーチは自分の口から話した。
「悪霊も集まっていましたね」
「大変なことになっていたか」
「そう思います」
 実際にだというのだ。
「最初の幽霊話は場所のせいでしたが」
「元々念が集まりやすかったせいだな」
「はい、それで」
 それに加えてだった。
「評判になって皆来ましたから」
「そのせいで余計にだったな」
「そうなりますね、神父様のお話を聞かないと」
「ああ、しかし悪いことになる前にことを済ませられてよかったな」
 オーナーはこのことにほっとなった顔を見せた。
「本当にな」
「そうですね、俺もそう思います」
「悪霊が来てからじゃ厄介だからな」
 そうなればだというのだ。
「済ませられてよかった」
「ですね、じゃあこれからも」
「ああ、教室をやっていこう」
「綺麗に」
 こう二人で話してだった、彼等は教室に十字架等を置いたうえで続けたのだった。場所によってはそうした用心も必要ということを身に滲みて理解したうえで。


レッスン   完


                      2013・5・31 
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