この世を最も笑わせるもの
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第一章
この世を最も笑わせるもの
今フィンランドの首都ヘルシンキではこの国恒例の変わった大会が行われていた、その大会はどういったものかというと。
『この世界を最も笑わせる芸を出した人が優勝となる大会』
こういう大会だった、主催者は言う。とある大企業のオーナーであるシモ=サルヤネンである。恰幅のいい大男だ。
「最近暗いからね」
「天気じゃなくてですね」
「世間がですね」
「うん、そっちだよ」
フィンランドは北の国だ、従って雪が多い。
空はいつも暗い、だから天気の話ではなかった。
「だからここは笑いが欲しいと思ってね」
「それで笑いですか」
「それなんですね」
「そう、それだよ」
まさにそれだというのだ。
「お笑いでも何でもいい、一番皆を笑わせた人が優勝だよ」
「よし、じゃあそれをですね」
「やるんですね」
「優勝者には賞金が出るよ」
大会には懸賞が出る、当然のことだ。
「他にも様々な景品を用意してあるよ」
「じゃあそれを手に入れる為にも」
「頑張りますね」
「とにかく笑いだよ」
サルヤネンは言う。
「笑いが大事だからね」
「わかりました」
こうしてだった、そのお笑い大会がはじまった。
フィンランドとそのパートナーと言っていいスウェーデン、そして新たに親密な関係になっているエストニアからも人が来る。フィンランド人達は笑顔でやって来たエストニアの芸人達を見てくすくすと笑いながら言った。
「またエストニア人が優勝かな」
「こういう大会にはいつも参加するからね」
「それで優勝するから」
「またかな」
「そうじゃないの?」
親密な空気の中でこんな予想も出た、そして。
実際に大会がはじまる。漫才師に大道芸人に。
道化師やマリオネット師まで芸を出す、喜劇役者が芝居を見せてコメディアンもとっておきの芸を見せる。
「ええ毎度毎度馬鹿馬鹿しい」
「頼むでしかし!」
「そらすきっと爽やかなコーラやないか!」
「フォーーーーーー!」
様々な芸が出される、皆大会に出るだけあってかなり面白い。皆それを見て腹を抱える。
「いやあ、面白いな」
「日本の漫才師まで来てるし」
「っていうか向こうのお笑い事務所が全面協力してるしね」
「というか日本ってお笑いもあるんだ」
「ただ戦いに強いだけじゃないんだ」
「アホちゃいまんねん」
今も一人のお笑い芸人が芸を見せている、日本の有名な芸人だ。
「知っとるけ?」
「あはは、日本の芸人さんも面白いね」
「言葉はわからないけれどね」
「こっちの政治家の物真似もあるし」
「いや、フィンランドにスウェーデンにエストニアにね」
「日本もって国際色も豊かだし」
「面白いよ、本当に」
会場になっているホールで皆笑い転げている。テレビやネットでも実況されお茶の間やパソコンの前でも笑いがあった。
だが優勝者はというと、これがだった。
「ううん、皆面白いけれど」
「優勝はねえ」
「この世界を最も笑わせるってね」
「これそうそうないよ」
「かなり難しいよ」
皆このことも言う、主催者のサルヤネンもだ。
採点者、彼も参加しているその席で笑いながらもこう言った。
「何か違うね」
「違うんですか?」
「こうしたお笑いじゃないんですか」
「いや、皆面白いよ」
彼自身もこう言う。
「凄くね、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「もっと、こうね」
サルヤネンは今の芸も見ている、今度は物真似だ。
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