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メフィストーフェレ

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第一幕その三


第一幕その三

 若い娘達も飲みながら踊っている。そうして人生を謳歌している。
「柔らかい四月の光」
「この輝きの中で」
「若さと艶やかさを楽しみましょう」
「そうさ、飲もう」
「是非共」
 若者達が彼女達に話す。
「皆で飲もう」
「明るく楽しく」
「やあ、楽しんでるな」
「では我々もだ」
「楽しませてもらう」
 兵士達と老人達も店の中に入って来た。そうして早速飲みはじめる。
「まずは飲んで騒いで」
「さあ、お坊さん達も来たぞ」
「飲もう飲もう」
 今度は修道僧達も来た。彼等も明るく飲むのであった、
「皆で」
「ビールを愛そう」
「酒とは何か」
 ここで言うその修道僧達であった。
「それは全てである」
「人生の喜びである」
「神はそれを飲むことを許されました」
 そう言ってそのビールを飲む。あらためてである。
 その店の外に二人の男が通り掛かった。一人は長い白い髭を生やした老人である。背は高く背筋も伸びているが老いは隠せない。学者の黒い服を着ている。その横にいるのはいささか小柄で白い服を着ている。白い服の男の方が二十歳程若い感じである。
 その彼等がだ。酒場の賑わいを聞きながら話をしていた。
「いいものだな」
「そうですね」
 白い服の男が老人の言葉に微笑みと共に応える。
「とても」
「全くだ。私もだ」
「どうされました、ファウスト博士」
「この甘美な春の光に氷は崩れ」
 まずはこう前置きをするファウストだった。
「既に希望豊かに谷には緑があるが」
「はい」
「冬は山の中に去りそれに代わりたい洋画自然の姿と彩りを明るくし活気付けている」
 こう語っていく。
「木々の花々はまだ蕾みを見せていなくとも」
「それでもですか」
「そうだ、それでもだ」
 ファウストの言葉は続く。
「至高の光が祭日に寄せて着飾った街の人々を誘い出し花と戯れさせている」
「若さですね」
「私にはもうないものだ」
 ファウストはここまで話して寂しい顔になった。
「最早な」
「しかし博士」
「何だワグナル君」
 ワグナルが彼に憂いのある顔で言ってきた。
「博士と共にいるのは私にとって光栄ですが」
「私はただの老人だが」
「私にとっては永遠の師です」
 そうだというのである。
「その博士とこうして歩けるのは素晴らしいです」
「ではこのまま共に歩いていくのか」
「ですが」
 しかしここでさらに話してきたワグナルだった。
「それでもです」
「それでも?」
「私は人ごみは苦手でして」
「では去るというのだな」
「できればここは」
 まさにそうだというのである。
「是非共」
「わかった」
 それを聞いて静かに頷くファウストだった。
「それではだ」
「はい、それでは」
 こうして二人はその場を去った。その酒場の中からまた賑やかな声が聞こえてきた。
「さあ飲もう」
「そうだな。どんどん飲もう」
「楽しもう」
 こう言ってであった。さらに飲んでいく彼等だった。
 
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