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『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』

作者:零戦
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第二十八話

 
前書き
この部分はいるか悩みましたが、テュカのトラウマフラグをしないといけませんから書きました。 

 





「ディアボが重傷だと?」

「は、はい。あの攻撃で皇宮の瓦礫に巻き込まれて右肩から右手は切断されました」

『………』

 近衛兵の報告にその場にいた議員達は黙った。日本と接触していた議員は即座にこれはニホンの報復なのだろうと判断した。

「……良い。生きているのならばそれだけで構わない」

 モルト皇帝は安堵の息を吐いた。しかし、気になる点があった。

「何故ディアボは皇宮にいたのだ? 皇宮は地揺れの可能性を考えて誰も近寄らないようにしたはずだ?」

「そ、それがディアボ様は荷物の忘れ物をしたらしく取りに戻ったのです」

「明け方にか?」

「はぁ、たまたま朝早くに目が覚めたらしく、そのまま……」

 モルト皇帝の問いに近衛兵は返答に困った。近衛兵自身も何故皇宮に戻ったのか知らないのだ。

「……まぁよい。貴様に聞いても仕方あるまい」

 モルトはそう言って近衛兵を下がらせた。

「陛下、これは良い機会ではありませんか?」

「何が良い機会なのだマルクス伯よ?」

 マルクスがモルトの元へ歩み寄る。

「此度の出来事がニホンの仕業であるならばニホンに賠償金を出すのですよ」

「賠償金だと? しかしニホンが納得するのかね?」

「此方は皇子が負傷したのです。彼等にしてみればテンノウとやらの家族が傷ついたのも同然の事でしょう。彼等が我々と交渉したいのならまず賠償金を支払うのが先と言えばいいのです」

「ふむ……勝算はあるのかね?」

「五分と五分でしょうな。向こうが話を蹴るなら呼び寄せたニホン人を殺せばいいだけです」

 マルクスはそう言った。

「……宜しい。次にニホンの外交使節が来ればそのような交渉をしても構わん」

 モルト皇帝はそう言った。



「確かハミルトンの婚約者はディアボ派にいたはずだ。だが何故……」

「……ひく…ひく……」

 ピニャは泣いているハミルトンの背中を撫でながらそう呟いた。

「実はディアボ様は地揺れ後に別荘へ避難していたのですが、荷物をそれほど持って行ってなかったんです。それで明け方から作業をしようと言う事になったんです。皇帝陛下から皇宮の進入は地揺れ後に禁止されてましたので」

 報告に来た近衛兵がそう伝える。

「そして荷物を纏めて皇宮を出ようとした時……」

「ニホンの攻撃が始まったのか」

「はぁ、ディアボ様は出口付近にいたので即死では有りませんが、瓦礫で一時的に生き埋めになってしまい右肩から右手は切断をしました。そしてハミルトン様の婚約者はまだ中にいたのでそのまま生き埋めになり……」

「もういい。分かった」

 ピニャは近衛兵の報告を止めた。これ以上、報告を聞いていたらハミルトンが発狂しそうだからである。

「……ハミルトン、暫く此処で休め」

「……はい」

 ピニャはハミルトンをソッとしておくべきと思い、近衛兵と共に外に出た。

 そしてピニャ達が部屋の外に出るとハミルトンは再び泣き出したのであった。




 その頃、伊丹達の第三偵察隊はアルヌスの基地に帰還していた。

 拉致されていた三人の女性を建設されたばかりの病院に入院された。健康状態なども調べられるが、問題は三人のうち二人が外国人である事だろう。

 この対処のため、政府はかなりの苦労をするのであった。

 そして伊丹自身は一通りの事を済ませると仮設住宅の方へ向かっていた。

「金髪エルフのところへ行ってみな」

 柳田にそう言われたのだ。その言葉に伊丹は何か嫌な予感を覚えつつ金髪エルフこと、テュカの部屋をノックした。

 そして出迎えたのはレレイであった。室内に入ると何故かロゥリィの姿もあった。

 そして伊丹はテュカの姿を見て、嫌な予感が的中したと思いながら外に出て吐きロゥリィに気絶させられるのであった。

「……で、これは一体どういう事だ?」

 アルヌス飛行場で新型機を見に来ていた樹をロゥリィが無理矢理連れて来た。

 伊丹も水を飲んで漸く落ち着いてきた。

「それは此の身が話そう」

 そこへダークエルフが話しかけてきた。

「貴女は……」

「挨拶が遅れた茶や草の人よ。此の身はヤオ。ダークエルフ、シュワルツの森部族デュッシ氏族。デハンの娘ヤオ・ハー・デュッシ」

 ヤオは伊丹と樹に深々と頭を下げた。

「確かシュワルツの森は炎龍に……」

「如何にも。此の身は茶や草の人に我が同胞を救ってもらうために来た」

「それが何故このような事をした? 何でテュカに余計な事した?」

「余計とは心外。事実を伝えたまでに過ぎない」

「問い直す。何故事実を伝えた?」

「決まっている。それがその娘のためだ」

 ヤオはキッパリとそう言った。

「テュカはオヤジを亡くしているのだぞ?」

「御身を父親と認識しているのを見逃すのか?」

「………」

 ヤオの言葉に伊丹は拳を握り締める。伊丹の睨みにヤオは臆しなかった。

「……ヤオさん、貴女は炎龍を退治してほしいと我々に求めたはずです。それなのにテュカさんを壊すとなれば退治自体の話は無くなりますよ」

 樹はヤオにそう警告した。勿論、樹がそう言っても炎龍退治に変わりはない。

 しかし、顔見知りであるテュカの心を壊すなど樹には許されない事であった。

「貴方方も炎龍には手を焼いているはず。そう断れはしない。それに炎龍と直接戦った貴方達に是非来てもらいたいのだ」

 ヤオはそう言って樹の反論を押さえた。

「人が愛する者を殺めたならその下手人を追い詰めれば復讐を果たす事も出来よう。天のもたらした災害ならどうしようもないから神を呪うしかない」

 ヤオの言葉にロゥリィは何も言わない。

「炎龍はどうか? 敵は確かに其処にいるのだ。だが手も足も出ない。捕らえる事も出来ず、罰する事も出来ない。天のもたらした災厄でもない。この怒りは何処へ向ければ良いか? 恨みのやり場は何処へ向ければ良い? 愛する者を奪われた憎しみは誰に向ければ良いのか?」

 ヤオは伊丹の前に出る。

「復讐とは愛する者を失った怒りと憎しみをはらし、自分の魂魄を鎮めるために必要な儀式だ。それを経て、初めて遺された者の心は癒され、現実に立つ事も出来るようになる。明日を見る事もやがて出来よう」

 ヤオは膝をついて額を床に擦りつけた。

「この娘のついでいいから此の身の同胞を救ってほしい。我が身を捧げる。何をしてもいい。お願いします、炎龍を退けた人よ」

 ヤオはそう言い放ったのであった。








 
 

 
後書き
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