久遠の神話
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四十四話 不老不死その十一
「ですから工藤さんもそれこそ裏の世界にまで手を回して」
「そうしてでもっていうのね」
「何か見つけ出して。中田さんのご家族を助けられるお医者さんを」
「そうして助けるべきだっていうのね」
「本当に何とか手を尽くして」
そのうえでだというのだ。
「そうしたお医者さんを見つけないと」
「お医者さんならね」
ここで聡美は言った。
「いるかも知れないわね」
「ですよね、本当に」
「医学はお兄様の司る世界で」
またこう言う聡美だった。
「知らない訳ではないけれど」
「お医者さんの世界に詳しいんですか?」
「ある程度はね」
上城にとっては朗報だった。
「知ってはいるわ」
「じゃあそうしたお医者さんを探してくれますか?」
上城は思わず身を乗り出して聡美に頼み込んだ。勢いよくテーブルに両手をやったので危うく紅茶が零れそうになる。
「そうすれば中田さんのご家族が助かります」
「そして彼もね」
「はい、戦わずに済みます」
まさにいいこと尽くめだった。
「ですから」
「わかっているわ。それは」
聡美もこう返す。
「だから。絶対にね」
「そのお医者さんを探してこの町に来てもらって」
「彼のご家族を治してもらえばね」
「本当に多くの人が救われます」
「救いね」
聡美の言葉がふと止まった。
「救いというのはね」
「はい、中田さんは救われますよね」
「ええ、そうしたお医者さんが見つかれば」
そうなるとだ。聡美はこのことは保障した。
しかしその救いそのものについてだ。遠い目になって上城に話したのである。
「彼はいいけれど」
「中田さんは?」
「人間だけではないの。掬われたいのは」
遠い先に悲しみを見て。そして聡美は話していく。
「神もまたなのよ」
「神様もですか?」
「神といってもね。人間と変わらないのよ」
こう言うのだった。その目で。
「心があるから」
「だからなんですか」
「心は常に揺れ動くものね」
「そうですね。それはどうしても」
「君もわかるわよね」
「はい、僕も今まで迷いましたから」
戦いを止める為にどうするべきか。その為に戦うと決めるまでかなり迷った、だからこそ今こう言えるのだ。
「ですから」
「そうよね。それは神もまたね」
「同じですか」
「神と人との違いは紙一重なのよ」
「そんなに違わないんですか」
「力。これは人も手に入れられるわ」
聡美は神の力についてはその程度だと述べた。
「何でもないものよ。剣士の力もね」
「あの力は」
「神の力でもあるのよ。それを使えば」
「神様ですか」
「実際に神もそうした力を使ってきているから」
雷や地震だ。規模こそ違えどそれは確かに神のものだった。
ページ上へ戻る