レンズ越しのセイレーン
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Mission
Mission9 アリアドネ
(2) トリグラフ港 ②
前書き
しょうがない わたしたちはもうココに存在してしまってる
ルドガーたちが勢いよくふり返った。ミラも驚いた。ユティだった。神出鬼没はいつものことだが、今もいつからいたのか。
ミラの金髪と同じ方向にカーディガンをはためかせながら、灰光の射す埠頭へと彼女は踏み込んだ。
「ワタシも混ぜてよ。最後の『道標』のある分史世界にどう入るか、でしょ」
「知ってるの!? 最後の分史世界に入る方法」
ジュードが大きく一歩踏み出した。期待と不信が混ざった声。
「知ってる。そしてワタシのやり方は、別にミラにどうこうしろなんて言わない」
エルが明るくミラを呼んで手を繋いできた。ルドガーも、本人は気づいていないが、笑顔に戻っている。
ミラは大言壮語を吐いた少女を見返した。
(冷静でいなさい、ミラ。結局犠牲を払う方法だった時、みっともなく泣き喚いたりしないように。さっきまでの気持ちがウソにならないように)
「逆転の発想。行けないんなら、行かなきゃいい。行かないなら行き方でうだうだ悩む必要、ないでしょ」
「確かにそうだけど……待てよ。『道標』はどうすんだよ。行かなきゃ『道標』だって揃わないんだぞ」
「揃う」
ユティは断言した。迷いなど欠片もない。
「最後の『カナンの道標』は」
ユティはネクタイを緩め、ワイシャツの中に手を突っ込んだ。
懐から取り出したのは、白金の歯車の集合体。
「ここにあるもの」
言葉にならなかった。いつのまに、なぜ、どうやって。彼らのそんな呟きが聴こえた。ユティの手にあるのはまぎれもなく「カナンの道標」だ。
「だから最後の分史世界に行く必要はない。ミラは犠牲にならなくていい。ならないで。エルが悲しむ。ルドガーも。きっと誰よりも」
彼女はジュードを通り過ぎ、ルドガーを通り過ぎ、ミラの下へ歩いて来ながら話し続ける。
「ニセモノかホンモノかなんて、これっぽっちも重要じゃ、ない。アナタは『今』『ここ』で息をして、鼓動を刻んでる。その事実に文句をつけたい奴はつければいい。どんなに言われたって『アナタがいる』ことは、誰にも、冒せない」
誰に認められずとも、「そこに在る」事実は変わらないのだと――正面に立った彼女は真摯に語った。
「――――あなた――何者なの?」
少女は今まで見たこともない、凄烈な笑顔を浮かべた。
「ミラと同じ分史世界の人間。ただ、ワタシの分史はミラのとは異なる。ワタシは今から18年後の未来から来たから」
未来軸の分史世界の人間。クルスニクの鍵。骸殻能力者。――「鍵」の力を発現しうるクルスニクの血を引く人物。
では彼女は、「誰」と「誰」の血を引いているのか。
「ユースティア・レイシィは偽名。ワタシの本名は、ユースティア・ジュノー・クルスニク。この意味、分かる? ミラ、ルドガー」
クルスニク姓を持つ、未来分史の娘が、あえてルドガーとミラを指名した。
(この子、もしかしてルドガーと――私の!?)
ミラはルドガーと顔を見合す。ユースティアを介した彼との未来を想像して四肢が火照った。つい顔を逸らしながら、それでもこっそりルドガーを盗み見ると、ルドガーもミラと変わらない体たらくだった。
「話して。ミラと。伝えたいこと、あるでしょ。お互いに。それが終わったら、ワタシのことも教えてあげる」
ユティがルドガーの横を通り過ぎる。彼女はエルとジュードを連れて埠頭を去っていった。
残されたミラは、ルドガーと揃って、途方に暮れるしかなかった。
後書き
分史ミラをフィールドに残留! ヴィクトル分史を完全スルーしてターンエンド!
……すいません。ちょっとふざけないと訳が分からなくなりそうだったので。
さて、真面目に問います。読者の皆々様。分史ミラ生存を望んだ方は正直に挙手されてください。
――。そうですか(←ナニガダ
これが木崎が辿り着いた結論です。オリ主が語った通りです。行けないなら行かなければいい。行かないのならば、正史ミラ復活の手段として分史ミラを殺す必要性も消えます。今後の展開で正史ミラのポジションは分史ミラが担います。
正史ミラ放置かよ!! と激怒されたお方。ご安心ください。「あえて」の放置です。正史ミラが時空の狭間に留まることは拙作ではちゃんとした布石です。これがラストを変えます。必要があって正史ミラにはあえて「まだ」復活しないでもらっているのです。
……分かっております。もし石をお投げになりたい方は止めませぬ。ただ石を投げるのはお一人様おひとつまででよろしいでしょうか?
Q,オリ主が持っていた「最後の道標」は誰ですか?
A,ヴィクトルではありません。早急にお知りになりたい方は第0話「エレクトラ」をご覧ください。
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