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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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コラボ
~Cross storys~
  episode of cross:欠片

──アッアアアアアアアァアァァァァァアアアァァァッッッッ!!──

断末魔のような叫び声と、血のごとき真紅のパーティクルを撒き散らしながら、アインクラッド第四十三層フロアボス【The Cruel Born】は、骨でできた体を数百のポリゴンの欠片へと変じ、四散させた。

「ふぅっ……!」

ホークは顎を伝い落ちていた汗を拭った。

身体的活動のほぼ全てが簡略化か、あるいは省略されているこのSAOでは汗を拭っても拭っていなくても、全くポテンシャル的には関係ないのに、思わず気にしてしまうのはなぜだろうか。

疲労がじわじわと体を蝕んでいる気がする。

体が重く、心なしか地面がゆらゆらと波打っているような錯覚が視える。

すでに足元の地面は、岩石でできたそれから、徐々に小石で形成された河原のようなものに変わっている。決して踏み場が良いとは思えない、だだっ広いそこにはもはや一体もボスの姿はいない。

代わりにいるのは、ゼェゼェと肩で息をする男プレイヤー五人。

レンに至っては、よほど神経を使ったのか、砂利の地面の上に寝っ転がって空を仰いでいる。それを余裕そうに見ているホークもまた、お世辞にも無事とは言い難かった。

師匠と仰ぐ、《鼠》のアルゴの仕事と書いて雑用と読むことを普段からやってはいるが、さすがにここまで高速回転させたのはいったいいつぶりだろうか。加熱しすぎた脳は、仮想の空気を求めて必死にあえいでいる。

今頭に水でも被せたら、ジュウジュウという音とともに蒸発しそうだ。

そんな、ぼーっとした頭の中でホークはぼんやりと思った。

やっと、やっと半分まで来た。

二十層のフィールドの中を立ち並ぶボス達を倒しながら、ゆっくりホーク達は中心であるサンカレアの街まで北上して来ていた。あの洞窟からは霞んで見えていた大河は、もうすぐそこだ。

だが、それの前に一つ問題が立ち塞がっていた。

倒れ臥せっている五人のすぐそこ。八十メートルほど先に、初夏の陽光を水面に反射させている、三十メートルはあろうかという大きな川幅、その川のような湖には向こう岸まで、白い石でできた途轍もなく大きい橋が架けられていた。

その材質は大理石だろうか。あまりに白すぎて、周りの景色とマッチしていない。無機質すぎて、現実感が出てこない。

その橋の前。橋を通らせる者の前に立ち塞がるような形で、ひときわ大きい異形の影が立っていた。

「……………………………………」

誰も、何も言わなかった。

それが何かを、嫌というほど骨の髄まで知っているから。だから誰も、ホークに、あれが何なのかは聞かなかった。

その形状は分かりやすい。

ダークグレーの皮膚を持ち、醜い二つの頭部と、ドラム缶よりもぶっとい四本の腕。その腕にはそれぞれ形状の違う武器を持っている。大剣、戦斧、棍棒、大槌。その全てが、一種異様なプレッシャーを放っていて、離れたこの距離でもたじろぐほどだ。

ソレは、アインクラッド第二十五層を守護し、後にクォーターボスとも呼ばれるようになり、半ば伝説となりかけたフロアボスだ。

第二十五層フロアボス【General the dual giant】

視界の端で、レンが激しく顔を歪ませるのを見た。

それに気付いているのか、はたまた気付いていて無視しているのか、セモンが黒い巨人を指差しながら口を開いた。

「なぁ、あれってどう攻略するんだ?二十五層のクォーターボスっつったら、めちゃくちゃ強かったって噂だったんだぞ?」

「まぁ確かに。あの二つ頭の二連撃の雷ブレスで戦線が崩壊しかけたって話だからな。だが、弱点がないって訳じゃない。ブレスと薙ぎ払い攻撃に気を付ければ、決して叶わない相手じゃない」

ホークの言葉に、じっと巨人を見つめていたシキがふと思い出したようには言った。

「そう言えば、これまでのボスは全部、攻性化範囲(アグロレンジ)は五十メートルそこそこだったが、あいつには変化が絶対あるよな」

あ、とシキを除いた一同は言った。そして、改めて漆黒の巨人立ち塞がるその向こう、このフロアのコントラストにそぐわない大理石の石橋を揃って見る。その幅はどう低く見積もっても、六十メートルはある。

単純計算でも、あの巨人が橋の真ん中を陣取っていても端っこの五メートルを通れば戦闘にならないということになる。それでは守護している意味が全くない。

必ずあの二つ首の巨人の攻性化範囲(アグロレンジ)は広くなっているはずだ。最低でも六十メートル。

そして、巨人の二つの首はどちらもこちらをしっかり見ているのもまた事実で───

「「「「「…………あれ?」」」」」

綺麗にユニゾンした声で言った五人の視線の先で、ピカッと巨人の口元が光った………気がした。

次の瞬間

───ピッッッシャァアアァァァアァアアアンンンン!!!───

全員の聴覚一杯に、膨大な乾いた衝撃音が響きわたった。

頭に鍋を被って、それをぶん殴られたかのごとき衝撃が五人の脳を揺らした。平均感覚が容易く崩壊し、堪えきれずに砂利の地面に投げ出される。視界端に浮かぶHPバーが二割近くがりっと削れた。

間違いなく油断していたのにこれだけの被ダメージで済んだのは、決して避けたとか運が良かったとかではない。ただ単に、外されたのだ。

目眩でくらくらする視界のはるか向こうで、巨人の醜い顔が歪み、にやりとした笑みを浮かべるのが見えた。

───っそ…………

げぇほ、げほっ、と口の中に嫌というほど入った砂利を吐き出しつつ、両腕になけなしの力を入れて上体を起こす。

びし、びし、と体中が激痛に軋む。

いまだぐらぐら揺れつつある視線を周囲に向ければ、他の四人も顔をしかめつつ上体を起こしつつあった。

再びホークはボス《ジェネラル・ザ・デュアル・ジャイアント》に視線を戻した。今の攻撃で、巨人の攻性化範囲(アグロレンジ)に自分達が入ってしまっている事は確実となった。

いまにもあの漆黒の巨人が持ち場である橋を離れてこちらに向かってくるやもしれないのだ。だが───

───来な……い…………?

そう。巨人は来なかった。

そして動かなかった。

ただ、挑発するように立ち尽くしていた。

醜い二つの顔を醜悪に歪ませて、引き千切るように嗤っていた。ぶちぶち、と肉の繊維を引き裂くように嗤っていた。

その表情は、はっきりとこう言っている。お前らなどいつでも殺せることができる、と。

「じょ……う、とうだコラ…………ッ!」

凄まじいまでの憤激の色に声を彩り、隣で小柄な体が上体を起こした。

血色のフードコートと、漆黒のロングマフラー。レンだ。

闇のように真っ黒なその両の瞳が、薄い宵闇の中で仄かに紅く光り輝いているように見える。

「おい、レン………やめ、ろ……」

視界の端のセモンが立ち上がりながら、そのコートの裾を掴もうとした。

死地へと無策で突っ込む猫を、立ち止まらせるために。だが、それよりも先に紅衣の少年が動いた。

ズッバアアァァァンンン!!という凄まじい音という名の衝撃音がホークたち四人の顔を叩く前に、レンが掻き消えた場所の足元から大量の砂利が巻き上がり、まるで散弾銃のごとき勢いで顔にぶち当たった。

完璧に音速を超越したレンの胴体は、すぐさま周囲に不可視の凶刃を展開させた。

五人の中で唯一の中・遠距離型。

鋼でできた鋼鉄の糸。

触れれば指ごと切断されそうなその断面は音もなく漆黒の巨人に迫り、そのダークグレーの皮膚にめり込もうとして───

ドッ!

という鈍い音が響いた。

巨人が神速のごとき勢いで振り回した棍棒が、レンの小柄な体格を捉えた音だった。レンが、冗談みたいな勢いで吹っ飛ばされる。

見えはしないが、今レンのHPはぐんぐんデッドゾーンへ、死の淵へと近付いているのだろう。

喉が干上がる。

このまま地面に激突したら、余ダメージが加算されてしまう可能性がある。

それはなんとしても避けねばならない。

考えるより先に、体が動いていた。

背後で誰かが叫ぶような声を背中で受け止めながら、ホークは背に吊った己の愛剣を音高く抜剣しつつ、両足に全力で力を込めた。雄叫びが自然と口から漏れ出る。

落下してくるレンを抱きとめる。途端に巨人がうごめき、ホークの等身大くらいあるような大槌の断面が迫ってくる。

───受け止める………!

そうホークは思ったが、あることに気が付いて戦慄する。

利き手である右手でレンを受け止めたのが災いした。防御が絶対的に、どうあがいてもできない。

「くそっ!!」

せめて残った左手で、少しでも衝撃を減らせればと思い顔の前に構える。

もちろん内心ではこんな薄すぎる盾とも言えない盾で、あの壁が迫ってくるような攻撃を防げるとは到底思ってはいない。それでもホークは迫り来る衝撃の前に咄嗟に目を瞑る。

直後、凄まじい衝撃音が脳を揺さぶった。










いまだ雷ブレスの余波が残る体を起こしていると、視界の端でレンを追って駆け出すホークの姿が映った。

「あンの……バカッ!」

ギシギシと不気味に軋む体を半ば強引に動かし、ゲツガはホークの後ろ姿を追って駆け出した。だが、一心不乱に走るその姿は一向に大きくならない。

基本的にゲツガのステータスはSTR一極型だ。足はお世辞にも速いほうだとは言えない。それに彼の二つ名《白い弾丸(ホワイトブレット)》の由来、弾丸のごとき高速移動は周囲に足場となるオブジェクトがないと意味を成さない。

数メートル先でホークが、巨人の攻撃を受けて吹き飛ばされたレンを見事にキャッチした。

だが、遅い。圧倒的に遅すぎる。

重なり合う二人の向こうでは、黒き異形の影が人間の等身大ほどの大槌が思いっきり振り上げられている。

攻撃モーションは、開始させられている。

「間に合えーッッッ!!」

精一杯跳躍し、どうにかゲツガはハンマーとホーク達の間に体を滑り込ませることに成功した。視界はもはやハンマーの断面で一杯に塗りつぶされている。両手剣を急いで抜剣し、切っ先を地面に突き刺して体の前に縦に構える。

直後、凄まじい衝撃が剣を通して体中に伝わった。

───ぐぅっお、ぉおおおぉぉぉぉおぉー!!!

みしみし、と全身がキャパシティーを超えた衝撃に悲鳴を上げる。

剣と体が一体となったような気がする。

軋んで、軋んで、軋む。

この衝撃は、例えるならそう。途轍もなく大きなゴムの塊が、真正面からぶつかっているようなものだ。柔らかいが、とてもじゃないが踏ん張れないような衝撃。それが全身を襲っているのだ。肉が、内臓が、骨が、不気味に脈動する。

軋んで、軋んで、軋み続ける。

永遠かと思えた衝撃の後、終わりはあまりにも唐突に訪れた。

体を包む圧迫感が消え、ゲツガは砂利の上に堪らずにへたり込んだ。

全身に力が入らなかった。ちらりとHPバーを見ると、全体の四割が消失していた。肩で息をしながら崩れ落ちるゲツガの目の前で、巨人は攻撃の技後硬直時間を着々とすり減らしていた。このままではあと数秒で巨人は再び動き出し、今度こそ動けないゲツガとホーク、レンを狙うだろう。

そうなったら、再び防ぎきる自信は今のゲツガにはない。第一、剣の耐久度もとてもじゃないが持たないだろう。ちらりと愛剣を見ると、所々が刃こぼれし始めてていた。損耗耐久度が閾値を越え始めた、何よりの証拠である。

───よぉ、ピンチみたいじゃねぇか。

突然、何の前触れもなく、頭の中で声が響いた。

特に何ということもない普通の声なのに、どこかねっとりと素肌に纏わりついてくるような、生理的に嫌な声である。

───うるさい、こっちは忙しいんだから少し黙ってろ。

素っ気なく頭の中で返すが、その声はしつこく言ってきた。

───力を貸して欲しいんなら、いつでも言いなー。こっちゃあ暇で仕方ねぇんだよ。

───………その暇を発散させた時、お前は何をどうするつもりなんだ?

───さぁなー。その辺はご想像にお任せしようかな?

ふざけるな、そう思った。

ゲツガは必死に体を起こそうとするが、異常なまでの倦怠感が体を包んで体が全く動かない。やっべ、と脳裏で閃くが、体が言うことを聞かない。

そうこうするうちにも、巨人はうっそりと動き出した。

恐らく一番殺傷能力が高そうな、戦斧を大上段に振りかぶる。一瞬の静寂の後、ソレは風を切りながら振り下ろ───

ザシュッッ!!

───されなかった。

凶器が振り下ろされる紙一重前に、萌黄色のコートをはためかせる影が眼前に躍り出て、巨人の体を一息にたたっ斬ったのだ。いきなりの攻撃に巨人は雄叫びを上げ、戦斧が手の中から滑り落ちて音高く地に落下した。

「セモン!」

ゲツガが叫ぶと同時に背後から誰かに抱きかかえられた。頭を巡らすと、シキがレンとゲツガをもう一方の腕に抱えながら居た。

「悪ぃ、遅くなった!その頑張りには悪いが、一回引くぞ!!」

「わかった。レンは!?」

「大丈夫だ。気を失ってはいるが、死んではいない」

シキの腕の中のレンに視線を移す。闇色のマフラーに顔を覆ってはいるが、規則正しい呼吸が聞こえる。

「セモンは何をする気なんだ……?」

「セモンにはしばらくの間、囮になってもらってる!とにかく行くぞ、セモンの頑張りを少しでも短くするためにな!!」

ぐっ、と腕を引く力が強くなり、ゲツガ達は逃走した。

周囲を流れる景色が、みるみる暗くなっていくような気がした。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「感想ですごいの来てたね」
なべさん「あぁ、あのビビック先生の?」
レン「そ。ビックリしたよ。今!?って思っちゃった」
なべさん「その、今!?な頼み事を受諾させたのは、どなただったかしら?」
レン「さぁ?」
なべさん「テメーだよ!」
レン「んな細かいこといいじゃん」
なべさん「細かい……のか?」
レン「順調に盛り込めそうなんでしょ?」
なべさん「お、おぉ。まぁな。なんとかいけそー」
レン「それならいいね。はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!」
──To be continued── 
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