インフィニット・ア・ライブ
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第二話「入学 ~begin~」
『これより、第○○回IS学園入学式を始めます』
二人のISを動かせる男が見付かってから一ヶ月が経ち、季節は入学シーズンとなった。
その間、世界中で他にもISを動かせる男がいないか検査が行われたが、新たにイレギュラーが現れることはなかった。
二人目の一夏のプロフィールが公表された際、織斑千冬が『あれは自分の行方不明になった弟だ』と主張したらしいが、DEM社が提示した戸籍とイギリス政府に登録されている情報と一致したため、他人の空似だと本人以外は決めつけたそうだ。
『続……して、……よりあ……す』
春眠暁を覚えず、という言葉通りの絶好のシエスタ日和のため、意識は夢の世界へ旅立とうとした。
『イィーチィーカァークゥーン?』
ビュオッ!!
バスッ!!
しかし、その旅立ちは聞き覚えのある声と、身の危険を感じた本能によって、邪魔されることとなった。
目を開けると、反射的に取り出した電話帳と間違える分厚さの参考書に、一本の矢が刺さっていた。
矢の出所を探ると、壇上に振りかぶった姿勢の水色の髪の少女を発見し、その少女が犯人であり、直接矢を投擲したことを確信する。
たまたま隣の席にいた少女は、一夏の顔が獰猛に歪んだのを目撃してしまい、ヒッ、と体をのけ反らせてしまう。
「いいぜいいぜ!サイコーの歓迎じゃねえか、楯無ィイ!!」
『お褒めに預かり光栄よ!』
一拍おいて、一夏と『更識楯無』は飛び上がる。
周りの生徒がざわめくが、構わず行動する。
「「死ィィィねェェェ!!」」
どういう原理なのか不明だが、炎をまとった一夏の蹴りと、水をまとった楯無の蹴りが、空中で激突する。
「「オオオオオォォォ!!」」
生徒や教員の視界は、閃光で埋め尽くされた。
目が慣れた後、二人の姿はなかった。
そして、なんということでしょう。
入った時は近未来的でメカメカしかった講堂は、今や見る影もなく頭上に青空が広がる爽やかな広場へと様変わりしているのではありませんか。
この時、一般の生徒の心に占める想いはただ一つ。
マジパネェ、だった。
???side
「で、お嬢様。それに、一夏様。言い残すことは、ありませんか?」
IS学園のとある一室。そこに先程、講堂で暴れた、綱糸で四肢を縛られて拘束された二人の姿があった。
「「ついムラッときてやってしまった。反省はしている」」
「後悔は?」
「「していない」」
キリッと答える二人の反応に、米神を押さえながら綱糸を操っていた『布仏虚』は、背後に立つ妹の『布仏本音』に合図を送る。
「本音、お願い」
「りょーかい。お二人さーん?」
「「ヒィッ!?」」
ほんわかとした癒しの雰囲気が漂う本音だが、一夏と楯無の顔には恐怖が浮かぶ。
「ギルティ」
「いやいや!ほら、人生で一度のイベントだからはっちゃけちゃっただけだって!!」
「そうそう!裁判長、情緒酌量を!執行猶予を!」
「そんなんで済むなら、警察は要らないよ~」
二人は気付いた。本音の顔が笑顔だが、眼は笑っていないことに。
「ちゃーんと、反省してねー」
((オワタ\(^o^)/))
覚悟を決めた二人に、本音はゆっくりと近付く。
その日、IS学園のとある一室で、男女の阿鼻叫喚が響き渡った。
―――数分後
「全く、貴方は子供ですか」
「兄さんよりは、大人のつもりだけど」
「比べる対象が、すでに手遅れです」
IS学園の廊下をスーツ姿のエレンと、ぼろ雑巾のような格好の一夏が歩いていた。
あの後、虚の連絡によってエレンが一夏を迎えに来て、そのまま教室に向かっている最中である。
「ところで、その恰好は?」
「ふむ。伝えてませんでしたか。私は表向きは教育実習生として、IS学園に入ったのですよ。驚きましたか?」
「いや、もうこの手の出来事は嫌と言う程体験したんで。本当の目的は、俺の護衛ですか」
苦虫を噛み潰したような表情になった一夏に、エレンは苦笑する。
「ほら、あそこが私達の教室です」
エレンが指した方に視線を向けると、そこには『一年一組』とプレートが掲げられた教室があった。
それプラス、何やら女性特有の甲高い声が響き渡っていた。
「おそらく、織斑千冬か、織斑千夏のどちらかが原因でしょうね」
尋ねる前に答えを返され、そんなに俺って分かりやすいのか、と落ち込む若干一夏。
「ブッ。……では、行きますよ」
落ち込む一夏を見た瞬間、エレンの鼻から紅い液体が垂れそうになったが神速で抑えたことにより、ひぐらしの鳴き声がBGMで聴こえてきそうな惨劇が起こる事態は回避された。
そんなことを露知らない一夏が気持ちを切り替えた時、エレンが教室のドアをノックした。
「すみません。遅れて来た者です」
「よし。入れ」
教室の中から聞こえた声に、一夏の顔は一瞬だけ憎悪に染まる。
「一夏君……」
「大丈夫です。俺は織斑一夏じゃありません。DEM社の社員で、アイク兄さんの弟、一夏・ウェストコットです」
一夏の様子を察したエレンを心配させぬよう、一夏は自分は大丈夫だとアピールする。
それによって、エレンの表情も緩み、二人は教室の中へ踏み出す。
織斑千夏side
入学式で何やら騒動があったらしいが、とある事情から出席できなかった『世界初の男性操縦者』である『織斑千夏』は、自分のクラスで席に着いていた。
周りからは視線を感じるが、余裕な態度から彼にとっては想定内のようだ。
「みなさん、揃ってますねー。それじゃあSHRをはじめますよー」
「先生、一人いません」
と、教室の後方にある窓際の空席を指して誰かが言ったが、教師は「彼なら後で来ますよ」と答えた。
そういえば、と自分以外に男がISを動かした人間がいたことを思い出し、一体誰だろうかと思いをはせる。
(まぁ、誰だろうと僕に勝てるわけないけど。なんたって、僕はあの束さんからISのことを教えてもらったし、動かし方もほとんど習得している。僕を倒せるのは姉さんぐらいだろうな)
その考えが間違っているとは気付かず、千夏は心の中で笑みを浮かべる。
「あ、私は副担任の山田真耶です。一年間よろしくお願いしますね」
千夏が反射的に返事をすると、周りからチラホラと返事が返される。
「それじゃあ、出席番号順に自己紹介をお願いしますね」
そして始まる自己紹介。席順はどういう基準か知らないが、千夏を真ん中の最前列にしたのは問題児だからだろうか。幼少の頃から神童などと、ちやほやされてきた千夏には心外であろう。
「次、織斑君。お願いします」
山田先生から声を掛けられ、千夏は立ち上がって自己紹介をする。
「織斑千夏です。たまたま試験会場で迷ってしまった時に見つけたISを、興味本位で触ったら起動させてしまいました。趣味は機械いじりです。一年間よろしくお願いします」
途端に周りから拍手が上がる。どうやらファーストコンタクトは完璧のようだ。
「……ほう。随分と騒がしいがお前だったか」
いつの間に入ってきたのか、そこには『織斑千冬』がいた。
千夏の姉であり、基本的には弱みを見せない強い女性というのが千夏の印象だ。千夏にとって出来損ないである一夏が消えたせいで一時期は情緒不安定だったが、今は普通に暮らしている。ただ、一夏が消えて料理ができなかった千冬達は少し苦しかったが、それも千夏がすぐに料理を覚えたので過ぎ去った問題となった。
「あ、姉さん。やっぱり―――」
スパァンッ!!
問答無用の出席簿による攻撃。相変わらず姉さんの攻撃は痛い、と実感する千夏。
「織斑先生と呼べ」
「はい。織斑先生」
そして千夏は、何の疑問を持たずに着席した。
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが私の仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」
暴力発言だが、これくらいはしないといけないだろう。
彼女たちは入ったばかり。ISに対する知識はあるといってもその扱いには慣れていないからもあるだろう。
千夏が思考している間に、生徒達はキャーキャーとはしゃぐ。
ソニックムーブでも起こせるんじゃないか、と思える程の大音量に千夏は思わず耳を塞ぐ。
「生の千冬さんよ!」
「わざわざ佐渡から来たかいがあったわ!」
「父さん母さん、産んでくれてありがとう!」
「私も未来から来たかいがあったわ!」
「千冬さんhshs!!」
「ヤバい、濡れてきた」
中には発言を疑うものがあったが。
というかレズとか本当にいるんだなぁ、と知りたくもないことも知ってしまった千夏であった。
当然、千冬は呆れるがそれに便乗して余計にMな子が目立つ事態となった。
「……はぁ。少しは静かにしろ!遅れて来た者が間もなく来る」
それを聞いた瞬間に生徒達は黙る。
(そう言えば後から来ると山田先生が言っていたね。初日から遅刻とは良い度胸じゃないか。ある意味その神経の図太さに敬意を表するね)
千夏がもう一人の『男性操縦者』を馬鹿にしていると、教室のドアがコンコンと叩かれた。
「すみません。遅れて来た者です」
「よし。入れ」
ドアに向かって千冬はそう言うと、そのドアが開いて男と女性が入ってくる。
その男に、千夏は目を見開くほど驚いた。なぜなら、その男は自分が見下し、二年前に殺した・・・筈の兄、織斑一夏にそっくりだったからだ。
「初めまして皆さん。実習生のエレン・M・メイザースです。趣味はカメラいじりと、写真撮影です。苦手なものは、落とし穴と姦しい三人娘です」
一夏を見たショックで、一緒に入って来たエレンの自己紹介は、千夏の耳には入らなかった。
「初めまして、一夏・ウェストコットです。IS適性検査に見事に引っかかったのでこのIS学園に入学することになりました。宇宙人、未来人、超能力者がいたら、俺のとこに来い。以上です」
この時、二人の織斑は叫びたかった。
一方は、違う!お前は私の大切な弟の織斑一夏だ、と。
一方は、ふざけるな!出来損ないのくせに手間をかけさせるな、と。
ちなみに、張り切ってネタを入れたが、クラスの皆はスルーして容姿をもてはやしたため、一夏は器用にイスの上で体操座りをして拗ねてしまっていた。
《精霊王》が降り立ち、歯車は軋む。彼に付き従うのは《精霊》。
彼等が世界にもたらすのは、はてさて如何なる歪みであろうか。
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