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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第百十七話 強えな、シャオニの対戦相手

「皆さんお待たせ致しました! 只今よりヴェルーナ魔武大会本戦を開始したいと思います!」


 本日も盛大な盛り上がりを見せている。
 それもそのはず、合計千二百人以上の参加者達から選ばれた、たった八人によるトーナメントが開催されるのだ。
 バトルに興味を持つ者なら、熱くならない方がおかしい。
 それより驚くことが一つあった。
 何と昨日闘悟が吹き飛ばした舞台が甦っているではないか。
 実はあれから地の属性魔法を使える魔法士を集めて急遽(きゅうきょ)作り直したらしい。


「それでは第一回戦を開始したいと思います!」


 闘悟とミラニは最終戦なので、それまでクィル達のところにいようと思い向かった。
 一回戦はシャオニが闘っていた。
 だが驚くことに、シャオニが苦戦していた。
 今まで苦戦らしき苦戦を強いられてきていなかった彼女なので、それが新鮮だった。
 どうやら相手は相当の実力者だ。
 確かレリーズとか言っていた。
 長身で、雪のように真っ白な髪が目立つ。
 顔が美形で、見た感じでは女性か男性か判断できない。
 実際は女性のようだが、端正(たんせい)で大人びた顔つきは凛々しい男性のようにも見える。
 彼女の得意の髪を使った攻撃も、レリーズは難なく避わしていく。
 数分間攻防を続けていた彼女達は、ふと動きを止め互いに見つめる。


「ふぅ、さっすがはレリーズちゃんだね」


 シャオニは息を整えながら感心したように声を漏らす。


「ふむ、貴様も腕を上げたようだなシャオニ」


 そのやり取りから察するに、二人は知り合いのようだ。
 昨日見た時、「あちゃ~」と言っていたのは、知り合いだったからなのかな? 


「さて、続けるか?」


 レリーズが聞くと、シャオニが人差し指を立てて振る。


「もっちろんだよん! まだまだ見せてない魔法だってあるんだから!」
「そうか」


 するとレリーズは目を閉じそのまま口を開く。


「なら、その全てに対処しようか?」


 その言葉にムッとなったシャオニは、昨日見せた『闇人形(ダークドール)』を作る。


「ほう……これは」
「行っくよん!」


 一斉にシャオニ達はレリーズに向かって走り出す。
 だが彼女は軽く目を細めると、向かって来るシャオニ達の間を縫うように軽やかにすり抜ける。
 全てのシャオニを通り抜けると、動きを止める。


「も~チョコチョコとぉ~!」


 未だに攻撃が当たらないことに苛立ったのか、頬を膨らませる。
 だがその時、一人を残して、全てのシャオニ達が真っ二つになる。


「えっ!?」


 シャオニは突然のことに目を見開く。





「何が起こったのでしょうか?」


 その様子を見ていたクィルが、闘悟に問う。


「斬ったんだよ」
「え? き、斬った?」
「ああ」


 だが闘悟の言ったことに対して首を傾げる。
 その行動も無理は無かった。
 斬ったと言っても、それは凄まじい速さでだ。
 戦闘経験者でも、今の動きを見切れる者は少ないだろう。
 その証拠にシャオニすら捉えられていなかった。
 クィルが確認できたわけがなかった。
 ステリアも眉を寄せてこちらを見ていたので、彼女も見えていなかったのかもしれない。


「見えたか?」


 闘悟はミラニに対しても聞いてみる。


「ああ、かなりの速さだ」


 ミラニでさえ認めるほどの速さ。


「とにかく、あのレリーズって奴は、かなりのやり手ってわけだな」


 それに気になることもある。
 シャオニの偽物達が全て倒されたが、どうして本物を見分けることができたのか気になった。





「何で私が本物だって分かったの?」


 シャオニもそのことが気になったのか質問する。


「視えるからさ」


 それだけサラッと答える。


「あ、そっかぁ! そういやレリーズちゃんてば、魔力視認ができたんだっけ? 忘れてたなぁ~」
「それはともかく、もう終わりか?」
「ううん、まだだよん!」


 今度は空高く跳び上がる。
 その行動に観客達から歓声が轟く。
 シャオニは『髪雨(ヘアーズレイン)』で攻撃するつもりのようだ。
 死角無しの攻撃なので、前回の試合を見ていた皆が興奮するのも仕方が無い。
 普通なら、それを止めるためにシャオニのように跳び上がり防ごうとするはずなのだが、レリーズは不思議なことに黙って彼女を見上げている。
 動かない彼女を見て、ムッとなる。


「もう~後悔しちゃうんだからぁ!」


 体を回転させて、『髪雨(ヘアーズレイン)』を発動させる。
 無数の髪の毛がレリーズを襲う。
 だが未だに彼女は動かない。


 プスッ! プスプスプスプスプスッ!!!


 舞台全体に髪の雨が降り注ぐ。
 その場にいたら間違いなくサボテン化してしまうだろう。


「どうだぁ!」


 空中でシャオニは階下を見下ろし叫ぶ。
 だが目に入った光景に疑ってしまう。


「終わりか?」


 表情を崩さず、平坦に声を出す。


「おおおっと! あれは!?」


 モアの声が闘武場に響く。
 彼女だけではなく、ほとんどの者がレリーズを見て、いや、性格には彼女の周囲を見て驚いている。
 そう、彼女の周囲に、まるで彼女を守るように覆っている白銀の物体を見て……。
 シャオニは舞台に降りると、悔しそうに口を尖らせる。


「む~やっぱ相性悪いなぁ~。私の髪がどんだけ硬くても、氷には効かないんだもん!」


 彼女の言葉で、レリーズを覆っている物体の正体が掴めた。
 氷ということは、彼女は氷の属性魔法の使い手ということだろう。
 すると突然シャオニの足元から氷が競り上がって、檻(おり)のように彼女は囚(とら)われる。


「ええっ!?」


 一瞬のことでシャオニは何が起こったのか理解できていなかった。
 その檻を壊そうするが、ビクともしない。


「終わりにするか?」
「ま、まだだもん!」


 それでも諦めない彼女を見て、微かにレリーズは溜め息を漏らす。


「なら……」


 その言葉の終わりに、檻の天井からつららが作成されていく。
 徐々に大きくなるつららに気づいたシャオニは身を伏せる。
 だが、このままだと間違いなくつららがシャオニを貫いてしまう。


「さあ、どうする?」


 自分がどうなってしまうか理解したシャオニは思わず叫んでしまう。


「あ~もう! 私の負け! 降参するよぉ~!」


 するとつららの成長が止まり今度は雪のように檻とともに溶けていく。


「う~悔しい~」


 恨めしそうにレリーズを見ると、彼女は静かに目を閉じる。


「まあ、少しはやるようになったな」
「…………はぁ、まだ勝てないかぁ……」


 残念そうに肩を落とす彼女を見て、レリーズは踵(きびす)を返す。
 そしてその場から去って行った。
 第一回戦の勝者はレリーズになった。

 
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