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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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GGO編
  百十八話 少女と少年の選択

 
前書き
はい!どうも鳩麦です!

それでは今回はごたごたの話となります。

では、どうぞ! 

 
「ん……」
目を開くと、始めに白い天井が見えた。視覚接続がクリアされたばかりなせいか、はたまた単に長い時間目を閉じていたせいか、少し眩しいその景色はぼやけて見える。と、ふと首を動かして右を見ると視界に自分の顔を覗き込む黒髪の少女が見えた。

「……よぉ美幸、俺の顔、そんなに面白いか?」
いつものように軽くニヤリと笑ってそう言ってやると、美幸は安心したようにほーっと息を吐いて少し呆れたように、けれども柔らかく微笑んだ。

「もうっ……お帰り、りょう」
「おうっ、ただいまだ。って……」
何となく感触を感じて、右の手元を見る。と、其処に美幸の手にくるまれたままの状態の、自分の手があった。

「ん……」
「あ……」
ポツンと目を落とす。と、次の瞬間、美幸の顔が一気に、まるで茹でたタコのように、カアアアァァァァッ!!と朱くなった。

「あっ、あの、あのっ!!」
其処まで言って即座に、目にも留まらぬスピードででその手を引っ込めた彼女は真っ赤になったまま手をブンブンブンブンとあたふた振った後、いきなり頭を下げた。

「あのっ、えと、その、あのっ、ご、ごめんね!本当にごめん!!」
「…………あー……」
言われた涼人はと言うと、何故か一人で全力完結している美幸を前に鼻で小さなため息を付いた後首を捻った。

「いや……何を謝られてんのかがさっぱりなんだが……」
「えっ!?あ、えっと……だからその……勝手に手、握ったり……」
「…………勝手に、ねぇ……」
後半もはや声が消える寸前で聞き取るのが難しいくらいだったのだが慣れている涼人はそれを難なく聞き取り、傍らにあった服を着始める。

「気持ち悪かったかなって……その……」
「ふーん……んじゃ何か。お前は俺が手握られて“キモい、さわんな、近寄んな”って言うと思ってた訳か?」
「…………!」
涼人の言葉一つにつき美幸の精神的ダメージ9999と言った所だろうか。
一単語口にする度に美幸の表情が悲痛な物に変わって行き、最後には目の端に涙を浮かべながら目蓋をギュッと閉じている。

「はぁ……阿呆」
「みゅっ!?」
ポコッ。と、美幸の頭に涼人が軽いチョップを一発かました。美幸の口から妙な言葉が漏れ、恐る恐る前に居る涼人を見る。

「今更キモイ云々言うかっつの。そりゃちっとはビビったがよ……別に、手ぇ握られたぐれぇで騒がねえよ」
呆れ顔言った涼人に、少し美幸はポカンとしている。そして、次いで涼人が考えるように上を向きながら、あるいは美幸から目を反らしながら続けた言葉は……

「それに……まぁ、その、あー……なんだ……」
彼女を違う意味で、黙り込ませた。

「ありがとよ」
「……へっ?」

頬を掻きながら、他の人間には絶対に聞こえないであろう声量で発されたその言葉はしかし、美幸の耳にはしっかりと響き……

「「…………」」

……

…………

………………

「青春ねぇ……」
「「!!!」」
「あっ!安岐さん!」
「駄目ですよ今声出したら!!あっ!」
時既にタイムオーバー。暫くこの光景を眺めていようと思っていた和人と明日奈の陰謀は、安岐さんの一言によって挫かれたのであった。

────

「さてと、んじゃお前ら二人の処分は後にするとしてだ「えー、兄貴達が勝手に」だ・ま・れ!!」
「はい……」
不満そうに口を尖らせた和人を、涼人は無理矢理黙らせる。と、若干急いだような様子で早口になり、涼人は言った。

「とりあえず、カズは菊岡のおっさんに報告頼む。俺は今からシノンの家行ってくるわ」
「えっと、俺も行った方が良くないか?ってか、アイリさんは?」
「あ?あぁ。ほらよ」
「ん……?」
言いながら涼人は携帯端末を取り出すと、和人に見えるようにその画面を向けてくる。和人が覗き込んだ其処には、メールの画面が表示されていた。


sb:ヤッホー!
本文:今日はお疲れ様ー!

最後まで白熱してて、色々有ったけど楽しかったです!


たった今、家の中を確認したけど中にはだれも居ませんでした。逃げたのかな?今家中の鍵を確認して、警察に連絡したので、多分こっちはもう大丈夫だと思います。シノンの方何とかしてあげて下さい。

それじゃまたね!


PS
お願いって言うのは明日か明後日位に言います。よろしくね。


「……この、お願いってのは?」
「あ?知らね。なんか有るらしいぜ彼奴から」
「(ピクッ)」
あっけらかんと言った涼人の後ろで、美幸が肩を少しだけ動かしたのを苦笑して見ながら和人は話を続ける。

「分かった、で、シノンの家に行くのか?けど兄貴住所……は、そうか、知ってるよな」
「え?」
「え、リョウ何それどういう事?」
「あ?」
何やら過剰に反応した二人に、涼人は一瞬首を傾げてから納得したように言った。

「あー。説明してる時間が惜しいな……後でちゃんと説明する」
「はは……まあシノンも大丈夫だとは思うけどな。近くに住んでる男の友、達……に……?」
「あぁ。まあ彼奴……は……?」
和人と涼人は話しながら、表情を変えて虚空を睨んだ。

彼らはそれぞれの方法で、「彼」の事を知っていた。和人はシノンの家の近くに住む、彼女の友人として。
涼人は詩乃の友人であり、彼自身の友人としても。

そして同時に、彼等はある共通の事実を知っていた。
即ちかの少年が、「病院の息子」である、という事実だ。


……さて。


和人と涼人の予想では、死銃はフルダイブ中の殺害対象に対して、「何らかの薬物を注射」して、標的を死に至らしめた事になっている。
ならば、である。死銃はその致死の弾丸たる薬物を、一体どうやって入手したのだろう?

注射を使う。と言うのは、単純な話点滴を打っているのでも無い限り、それ以外に標的の体内に薬物を投与する方法が無いために予想された方法である。
では、その注射器はどうやって?

注射器、薬物、この両方を揃えるのは、あまり簡単な事ではない。特に、人間を死亡させる恐れのあるような法律で使用が厳しく制限されているような「致死性の薬物」であればそれは尚更だ。

仮に盗み出すにしても、それは容易な事とは到底言い難いだろう。それこそ……「“病院”か大学の関係者でも無い限りは」。

「……っ!」
「クソッ!」
バンッ!と音を立てて、涼人は体に付いていた残りのパッチを少し強引に取り去ると立ち上がり、上着を取ってドアまで行き……其処で振り返った。

「キリトっ!お前は今すぐ菊岡に連絡しろ!多少強引でも良いから無理やり分からせてパトカー寄越せ!」
「わ、分かった。って兄貴俺も……」
「来んなっ!一人の方があっちじゃ多分有利だからな!」
「わ、分かった!気を付けてくれよ……!」
最後の一言は焦りよりも真剣味の強い声で放たれたそれに、涼人は苦笑気味ながらニヤリと笑って答える。

「あいよっと!あぁそれと……!」
それを言う一瞬前だけ、涼人の笑みが濃くなった気がした。

「説明よろっ!」
言って、涼人は走り去り、残った和人の前には……

「「…………」」
「あららぁ……」
状況が全く飲み込めずにポカンとしている少女二人と、面白がるように苦笑を浮かべている看護士一人の姿が有った。

――――

『クソッ……』
内心で自分に悪態を付きまくりながら、涼人は走った。
今予想出来る最悪のイメージ。これはあくまでも、イメージでしかない。
あくまで今から詩乃の家に向かう理由は、アイリの家と違って詩乃の家にまだ死銃の実行役が残っている可能性が有るからだ。だから急ぐのは当然だ。そう、涼人は考えたかった。

『頼んでもねェのに勝手に働いてんじゃねぇよ……』
しかし涼人の頭の中では、今もまだ鳴りやまない警鐘がガンガンと響いて居た.
この状況はマズい。急げ、急げ!と、頭の中で自分の信頼する勘が叫んでいる。だからこそ、涼人はより一層地を蹴る脚に力を込めた。

「…………」
願わくば、自らも友人と思った少年が無実である事を祈って。

────

「朝田さん、居る?僕だよ。朝田さん!」
つい先ほどBoBから現実世界への帰還を果たしたばかりの詩乃の部屋に、にぎやかなノックが響いた。
自室に未だに殺人者の肩割れが残っている事を警戒していた詩乃は、慎重にドアに近づき、サンダルを踏み石代わりにのぞき窓から外を見る。
しかし警戒するまでも無く、それは今から携帯で呼ぼうと思っていた友人の姿だった。

「新川君……?」
ドア越しで一応呼ぶと、すぐに何時もの少し高めな声が遠慮がちに返ってくる。

「あ、う、うん。ごめんこんな時間に……その、少しでも早くお祝いが言いたくて。これ……コンビニので悪いけど、ケーキ、買って来たんだ」
覗いて居たレンズから、今度はケーキの小箱が見えた。

「は、速いね、随分……」
呆れたような、驚いたような声で詩乃は言った。大気空間での待ち時間を合わせても、まだ大会終了からは五分立っていない。
恐らく家から来たのではないだろう。この近くの公園かどこかで、携帯端末で大会を見ていたに違いない。ある意味では、ゲーム内でもAGI型の彼らしいと言えばらしいか。

「ちょっと待ってね。今開けるから」
部屋着なので少々格好はだらしが無いが、まぁ仕方ない。チェーンロックにかけていた手を外して代わりにドアノブを取って扉を開くと、そこにはにかむような笑顔を浮かべた新川恭二が立っていた。
新川はジーンズとジャケットの重装備に身を固めているが、詩乃は外気に触れた手から凄まじい冷気を感じて身を震わせる。

「うわ……凄く寒いね……速く入って入って」
「う、うん。お邪魔します……」
少し首を縮めながら、新川は部屋へと足を踏み入れた。

────

「何処でも適当に座ってて……あ、何か飲む?」
「あ、いや。お構い無く」
「疲れてるからそう言う事言うと本当に何にも出ないよ」
「あははは……じ、じゃあ、適当に……」
恭二が言うと、詩乃は軽く微笑んで台所で何かを準備し始めた。その後ろ姿に向かって、恭二は口を開く。

「大会……お疲れ様。凄かったよ、ホント……やっぱり、凄いや、朝田さん……シノン……」
「……ありがと」
何となくくすぐったさを感じた詩乃は短くそう返すと。しかし少し考え込むような言葉で言った。

「でも、今回の大会って……あ、中継見てたなら気が付いたと思うけど、ちょっと色々変な事が有って……もしかしたら、大会自体無効。って扱いになったりするかもしれない……」
「えっ……?」
「あのね……えっと……」
其処まで言って、詩乃は迷うような表情で少しの間何かを考え込む。しかしやがて、顔を上げて誤魔化すように言った。

「ううん。何でも無い。ちょっと変なプレイヤーが居たってだけ」
そう言って、詩乃は一旦リビングへと戻ってきた。どうやらやかんを火にかけているらしい。

「ふぅ……」
「朝田さん、もしかして疲れてる?」
「え?」
言いながら、恭二は着ていたジャケットのポケットに手を入れる。其処には分かって居た通り、少し金属質なプラスチックの感触が有った。
詩乃は少し考えるようなしぐさを見せた後、苦笑して言った。

「うーん、ちょっと、ね。ほんとに、今度の大会、色々あったから。あぁ……でも……」
「?」
「……ほんとに、ホントに大変だったんだけど……でも今度の大会は、出て、正解だったな。って思うよ」
「…………」
言いながら、詩乃は少し自嘲気味に微笑んだ。

「その……今までずっと、GGOで一番になったら、ホントに強くなれるかな。って思ってたけど……そう言う訳でも、無かったみたいで……」
「?どう言う事?」
「うーん、何て言うかね、その……私、大会中に例の発作が起きそうになって……その時、私の近くにいた三人に、凄く助けてもらったの」
ゆっくりと、思い出すように、詩乃は言葉を紡いでいく。

「その時、一人に言われたんだ……“自分の過去から逃げるな”“苦しかったら支えてやるから、その原因と向き合え”って……」
「…………」
「結局、昔の事って、忘れたくても忘れられないみたい。……だから、もう少し、今度は違う形で、頑張ってみようかな。って思えてね……一人で頑張るのも、しんどくなって来てたし……あ、勿論、新川君は色々私の事助けてくれてたけど」
慌てたように言う詩乃に、新川は苦笑して返した。

「ううん。僕なんか全然何も出来てないから。良かったじゃない、朝田さん。でもそれじゃあGGOは……」
「あ、ううん、その辺りはまだ……でも、今までとは少し違う頑張り方もいいかなって、ね……その……新川君も、色々、これからもよろしく」
「…………」
詩乃のその言葉を、新川は俯いて聞いて居た。同時に、ポケットの中で手を掛けていた物に、力を込める。

「……やっぱり、駄目か……」
「え……?」
すぐ目の前にいた詩乃ですら聞こえないほどの声量で呟かれたその言葉。聞き逃した詩乃は聞き返すが、それに新川が答える事は無く……

「…………」
新川はゆっくりとその場から立ち上がる。

「……新川、君?」
「……朝田さん」
ポケットに手を入れたまま、立ち上がり、見下ろすような形で自分を見た新川から言いようの無い圧迫感のような物を感じて、詩乃の言葉が少しだけ震える。




「僕、今日はもう帰るね」
しかしそんな新川から次に出た言葉は、何時ものはにかむように微笑んだ言葉だった。
不意打ち気味なその言葉に一瞬硬直してから、ようやく脳が思考能力を取り戻し、詩乃は首をかしげる。

「え、えぇ?だって、まだケーキ食べてないじゃない。それに、もう少しでお湯湧くよ?」
「あ、あはは……ごめん、ちょっと親から呼び出し掛かったみたいで、さっき見たら、携帯にメールが来てたんだ」
苦笑気味にそんな事を言った彼に、詩乃は吹きだす。

「そりゃ、こんな寒い中夜なのに外に居る。なんて言ったら、親御さん心配するよね、でもせめてお茶の一杯くらい飲んで行ったら?」
「あはは……大丈夫大丈夫。身体も少し冷えてた方が体感温度そんなに寒くならないし、走って帰るよ」
照れたように笑うその表情は、何となく何処か垢ぬけていて、詩乃は素直にそれを好意的に受け止めた。

「そう?ならまぁ、良いけど」
「うん。ごめんせっかくお湯湧かしてもらったのに……あ、ケーキは二つとも食べちゃって良いからさ」
「……それ、もしかして私が太るって分かってて言ってる?」
「あ、ご、ごめん……!!」
予想以上に慌てた新川に、詩乃はまたしても小さく吹きだす。

「良いよ別に。二日に分けて食べるから。あ、もしかして消費期限今日?」
「あー、えっと……うん」
「……はぁ」
「申し訳ありません……」
深々と頭を下げた恭二を見ていると、やはり何となく笑ってしまいそうになる詩乃だった。

玄関で靴を履き、外に出ると新川は一度振り返る。

「それじゃ」
「うん。またね」
微笑みながらそう言って、詩乃はドアを閉じようとする。其処に……

「あ、朝田さん!」
「え?」
少し大きめの声が響いて、詩乃は驚きながらドアを閉じる手を止める。真剣な顔をした新川が、ドアの外に立って此方を見ていた。

「その……っ」
しかし……その顔はすぐに、何処か自嘲気味な、何時ものはにかむような苦笑に変わる。

「……やっぱり、何でも無いよ。ごめん。さよなら、朝田さん」
「う、うん。お休み、新川君」
そう言って扉を閉じる。しかし何故だか、扉が閉じるその瞬間に、一瞬だけ、躊躇いを感じた自分が居た。

────

「…………」
つい先程、数時間前の敗北以来、頭の中で、妙に冷静な自分が居た。
これまで固執していた自分を真っ向から否定された影響なのか、その冷静な自分は、此処に至るまでの自分を、ただただ見つめ直し、そうして、自分で自分の事を、客観的に見つめていた。
強さに、自分があこがれる少女に、唯一方的に執着し、そしてあらゆる不都合を何か自分で無い物のせいにしていた、自分を。

「…………」
気が付いてしまえば、彼は決して自分が正しい人間ではないと知っていた。そして同時に、自分がたどった道のりが、引き返すにせよやりなおすにせよ、今となってもうどうしようもなく手遅れであることも、理解できていた。

詩乃のアパートの階段を下った所で、もう一度少しだけ上を見る。
今まで自分が執着し、憧れと言いながら自分がする事の言い訳と目的の為に良いように使ってきた、つい先ほどまで、自分が潰そうとしていた、優しい同級生が暮らすその部屋の窓には、相変わらず、灯りが灯っている。

「……」
ほんの少しだけ頬が緩んで、また自虐的な笑みを彼は浮かべた。


──もし、次の世界が有ると言うのなら──

『新川君も、色々、これからも、よろしく』
「……ありがとう、朝田さん」

──其処へは、自分一人で行くべきだろう──
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか!?

というわけで意外にもさらりと詩乃さんへの危険は去りました!
一件落着!!

これで後は、あれをああしてこうするだけですね。
あー、また菊岡さんの面倒な説明入れんのか……だるい。

ではっ! 
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