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久遠の神話

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第四十三話 病院にてその十二

「止めないといけないかな」
「若しもよ。中田さんが勝ったら」
「ご家族は助かるよね」
「うん。けれど戦いは」
 止められない。無益に犠牲者だけが出る戦いはだというのだ。
「続くね」
「この戦い自体は」
「本当にどうしたらいいのかな」
 沈痛さは増していた。今は考えれば考える程死が深くなっていた。
「僕は。本当に」
「神父さん達とお話してみる?」
 ここではこう言う樹里だった。
「まずは」
「神父さん達と」
「ええ。そうすれば何かわかるかも知れないから」
「そうだね。それがいいね」
 上城は沈痛な面持ちのまま樹里のその言葉に頷いた。
「ここはね」
「そうしよう。じゃあ今はね」
「帰るんだね」
「そうしよう。お見舞いも済んだし」
 二人の本来の目的は既に済んでいた。もっと言えば友人の怪我は大したことはなく後遺症もないとのことだった。このことは二人にとってはいいことだった。
 それでだ。樹里もこう言ったのだ。
「帰ろう。もうね」
「そうだね。けれど」
「けれどって?」
「これ」
 上城はようやく思い出した。それはというと。
 二人が手にしているものだった。それはドリンクだった。
「これ飲んで帰ろう」
「あっ、そうだったわね」
 樹里もここで気付いた。自分もその手に飲みものを持っていることに。
 見れば紙コップの中の飲みものはもう冷えていた。しかしまだ持っているならばだった。
「じゃあ飲んでね」
「それから帰ろう」
「そうね。それじゃあね」
 こうした話をしてだった。二人は帰路についた。上城は程なく家に戻ったがすぐに両親にこう言われたのだった。
「御飯できてるわよ」
「早く食べなさい」
 母だけでなく父も言ってくる。
「それもしっかりとね」
「残したりするなよ」
「うん。父さんも帰ってるんだ」
 台所の傍のテーブルのところに制服のままで来てもうそこに座っている父を見て言った。母はまだ台所で色々としていた。
「今日は早いんだね」
「やっと仕事が一段落ついたんだよ」
 父はほっとした様な微笑みで息子に話す。
「本当にな」
「そうなんだ」
「全く。課長というのも大変だぞ」
 今度は苦笑いでの言葉だった。
「中間管理職はな」
「それ最近いつも言ってない?」
「だろうな。覚悟はしていたがな」
 だが実際になってみるとだというのだ。
「いや、本当にな」
「なってみると実際になんだ」
「そうだ。何でも実際になってみたりやってみるとな」
 違うというのだ。父は上城に話す。
「それでわかるものだ」
「そうだね。それはね」
「御前もわかるな」
「うん、何となくだけれどね」
「剣道でもそうだな」 
 父は笑いながら息子に話す。剣士のことは当然知らないので彼がしている部活のことを言ったのである。
「実際にやってみてだな」
「本当に何となくだけれどね」
「そうだな。じゃあ早くテーブルに着け」
 父は優しい声と顔で息子に言った。
「そろそろ御飯だぞ」
「うん、それじゃあ」
「待ちなさい」
 しかしここで母が彼に言ってきた。
「あんたまだ着替えてないじゃない」
「だからなんだ」
「そう。まずは着替えてね」
 それからにしろというのだ。
「テーブルに着きなさい。いいわね」
「うん。それじゃあ」
「まずはそれからよ」
 こう息子に対して言う。おかず、鶏肉を茹でて中華風に味付けしたうえで切ったものを大きな皿に置いてから出したものをだ。
 それと味噌汁にもやしとゴーヤを炒めたものを持ってきてそれから息子に言ったのだ。
「御飯はね」
「うん、じゃあまずは」
「御飯を食べたらね」
 母はそれからどうするかもミ息子に話した。
「お風呂に入りなさい」
「うん、じゃあ」
「とにかくまず着替えなさい」
「制服のままじゃ駄目なんだ」
「汚れるじゃない」
 食べ物を落としたりしてそうなるというのだ。
「だからね。いいわね」
「わかったよ。それじゃあね」
 息子も母の言葉に頷き一旦自分の部屋に向かおうとする。その息子に和風の軽そうな身なりの父が笑顔で言ってきた。
「早く来いよ。待っているからな」
「うん。それじゃあね」
 上城は父の言葉にも頷いた。そうしてだった。
 家族の温かさと有り難さも実感した。そこに幸せがあることも深く感じたのだった。


第四十三話   完


                   2012・8・17 
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