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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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ALO編
  episode5 旅路、風妖精領

 俺が旅を初めてはや数週間。

 世間では年末年始を挟み、忘年会新年会のシーズンだ……が、生活態度的にはニートの俺には関係ない。案の定四神守家の新年のうんぬんかんぬんもお呼びはかからず、正月はのんびりと自分のステータスアップと戦闘訓練に費やせた。ん? 何か問題でも? ニート? 望むところだ。

 正月ぼっち? ああそう言えば、食うつもりは無かったんだが牡丹さんがおせち持って来てくれたな。あの量は流石にちょっとビビった。ってか、本家の余りもんじゃなかったぞ、アレ。わざわざ作ったのか? ありがたいが、なにが彼女にそこまでさせるのか、ちょっとした恐怖すら感じるぞ。

 さて、そんなこんなでALO。

 俺はアルヴヘイムの各領の主都は勿論、かなりの数存在する中立村も結構な数を訪れて旅をしていた。そんな中で、寂れた村ものどかな村も、勇壮な城もおどろおどろしい街も見てきたわけだが、その中で最も美しい街は、と聞かれれば、俺はこう答えるだろう。

 風妖精(シルフ)領の首都、翡翠色の尖塔、スイルベーン、と。





 「すっげえな……」

 思わず感嘆の声を漏らして、夢中でスクリーンショットをとる。陽光を受けて輝く緑色の尖塔の積み重なったその街は、俺の今まで見てきたあらゆる景色の中でも間違いなくトップスリーには入る絶景だ。緑を基調としていて目にも優しいしな。間違いなく俺の書く「ALO旅行記(仮)」の彩の一つとなってくれるだろう。

 さらに有難いことに、シルフはそこまで行商に目くじらを立てることは無いようであった。行商だと告げればPKはおろかまともな警戒すらされることも無く、火妖精(サラマンダー)領の時と比べればその苦労は天と地どころか地球とお空の星くらいの差があった。

 さらにさらに、加えて。

 「うわーっ、この音楽いいなあーっ! しっとりした感じでさ」
 「あ、その曲ですか!? その曲だったらね、入れた魔法瓶があるんですよ! あ、でもそれ、ちょっと値段のほうが……」
 「ええっ、ホント!? 買う買う、私こう見えても古参だし、懐は割と余裕あるんだよ!」
 「そうですか? なら、この音楽もお勧めです! いい感じのムードで、踊りとかにあう感じ!」
 「踊りかあ……いいね!」
 「り、リーファちゃん、あんまり買いすぎると……」
 「いーの、私が稼いだ分なんだから! レコンに迷惑かける訳じゃないでしょ?」

 一部のシルフは、積極的に馴染んでいるようだった。

 モモカの今回の客寄せ用音楽は、以前の様なソロ演奏ではなく楽器達を使った即席バンドでの演奏。音楽妖精(プーカ)の特殊技能の一つ、『楽器の自動演奏』だ。特殊な支援効果をもった戦闘用の演奏こそ出来ないが、楽譜さえあれば自動で楽器がそれを演奏してくれるという、「作曲家用システム」だが、一人でたくさんの楽器を同時に演奏できるのは、こうした行商の場ではとても便利だ。

 その裏付けとして、彼女のストレージは殆どが音楽関係で埋まっている。ギター、ベース、横笛、ヴァイオリンとかはまあ許すとして、ドラムはどうなんだ。重量が流石にバカに無らんだろう。かくいう俺もストレージのほぼすべてが行商用の武器防具やアイテム、各地の特産品だから、人のことは言えないが。回復呪文までカバーするブロッサムがいるからアイテム類が少なくて済むのもあるが、それでも探索用アイテムを彼女以外まともに使っていないのもどうかと思うんだがな。

 「ほう、この宝玉の効果は高いな。買おう」
 『どうぞ』
 「これは、火属性防御か。最近サラマンダーがよく突っかかってくるからな。俺も備えとくか」
 『ありがとうございます』

 ブロッサムは、相変わらず無言……いや、ウィンドウでの会話で販売をしている。彼女の販売するアイテムはそれほど多くないがかなり出来のいいものばかりらしく、どこでもそれなりに商品が捌けている。それにしてもその作成アイテム、いつ作ってるんだ? もしかして午後もダイブしてんのか?

 『どうなさいましたか? こちらを見ても利はありませんよ』

 無表情のその横顔と双眸からは、何も読み取れない。そう言えばモモカが言っていたが、別に喋れないのではないらしくモモカは何回か喋ったことがあるらしい。なんだ、俺の前では喋りたくないってかそうですかいいけどね。

 とにかく、ガタンでの行商に比べると、順調そのものだった。
 まあ敢えて面倒事を挙げるとするならば。

 「貴様、この特産品は、サラマンダー領のものではないのか!?」
 「な、なんだってっ!? こ、こいつら、スパイなのか!?」

 俺が不用意に広げた、ガタン特産品に気付かれてからだった。





 はああ~、と大きく吐き出したダイブ一発目の息は、溜め息だった。なんか最近、また溜め息の頻度がうなぎ上りに上昇しているような…。幸せ云々は、考えるだけ時間の無駄だ。

 「ったく、まいったね……」

 午後、俺はまた一人でダイブしていた。

 有難いことにモモカと仲良くなっていた数人のシルフが庇ってくれたおかげでスパイ疑惑、果ては追放……の事態こそ免れたものの、疑惑を掛けてきた奴が結構執政部のお偉いさんだったらしく、「領内を好き勝手に動きまわらないようにな」と釘を刺されてしまった。そうなれば俺の目的である「アルヴヘイム内での隅々までの探索」は大きな制限を受けてしまう。

 まあ、正直あんまり……いや全く、聞く気はないが。ハハハ。

 「とりあえず、行きますかね」

 ダイブ早々、ゆっくりと伸びをして、肩を回す。

 うん、やっぱ午後のダイブはいいな。ナーヴギアのおかげで体の感覚が僅かに、しかし確実にクリアだ。この感覚が、午後のソロプレイで俺を生かしている一因であることは間違いないな。午後なら転倒や見切りのミスが大分減ってきている。

 「うし」

 一言気合いを入れて、ゆっくりと宿のドアを開ける。男一、女二のパーティー構成のおかげで、俺は宿をとる際は大概一人部屋だ。脱走、もとい出かけるのは容易いし、万一相手もダイブしていても(ブロッサムあたりは昼間に多分部屋で『裁縫』や『細工師』の作業をしている危険が高いと俺は睨んでいる)バレることは無い。

 街へとくり出すべく、そっと宿のドアを開け。

 「およ? シドさんどうされたんです?」

 全く同じタイミングで隣室のドアを開けたモモカと、ばっちり目があった。





 「それにしても、シドさん、」
 「だーから今日だけちょっと暇が取れたんだって。いつもしてるわけじゃねえよ」

 まあ、嘘だけどな。そしてブロッサムの視線が痛い。ばれてるはず無いんだが。

 「それにしてもシドさん、どうするつもりだったんです? あんまり出歩くな、って言われてたんですよね?」
 「その言葉、そのまま返そう」
 「私はリーファちゃんにスイルベーン領内をいろいろ案内してもらう約束してたんですよ! 実は結構凄腕らしいから、簡単なダンジョンくらいなら行けるって言ってたしね!」
 「んじゃあ俺もついていっていいか?」
 「ホント!? それなら嬉しいですよ、一緒に行きましょう! ね、ブロッサムさんもいいですよね!」
 『無論です。リーファお嬢様も異論はないでしょう』

 瓶底眼鏡の奥の目が目まぐるしくその感情を表し、最後に満面の笑顔を形作る。うん、有難いことに最初に聞かれた「今日の目的」への意識は忘却の彼方へといってしまったらしく、案内人無しだったら『透明化マント』のお世話になる予定だったのはバレずにすんだ。ブロッサム、その目はなんだ? 言いたいことがあれば聞くぞ?





 「で、結局五人ともなんだ」
 「うん! どうかな、ちょっとキツイかな?」
 「ううん!この人数だったら、ちょっと難しい中立域ダンジョンとかも行けるかな?」
 「えぇ~、中立域まで行くの~? PKとかされたら嫌だよ~」
 「ウジウジ言わない! 嫌なら別にあんたはついてこなくてもいいわよ」
 「そんなぁ~……」

 辿り着いた先に待っていたのは、二人のシルフだった。一人は、女……モモカの音楽を熱心に聞いていた子の一人だった。くっきりした眉に、気の強そうな瞳。目鼻立ちのはっきりしたたおやかな美人……と、美少女の中間くらいの少女。腰には長い日本刀の形の長刀を携え、背中にはシルフの証である薄緑色の燐光を纏った四枚の羽根。

 名前は確か、

 「リーファ、だったっけ?」
 「うん、よろしく! そっちは、ブロッサムさんと、……」
 「シド、だ。よろしく。んで、そっちは、」
 「レコン、です~……」

 もう一人、困ったような形の眉の少年が、ますますハの時に眉を寄せながら言う。どうやら役割的に突っ走る彼女のフォロー担当らしく、既に相当に気疲れしているのが分かる。まあその気持ち、俺にはよく、よ~く分かるぞ、少年。人生の先輩として意見するとしたらまあ、そこは仕方ないと割り切って頑張ることだな。

 聞こえはしない助言を心の中で呟く。

 「うん、それじゃあ、『古森』を抜けた先の、『風の啼く岬』に行こっ! すっごいきれいなトコだし、きっとスクリーンショットとかにいいと思うよ! 上まで飛べばアルヴヘイム全体も見れるし、いい景色見れると思うから!」

 ……モモカの奴、俺がスクリーンショット中心で仕事に来てるってばらしやがったな。

 ネットゲームという環境は、仕事で来ているような奴に対してあんまりいい顔をしないプレイヤーが圧倒的に多い。今回のように忌避感無く受け入れてもらえるのは、かなり幸運だ。その辺踏まえて、ちょっとモモカには気軽に言いふらすなと説教せんとな。

 「ああ、そうしてもらえると助かるよ」

 まあモモカは後でしめるとして、リーファの提案は悪くない。
 いい景色があるならいい資料になるし、そろそろ時期的にも原稿を仕上げはじめないとだしな。

 「んじゃあ、さっそく出発しよう! 今から行けば、夕焼けに間に合うかも! レッツゴー!」
 「ゴー!!!」

 二人の少女が威勢よく拳を突き上げる。

 ……うん、まあ、モモカはノリノリだろうな、あの性格だし。俺を「一緒に『ゴー』しないのー?」の目で見るのは頂けないが。そしてブロッサム、『ゴー』ってウィンドウに打つのはどうなんだ。ノリがいいのか悪いのかどっちなんだ。

 やれやれ、と一息溜め息をついて……自分の口が笑っていたことを知った。

 ―――これだけの大人数は、ひさしぶりか。

 思えば俺は昔は、こういった雰囲気が、嫌いじゃなかった。そんなことを、ふっと思い出した。どう嫌いじゃなかったか……或いはどう好きだったかは、今はもう思い出せなかったが。そんな遠すぎて届かない記憶を、口元の微笑みとともにゆっくりと心の中にしまい、俺は皆のあとを歩き始めた。
 
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