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ワルキューレ

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第一幕その九


第一幕その九

「貴女が名付けて下さい」
「私がですか」
「そうです。貴女に名付けてもらいたいのです」
 ジークリンデ自身によってだというのだ。
「どうか」
「では尋ねます」
「はい」
「貴方は貴方の父をヴォルフェと呼びましたか」
「臆病な犬達には狼でした」
 それだというのである。
「ですがその目は誇らかに、貴女のそれと同じ様に」
「私と同じ様にですね」
「そうです、気高く光り輝いていたその人はヴェルゼと呼ばれていました」
「それではです」
 それを聞いてジークリンデはわかったようだった。
「貴方の御父様はヴェルゼで貴方がヴェルズングの一人なら」
「はい」
「父は貴方の為にその剣をここに残しておいたのです」
「この剣を」
「間違いありません」
 今二人はその剣を見て話をしていた。
「それでは私は名付けましょう」
「私の名を」
「いえ、思い出したその名前を」
 言うというのである。
「貴方を愛する者として。ジークムントと」
「ジークムント」
「そうです」
 それだというのである。
「それこそが貴方の名前です」」
「私はジークムント」
 今その名前を己に刻み込むのだった。
「では私はこの剣を」
「はい」
「それを握りましょう」
 今それを実際に握り締めたのだった。
「ではその剣により私は己の窮地を救います」
「はい、その時の為の剣なのですから」
「いと聖なる愛の最高の危急の時に」
 彼はまた言った。
「憧れの愛の迫る危急の時に」
「どうかその剣を」
「危急が我が胸にも絵師を賭しての行為に追い立てる」
 その言葉と共に剣の柄を握った。
「この剣の名も今わかった」
「その名前は」
「ノートゥング!」
 それだというのだ。
「尊き光よ。その刃の輝きを私に見せるのだ」
 その言葉と共に力を入れる。すると。
 抜かれた。白銀の光が今や式の中を照らし出した。まるでその剣そのものが光を出しているかの様に。今輝きを放ったのであった。
「今からヴェルズングのジークムントが御前を持つ。父は私達の剣として御前をここに残してくれたのだ」
「私達を」
「そう、だから」
 ジークムントはさらに言うのだった。
「私は今ジークリンデを妻とする」
 このこともだった。
「敵の家から救い出し春の微笑む家に赴くのだ」
「春の中に」
「ノートゥングが護る。例え私が愛の為に死のうとも」
「では私もまた」
「花嫁にして妹よ」
「夫にして兄よ」
 互いを見詰め合い言い合うのだった。
「かくてヴェルズングの血よ栄えるのだ!」
「私達と共に」
 恍惚とした声で言い合い屋敷を後にする。今運命が大きく動き出した。
 
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