イナズマイレブンGO AnotherEdition
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第1部 シード編
第4話『怒れる獣』
前書き
どうも皆様!ポセイリヴァです!
今日も早速第4話目!駄作+駄文+低クオリティーなんですけど、どうか一度でも読んでいただけた方、本当にありがとうございます!
今回は見事シードとなった龍野がこれからどうなっていくのか!?ぜひ見ていただくと嬉しいです。
見事にシードへと昇り詰めた龍野を始めとする実力を持つ選手達。しかしシードとなったからと言って、この訓練場をすぐに出る訳ではない。シードとなった者は、フィフスセクターの監視者として、転校という形で各地の学校に入学し、その学校のサッカー部に入り、フィフスセクターの支配下とし、その準備が整うまでの間は各自自由訓練を行っている。龍野の方でも、他のシードとのPK対決を行ったりなど毎日練習を欠かさず、より自分の能力の向上に励んだ。
「さ~て、今日も練習!練習!」
『あの、龍野海君、だよね?』
「?」
いつものように練習を行うとする中、突然後ろから掛けられた声が、グラウンドに上がろうとする龍野の足をピタリ、と止める。
「あぁ、ごめん!今から練習だったんだね」
「嫌、別に大丈夫だけど?それよりアンタは?俺に何か用?」
練習しようとした事に悪気を感じ、平謝りをする少年。龍野より同じぐらいの背で茶髪の髪と、ニコニコとした表情が特徴的で、どこか大人しそうな雰囲気を持つ少年だった。
「僕の名前は、熊井寺門。皆からはクマって呼ばれてるんだ。よろしくね?」
大人なさしそうな彼は、どちらかと言えばクマと言うよりは、タヌキだろう。名前を聞き、聖帝であるイシドがシードになった者を発表した時、彼の名前も挙がり、自分と同じシードである事を龍野は思い出すが、その彼が自分に声を掛けたかは知る筈もない。
「え~と、じゃぁよろしくなクマ。で?俺に何か用?」
「うん、実はね、ちょっと君に相談したい事があったんだけど……けど、練習の邪魔だよね?やっぱり辞めとくよ」
「大丈夫だって!俺にできる事があれば何でも相談に乗るぜ?」
「でも、君だって練習──」
「平気だって、折角訪ねてくれたんだし、話してくれよ?」
「う、うん。それじゃあね、君に相談したい事って言うのはさ」
相談を聞いてくれると言った龍野が嬉しかったのか、明るい様子で彼は龍野に、自分の心の中にある悩み事を打ち明けた。
「実はさ、僕。シードになったんだけど、なんか周りから認められてないって言うかさ」
「認められてない?」
「そうなんだよ、訓練生達から『何でお前がシードになれて、俺はシードになれないんだ』みたいな事言われてさ、同じシードの人達からも、『お前みたいなのが俺達と同じシードだなんて、マジあり得ねぇ』とかさ」
「そいつは酷いな。お前だって努力してシードになってるって言うのに」
「ありがとう。そんな事言ってくれる多分君ぐらいだよ」
「そうか?だって俺は努力してやっとシードになれたのが嬉しかったんだ。お前もシードになる為にひたすら努力したんだろう?そしてその結果シードになれたのに、周りが認めてくれないなんて酷い話じゃんか!」
「ありがとう。やっぱり君に相談できてよかったよ。でも仕方ないんだ、努力はしたけど周りと比べて自分がまだ劣ってる事は自覚出来てるし、自分でもまだシードとしては未熟なんじゃないかな?とも感じてるし」
「でも」と付け足しながら、なおも言葉を続けていく。
「どんなにボロボロになっても訓練、そして訓練後の練習を必死にやり続け、そして見事に強力な必殺技と化身を繰り出して、みんなに認められたシードの龍野君を見て思ったんだ。僕も君みたいに周りに認められるようなプレイヤーになりたいって!」
「へぇ~、ってちょっと待て!訓練後の練習って、まさかお前見てたのか?」
「あっ、ごめんね!何か磯崎君と戦った時に始めて君を見たんだけど、どうも気になって、それから訓練時間が過ぎても君の姿を見かけなかったのがつい気になって、それでシードの浪川さんと練習してる君の姿を見ちゃってさ」
口を滑らしてしまい、隠しきれないと思ったのか正直に話し、練習を覗いていた事を申し訳なさそうに謝り、それに対して龍野は練習を見られていた事にどこか恥ずかしそうな様子。
「何か見られてたって言うと恥ずかしいな。まぁいいけど」
「あの本題に戻るね、それでさ、もし良かったら僕に練習つけてくれないかな?僕も龍野君みたいに、皆に認められる実力をつけたいんだ。欲も言うなら化身も出したいし、誰よりも強くなりたい」
そこまで言いかけた時、「ハッ!」とした様子で慌てて口を一旦止める。
「ごめん!つい熱くなって!!図々しかったよね。本当にごめんね、こんな事頼めるの龍野君ぐらいしかいなくて」
「大丈夫だって!むしろ俺を頼って来てくれるなんて嬉しいし、俺でよければ喜んで練習付き合うよ?頑張って、皆を見返すぐらい強くなろうぜ!」
簡単に承諾してくれた事が意外だったのか、少しだけ驚いた様子だったが、すぐに「ありがとう!」と、龍野の手を握りながら嬉しさを表現している。
「まぁまずは簡単にボールの奪い合いからやろうぜ?俺をドリブルで抜けるかどうか!」
「うん、手加減なしで行くよ?」
「勿論!俺も全力で行くぜ!」
グラウンドに上がるなり、早速練習に取り込む二人。まずは軽いボールの奪い合いから始め、ドリブルで進んでいく熊井の前にボールを奪おうと立ち塞がる。
「簡単には抜かせないぜ!」
「フフッ、行くよ!」
その言葉と共に足元にあるボールにスピンを加え、スピンを掛けられたボールは回転により土煙を上げ、その煙は二人の周りに広がり、龍野の視界を奪う。
「!、ど、どこだ!?」
「見切れるかな?」
「ぐっ!……そこだ!!」
土煙の中、一瞬だけ影のような物が視界に移った瞬間、即座に右に飛び出していくが、実際は間逆で、熊井の姿は左にあり、煙が晴れる頃には龍野を抜き去っていた。
「なっ……!」
「どう?視界を隠す煙の中、相手の目の前に偽わりの影を見せて惑わせるオフェンス技!まるでタヌキが人を化かして身を隠してるように、これが僕の必殺技、”隠煙だよ」
「すげぇ!すげぇよ!こんな必殺技持ってるなんて!!」
「い、いや~全然大した事ないよ」
「何言ってんだよ、負けちゃったけどとても楽しい試合だったぜ?お前皆に認められるシードになりたいって言ってたけど、今のままでも十分強いじゃん!」
勝負に負けた事がどうでも良いと思うぐらい龍野は熊井が疲労した技に感動しており、熊井も勝負の勝利以上に、初めて自分の必殺技をここまで感激してくれる龍野の反応がとても嬉しかった。
「君だけだよ、そんな褒めてくれるなんて」
「そうか?俺はすごいからすごいって言っただけだぜ?」
「嬉しいけど、必殺技使えるのは僕だけじゃないからね。この程度じゃまだまだなんだよ。それに僕、シードになる前のチームではミッドフィールダーで、ドリブルとボールカットはある程度出来るんだけど、まだシュートとかは全然で、だから僕、君のように必殺シュートを覚えたいんだ」
「へぇ~、そうなんだ。でも俺も必殺シュート技しかないから、お前みたいなオフェンス技も覚えたいぜ」
「あっ!それなら、僕は龍野君にオフェンス技を覚えるための特訓!龍野君は僕に必殺シュートを教える特訓をつけるってのはどうかな?僕、龍野君に比べたらまだまだだけど、ドリブルだけは一番得意で、オフェンス技の特訓なら龍野君の力になれると思うんだ」
「いいの!?」
「うん、龍野君も僕の練習に付き合ってくれてるんだし、僕にもこれぐらい役に立たせてよ」
「サンキュー、クマ!じゃぁ早速お互い特訓しようぜ!」
「うん!」
こうして龍野は熊井によるオフェンス技の練習、熊井は龍野による必殺シュートを交互に行う練習が始まった。
「いいか!クマ!必殺シュートは体全体の力をボールに乗せるような漢字をイメージしてシュートしてみろ!」
「うん!頑張ってみるよ」
自分が浪川に教わったように、熊井にも同じ事を教えシュート練習を繰り返していき、まるで先生のような立場に居る今の自分をまんざらでもないように笑っているが、シュート練習を一通り終えると、その立場はすぐに交代する。
「ほら、ドリブルで優先するのはボールをキープするためのコントロールとテクニック。それがなきゃ幾らスピードが早くても相手に奪われやすいし、最悪ドリブルミスでボールを弾いちゃうなんて事もあるから」
「う~ん、これでもドリブルはできる方かなって思ってたんだけど」
「まぁ今のままでも悪いって訳じゃないんだけど、オフェンス技を覚えるのにボールコントロールとテクニックは必要だよ!さぁ、まずは僕をドリブルで抜くことから!」
「はぁ~、ニコニコした笑顔の割にはスパルタ」
「そんな事ないよ!ほら頑張ろう?」
交互に先生のような立場を交代しながら特訓を行う二人。互いに激しい特訓を行い、数日経つと徐々に変化が表れ始めた。
「そりゃッ!!」
「おぉっ!だいぶシュートの威力が上がってんじゃん!」
熊井のシュートの威力は増し、龍野はキーパー代わりに入っても止める事が出来ない程、力強いシュートを放てるようになり、その事に本人も龍野も嬉しそうに喜んでいる。
龍野の方でも特訓の成果が表れ、ドリブルはかなり上達し高いボールテクニックとコントロールを身につけ、再び熊井とのボールの奪い合いを行う。
「止めるよ!」
「へっ、行くぜ!!」
ドリブルで突き進んでいき、ブロックしようと止めに入る熊井にも足を止める事なく突っ込んでいき、そして力強く地面を蹴りあげた瞬間、必殺シュートを撃つあの時のように、また波が出現する。
「うおおおおぉぉぉぉぉ────ッ!!」
「!」
出現した波を滑るかのように、フィールドを高速で駆け抜け、そのスピードに止めに入ろうとした熊井の真横をあっさりと抜き去ってしまう。
「あ、あれ?俺、抜いたのか?」
今起こった事に、熊井を抜き去った事に実感を持てていない龍野だが、その勝負に真っ先に熊井は感激したように嬉しそうな様子で。
「やったよ!龍野君!!ついに完成したんだよ!君のドリブル技!!オフェンスの必殺技が!」
「!、や、やったんだ!俺!やったーーッ!!!ついにオフェンスの必殺技完成だぜ!」
「おめでとう龍野君!すごいね、さっきの技!」
「あぁ!お前のお陰だぜ、クマ!」
「いやいや必殺技を引き出したのは龍野君自身の力だよ。本当にすごい!みんなが君をシードとして認める筈だよ」
「そ、そうかな。ありがとう。でもさっきの技、名前なんてしようかな?」
「う~ん、波の上を滑るように、そして高速で駆けていくあのスピード、名付けるなら”ウォータージェット”っていうのはどうかな?」
「”ウォータージェット”!いいなそれ!いただきだぜ!」
新技であるウォータージェットの完成、そして又一つ強くなった事がとても嬉しく、ガッツポーズをしながら拳を突き上げる。
「さて!俺のオフェンス技は完成だ!今度はお前の番だぜ!!」
「うん、負けてられないね!僕も絶対必殺シュート完成させるよ?」
「その意気だぜ!クマなら絶対必殺シュートを完成させられる!!」
『こんなとこで何しようが無理に決まってんだろ?』
意気込もうとする二人に水を差すように、聞き覚えのある声が後方から掛けられる。反射的に振り返るとそこには、磯崎に、彼と同じシードである篠山ミツル、光良夜桜の姿が……。
「「磯崎(君)!?」
「龍野、テメェも物好きだな?そんな野郎の練習に付き合ってやってるとは……化身使いになれて、自分に余裕ができたからか?」
「お前、何しに来たんだよ?んな嫌味いいに来た訳じゃねぇだろ?」
「別にお前に用事はねぇよ、用事があるのはテメェだ、クマ」
「ぼ、僕!?」
熊井を指差し、自分が指名された事に思わず動揺してしまう。
「俺達はな、テメェがシードになった事に納得してねぇんだよ!龍野は化身を出し、シードとしては文句ないが、テメェは違う。お前みたいな奴が俺達と同じなんて、シードの名が汚れんだよ!」
「テメェ、クマだって必死でやってんだ!んな言い方する事ねぇだろう!」
「必死なのはここにいる全員同じだ!それにこいつがシードになった事に納得してねぇのは俺達だけじゃねぇ!他のシード達や訓練生達も少なからず俺達と同意見の筈だ。なんせこいつ以上の実力者は訓練生の中にも山のようにいるからな」
「好き勝手言ってんじゃねぇぞ!こいつは必死に努力して聖帝にも認められて、今でもみんなに認められるように必死に特訓して──」
「龍野君、もういいよ」
龍野の必死の訴えを、熊井本人が止める。
「何でだよクマ!今だけ言われてんのに」
「いいんだよ。みんなの実力に劣ってるのは事実だし、それに自分がシードとしてふさわしい実力かどうかを認めてもらうには口じゃなく、プレイしかないから」
そのまま磯崎の前へ出て、彼はさらに続けていく。
「磯崎君、君が一番僕の実力を認めてないのは知ってる。でもどうしたら僕をシードとしてふさわしいかどうか認めてくれるかな?」
「そうだな……お前ドリブルが得意で、今はシュートの練習もやってんだよな?」
「うん」
「その練習成果見せてみろ?俺がディフェンダー、キーパーには篠山が入り、2vs1の状況でお前が見事シュートを決められたら俺達はお前をシードとして認める。ただし負けたら自分の意思でここを去れ!」
「何だよ!それッ!!2vs1って、クマがめちゃめちゃ不利じゃねぇか!!」
「ヘッ、特別に本人の口からギプアップを聞くまで何回でもチャレンジOKって事にしてやる。それとも、テメェ等のシュート練習は無意味だって事か?」
「!」
「ふざけんな!こんなの受ける必要ない!」
「テメェは余計な口挟むな!決めるのはこいつ自身だ?どうなんだクマ?やるのか?やらないのか?」
磯崎の言葉に、熊井は少しだけ戸惑ったように黙り込んでしまうが、決断したのか、そのまま口を開いて、そして言う。
「……分かった。やる。勝ったら絶対認めてもらうよ?」
熊井のその答えを期待していたかのように口元を緩ませると、試合時間と試合場所だけを告げると、磯崎達はその場から去って行った。
*
「へへっ、簡単に承諾したな」
「あぁ、フィールドで公開処刑だ」
「って事はあいつ潰すんだろ?」
「あぁ、二度とサッカーなんてやりたくないと思うぐらい叩き潰してやるよ」
篠山の言葉に、彼は狂喜な笑みを浮かべて言った。
「まったく誰がシードだなんて別に気にする必要ないと思うんだけど」
「何だ光良?テメェは反対か?」
「別にそう言う訳でもないけどさ、まぁ面白いもん見せてよね」
「あぁ、それよりそっちも任せたぞ?」
「はいはい、試合頑張ってよね」
三人の中で唯一試合には加わらない光良は、磯崎に指示された”何か”をやるため、二人と別れ、別の場所へと足を進めた。
*
「クマどういうつもりなんだよ!!」
龍野達の方では、磯崎達の提案した試合を受ける事を熊井が承諾した事に納得していない様子。なぜなら龍野にしてみても、まだ必殺シュートも完成していない熊井がシードある磯崎と篠山を相手にゴールできる事など、とても想像できず、熊井に勝ち目があるように思えなかったからだ。
「ごめん。僕もつい熱くなっちゃって」
「熱くなったって、何で?」
「……磯崎君が練習無意味だって言った事に、黙ってられなくなってさ」
「どういう?」
「一人の練習ならいいけど、龍野君が僕の為に必死で特訓してくれて、僕もそれに応えたいって思ってるのに、それを全否定されてるような気持ちになって黙ってられなかった」
「…………」
「だから証明したかった。僕がシードとしてふさわしいかどうかよりも、今までした練習が!龍野君が必死にしてくれた事が無駄じゃないって!」
「クマ……」
「あの時は冷静に判断してなかった。でも、僕降りる気はない。絶対試合で練習成果を証明する!」
「……分かった。じゃぁ俺も応援する。正直言って俺、シードの二人を相手にお前が勝てるなんて思ってなかった。でも!お前にそんだけ強い思いがあるなら、絶対勝てる!根拠はないけど、俺は今そう思う」
「!、ありがとう。僕頑張るよ」
「応援してるからな!」
二人もまた、間もなく始まる試合に向けて指定されたグラウンドへと足を進めた。
*
”ワアアアアアァァァァァッ!”
グラウンドに着くなり歓声が上がり、一瞬その大きな歓声に驚いてしまう。
「な、何だコレ!?」
「観戦席、結構人が……」
『来たようだな』
動揺したまま、グラウンドには既に磯崎達の姿が……。
「何なんだよ?この観客は?」
「大半は訓練生だが、中にはシード候補やシードの姿も来てるぜ」
「そう言う事聞いてんじゃねぇ、俺は何でこんなに人が多いんだって聞いてんだ?」
「それは、俺が集めたんだよ」
赤紫色の髪に、中性的な顔立ち、目元のクマのようなものが特徴的な一人の少年が、軽く手を上げながら前へと出る。
「お前確か?」
「俺はシードの光良夜桜」
「磯崎達の仲間かよ」
「う~ん、まぁね。それより何で人が多いかって質問だろ?シードとして相応しいかどうか認めるかどうかの試合、見る観客は多い方がいいと思ってさ」
「ふん、余計な話はこれぐらいでいいだろう?それよりもうすぐ試合だ。部外者は観戦席にでも行ってるんだな」
「くそっ!」
苛立ち気味に舌打ちをするが、「大丈夫だよ」と後ろから熊井が声を掛ける。
「絶対勝つから、信じて見ててよ?」
「クマ……分かった。勝てよ!」
その言葉に力強く頷く熊井に安心したように、光良と共に観戦席に向かう。
「それにしても、アンタ程のシードが随分と目を掛けるなんてね」
「あぁ?」
「あのクマって奴と違い、驚異的な成長で化身を出し、そしてその実力を見せつけたエリート!上も言ってるよ?あの剣城京介にも引けを取らない逸材だって」
「剣城京介?」
「近々雷門中へ送られるエリートシード。まぁ知らないようなら別にいいけど」
観戦席へ向かう道中、光良の言ったその言葉を気にしながらも、観戦席へと向かって行った。
*
観戦席へ辿り着き、まもなく始まろうとする試合に観客達は待ちきれないように歓声を上げている。ここにいる観客の半分以上は熊井の事を認めていない訓練生や、シード達。彼等がこの試合を見に来たのは、熊井が無様に負ける姿、そしてここから去る彼の姿を見たいがためであった。
「へへっ、何か言い残す事はあるか?」
「……別に何もないよ?」
「そうか、じゃぁ始めるか!」
「いつでもどうぞ!!」
”ピイイイイイィィィィ────────ッ!”
試合開始のホイッスルが響き、ドリブルでスタートしていく熊井、それを阻もうと一気に駆け出していく磯崎。
「行くよ!隠煙!!!」
煙を巻き上げ、煙の中に身を潜め、相手を煙と偽りの影で翻弄するドリブルの必殺技、”隠煙”。
「クソッ!どこだっ!!」
「(今だッ!)」
相手が翻弄されている間に、煙から飛び出すと一気にゴール前まで迫り、いきなりシュートチャンスを得た事に、観客も驚いたような表情を浮かべている。
「行っけぇーーッ!クマ!!!」
観戦席から聞こえる龍野の声援に頷きながら、ゴールに向けて力強いシュートを放つ。
「決まれーーッ!」
「甘いんだよ」
力強いシュートに対し、キーパーである篠山は突如ゴールポストに攀じ登り、まるでコウモリのような宙吊り状態となる。
「バットアタックッ!」
コウモリが超音波を送り、跳ね返った超音波で位置を特定するようにボールの位置を特定すると、そのまま向かってくるボールに飛びかかって止める必殺技、”バットアタック”、渾身のシュートをいとも簡単に止められてしまう。だが悔しがってはいるもののまだ彼の眼は諦めていない。
「次こそ決める!」
「ふん、ゴールは割らせねぇよ」
その後も何度も何度も全力でシュートを叩き込んでいくが、全てキーパ-である城山にあっさりと止められてしまう。
「くそ、中々決まらねぇ」
「アハハ、シードである城山が守ってるんだ。あの程度のシュートじゃ、何百本打たれても止めるさ」
「それでもあいつは諦めねぇ!絶対シュートを決める!!」
「へぇ~、でも期待してるようで悪いけど、もうそろそろ磯崎達、始める頃合いだよ?」
「あぁ?」
光良の意味深な言葉の意味を理解できていない龍野だったが、試合の方では何本も何本もシュートを打ってもそれは決まらず、ただ闇雲に熊井の体力を削るのみ。
「うおおおおおぉぉぉぉぉ─────ッ!」
息を切らしながら、なおもボールを力強く蹴り、シュートを放つ。しかしそのシュートに対し城山は片手であっさりとボールを受け止める。
「なっ!?」
「へっ、磯崎」
「分かってる。始めるか!」
磯崎にボールを投げ渡し、それを奪おうと駆け寄って行く。
「取る!」
「ハッ、そんなに欲しけりゃ受け取りな!!」
「!?」
熊井との距離がギリギリまで狭まった瞬間、ボールを力強く蹴りつけ、熊井の腹部に思いっきり叩きつけられる。
「うわああああああッ!!!」
吹っ飛び、仰向けに地面に倒され、腹部にボールを叩きつけられた為か、苦しそうに咽ながらも立ち上がる。
「おいおい大丈夫かよ?今度はちゃんと受け取れよなッ!!」
「!」
足元にあるボールを再び蹴り飛ばし、そのシュートは立ち上がったばかりの熊井の体を直撃し、またも吹っ飛ばされてしまう。
「なっ!あんなの反則じゃねぇのか!!」
「アハハハハ、反則じゃないよ。磯崎はボールを蹴っただけ、それを避けられない方がドジなだけだよ」
「こんなの汚ぇぞ!!」
「これが磯崎の戦い方さ。相手が二度とサッカー出来ないようなプレイも厭わない。言わば潰しのプロ、徹底的なまでに潰される」
「何だそれッ!んなのサッカーじゃねぇぞッ!」
「じゃぁ止めに入ったら?最もそしたら部外者乱入でそっちの反則負けになるかもね?」
「ぐっ!」
拳を握りしめながら、ただ龍野には見守るしかなかった。どんなに熊井が倒れても、ただ見守るしか、熊井を信じるしかなかった。
*
「そらよッ!!」
再びボールを蹴り飛ばし、力強いシュートが何度も体に叩き込まれ、体も既にボロボロ。それでも、フラつきながらも再び立ち上がる。
「ハァ……ハァ……!」
「けっ、しぶとさだけは一人前だな。そこは龍野の譲り受けか?」
「……?」
「けど、ボロボロになって立ちあがっても余計に惨めだぜ、お前?」
「…………っ!」
「龍野も馬鹿だよな?テメェみたいな奴に何で構ってんのか」
「ハァ……龍野君をあまり悪く言わないでくれるかな?僕の事、信じるって言ってくれた。お前なら勝てるって言ってくれたんだ!」
「馬鹿も休み休み言いな、テメェみたいなのが俺達に勝てる訳ないだろうが!テメェはここの落ちこぼれなんだよ!!」
再び蹴り放ったシュートが体に直撃し、また倒される。
「ぐあっ!!」
「テメェなんか、シードどころかサッカーも辞めちまいな!!」
拳を握り手に力が籠る。既に心身共に限界ではあるが、それでもまだ彼は立ち上がる。
「とっとと倒れろ!3流プレイヤーが!」
「!!」
”ブツッ”と、熊井の中で何かが切れる音がした。再び放たれたシュートに対して、彼は動く事なく下を向き、握りしめていた拳を下ろす。
「おいクマ!!何してんだ!!避けろ!!」
「アハハハ、あんなフラフラなのに避ける方が無理って話さ」
届いていないのか、龍野の叫びにも熊井は反応を示さない。ボールはどんどん迫り、そのシュートは既に虫の息の熊井に止めを刺すように、直撃する。
筈だった。
”ドンッ!”
直撃する筈だったボールは、突き出された足によって受け止められ、そのまま踏みつぶすようにボールを地面へと叩きつけ、シュートを止める。
「「なっ!?」」
その光景は城山と磯崎は勿論、龍野を含む観戦席にいた全員言葉を失う。先程までフラフラだった彼がシュートを止める事など到底想像できないのだから無理もない。
「磯崎のシュートを……止めやがった」
「……ハッ!クソッ!!!」
動揺で言葉を失いつつもすぐに我に帰り、ボールを奪い返そうと突っ込んでいくが、それに対し足元にあるボールを力強く蹴り飛ばす。
「なっ!?」
それが自分に向けられたシュートと理解した時には、ボールは既に目の前まで迫る。避けらる訳なく、ボールは直撃し、今までとは比べ物にならない程のシュートに思わず磯崎も吹っ飛ばされてしまい、ボールはそのまま熊井の足元へ戻っていく。
「ぐわっ!!」
「磯崎!」
「ぐっ、あの野郎……!」
『フン、お返しは気に入ってくれたかァ?』
「!?」
ダン、と力強く地面を踏み鳴らし、荒々しい声を上げる。そして顔を上げ、今の熊井の表情は鋭くまるで獣のような目つき。まるで憤怒感情全てを表情に現したような、普段ニコニコとしてた熊井とは同一人物とは思えない程、雰囲気はガラリ、と変わっている。
「て、テメェ、クマなのか!?」
「フン、見りゃ分かんだろうが?まぁさっきはよくも散々言いたい放題言ってくれたじゃねぇかァ!あんだけ馬鹿にされりゃ俺も我慢の限界なんだよッ!!!!」
狸のように大人しかった時とは一変、その名の通りクマそのものような迫力に、一瞬磯崎達ですら威圧され、思わず後ろに下がってしまう。
「(び、ビビらされた?この俺が!?)」
「い、磯崎!?」
「く、クソッ!何なんだこいつ!?人が変わったように急に豹変しやがって!!けど、それがなんだってんだよ!!」
スライディングタックルで強引にボールを取りにいく磯崎に対し、熊井はそのまま避ける事なく、真っ向から迎え撃ち、スライディングタックルをそのまま受け止める。
「!」
だがスライディングタックルでボールを取りに行った磯崎の動きがピタリッ、と止まる。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!」
スライディングタックルされてなお、ボールを蹴ろうと押していき、スライディングした磯崎を逆に押し返していく。
「な、にっ!?」
「どぉぉぉぉおおおおおりゃああああああッ!!!!」
足を振り上げると、磯崎を弾き飛ばし、そのままゴールへと突き進んでいく。
「ぐあッ!!クソッ!城山!!」
「あぁ!分かってる!あんな奴にゴールを割らせるかよ!!」
「フンッ、テメェじゃ俺のシュートを止めんのに役不足なんだよォッ!!!」
シュート体勢に入りると、力強く足を踏み鳴らすとまるでクマのような鳴き声がその場に響く。
「これは!?」
「目ェ開けてよーく見てろォ!!こいつが俺の必殺技ァ!!”ベアードライブ”だァッ!!!」
そのままボールを蹴り飛ばし、まるでクマが突っ込むようなシュートがゴールに向けて襲いかかる。
「止める!バットアタック!!!」
再びシュートされたボールに飛びかかり止めようとするも、ボールに飛びかかった城山ごとゴールへとシュートを突き刺す。
「ぐあああああああッ!!!」
「っしゃあああああああッ!こいつが俺の必殺シュート、”ベアードライブ”だァ!」
そのシュートに、思わず見ていた全員言葉を失う。
「……!、必殺シュート!かっこよかったぜ!クマ!!」
だが、真っ先にそれに言葉を駆けたのは龍野であり、熊井も龍野のその言葉に拳を突き出して答える。
「ありえない、さっきまであんなにフラフラだった奴がシュートを決めるなんて」
「ヘッ!これがクマの力だぜ!!」
「……あんなのマグレだ!」
「ぐっ、俺達が負けただと?」
「フン、ざまぁねぇなァ」
磯崎達を見下すように言い、その言葉に反感するようにキッ、と睨み返す。
「何してやがんだァ?とっと立てよォ!」
「何っ!?」
「どうせテメェ等まだこの結果満足してねぇんだろ?もう一本シュート決めて、嫌でもテメェ等に実力の差を教え込んでやるよォッ!!」
「俺達を馬鹿にしてんのか!」
「どうとでも思うのは自由だがなぁ、このまま引き下がれねぇと思ってんだろ?」
「チッ、シュートを決めて威勢づきやがって!絶対叩き潰してやる!!」
「お前こそ威勢づいて、叩き潰されねぇ事だなァッ!」
「……舐めやがって、城山!次は全力だぞ?」
磯崎の言葉の意味を理解したように、城山は頷き、再び試合が始まる。
「二試合目も行うなんて、随分余裕だね?」
「へっ!何かわかんねぇけど今のクマなら大丈夫さ」
「どうかな?今のクマの挑発は完全に磯崎達を怒らした、それにまだ力を出し切ってないのは磯崎達も同じだよ」
光良の言葉に疑問を持ちながらも再び、フィールドに視線を戻す二人。フィールドでは、再びドリブルで熊井が突っ込んでいく。
「おらおら!どけぇッ!!!」
「調子にのるな!キラースライドォッ!」
強烈な蹴りの連激を繰り出しながらのスライディングで突っ込む必殺技”キラースライド”。だがそれに対し、飛び上がってそのスライディングをいとも簡単に避ける。
「テメェも役不足なんだよォ!引っ込んでやがれッ!!」
「ぐっ!!城山!!!」
「任せろ、絶対に今度は止める!」
再びシュートを決めようと突っ込んでいくが……。
「うおおおおおおおっ!!出て来い!”機械兵ガレウス”」
体全体に気を溜め、黒いオーラが体から漂い、そして溜めた気を解き放つように、オーラは化身の形を形成すると、化身である機械兵ガレウスが姿を現す。
「化身!?」
「アハハハハハ!驚いたか?城山も化身使いなんだよ」
「あいつも化身使いだったなんて」
「だから言ったろ?力を出し切ってないのは向こうも同じだって。化身使いの城山のシュート、止めるのは絶望的なんじゃね?」
「……クマ」
フィールドの状況を心配そうに見つめているが、熊井にとって相手が化身を出そうが出さまいが、そんな事はまるで関係ない。怒りのこもった今の彼にはシュートを叩き込むことしか頭になかった。
「ゴールは割らせねぇぜ!!テメェなんかにな!!」
「ほざけッ!言ったろうがァ!俺はテメェ等に実力の差を教えるとなァッ!!嫌でも教え込んでやるッ!!」
「化身の出せないお前に決められてたまるか!」
「なら化身でも何でも出してやるッ!!テメェ等が俺の怒りに触れた事に後悔を、恐怖を覚えてやるッ!!!うおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
怒りを全て解き放つかのように強く叫び、それに呼応するかのように体から黒いオーラが漂い始める。
「「!?」」
「現れやがれッ!”幻獣帝キマイラ”!」
まさか、と見ている者達にある予感をさせ、その予感は的中し、黒いオーラが形を形成すると、化身は真の姿を現し、ライオンの頭にグリフォンのような大きな翼、クマのような鋭い爪、様々な動物の体を持つ化身、キマイラが姿を現す。
「なっ!?こいつ化身を!!」
「決めてやる!うおおおおおおッ!!ビーストスマッシャーァ!!!!」
キマイラが猛々しい雄叫びを今一度轟かせ、強大な両爪を一気に振り下ろし、そのパワーをボールに加える化身シュート、”ビーストスマッシャー”、それに対しガレウスも後部のパーツを連結させ、強大な盾を作る。
「止める!ガーディアンシールド!!」
化身のガレウスが持つ盾がキマイラの爪を受け止め、火花を散らしながら化身同士がフィールドでぶつかり合う。観戦者達はその光景にいつしか見せられ、注目していた。
「うおおおおおおおおおッ!!」
化身同士の激突は徐々にキマイラに軍配が上がり、キマイラの両爪がガレウスの盾を突き破り、そのまま一刀両断しガレウスを消し去ると、強烈なシュートがゴールへと突き刺さり、それにはただ呆然とするしかなかった。
「俺達が二度も、負けた?」
「満足だろうがァ?俺がシードであることに、もう文句は言わせねぇぞッ!」
彼がここまでの力を見せた以上、熊井がシードであることに認めざるを得なかった。
*
「やったな!クマ!」
試合を終えた矢先、龍野が合流し勝利を祝福しながら背中を叩くが、何故か熊井本人はどこかぼっーとして、反応を示さない。
「クマ?」
「…………」
「おい!クマってば!」
「!、あっ!龍野君!ごめん気付かなくて!」
試合で見せたあの獣のような迫力は今はなく、普段通りの狸のように大人しい元の熊井の雰囲気に戻っており、あまりのギャップに少し龍野も戸惑ってしまう。
「え、えっと!と、とにかく試合勝って良かったな!格好良かったぜ!」
「ん?そうなの?」
「『そうなの?』って、あんなに磯崎達に啖呵切ってたじゃん!」
「えぇ!?嘘でしょ?本当に!?」
まるで試合の事を覚えてないかのような口振り。それを少しだけ疑問に思い、思い切って尋ねて見ることに。
「……クマ試合の事覚えてるか?」
「え~っと、磯崎と途中まで試合してた事は覚えてるんだけど、途中から何か記憶が所々抜けちゃって」
「!?」
「……言ってなかったけどさ、何か我慢しきれない事があるとすぐ怒って、もう怒りで我を忘れるって言うか、怒りで意識が無くなるような感覚で、気付いた頃には自分でも何が何だか」
「それって、二重人格って奴?」
「さあ?自分でも何が起こったのか分からない状態だから……」
「そっか、でも格好良かったぜ!お前!皆もこれでお前がシードだって認めるはずだ!」
「……何かよく分かんないけど、とりあえず喜んどくよ♪今日はもうちょっと疲れたし、そろそろ帰るよ、それじゃあね、龍野君」
「お、おお!それじゃあな!」
別れの挨拶を交わし、去って行く熊井の姿が見えなくなるまで見送った。
「(クマ、あいつは一体?)」
*
『聖帝、決まったみたいですね』
「ああ」
同じ頃、訓練所の地下で部下である男と話し、イシドの手にはシードの名前と名前の下に学校名が書いたリストが握られており、恐らくシードが送られる高校が決定したのだろう。中学の入学時期も間近、シード達は、新入生、或いは転入生として各地の学校へと送られる。リストの中にはシードである熊井と龍野の名もあり、彼等が送られる学校名には、「桜華学園」と記されていた。
後書き
いかがでしたでしょうか?第4話!
次回からいよいよシードとして動きだす龍野達!ぜひ次回も見ていただけたら幸いです!
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