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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 導く光の物語
  5-26船旅

「あのベギラゴン……。完全に、当てに行ってたね……。当たらなかったからいいようなものの……」
「ふむ。結局、お()けになりましたな。良かったのか、悪かったのか」
「アリーナ様の、あの身のこなし、()()しいお顔……!素晴らしかったですわ……!」
「おふたりとも、すごいわねえ。目で追うのが、やっとだわ。」
「魔法は、ああやって使うのね」

 それぞれに感想を述べる仲間たち。

「あのタイミングで()けるのかよ。やっぱ、当たらねえじゃねえか」
「あのベギラゴンは、危なかったな!ナイフも、投げてくるとは思わなかった。ナイフが二本来ていれば、魔法は当たっていたかもな!」
「旅回りではあんまやらねえが、ナイフ投げも芸のうちでな。そのあとのイオラも()()かったな。見えねえから範囲の広いのを、と思ったが」
「もう少し位置がずれていれば、あれも危なかったな。正確さが(あだ)になったな」
「結果、自分の首を()めちまったか。気配の読み合いじゃ、勝ち目はねえからな」

 手合わせを検討しながら、仲間たちの元に戻るマーニャとアリーナ。

「ふたりとも、お疲れ様」
「アリーナ様!お怪我はありませんか?」
「大丈夫だ」
「兄さんも、大丈夫だよね」
「おう。なんも当たってねえからな」
「マーニャ。すごかった」
「負けちまったがな」
「でも、魔法の使い方が、よくわかった。武器で攻撃するのと、どうやって組み合わせるか、よくわからなかったから。」
「そうか。んじゃ、負けた()()もあったな」
「マーニャ!またやろうな!」
「負けっぱなしってのも気に入らねえからな。ま、気が向いたらな」
「また、やるんだ……」
「されるとしても、キングレオのことが片付いてからですぞ」
「わかっている。旅の目的を忘れた訳では無いからな」
「では、船に戻って、出航の準備に入りましょう。急いだところで、一日で着ける旅程(りょてい)ではないですけれど。ぐずぐずする意味も、ありませんからね。」


 一行は船に戻り、出航の準備を整える。
 サントハイムの面々も、手順を教わりながら、作業に(いそ)しむ。

「クリフトさん、大丈夫ですか?」
「はい。このくらいは動かないと、身体が(なま)ってしまいますわ。もう、戦いにも出られそうなくらいですから」
「ばあさん、無理すんなよ」
「無理は、せぬがの。人手(ひとで)の有り余る御用船(ごようせん)の旅とは違うのじゃ。いざという時に、何も出来ぬようでは情け無いからの」
「いざというとき以外は、できるだけ力仕事ではないほうが、いいですわね。ブライさんには、あたしと交代で、(かじ)をおまかせすることにしようかしら。」
「ふむ。長い船旅であれば、同じ者が張り付いておるわけにもいかぬであろうな。わしも覚えるが、追々(おいおい)、他の者にも教えていくのが良いじゃろうな」
「そうですわね。実際の分担はともかくとして、できるようになっていただくのに、越したことはないですわね。」
「アリーナ、楽しそうね」
「ああ!楽しいな!次は、何をするんだ?」
「次は、こっち」


 人手が増えた分、作業は早く進み、(ほど)なく準備は整って、船は出航し、西に針路(しんろ)を取る。

 ヒルタン老人からもらった地図を眺めるトルネコに、ミネアが声をかける。

「トルネコさん。どの経路を取るつもりですか?」
「そうねえ。このまま真っ直ぐ西に向かうか、この大陸が切れたところで、一旦(いったん)南に行って、南の大陸沿いを進むかで、迷っているのだけれど。」
「真っ直ぐ西に向かうと、キングレオ城寄りの場所に着いてしまいますね。南の大陸沿いの経路なら、山脈を挟んで南側に着くことになります。南側は、比較的城の影響が届きにくいですから、そちらがいいかもしれません」
「そうね。それなら、そうしましょう。」
「ところで、その地図は、すごい地図なんですよね?普通の地図と、なにか違うんですか?」
「魔法の(しな)のようで、今いる場所と方角が、わかるようになっているのよ。」
「方角はともかく、現在地までですか。それは、すごいですね」
「ええ。これがあれば、周りになにもない海のまん中でも、天気が悪くても、迷うことはないですわね。あたしのタカの目では、なにかがあるとはわかっても、なにがあるかまではわかりませんから、助かるわ。それとここに、印がついているのだけれど。」

 そう言ってトルネコは、ミントスとソレッタの間、山に囲まれた場所を指し示す。

「ここは……。切り立った山脈になっていましたよね。普通に歩いては、越えられそうには見えませんでしたが」
「そうなのよねえ。簡単に越えられるようなものなら、場所が近いのだし、とうにヒルタンさんが行っているでしょうから。なにか、特別な方法でないと、たどり着けないのでしょうね。空でも飛んで行くとか。」
「……つまり、今のところは無理ということですね。魔法でどうにかならないのでしょうか」

 話を聞いていたブライが答える。

「無理じゃな。ルーラでは行ったことのある場所にしか行けぬし、その応用で身体(からだ)を浮き上がらせる魔法も、あるにはあるが。わしのような老人が、衰えた肉体の動きを補助するのに役に立つかどうかという程度で、自由自在に大空を(かけ)るというには、程遠(ほどとお)いの」

 ブライの言葉に、マーニャが反応する。

「今、さらっとすげえこと言ったな。そんな魔法があんのかよ。ばあさん、年の割に妙に元気だと思ったら、んなことしてたのか」
「いつもという訳では無い。よほど疲れた時か、身体が追い付かぬ時だけじゃ。そこの、見張り台の登り降りをするような時は、使うかの」
「ばあさんに見張りとか、別にさせる気はねえけどよ」
「眺めが良さそうじゃからの。一度くらいは、登っておかねばなるまいて」
「してえってんならいいが。日は照るし風は当たるしで、長くいると疲れっからな。無理すんなよ」
「うむ。つまらぬことでいちいち無理をするようでは、この年まで生きてはおらぬよ。適度に、手は抜かせて貰うでな」


 トルネコがブライに教えながら舵を取り、ある者は見張りにつき、他の者は戦いに備えながらも休憩を取ったり、細々(こまごま)とした作業を行ったりしながら、航海を続ける。
 時折、襲い来る魔物たちは、状況に応じて遠くから魔法で体力を削ったり、そのまま引き付けたりして効率良く片付ける。


 夕刻が近付き、トルネコが言う。

「そろそろ、夕食の支度をしないといけませんわね。ブライさん、舵をおまかせしても、いいかしら。」
「構わぬが。そちらは、任せても良いのかの?」
「ええ。」

 大事を取って戦闘要員からは外れていたクリフトが言う。

「食事の支度なら、私がいたしますわ。戦いではお役に立てていませんし、これくらいはさせてください」
「ふむ。クリフトの料理の腕も、なかなかのものでの。トルネコ殿の料理も、気になるが。任せてみても、良いのではないかの」
「まあ、そうなんですのね。それなら、クリフトさんの、お手伝いに入ることにしようかしら。人数も多いから、さすがにひとりでは大変ですものね。」

 ミネアとマーニャが言う。

「私も、多少はできますが。あまりそちらに人手を()いても、戦う者がいなくなりますね。今回は、おまかせします」
「オレもできねえわけじゃねえが。見張りでもしてたほうが、よさそうだな」

 これにはアリーナが反応する。

「マーニャとミネアも、料理が出来るのか」
「母を、早くに亡くしていますので。父を手伝っているうちに、自然と」
「親父も親父の弟子も、切ったりなんだりの作業はともかく、味付けのセンスってもんが無くてな。必要に駆られてってヤツだ」
「そうか。俺も覚えてみるかな」

 トルネコが言う。

「この先、船旅(ふなたび)の機会も、増えるでしょうから。ご興味がおありなら、ゆくゆくは覚えていただくのも、いいかもしれませんわね。今日のところは、戦いのほうを、お願いできますかしら。」
「ああ、わかった」
「ユウちゃんは、お料理はできるのかしら。」

 話を振られた少女が答える。

野営(やえい)で必要になるから、外で作るやり方は、練習した。台所では、作ったこと、ない」
「そう。それじゃ、野菜の皮を()いたり、切ったりはできるわね。お手伝いしてくれる?」
「うん。わかった」

 トルネコとクリフト、少女は連れ立って船室に入って行く。

 三人の姿が見えなくなったのを確認して、マーニャが言う。

「野外でだけ料理経験があるとか、どこの軍人だよ。嬢ちゃんの村の教育方針てのも、徹底してるな」
「それなりに、考えがあってのことなんだろうけど。ちょっと極端だね。トルネコさんが気を配ってくれて、助かるね」
「ユウは、そういう育ちなんだな。ところで、ブライは料理はできるのか?」

 アリーナに問われ、ブライが返す。

「出来ぬことは、無いですがの。城におれば、自分で作る必要はありませんからな。最後に作ったのは、何十年前だったか」
「そうか。俺よりはマシだな。一度も、やったことが無いからな」

 王子と城の重鎮のやり取りに、渋い顔になる兄弟。

「……間違っても、アリーナとばあさんを一緒に台所には入れられねえな」
「……惨事(さんじ)になりそうだね」

 兄弟が声を潜めたのを聞き逃さず、ブライが異議を唱える。

「必要が無いからやっておらぬだけで、()()()という訳では無いですぞ。ただ、王子に目を配る余裕は、無いじゃろうからの。それが賢明じゃの」

 アリーナも、ブライに同意する。

「ブライは、味にはうるさいからな。慣れていないとは言っても、そう酷いものは作らないだろう。俺も味覚は問題無いと思うが、作る過程が全く想像出来ないからな。怪しいな」

 フォローになっているようないないような話の展開に、ますます渋い顔になる兄弟。

「自分で言われると、食べさせられる(がわ)としては非常に不安になるんですが」
「無理に、覚えなくてもいいんじゃねえか?一応、王子様なんだしよ」
「無理そうなら、やめるが。やってみなければ、わからないだろう」
「食いもん、無駄にするんじゃねえぞ」
「付いた人の言うことを、よく聞いてくださいね」
「ああ。無論だ」

 あくまで前向きなアリーナと微妙な表情の兄弟の会話は一段落つき、ブライが話を変える。

「そのような先々の話よりもじゃな。マーニャ殿は、今のうちに風呂でも沸かしてはどうじゃ。その(あいだ)くらいならば、我ら三人でも、問題無いでな」
「オレの前に、ばあさんじゃねえのか」
「水ならば、もう仕込んでおる。氷を溶かすところから始めるのでは、魔力の無駄じゃからの。最初に船に着いた時に、氷は出しておいたのじゃ」
「……準備がいいな。じゃあま、行ってくるか。勝手がわからねえから、どのくらいかかるか見当もつかねえしな」
「多少熱い程度ならば、わしがどうにでも出来るが。くれぐれも、やり過ぎるで無いぞ。蒸発させることにでもなれば、浴槽が(いた)むでな」
「心配するところは浴槽ですか、ブライさん」
「大事なことじゃ。壊したからと、簡単に調達出来る物ではあるまい」
「そんなヘマはしねえよ。んじゃ、ここは任せたぜ」



 船内の厨房に移動した女性三人。
 使用する食材をクリフトが選び出し、下拵(したごしら)えに入る。

 包丁を手に、少女が言う。

「外では、ナイフを使ってたけど。台所では、これを使うのね」
「ユウちゃんは、包丁は初めてなのね?使い方は、わかるかしら。」
「包丁は、初めてだけど。刃物を使うのは、慣れてるから。大丈夫だと思う。皮を、剥けばいいのね?」
「はい。お願いします」

 包丁を野菜に押し当て、まずはゆっくりと動かして切れ味を確かめ、すぐに()の癖を見極めて、素早くきれいに皮を剥いていく少女。

 クリフトが感心したように言う。

「ユウさんは、器用なんですね。私よりも、早いようですわ」
「これなら、安心してまかせられるわね。さて、あたしもやろうかしら。」
「それでは、剥くほうはおふたりにお任せして、私は切り始めますね」

 クリフトの手元の食材に目をやり、少女が呟く。

「お肉は、もう解体(かいたい)してあるのね」

 少女の言葉の意味を解して、トルネコが答える。

「お店ではね、きちんと処理したものを、売っているのよ。」
「そうなの。お店って、色々あるのね」
「そうよ。そういうお買い物も、今度一緒にしましょうね。」
「うん」

 クリフトが、おずおずと問いかける。

「ユウさんは、解体……も、お()()になるのですか?」
「うん。狩人さんに、習った。食べられる魔物も」
「まあまあ。それじゃ、旅先(たびさき)で食材に困ることは、ないわね。」
「うん。海の魔物は、おいしいのが多いんだって。倒したら、言ったほうがいい?」
「そうねえ。今回の旅では、必要なさそうだけれど。そのうち、試してみるのも、いいわね。」

 事も無げに答える少女と、明るく応じるトルネコ。

「魔物を……解体……するのですね……」

 クリフトの手が、止まる。

 顔色を悪くしたクリフトに気付き、少女が心配そうに声をかける。

「クリフト?大丈夫?」
「……はい。……そうですね、私がしたことが無いだけで、誰かがしてくれていたことですから。目を逸らしていては、いけませんね」

 自分に言い聞かせるようにしながらも、真っ青な顔色のクリフトに、少女が重ねて言葉をかける。

「……おかあさんも、解体はだめだったから。クリフトもだめなら、無理、しなくていいと思う」

 トルネコも、続ける。

「そうね。あたしはそういうのは、平気なほうだと思うけれど。だめな(かた)は、本当にだめだものね。無理はいけないわ、クリフトさん。」
「……はい。申し訳ありません……」
「わたしは、大丈夫だから。するときは、クリフトに見えないようにするね」
「……ありがとうございます……」
「さあさあ、クリフトさん。あまりのんびりしていては、遅くなってしまうわ。」
「……そうですね。皆さんを、お待たせしてはいけませんね」


 気を取り直したクリフトは作業を再開し、少女はクリフトとトルネコの指示の(もと)、食材を刻んだり混ぜたりする手伝いに(いそ)しみ、下処理や調味料の細かい使い方などを見て学ぶ。


「お料理って、こんなにいろんなことをするのね」
「こんな味付けのやり方は、知らなかったわ。サントハイムでは、みなさんこうなさるのかしら。」
「サントハイムではありますが、私の出身地ではなくて、旅先で教えて頂いたのです。美味しかったので、試してみようかと。味を見て頂けますか?」
「ええ。……あら、おいしいわ!」
「ユウさんも、どうぞ」
「うん。……おいしい。クリフトは、お料理が上手なのね」
「ありがとうございます。上手くいって良かったですわ」
「これなら、いつでもお嫁にいけるわね。」

 トルネコの発言に、クリフトが杓子(しゃくし)を取り落として動揺を(あらわ)にする。

「お、お嫁に……!?わ、私は、神に(つか)える身ですから!」
「あら、でも。ご結婚されても、構わないのでしょ?出家(しゅっけ)されたシスターとは、違うとか。」
「そ、それでも!未熟な身ですし、今は、それどころではありませんから!」

 真っ赤になって言い(つの)るクリフトの様子に、トルネコが話を()めに入る。

「まあまあ。そうね、こういうことは、人それぞれですものね。」

 少女が問う。

「結婚ていうのは、男の人と女の人が、恋に落ちたらするのよね。わたしも、したほうがいいの?しなくてもいいの?」
「こ、恋……!」

 クリフトは狼狽(うろた)え、トルネコが答える。

「そうね。もう少し大きくなって、恋に落ちたら。そのときに、考えたらいいのじゃないかしら。」
「恋に落ちるのは、どうやるの?」
「それはね。気付いたら、もう落ちているものなのよ。しようとして、するものではないの。」
「そうなの。どうしたら、わかるの?」
「そのときになったら、わかるわ。」
「……大人に、なったら、わかること?」
「そうね。いつになるかは、本当に人それぞれだけれど。いつかきっと、わかるわ。」
「そうなのね。わからないけど、わかった」
「さて、せっかくのお料理が、冷めないうちに。夕飯にしましょうか。ユウちゃん、みなさんを呼んできてくれる?」
「うん、わかった」

 狼狽え、挙動(きょどう)がおかしくなっていたクリフトが、(われ)に返る。

「舵は、固定しておけばいいかもしれませんが。見張りには、誰かついておかないと危ないですよね。冷める前に召し上がって頂きたいので、私が」
「このあたりの敵は、あまり強くないから。トヘロスを使えば、大丈夫だと思う」
「そうね。強い魔物の気配ならアリーナさんとユウちゃんが、魔力の動きならブライさんとマーニャさんが、かなり敏感にわかるようだし。少し岸に寄せて、(いかり)をおろして。お食事くらいは、みんなで食べましょう。」
「そういえば、そんな魔法をお使いになれるのでしたね。ではユウさん、すみませんがよろしくお願いいたします」
「うん。行ってくるね」

 少女は外の仲間を呼び、魔法を使うため、甲板(かんぱん)に出て行く。 
 

 
後書き
 船上で、和やかなひとときを過ごす一行。
 鍛練を怠らない少女は、限界を超えて成長を続ける。

 次回、『5-27成長の速度』。
 8/24(土)午前5:00更新。 
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