FULL魔法ブリッツ学園~魔法使「えな」い~
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使榎井くんと七人の刺客
刺客はもう、死んでいる
「ねぇ、榎井くん。僕たち注目されているね」
廊下がざわめき合っている。みんなが見てる理由はお前だよ。なぜ俺をチャリンコに乗せたまま、廊下を爆走してんだよ。
「理由がわからないのは別に構わん。とりあえず降ろせ、すぐに降ろせ」
「えぇ? 職員室はすぐそこだよ」
「いやいや、なら尚のこと降ろせや!!」
風紀と書かれた腕章をはめた女子が寄ってくる。そして一度、それを俺に見せつける。
「風紀警ら隊の一之瀬御子ですが、こんなとこで何をしてらっしゃるのです?」
「見てわかるだろ? 俺は困っている」
「そうそう、僕たち職員室に行かないとダメなの」
突然、会話をぶった切るように一之瀬が仕掛けてきた。自転車女子と警ら隊女子が仲間割れを始めたのだ。一之瀬が、名前も知らない女子と俺が跨る自転車を蹴飛ばすと、自転車女子は華麗にバック転を決めて着地する。俺はまた、自転車の下敷きになる。足も同じところを挟んだ。
腫れた患部に致命傷を負ったわけだ。悶絶に似た絶倒、格好悪さから来るみじめさに打ちのめされて、もう立てない。というか立ちたくない。
「で、そこの女子。ブリッツ学園の制服を着てますが、あなたの様な生徒はここにはいないのですが?」
「僕のこと? 名前は本田忠勝です。今日から交換選抜でお世話になります」
上から下までなめ回す目つきで忠勝を見た後で、一之瀬は手のひらをこちらに向けた。
「おふざけが過ぎましてよ。ちゃんちゃら可笑しいとはこのこと」
「そうだな。女子の名前が忠勝って」
「あっ!! 今、麻義くん笑ったよね!?」
なにその泣きっ面の上目づかい、いちいち可愛いのはよせ、と言うかこいつ刺客じゃないのかよ。だから学科で普通科って答えたのか。
「違いますわ。忠勝君ですかしら? あなたおと……」
「ちょっと良いかい?」
風紀警ら隊と俺たちの話の途中に、イケ面を鼻にかけてそうな長身の男が女子の取り巻きと共に現れた。何だか不思議と怒りがわいてきた。この言われない怒りの理由を知っている。ジェラシーと言う理不尽な感情だ。イケ面なんて、存在自体がリア充だろう?
「爆ぜろ」
つい、口を突いて出た言葉は負け惜しみに近いものだった。
「麻義くん。泣いてるの?」
「忠勝、少しで良い。そこは察してくれ」
「おや? 君はいきなりなんだい? 初対面の相手に、その言葉は失礼じゃないかな?」
お前こそ何様だと言ってやりたい口になってるが、それを押さえてもっとパンチのある皮肉を言ってやる。
「悪い悪い。種族の違う生き物同士だと、会話が通じなくてな」
「君は僕をなめてるのかい?」
「悪いな。男をぺロる趣味はない」
「麻義くん。ぺロるって何?」
あまりバカにされ慣れてないのだろう。イケ面はすぐに釣られた。こめかみには、便座で気張ったような青筋を立てている。バカにされるのは、俺の専売特許だ。方法も熟知している。
「君たち、離れなさい」
取り巻きを散らしたイケ面の周りから一瞬だけ熱気を感じた。無詠唱でこの力は反則だ。後少し近ければ、火傷していたかも知れない。
「おいおい、火遊びは嫌いなんだけどな」
「生憎、僕は大好きなんだけどね。性的な意味でも」
くそ、イケ面が羨ましいぞ。この感情で俺にも火属性の魔法とか使えるようにならないかな。
「一ついいか。お前、辻ほどじゃないな」
イケ面は、驚いた様にあっけらかんとした後に、報復絶倒とばかりに笑いだす。
「やっぱり君は噂通り、バカの類か。良いよ。僕の本気を見せてあげようじゃないか」
「やれやれですわ。校則第3条をご存じですかしら?」
もう一度、彼が熱気を帯び始めると、一之瀬が止めに入った。
「ブリッツ学園の生徒は、課外と犯罪者の捕縛目的以外で魔法を使うことを禁ずる。ですわ」
少し血の上っていたイケ面は、頭が冷えたのと同時に体から発する熱気も治まったみたいだった。
「そうでした。では、いつか証拠を掴み次第、あなたを裁きましょう。辻さんから話は聞いてますから」
「麻義くん。なんかやったの?」
「いや、昔に辻と色々あってな」
また取り巻きを引き連れ、去りながら彼は言う。
「そうそう、もう一人目は倒したようですが、私を入れてあと6人居ますから悪しからず」
何の話かは、すぐにピンときた。あいつは刺客の話をしている。初日早々に問題を起こすとか、内申点に響かないかが心配だ。
しかし、倒したつもりもない刺客が既に一人ログアウトしてるとか……。
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