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傷だらけのプレイヤー

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第二章

「俺自身の為からダイアナの為に」
「怪我からも回復して」
「頑張ってきたんだね」
「けれどこれでそれも終わりなんだな」
 目は暖かいままだった。
「俺は引退するんだな」
「そうだね。この試合でね」
「そうなるんだね」
「俺はこの試合二回ダッチダウンを決めるな」
 今度は真面目な顔になりそのうえでの言葉だった。
「最初はファンの為、そして最後は」
「娘さんの為か」
「あの娘の為に」
「ああ、決めるな」
 こう言うのである。
「絶対にな」
「怪我は大丈夫だよね」
 記者の一人が彼に尋ねてきた。
「それは」
「右肩かい?左膝かい?それとも背中かい?」
「全部だよ」
 自分の怪我を挙げたヴィレッジにだ。その記者は告げた。
「そっちは大丈夫なんだろうね」
「ああ、この試合だけだからな」
 大丈夫だというのだ。そういった怪我も。
「いけるさ。何とかな」
「いつも痛むっていうけれど」
「いや、何ともないさ」
 これは痩せ我慢だ。フットボーラーなら言ってもいられないからだ。
「平気だよ」
「だから決めるんだね」
「ああ、二回な」
 とりわけだった。最後のものをだというのだ。
「決めてやるからな」
「頑張ってくれよ、それじゃあ」
「ああ、わかってるさ」
 笑顔で応えてだ。そうしてだった。
 彼は試合に向かう。彼がグラウンドに出るとだ。大きな歓声が起こった。垂れ幕もあった。
「最後だ、ヴィレッジ!」
「最後のファイトを見せろ!」
「悔いなんかするなよ!」
「これでお別れだ!」
 垂れ幕だけでなくだ。声もしてきた。
「けれど忘れないからな!」
「あんたの解説楽しみにしてるぜ!」
「だからこの最後の試合頑張れ!」
「あの雄姿を見せてくれよ!」
「タッチダウンだ!」
「今日も見せてくれよ!」
 こうだ。熱い声援をかけるのだった。しかもそれが観客席の全てからだった。
 それを聞いてだ。グラウンドに出て来たヴィレッジのチームメイト達も言うのだった。
「敵チームのファンも声かけてくれてるな」
「ああ、こんなの滅多にないぜ」
「それだけヴィレッジさんって愛されてたんだな」
「そうなんだな」
 そのことをだ。彼等はあらためて理解したのだ。そうしてだ。
 その中でだ。彼等は試合を開始した。試合の間もずっとだった。
「ヴィレッジ!ヴィレッジ!」
「頑張れよ!」
「最後の最後まで見せてくれ!」
 ファン達はヴィレッジに熱い声援を送る。その声援を受けてだ。
 彼は最初のタッチダウンを決めた。そうしてこう観客席に叫んだ。
「あんた達へのタッチダウンだ!」
「俺達へのか!」
「贈りものなんだな!」
「そうだ、あんた達への最後のタッチダウンだ!」
 フットボールのプロテクターとヘルメットの中からだ。彼は高らかに叫ぶ。右手を掲げて叫ぶその姿はこれで最後の選手には見えないものだった。 
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