銀河転生伝説 ~新たなる星々~
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第3話 第二次レンスプルト星域会戦
宇宙暦805年/帝国暦496年 6月20日。
バートウッド艦隊との戦闘で、艦艇を14000隻に減らしたロイエンタール艦隊の元へミッターマイヤー艦隊15000とスプレイン艦隊8000が合流した。
これで新天地派遣軍の総数は37000隻となり、ロイエンタールが総司令官に任命された。
この後も、ファーレンハイト艦隊15000隻に駐留艦隊(ミュラー艦隊)15000を擁するガイエスブルク要塞が到着予定である。
また、アッテンボロー大将を要塞司令官兼駐留艦隊司令官としたオダワラ要塞(駐留艦隊8000隻)もドーバー回廊に居座ることとなっている。
この時点で、帝国が新天地(ドーバー回廊含む)へ向けて動かした戦闘艦艇は76000隻。
本国で更にパエッタ、グリルパツルァー、クナップシュタイン、グエン・バン・ヒューの4個艦隊40000隻の動員がかかったことを考えると、新天地に投入される兵力は10万隻を超えるだろう。
これは、銀河帝国の総戦力(戦闘艦艇のみ)の3分の1にもなる。
新天地の攻略準備は着々と進みつつあった。
<ロイエンタール>
ほう、俺がこの部隊の総司令官か。
今、俺の麾下には37000隻の艦艇がある。
指揮下の司令官はミッターマイヤーにスプレイン。
どちらも優秀な将官だ。
ファーレンハイトとミュラーも到着し次第俺の指揮下に入る。
6年前に帝国が同盟を征服したときは、もうこれで本格的な会戦を行うことも無いなと思ったものだが……。
新たなる地、新たなる星々に新たなる敵か。
世の中分からないものだ。
だが、だからこそ面白い!
* * *
宇宙暦805年/帝国暦496年 7月10日。
オリアス皇子率いるロアキア軍はレンスプルト星域に侵入し、待ち構えていた帝国軍と対峙した。
「ファイエル!」
「攻撃開始!」
遂に第二次レンスプルト星域会戦が幕を開けた。
帝国軍37000隻、ロアキア軍41000隻。
戦力的には互角と言っていいだろう。
両軍のビームやミサイルが交差する中、帝国軍はスプレイン艦隊を、ロアキア軍はオルメ艦隊をそれぞれ予備兵力として後方に置き、互いに投入する機会を窺う。
しかし、両軍の将とも優秀であったためこれといった機会はなかなか訪れず、ビームとミサイルによる応酬が延々と続くだけであった。
・・・・・
戦闘開始から既に6時間が経つが戦況は依然膠着状態にあった。
ロイエンタールは、オリアスが攻勢に出ようとする都度その突出部分を潰してオリアス艦隊の攻勢を封じ込めたが、ロイエンタールとてオリアスの絶妙な指揮の前に攻勢の機会を見出せずにいた。
ミッターマイヤー艦隊はその迅速さで以ってマルゼアス艦隊を翻弄していたものの、堅実な用兵をするマルゼアスを中々崩せずにいる。
スプレイン、オルメ両艦隊は未だに動かない。
並みの将であればこの状況に焦りを感じ、焦燥感に駆られて前進か後退を命じていただろう。
だが、ロイエンタールは特に焦りを感じていなかった。
経験上、このような膠着状態はいつか解ける。
動くのはその時だ……と。
故に、ロイエンタールは艦隊を完全に統制しつつ的確な火力の集中によってオリアス艦隊に出血を敷いていった。
・・・・・
戦況が変わったのは、11日に入ってからのことであった。
ミッターマイヤーがマルゼアス艦隊の各所に小さな突破口を開き、それらの点を線に繋いで一挙に前進を果たしていた。
「敵が侵入してきます!」
「く、いったん後退せよ」
形勢不利とみたマルゼアス大将は艦隊をいったん後退させる。
「今だ、ワルキューレを出して前方の敵艦隊を蹂躙せよ!」
マルゼアス艦隊が後退したことで、敵艦隊の連携が一時的に途絶したことを見抜いたロイエンタールは、この気に攻勢をかける。
無論、オリアスとて一流の将帥。
敵が攻勢に転じてくるのは予想していたが、オリアスとロイエンタールの力量はほぼ互角。
もしくは、経験の差でロイエンタールといったところである。
であれば、上手くチャンスをものにした方が主導権を握るのは自明の理である。
戦いの趨勢は帝国軍に傾きつつあった。
「殿下、このままでは……」
「仕方無い、オルメ艦隊に入電。敵の側面を突け……とな」
オリアスはこの流れを変えるため、予備兵力であるオルメ艦隊の投入を決める。
帝国軍も予備兵力を出してこれを防ぐだろうが、オルメ艦隊との戦力差は3000隻前後。
十分に勝機はあると踏んでいた。
「ほう、ここで切ってくるか。スプレイン艦隊に抑えさせろ」
ロイエンタールも、予備兵力としていたスプレイン艦隊を投入する。
元々、こんなときの為に温存していた部隊だ。
ここで切らない手は無い。
激突した両艦隊はやはり数の差で勝るオルメ艦隊が押しつつあり、今にもスプレイン艦隊を突破しそうな勢いである。
スプレイン艦隊の中央は大きく下がり、もうすぐV字形になろうとしていた。
「ん? いや、待て」
ここでオルメは敵が意図的にV字型の陣形を構築しつつあることを悟った。
その証拠に、目の前の艦隊は崩れかけているにもかかわらず、その行動は妙に秩序立っている。
「ちっ、なかなか侮れん。いったん進撃中止だ」
オルメ艦隊が突撃を中止したことによって、オリアスは継戦か撤退かの決断を迫られることになった。
このまま戦闘を継続しても無意味な消耗戦でしかない。
しかし、撤退もまた安易に決断できるものではなかった。
そもそもこの戦い自体が、ロアキアの沽券を保つために行われた戦闘である。
ここで引けばロアキアの威信が失墜するのは目に見えていた。
軍事的な理由ではなく、政治的な理由で軍事行動が制限される。
やり難いことこの上ない。
この時、オリアスは思考に耽っており一時的に戦況を把握していなかった。
そのため、ロイエンタール艦隊の一部が前進と後退を繰り返すという奇妙な動きをしていることに気づくことができないでいた。
このロイエンタール艦隊の動きに釣られ前進してしまったのは、オリアス艦隊の先鋒であるミューリッツ少将の分艦隊である。
「青二才に用兵のなんたるかを教えてやるとしよう。ファイエル!」
ロイエンタール艦隊は、ミューリッツの部隊を火線の中心圏に引きずり込み至近距離からビームとミサイルを浴びせかけた。
「反撃しつつ後退!」
「ダメです! 退路を断たれました!」
ミューリッツが反撃と交代を交互に行うつど、ロイエンタール艦隊は先手を打ち、強かに損害を与えていった。
「ミューリッツ提督の部隊が!」
「これは……全艦前進してミューリッツを救い出せ!」
オリアスはすぐに救出の命令を下す。
「オリアスの本隊が出てきたか、ここまでのようだな。いったん後退せよ」
オリアスの本隊が出てきたことで、無意味な出血を嫌ったロイエンタールは艦隊をいったん引いて陣形を整えさせる。
この短期間の攻防で、3000隻だったミューリッツ分艦隊はその数を600隻にまで減らしていた。
「(この私としたことが、このようなミスをするとは……)全軍後退、撤退する」
ここに至って、オリアスは撤退を決断した。
元々、迷っていたところにこの損害……撤退を決意させるには十分であった。
ロアキア軍は戦場から撤退し、帝国軍も無用な追撃は行わなかった。
戦況は帝国軍に有利だったとはいえ、ロアキア軍は余力を持って撤退するのである。
地の理が向こうにあることも考えると追撃のリスクは大き過ぎた。
こうして、第二次レンスプルト星域会戦は終結した。
帝国軍の損失艦艇4200隻。
ロアキア軍の損失艦艇9700隻。
戦術・戦略的に銀河帝国軍の勝利であった。
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