『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二十四話
その夜、帝都は地震に襲われた。幸いにも揺れは強烈ではなく、帝都の街並みやインフラを破壊するような事はなかったが人心に与えた傷は深刻なものとなった。
震度は測定しないと分からないが、後の報告で被害の程度から震度は四から五弱と推定された。
更に発生時刻が深夜という事もあり、帝都にいた人間は不意を突かれた事となる。
ハーピィのテュワルは以前に似たような体験をしていた。南方の火山地帯に住んでいた彼女は噴火の寸前に大地が揺れるという希有な体験をしたのだ。
彼女は最初は勘違いだろうと思っていたが、何かが引っ掛かり恐怖感を拭い去る事が出来ずにミザリィに相談したのだ。
そしてミザリィは黒河のところへ来たのである。
「……これは自分では対処しきれないな……」
そう判断した黒河は桑原に相談した。桑原も判断をこの事務所の所長である新田原少佐に報告した。
「……予知夢というやつだな」
新田原はそう呟く。新田原は所長になる前に今村中将に呼ばれて言われている事があった。
「異世界では日本の常識は通用しない。非常識の事を考えて行動せよ」
既に第三偵察隊によって炎龍の存在も確認されているのだ、日本での常識は通用しないと今村達司令部はそう判断していたのだ。
そのため、危険と判断したら直ぐに司令部に知らせるようになっていた。
「……良し、信じてみよう」
新田原はそう決断して彼女達を一時的に保護する事にしたのである。昔からの地震国である日本だからこそ、そう決断したのだ。
これがアメリカなら笑い飛ばして追い返すのが関の山である。そして新田原は伊丹達にも連絡を入れといた。
「地震? ほんとに来ますか?」
「まぁ来なくても丁度いい訓練になるだけだよ」
伊丹と樹はそう話しながら城館を出て外の森へ歩いていた。
「……眠い……」
「俺の右肩で寝ないで下さい……てかハミルトンさんもです」
ピニャは菅原にほぼ無理矢理な形で叩き起こされていた。無論、それはハミルトンでもあり二人とも半分眠りながら歩いている有り様である。
「両手に花か?」
「そこ五月蝿いです」
ニヤニヤしてくる伊丹に樹はそう返すだけである。
この時、菅原の護衛でピニャの館に滞在していたのは伊丹、樹、栗山、富田、水野の五人である。
伊丹と樹は完全武装とまでは言わないがそれでも九五式軍刀とコルトM1903を装備している。
富田達は海軍から支給されたベ式機関短銃を主にしての完全武装である。九九式短小銃ではボルトアクション方式なので連射が出来ないために機関短銃を臨時で装備していたのだ。
後に機関短銃の性能を知った陸海軍は銃剣付きの一〇〇式機関短銃やドイツからMP40を大量生産して下士官に配備したりしている。
メイド達や松明を揚げ持つピニャの護衛兵達も戸惑いを隠せない様子であり、ただピニャに従っているという理由で応じているだけだ。
すると小さな揺れが起きた。
「来ましたね」
「うん、ほんとに来たな」
そして到来する本格的な揺れが起きる。僅か三十~四十秒程度の事だったが、産まれて初めて地揺れを経験するピニャ達にとっては顔面を蒼白させる事である。
ピニャとハミルトンは思わず樹を抱き締めた。
「ちょ、大丈夫ですか?」
「「………」」
樹の言葉に頷こうにも地揺れの恐怖で頷けない二人であるが、地揺れに平然としている樹や伊丹達を見て勇者のように思えた。
「大丈夫ですから……」
足下に抱きつく二人に樹は二人の頭を撫でて落ち着かせようとしている。富田や栗山の足下にもメイド達が悲鳴を上げながら群がって落ち着かせるようにしていた。
そして地揺れは漸く収まったのであった。
「この程度なら問題無いですね。まぁ城壁とか弱いところは崩れてるかもしれませんが」
「……うん……うん」
樹の言葉に地揺れで思考停止状態のピニャはただ頷くだけである。
漸く思考が戻ったのは五分が過ぎており、ピニャは樹から大きな地震の後には大抵はもう一度の余震が起きると聞かされた。
「直ちに皇帝陛下の下へ参らなくてはならない」
「分かりました。ではお気をつけて」
樹や伊丹も反対する理由はないのでそう告げるがピニャとハミルトンは顔面を蒼白しながら同行してくれと言い出した。
流石に親玉のところへ行くのは樹や伊丹は渋ったが二人は頭を下げた。
「セッツ殿、イタミ殿、お願いだ。傍にいてほしい」
「御願いしますイツキ殿ッ!!」
ハミルトンもそう言ってきた。後ろではメイド達がうんうんと頷き、護衛兵達は胸を反らして伊丹達の背後で人垣を作っていた。
「……仕方ない。行くとするか」
こうして皇宮に向かうピニャ達に伊丹達も同行する事になったのである。
ピニャ達が皇宮に到着した時は皇宮は大混乱となっておらず、近衛兵や文官達がおろおろと辺りをうろついていた。
そのため、伊丹達は誰何を受ける事なく皇帝の寝室前まで来れてしまったのだ。
「ほぅ、最初に来るのはディアボかゾルザル辺りかと思っておったがまさかピニャが来るとはな」
皇帝は顔を冷や汗でいっぱいにしぬがらピニャ達を出迎えた。
「陛下、身支度をなさって下さい」
ピニャはそう言い、文武の官僚達に指示を出していく。皇帝はピニャの横顔を見ながら感心するように口を開いた。
「一皮剥けたようだなピニャよ。時に見慣れぬ者を側に置いてあるな。将軍達が来るまで暫し時があるであろう。その間に紹介してくれぬか?」
「紹介します。ニホン帝国使節のスガワラ殿です」
菅原は胸を張って一歩前に出るの頭を垂れる礼をもって敬意を表した。菅原の背後では伊丹達が挙手の敬礼を行う。
「確かかの国と我が帝国との仲介の任を引き受けていたのだったな。だが、何故このような時にお連れしたのか?」
「父上、この者らは此度のような地揺れに大層詳しく、聞けばこれより揺れ戻しがあると申しておりますので傍で助言をと思っておりました」
ピニャの言葉に皇帝は顔色を変えた。
「また揺れると?」
「はい、そのために是非にと御願いして同行していただいた次第です」
「良かろう。使節殿、歓迎申し上げる」
「陛下におかれましては御機嫌麗しく」
菅原が脳内で用意していた挨拶の口上を述べる。
「天変地異の直後に麗しいはずなかろう。が、お陰で我が娘の意外なる成長を見届ける事が出来た。礼を言うぞ」
「いいえ、殿下が日頃から研鑽されて参られた結果とお見受けいたします」
「使節殿、今は生憎と忙しくてもてなす事は出来ぬが時と所を変えて盛大な宴を開いて歓迎したい」
「はい陛下。お話する機会をいただきたく存じます」
「そう言えばニホンという国にも王がいるのだな?」
皇帝は意外な事を聞いてきた。何故王……天皇陛下を知っているのか?
それは直ぐに分かる事であった。
後書き
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m
ページ上へ戻る