久遠の神話
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第四十二話 表と裏その八
「そうするからにはです」
「根拠があるんですね」
「根拠がなければできません」
それはとてもだというのだ。
「これは戦いだけに限りませんが」
「じゃあその根拠は」
「それはわかりませんが」
大石もここでは首を横に振るしかなかった。
「ですが根拠は必ずあります」
「そうですか。それでは」
「その根拠、理由を知れば」
「中田さんを止めることができるんですね」
「おそらくは」
「じゃあ。いや」
言おうとした。だがすぐにだった。
上城は顔を曇らせてだ。こう言った。先程言おうとしたこととは全く違う言葉を。
「それはできませんね」
「することはできます」
「けれどそれをやれば」
「あの人を傷つけるかも知れません」
「中田さんの心を」
「人の心を傷つけること」
上城もそれがどういうことなのか知っていた。自らがそうしてそうされてきたからだ。己の心の古傷を感じながら言う。
「それは絶対に」
「そうなりかねないことですから」
「調べるべきじゃないですね」
「人の心は繊細ですから」
それは中田でもだった。一見すると飄々としていてタフに見える彼もまた。
「ですからそれは」
「するべきじゃないですね」
「それは人として間違っています」
大石はこうまで言ってそうした公道を戒めた。
「おわかりになられますね」
「はい、それは」
「ならです」
これで答えは出た。それからだった。
二人で黄金を手に取った。まずは一本ずつそれぞれのものとし残りはだ。大石がこう上城に対して言った。
「これは私が」
「寄付して下さいますか」
「そうさせてもらいます」
こう上城に言うのだった。
「ここは是非共」
「そうですか。それでは」
「はい、それでは」
「バチカンに寄付ですか」
「孤児院にも直接です」
寄付をするというのだ。
「そうして多くの方が救われます」
「お金になってですね」
「お金は確かに人の目を曇らせますが」
そうなってしまう者は多い。世の中にはそうした輩で溢れていることも確かだ。
だがそれだけではないとだ。彼はこうも言ったのである。
「しかしそのお金によって救われる人もいます」
「お金によって」
「そういうものです。お金とは持つ人によってその性格を変えます」
「人を狂わせもすれば」
「人を救いもするのです」
「お金が悪いんじゃないんですね」
「心です」
それが問題だというのだ。
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