DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 導く光の物語
5-22王子と勇者
「最後の、仲間、ですか?」
「まるで、数が決まっておるかのような……。そうなのかの?」
ミネアの言葉に、クリフトとブライが疑問を呈する。
ミネアが答える。
「はい。導かれて集う運命の者は、ユウの他に七名。兄さんと私、トルネコさん、アリーナ、ブライさん、クリフトさんで、六名です。最後のひとりと思われる、バトランドの戦士ライアンという方が、キングレオに向かったとの情報がありました」
「ライアン?はて、何処かで」
「エンドールに向かう旅の扉の、エンドール側の祠の宿で戦士に会っただろう」
「おお、そうでしたな」
「あの方ですか。それなら、納得です」
マーニャが話を引き継ぐ。
「キングレオは、オレらが仇の野郎と戦って、返り討ちにあった曰く付きの場所でな。野郎はキングレオの王に収まってやがったから、城に突っ込んだんだが。野郎は、進化の秘法で化け物になってやがってな。それでも奴だけなら負けなかったんだが、裏にデスピサロが付いてるとか言う、別の化け物が出てきやがって。あれから状況が変わったとも思えねえから、あそこは魔物に乗っ取られたままだろうな」
「魔物に。それじゃ、その人が、あぶない」
「進化の秘法、とは?」
「詳しくは、わからないのですが。身体を『進化』させて、強力な魔物の身体となる秘技のようです。錬金術師だった私たちの父、エドガンが発見したもので。それを消し去ろうとしたために、父は弟子だったバルザックに殺され、バルザックは進化の秘法を奪って逃げました」
「進化、して、魔物の身体に、とは……。神の御心に反します」
「野郎は悪魔に魂を売った、とか噂されてたな」
「ふむ。悍ましきことじゃな」
「そんなやり方で強くなっても、楽しくは無さそうだな」
マーニャとミネアの話にサントハイムの面々が各々眉を顰めて言葉を洩らし、トルネコが話を戻す。
「その、戦士さまですけれど。ユウちゃんを、探しておられるのよね。それなら、いきなり怪しいお城に入り込むようなことは、しないのじゃないかしら。」
「それはそうでしょうが、その方が発たれてから時間も経っていますから。領内を探るような真似を続ければ、いずれは目に付くでしょう。急ぐに越したことはありませんね」
「そうね。でもそうは言っても、クリフトさんは病み上がりですから。無理をして、船の上で体調を崩しては大変ですわ。船に積む水や食糧の準備もありますし、少なくとも明日一日は、様子を見ましょう。」
「そうですね。それがいいですね」
「私のために、申し訳ありません」
「あらあら、そんなことないのよ。どちらにしても、準備は必要なんですから。」
「マーニャとミネアは、ルーラかキメラの翼で行けないのか?」
「行けねえこたあ、ねえだろうが」
「不穏な情勢の国ですからね。港の船の出入りも、厳しく制限されているくらいですから。他国から飛んで行っては、警戒されるでしょう。特に私と兄は、お尋ね者になっている可能性がありますし。船で、目立たない場所に着けて上陸するのがいいかと思っているのですが。どうでしょう、ブライさん」
「そうじゃの。急ぐとは言え、一刻を争う程の事態では無い。我らが導かれて出逢う運命ならば、そのようになるのじゃろう。ここは慎重を期した上で、可能な限り急ぐべきであろうな」
「それでは、船で。クリフトさんの体調を見て、明後日以降に出発ということで」
話は纏まり、ブライがクリフトに告げる。
「うむ。では、クリフト。部屋に戻って休むが良い」
「ですが。まだ、我が国のお話が」
「それは、王子とわしから説明すれば良いこと。無理に立ち会う必要も無かろう」
「……そうですね。ここで意地を張っては、かえってご迷惑になりますね。それでは、みなさん。お先に休ませていただきます」
「お部屋まで、お送りしますわ」
「ありがとうございます、トルネコさん。アリーナ様、ブライ様、後のことはお願いいたします」
「ああ。ゆっくり休め」
立ち上がったクリフトにトルネコが寄り添って支え、食堂を出て行く。
「あとは、なぜみなさんがデスピサロを怪しまれているかですね。こうなっては、聞くまでもないという気もしますが」
「うむ。これまでは怪しんでおっただけじゃが、皆の話を聞いて、疑惑が深まったでな。何にせよ、トルネコ殿が戻られてから、念のためお話しいたそう」
「そうですね。聞かせていただけば、なにか気付くこともあるかもしれませんから」
夕食を取りつつトルネコを待ち、戻ってきたところで、ブライが改めて口を開く。
「さて。我らが奴を怪しむ理由じゃが。ユウちゃんのようにはっきり襲われたということも無ければ、マーニャ殿、ミネア殿のように魔物の口から聞いたということも無くての。ただ、我が王が、予知の力を持つこと。その力を以て、地獄の帝王の復活を予知しておられたこと。その予知を人に告げることを、一度は阻まれていること。エンドールの武術大会の、優勝候補であった奴めが、決勝を待たずして姿を消したこと。奴が姿を消した時期、魔物が姿を消した時期、我が城の者たちが消えた時期。それらが、一致しておること。これらを総合的に判断して、デスピサロの奴めが怪しいと踏んだのじゃ」
アリーナも、言葉を添える。
「他に、手がかりが無かったとも言うな。城には、なんの痕跡も無かったからな」
占い師であるミネアが、聞き慣れない神秘の力に、反応する。
「サントハイム王に、そのようなお力があったとは。私の占いとは、また違うもののようですね」
「うむ。占いのように、狙ったことを知ることは出来ぬが。占いは、占いたいことや対象がはっきりしておらねば、占えぬのじゃったな?」
「はい。例えば、みなさんを目にした後で占えば、みなさんが導かれし者だとわかりますが。出逢う前には、それはわかりません。自分や連れを占って、出逢いの手がかりを得る程度しか」
「うむ。我が王の予知は、本来知るはずも無いこと、知ろうと考えもせぬことが、天啓のように知らされるのじゃ」
「天啓……。まさに、神のご意思のようですね」
「うむ。じゃからこそ、魔物共に危ぶまれたのでは無いかと思うておる。故に、城の者ごと、隠されたのでは無いかとな」
「ただ、証拠は無い。あったところで、皆が戻らないなら意味も無い。雲を掴むような話だったが、少なくともデスピサロが魔物を率いていることがわかったからな。収穫だ」
「うむ。僅かながら、希望が見えましたな」
「つまり、どうあっても奴が怪しいってこったな。奴の手先のキングレオの野郎共も、締め上げて倒しゃあいいと」
「そういうことだね。そう簡単にいけばいいけど」
「ライアンとかいうのがいるんだろ?どっちにしても行かなきゃならねえんだ。考えてできるこたあ、ばあさんに魔法習っとくくらいだな」
「そうだね。ブライさん、時間はありませんが、よろしくお願いします」
「うむ。逆に考えれば、この状況ならばマーニャ殿の覚えは良くなりそうじゃの」
「そうですね。さすが、よくおわかりです」
「よし、ややこしい話は一旦終わろうぜ。アリーナ、洞窟じゃ随分な役立たず共を連れてたらしいじゃねえか。どこで拾って、どこに置いてきたんだ?」
真面目な話に飽きたマーニャが、もういいだろうと話を変える。
アリーナが答える。
「ああ、彼らにはミントスで会った」
「ここでかよ」
「俺は地図を見るのは苦手だからな。仲間に誘われたから、道案内を頼んだんだ。見るからに弱かったが、元々ひとりで戦うつもりだったしな。さすがに旅慣れているだけあって、道案内の腕は確かだった。役立たずということは、無いな。ひとりで行くのとどちらが早かったかと言われると、微妙なところだが」
「戦闘で足引っ張って、他で役立って、トントンか」
「いや。戦闘にはそもそも参加して来なかったから、足を引っ張られてもいないな。ただ、歩くのが遅かった。気配も消さないから魔物によく見つかって、そのぶん多く戦えたから、同じ時間と考えれば連れて行って良かったな。俺ひとりでは、ああも引っかけられない」
「前向きだな……いや、単純に喜んでるのか」
「だから、私たちが追いつけたんですね」
「サントハイムの王子殿下ともあろう方が。あまりくだらない理由で、くだらない者をお連れになりませんように」
「何でもくだらないと切って捨てるのはどうかと思うぞ」
「で、どこに置いてきたんだ?」
「リレミトとルーラが使える者はいなかったからな。洞窟の中に置いて来るわけにはいかないから、急き立ててとりあえず洞窟の外までついて出て。キメラの翼を渡して、そこに置いてきた。宿までついて来られても困るからな。報酬は、道中の戦利品で話をつけてあったし」
「キメラの翼って、非常用のか?どうやって帰ってきたんだ」
「走ってだが。さすがに、一度通った道ならわかるからな」
「……ソレッタにも、キメラの翼くらい売って……ねえかもしれねえな」
「パデキアの種は、無かったからな。ブライが手に入れてるとしても、俺がソレッタに寄る意味は無い。だから、寄り道せずに走って帰ってきた」
「その発想がもうおかしいだろ。走って、ルーラを使ったオレらに追いついて来たのかよ」
「マーニャたちが、いつ頃戻ったかは知らないが。ソレッタに寄ったのなら、そんなものだろう」
「……ばあさん。やっぱ、助けは要らなかったな」
「賭けの要素が大きいからの。やはり、追いかけて正解じゃった」
黙って話を聞いていた少女が、ぽつりと呟く。
「……地獄の帝王を、倒すために。旅してるって言ってた、戦士さん。戦わない、のね」
「世の中にはな、言うことだけは大きい奴ってのがいるんだよ」
「……そう、なのね」
「ユウも、仲間に誘われたのか?」
「うん」
「なかなか、面白い者たちだったが。ユウは、ならなくて正解だな」
「そこはそう思うんですね」
「向き不向きはあるからな」
「なんだか、充実した道中だったようですわね。終わり良ければ、といったところかしら。」
「そうだな!その通りだ!」
「甘やかさないでくだされ、トルネコ殿。」
話を終え、夕食も終えて、今日はもう遅いからと部屋に戻って休む。
翌朝、少女がいつものように早く起きて走り込みを始めると、既に起き出していたアリーナが、先に走っていた。
「おはよう、アリーナ。早いね」
「ああ、おはよう、ユウ!手合わせが楽しみでな、早く目が覚めた!」
「わたしは、そんなに強くないと思う」
「そんなことは無い。普段の身のこなしを見れば、その者の強さはある程度わかる。ユウは、身のこなしで言えば、十分に手練れと呼んでいいレベルだ」
「そう、なの?」
「ああ。そうだ」
走り込みを終え、少女は軽く素振りを、アリーナは型の確認を済ませ、向かい合う。
ブライとミネアも起き出して、側に控えていた。
「なんだ、ブライ。見張りに来たのか。心配性だな」
「今回ばかりは、心配の相手は王子ではございませんがな」
「わかってるよ。クリフトの代わりの回復役まで確保して、念入りなことだな」
「私は、それほど心配はしていないのですが。気を付けるに越したことはありませんからね」
「よし。備えも万全だそうだ。ユウ、行くぞ!」
「うん。」
少女の返事を受け、アリーナが走り出す。
真っ直ぐ距離を詰めてくるアリーナを待ち構えるように、盾を構える少女。
アリーナは、盾の脇から一撃を入れる、と見せて身を低くし、足を払いに行く。
少女も読んでおり、落ち着いて身を躱す。
足払いを躱されたアリーナは、その流れのまま地面に手をついて足を振り上げ、武器を蹴り上げにかかる。
少女は身を引いて躱し、無防備になったアリーナの上半身を狙い、剣を振るう。
無防備に見えていたアリーナの上半身が勢い良く跳ね上がり、振り上げた足を抱え込むように丸くなり、そのまま背後に飛んで距離を取る。
着地しようとするアリーナに、今度は少女から距離を詰め、まだ地に着かない足元を狙って斬りつける。
アリーナは瞬時に膝を曲げて着地の瞬間を遅らせ、更に伸ばして剣を踏みつける。
体重をかけられ、少女は思わず剣を取り落としそうになるが、堪えて盾をぶつけに行く。
盾がぶつかりそうになる刹那、アリーナは剣にかけた足を、不意に外す。
バランスを崩し、ぐらつく少女の隙を逃さず、盾をかわして喉元に正拳を打ち込み、当てずに止める。
ふたりの動きが、止まる。
少女が、言葉を発する。
「まいり、ました?」
「どうして、疑問形なんだ?」
「師匠は、いつも止めずに打ち込んできたから。こういうのは、初めて」
「そうなのか。厳しい師匠だな」
「アリーナは、違うの?」
「特定の師匠というのも、いないが。手解きをしてくれた者たちは、遠慮して打ち込んでは来なかったな。成長して、手合わせするようになってからは、今度は当たらなくなったし。訓練で痛い思いをしたことは、そう言えば無いな」
「それ以外でなら、あるの?」
「碌に力も付いていないうちから、城を抜け出して魔物に手を出して、痛い目を見たり。後は、訓練以外で、少しな」
「訓練以外……あ。おばあちゃんが」
「ブライが?」
アリーナは、周りを見回す。
いつの間にか、ブライとミネアの姿は消えていた。
「……いないな。ブライから、何か聞いたのか」
「……うん。アリーナが、小さい頃の、お話。武術を、始めたお話」
「そうか。まあ、そういうことだ。結果として、人の痛みを知ったわけだから、良かったとも言えるな」
「よかった、の?」
「そうとも言えるというだけだ。全部が良かったと、思えるわけでは無いな」
「……そう。やっぱり、いやなことは、いや、よね」
「嫌だ、と思ったことも、あったな」
「今は、いやじゃ、ないの?」
「どうかな。喜んで受け入れるという程では無いが。どうしても嫌、というわけでも無いな」
「それは、魔法が使えないこと?王子様なこと?」
「魔法のことは、もういいんだ。俺には、武術があるからな」
「じゃあ、王子様な、こと。」
「そうだな。だが、それも、受け入れようとは思ってる。守りたいからな」
「なにを?」
「サントハイムをだ。親父が、ブライが、皆が守ってきた、国を。そこに暮らす、皆を。どうして俺が、と思ったこともあったが。俺が王子だから、皆を助けるために堂々と動けるし、協力が得られることもある。そういう意味では、俺が王子で良かったな」
「王子様、だから。できることが、あるのね」
「ああ」
「しなきゃいけないんじゃなくて、したいのね」
「そうだ」
「……わたしは……」
「ユウは、嫌なのか?」
「……うん……」
「それは、勇者と呼ばれることか?勇者であることか?」
「勇者なんて、いやって、思ってたけど。今は、よくわからない。わかってるのは、わたしが勇者だったから、村のみんなが死んじゃったこと。みんなが死んじゃったのは、いやだってこと。だから、みんなを殺したあのひとが、デスピサロが、許せないって、こと。」
「そうか。だから、デスピサロを倒したいんだな」
「うん」
「デスピサロを倒すには、力が要るな」
「うん」
「ユウが強くなれるのは、ユウが頑張っているからでもあるが。強くなれる素質を持った、勇者だからでもあるな」
「勇者、だから」
「今のユウにとっては、勇者と呼ばれて世界を救えと言われることは、嫌なことかもしれないが。勇者の力があることは、良いこととも言えるな。それがあれば、デスピサロを倒せるかもしれないのだから」
「それが。あれば。」
「俺が魔法を使えないように、素質が無ければどうしようも無いこともある。過去を忘れる必要は無いが、今、役に立つ力を、恨みに思うことは無いと、俺は思う。過去のことと、その力とは、別のことだ」
「別の、こと。」
「俺は、国を守りたいと思うが。漠然と、国を、世界を守れと言われても、わからないな。守りたいのは、そこに守りたいものが、人が在るからだ。ユウも、世界を守りたいかどうか、わからなかったら。守りたいものが在るかどうか、考えればいいと思う」
「守りたい、もの。」
それは、一度は全て、失ったもの。
そして、新たに得たもの。
世界を知って、まだ知らない場所にもきっと大事なものがあると、気付き始めているもの。
「俺たちは、同じ運命の仲間だったな。何も、ユウがひとりでやる必要は無い。というか、もしもユウがやらないと言ったら、俺はひとりでもやる。世界を救わなければ、国どころでは無いからな。だが、それは俺が決めたことだ。ユウはユウで、自分で決めていいんだ」
「自分で、決める。」
もうほとんど、答えは出ているけれど。
それでも、はっきり言葉にするには、まだ、足りない。
力が。
絆が。
自信が。
決意が。
「……ありがとう。わたし、わかったような、気がする」
「そうか。まあ、焦ることは無い。何にしても、まだまだ鍛えないと話にならないからな!俺に勝てるくらいに!」
「アリーナに?……それは、難しいと、思う」
「手合わせだけなら、無理でも無いだろう。力加減無しの実戦なら、難しいかもしれないが。それも魔法ありなら、わからないしな」
「そうかな」
「そうだ。まだ時間はあるな。もう一本いくか」
「うん」
再び手合わせを始めた若者たちを、物陰から見守るふたつの影。
「王子……!ご立派に、なられましたな……!」
「ブライさん。これは、覗きとか盗み聞きというのでは」
「そうじゃの。お主も共犯じゃて」
「……」
「まあ、良かったではないか。ユウちゃんが何を悩んでおるかわからねば、ミネア殿も安心できまいて」
「それは、そうなのですが。罪悪感が」
「なに。バレねば良いのじゃ。親というのは、このようなものじゃて。さ、見つからぬうちに、ゆくぞ」
「……親、ですか……」
影は去り、若者たちは鍛練に励む。
後書き
数多の光を受けて、照らし出される少女の心。
さらなる光を目指して、一行は準備を整える。
次回、『5-23魔女の教室』。
8/10(土)午前5:00更新。
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