DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 導く光の物語
5-20王子と神官
兎も角も王子の無事を確認し、落ち着きを取り戻したブライ。
一行も王子たちの後に続き、『元』扉のあった部屋の中に進む。
元扉の先は、広い空間になっていた。
ひとつの大きな部屋であるようだが、岩や氷、凍った床に阻まれて、簡単には進めそうに無い。
「入り組んでいますね。進むには手間取りそうです」
「凍った床も、避けて通れそうにないわね。どこから進みましょうか。」
「ひとつずつ、経路を潰していくしかあるまいの。元は魔物もおらず、保管に用いたというくらいじゃ、致命的な罠はあるまいて」
「つまり、最初はどこからでもいいということになりますね。ひとまず、先頭のトルネコさんにおまかせしましょう」
「そうね。ホフマンさんが言っていた宝の匂いという特技、どうやらあたしは使えるようですし。匂いを頼りに、ひとまず進んでみましょうか。」
「うむ。お頼みしますぞ。通った経路は、覚えておきますゆえ。探すほうに、集中してくだされ」
「道を覚えて、ついていけばいいのね」
トルネコはひとまず、目の前に長く続いて見える、凍った細長い通路に足を踏み入れる。
と、トルネコが滑るように前に移動して行く。
「あら?あらあらあら?」
少女が、追いかける。
「待って、トルネコ。……え?滑って、る?」
少女も、同じように進んで行く。
さらにミネアが続く。
「ふたりとも、どうしました……これは」
ミネアも、ふたりに続いて滑って行く。
「ふむ。これは奇っ怪な。ともあれ、行くかの」
ブライも遅れじと足を踏み入れ、やはり滑るように移動して行く。
足元の氷が尽きる場所に至って、やっとトルネコは止まることができ、三人も順次追いついてきた。
「ああ、驚いた。ただの凍った床じゃ、なかったのね。」
「氷じゃ、ないのね?」
「氷を利用した、魔法のようじゃの。時間があれば、じっくり調べたいところじゃ」
「せっかく保管している種を、簡単に持ち出されては困るでしょうからね。仕掛けがしてあったのですね」
「これじゃあ、単純に匂いのするほうを目指せばいいってわけにも、いかないわねえ。」
「滑る床にだけ気を付ければ、大丈夫でしょう。複雑な経路にはなるでしょうが、もののある場所を目指すことには変わりありませんから」
「そうね。うっかり踏み込まないように、気を付けるわね。ユウちゃん、気付いてないようだったら、止めてちょうだいね。」
「うん、わかった」
「匂いは、いろんなところからするわねえ。この階だと、四ヶ所かしら。……あら、やだ。この場所、滑る床に囲まれてるわね。」
「本当ですね。どこかに、踏み込んでみるしかないですね」
「待たれよ。この魔法、どこかで見たと思ったのじゃ。我がサントハイムに伝わるものと、似ておるの。よく見れば、進む方向が示されておるはずじゃ」
「方向?……矢印みたいなのが、あるね」
「本当ですね。今来た道を見れば、矢印の方向が進む方向ということになりそうです」
「なら、その方向を考えて、進む道を選べばいいのね。あたし、そういうの苦手なのよねえ。」
「どちらから匂いがするか教えて頂ければ、それは私たちで考えましょう」
「うむ。そうじゃの」
トルネコの情報に基づいてミネアとブライが進む道を決定し、少女は通った経路を覚えながら、洞窟を進む。
進む中で、王子一行に遭遇した。
先頭の戦士が、少女に声をかけてくる。
「やあ、また会ったね。覚えてないかな?ブランカのお城で、会ったじゃないか。あのときは、仲間がいっぱいで、仲間にしてあげられなくて、ごめんね。」
「あのときの。……仲間の人が、ちがうね?」
「ああ。みんな、旅の辛さに音を上げてしまったんだ。よくあることさ。」
「よく、ある、の」
二番目の兵士が、話に加わる。
「地獄の帝王から、世界を救うための旅でござるからな。生半な者には務まらぬ。」
三番目の詩人も、同意する。
「出会いがあれば、別れもある。その巡り合わせで、うしろにいるアリーナ王子も、私たちの仲間になりました。彼を助けて、この洞窟までやって来たのです。」
辺りを見回していた最後尾の若者が、名前に反応して顔を向ける。
「呼んだか?……って、ブライじゃないか!どうしたんだ、こんなところまで」
「王子!心配しましたぞ!こちらの方々が、宿で声をかけてくだされての。やはり王子だけにお任せしてはおけぬと、彼らの仲間になり、追いかけて参ったのです」
「心配するなと言っただろう。パデキアの種は俺たちが見つけて、クリフトを助けてみせる。みんな、行くぞ!」
「はい!」
「王子!待ちなされ!」
立ち去ろうとする王子一行の前に、魔物の群れが現れる。
前の三人が悲鳴を上げる。
「で、出たー!」
「王子!お願いします!」
「た、助けてください!」
若者の背後に逃げ込み、震える三人。
楽しそうに飛び出す若者。
「よし!任せろ!」
若者は瞬時に魔物の懐に飛び込み、一撃を入れる。
急所に強烈な打撃を受けた魔物は、断末魔を上げることも無く絶命し、若者がいた方向に倒れかかるが、既に若者の姿はそこに無い。
一体目の絶命を確認する前に二体目に取りかかり、瞬く間に魔物の群れを殲滅した。
震えていた三人が、囃し立てる。
「さすが、王子!」
「これなら、お仲間でも世界でも、救えますな!」
「私たちの伝説は、始まったばかりです!さあ、次に参りましょう!」
若者は軽く応じる。
「この洞窟の魔物は、なかなか手応えがあるな。よし、次だ!行くぞ!」
「はい!」
今度こそ、立ち去る王子一行。
ブライが呟く。
「……案の定じゃ。すっかり、戦いを楽しんでおられる。連れも、揃いも揃って役立たずじゃて」
「王子様は、本当に強いのね。でも、ひとりで、戦ってたね」
「お連れの方たちは、応援団みたいでしたわね。荷物持ちに道案内に、戦えなくてもできることは、あるでしょうけれど。」
少女とトルネコが、感想を述べる。
ミネアが、慰める。
「身の程を弁えている方たちではなかったですか。実力も省みず前に出るようでは、かえって王子の身が危険になります。あの三人を連れていては、あまり無茶はできないでしょうから、王子様は大丈夫でしょう」
「そうじゃの。流石に足手纏いを置き去りにしてまで突き進むような、情の無いお方ではありませんからな。パデキアは、我らが持ち帰れば良いだけのこと。動き回る王子を捕まえようとするより、動き回る理由を無くすほうが、手っ取り早いというものじゃな。失礼した、我らも行きましょうぞ」
気を取り直して、探索を再開する一行。
トルネコが拾う宝の匂いに、通った道を確実に記憶していく少女。
ふたりの示す情報から、次に行くべき道を検討し、決定するブライとミネア。
戦闘では、ブライの氷結魔法が猛威を振るう。
「氷の洞窟だから、魔物も氷には強いかと思いましたけれど。かなり、効きますのね。」
「氷の魔法は冷気だけでなく、氷塊や鋭い氷の刃による、物理的な攻撃力もあるからの。冷気に弱いもののほうが効くとは言え、他に効かぬということは無い」
「氷の魔法は、初めて見た。すごく、強いのね。おばあちゃんが、強いのかな」
「伊達に年は取っておらんでの」
「これで、補助の魔法もお得意なんですよね。兄さんも見習ってくれれば」
「ふむ。マーニャ殿か。ともあれ、今は先を急ぎましょうぞ」
役割を分担し効率良く探索を進め、宝箱の中身を順当に回収しつつ、同じようで微妙に違う道をぐるぐると回り、見えていてなかなかたどり着けなかった階段にもたどり着き、一行は洞窟の最下階に到着した。
その部屋は、滑る床でほとんど埋め尽くされていた。
滑る床の海に孤島のように残された場所に、宝箱がふたつ、離ればなれに置いてある。
「随分と、また。徹底しておるの」
「滑る床の方向が、複雑に配置してありますね。よく見れば、たどり着けそうです」
「適当に踏んでしまっても、そのうちたどり着けそうですけれど。そうはいっても、滑るのも疲れますものね。わかるなら、わかったほうがありがたいですわ。」
「あの宝箱なら、ここ。そっちの宝箱なら、最初は、ここ。」
「早いの、ユウちゃん。わしには、遠くの矢印まではよく見えぬ」
「どちらかは、罠かもしれません。ですが、開けてみないわけにもいきませんね。足場が悪いので、気を付けないと」
「それならば、わしがインパスを使えるでの。近くには寄らねばならぬが、罠は避けられますぞ。残しておいても王子が開けましょうし、退治するも良かろうと思い、ここまでは使っておらなんだがの」
「それなら、安心ですが。罠を残しておいても、大丈夫ですか?」
「人食い箱程度なら、連れは兎も角、王子には万一ということも無かろうて。今は、我らが急ぐが肝要じゃ。自ら危険に首を突っ込む役立たず共と、臥せるクリフトの身とでは、秤にかけるまでも無い」
「そうですね。では、こちらから行きましょうか」
少女が見極めた滑る床の正しい道筋をたどり、魔物が擬態する宝箱はブライの魔法で看破して避け、残った宝箱をトルネコが開ける。
「これが、パデキアの種ですわね。実物を見るのは初めてですけれど、間違いないようですわ。状態も、いいようですわね。」
「おお、左様か!ならば一刻も早く、ソレッタに戻りましょうぞ!脱出魔法を使うゆえ、皆さん寄ってくだされ!」
「リレミトも、使えるのね」
「王子様は、いいのですか?」
「捕まえようとしても、すぐには見つかりますまい。遅くともたどり着けば、種が無いことはわかりますからな。ならば今は臥せるクリフトが、パデキアが優先じゃ」
「そうですね。では、お願いします」
「うむ。リレミト!」
魔法の力で洞窟を一瞬にして脱出し、外に出る。
馬車の周りは、死屍累々の有り様だった。
魔物の屍に囲まれたマーニャが、気楽に手を振る。
「よう。あったか?」
「……兄さん。これは、一体」
「あ?なにがだ?」
「この、惨状だよ」
「いや、なに。魔力は余ってるし、暇だしな。嬢ちゃんもお前もいねえなら、遠慮もいらねえってんでな。ちっと、派手にやり過ぎたら、どんどん集まってきちまってな」
「やり過ぎにも、程があるだろ。ひとりで、なにかあったらどうするつもりだったんだ」
「なんもなかったから、いいじゃねえか」
「そういう問題じゃ」
「ミネア殿。済まぬが、急ぎたいのじゃ」
「……そうでしたね。こちらこそ、すみません」
「パトリシアも、大丈夫かな。パトリシア!」
ひとりで馬車を守るのに、繋いだままでは守り切れないこともあるからと、念のため放していたパトリシアに少女が呼びかける。
少女の呼びかけに応えるように嘶きが聴こえ、すぐにパトリシアが姿を現す。
「よかった。無事だったのね」
「では、ルーラを使いますぞ」
「兄さん、あとで話があるから。ブライさん、お願いします」
「うむ。ルーラ!」
ソレッタに戻り、再び村の入り口に馬車を置いて、王の畑に向かう。
日も暮れかかった畑では、王がいまだ野良仕事に勤しんでいた。
ブライが呼びかける。
「陛下!」
「おお、ブライ殿。アリーナ王子には、会えたかな?」
「お蔭様で。それよりも、パデキアですじゃ!トルネコ殿!」
「はい。王様、こちらを。」
「ふむ。……これは!これこそは、まさしく、パデキアの種ではないか!なぜこれが、いやそれよりも。種を、早く、畑に蒔かねば!」
「収穫に、どれほどかかりますかの?」
「大丈夫、パデキアはすぐに育つのじゃ。すぐにも……ほれ!見られよ!」
トルネコから王が受け取り、畑に蒔かれたパデキアの種は、みるみるうちに芽を出し、辺り一面に広がり、すくすくと丈を伸ばし、立派に成長した。
「なんと……!」
「ありがとう!これで、この国は救われた!パデキアが、必要なのであったな?ささ、そなたも。パデキアの根っこを、持って行くが良い。」
王は手際良くパデキアの根を掘り出すと、泥を丁寧に払い、茎を切り落として、ブライに差し出す。
「有り難うございます!これで、仲間も救われますわい!では、これにて!」
「うむ。急いで戻られるがよかろう。気を付けてな。」
「皆さん、お疲れでしょうが、あと一息です!このまま、ミントスに戻りますぞ!」
「はい。急ぎましょう」
「早く、治して差し上げないとね。あたしたちは大丈夫ですから、お気遣いなく。」
「うん。大丈夫」
「ばあさんこそ、大丈夫か?ルーラなら、オレが使うぜ」
「魔力ならば、まだあるが。頼めるかの」
「任せな」
馬車を拾い、マーニャのルーラでミントスに戻る。
ミントスの宿で、氷と水を運ぶホフマンに会う。
「あっ、みなさん!お帰りなさい!」
「おお、ホフマン殿!クリフトの様子は、どうかの」
「付いてる女性の話では、大きく変わりはないものの、やはり弱ってきてはいるそうです」
「大きくは、変わり無いのじゃな!ならば、きっと」
「ええ、きっと、大丈夫ですわ。」
「ホフマン殿。済まぬが、これを。このパデキアの根っこを、煎じてきて頂けぬか」
「わかりました!」
パデキアをホフマンに預け、代わりにミネアとマーニャが氷と水を受け取り、臥せる神官、クリフトの休む部屋に入る。
看病していた女性が振り返り、ブライに場所を譲って、部屋を出る。
額を冷やす氷嚢の氷を、入れ直す。
「クリフト。すぐに、薬が届くでな。今少しの辛抱じゃ」
高熱に魘されて消耗し、赤みを帯びながらも青褪めた顔色のクリフトの意識は混濁し、返事は無い。
「クリフト、さん。苦しそう」
「そうね。でも、パデキアが手に入ったんだから。きっと、すぐに良くなるわ。」
部屋の扉が、開かれる。
「クリフト!ブライ!」
「王子!」
若者が、アリーナ王子が部屋に駆け込んでくる。
「ブライ、パデキアは」
「今、煎じてもらっておるところです」
「そうか」
ホフマンが、煎じたパデキアの根っこを持ってやってくる。
「お待たせしました!ブライさん、これを」
「おお、忝ない。クリフト、薬じゃぞ」
「お手伝いしますわ。」
「わたしも。」
トルネコと少女が、薬を飲みやすいようにクリフトの身体を少し起こして頭を支え、ブライが薬を含ませる。
朦朧としながらも、少しずつ薬を飲み込むクリフト。
瞼がゆっくりと開き、言葉にならない声を発する。
「う……ん……」
「クリフト!」
アリーナが呼びかける。
クリフトが、目を見開く。
「……はっ。王子!」
「良かった!気が付いたか!」
「アリーナ様……。ブライ様も……。お恥ずかしいです……。王子をお守りするべき私が、このような有り様だったとは……。」
「気にするな。まずは身体を治して、十分に回復したら、またデスピサロを探す旅を続けよう」
「そうじゃの。回復して、何よりじゃ」
「はい!」
少女が、呟く。
「デス、ピサロ。」
アリーナが、少女に向き直る。
「そう言えば。ブライを助けて、パデキアを取ってきてくれたのだったな。行っても無かったから、もう駄目かと思って戻って来たのだが。助かった、ありがとう」
「ううん。それは、いいの。王子様も、デスピサロを探しているの?」
「ああ。我が国の者たちが消えた事件と、関係あるのではないかと思ってな。俺も、ということは」
「うん。わたしも、デスピサロを探しているの。倒さないと、いけないから」
クリフトが、口を開く。
「以前、勇者の住む村が、デスピサロに滅ぼされたという噂を聞いたことがあります。まさかとは思いますが、あなたは」
「うん。わたしが、その勇者で。デスピサロが、わたしの村を、滅ぼしたの。」
クリフトが、息を飲む。
ブライは考え込み、アリーナが応じる。
「そうだったのか。よし!それなら、一緒に探そう!旅は、多いほうが楽しいからな!」
「ふむ。我ら三人だけでは、不安もあったところですからな。皆さんとこのままご一緒出来るなら、ありがたいですのう」
「王子様も、おばあちゃんも、強いものね。クリフト、さんは……ミネア、あの」
「大丈夫ですよ。三人とも、私たちと同じ運命の、仲間です。」
「そう。なら、大丈夫ね」
「まあまあ。賑やかになりますわね。よろしくお願いしますわね。」
「堅苦しいかと思ったら、面白え王子様だな。ま、よろしく頼むわ」
「ああ!よろしくな!ところで、皆の名前は」
「まあまあ。自己紹介もいいですけれど、クリフトさんはやっと気が付いたところですから。とりあえず休んでいただいて、あとで仕切り直したほうが、いいのじゃないかしら。」
「そうだな。すまない、クリフト。まずは、休んでくれ」
「そんな、勿体ない。私なら、大丈夫です」
「何を言うか。何日、意識が無かったと思うておるのじゃ。確り休んで治さねば、後に響くじゃろう。神官ならば、己が身のことも、確り見ぬか」
「はい……。申し訳ありません……」
ミネアが、話を纏める。
「では、私たちも、宿に部屋を取って。夕食の席で、改めてお話ししましょうか。クリフトさんは、休んでいていただいて構いませんから」
「はい……」
後書き
老婆の憂いは晴れ、一行は新たな仲間を得る。
運命は集い、続く。
次回、『5-21合流』。
8/3(土)午前5:00更新。
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