FULL魔法ブリッツ学園~魔法使「えな」い~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
序章
俺に魔法は使えない
もしも魔法が使えたら、俺は私立ブリッツ学園に入学するつもりだった。そんなもしもを叶えた奴らは、魔法学園に入るのが最近の日本で流行っている。俺も魔法使いとして覚醒したい、その意気込みもむなしく、何の変化もないまま思春期を悶々と過ごしている。そして、去年の入試でラストチャンスを逃した俺は、入学叶わず普通の公立高校に通い始めた。せっかく高校生になるんだし、ブレザーを着たい。学ランとか中学で卒業したかった。
まぁ全ては後の祭りだ。所詮、俺は魔法使いにはなれない。なるには、このエロい妄想癖をなんとかしないといけない。煩悩は魔力の大敵だ。体のアルマを制御するには、純真無垢なイメージが必要なのだ。そのため、詠唱妨害はとても簡単、形はどうあれ気を散らせばいいのだ。だからと言ってなめてはダメだ。煩悩に強い人間が、簡単に集中を切らすとは思えない。と言うか絶対にない。ソースは俺だ。
「決闘だーー!!」
通学路を塞ぐ群衆と同じ空を見上げると本日は晴天の霹靂、その中で箒に跨る二人の魔法使いが揉め事を起こしていた。縦横無尽に空の青を駆ける様は、大よそ似合わない光景である。霹靂の理由は魔法使いの一人、雷使いの辻さんのせいだった。遠くてわかりにくいのだが、あの雷の威力は彼女で間違いはない。
辻さんは有名人だった。一年生にして私立ブリッツ学園に入学してそうそう主席に君臨した女帝さまだ。眉目秀麗で社会的に非の打ちどころのないステータスをお持ちの彼女だが、そう言う人間に付きものの欠点がある。性格が最悪、俺にも彼女絡みの実経験があるが、そこはノーコメントで……。
辻さんに挑むのは、命知らずのやられ役Aさん。名前は知らない。きっとこれからも知ることはない。ここからでは、顔も曖昧で男子か女子かすらわからない。よってAさんと呼称しょう。やられ役Aさんの手から手のひらサイズの炎が連射されるが、格の違いを見せるよう辻さんは悪戯に交わして見せる。ここからでも彼女が「それで本気?」と挑発して、高笑いをしながらよけている気がしてならない。
「落ちろカトンボ!!」
自在に空を舞う辻さんの声が微かに聞こえた。彼女の口からまさかの決め台詞だ。これはイタイ……。お前もあれか? 異常に勘の鋭い奴か? 生みの親も定義に困ってんだよ。気易く言ってやるな。
叫んでから間もなく、辻さんの頭上に電撃の塊が出来て行く。電撃は瞬く間に大きくなり、学校一つ分の大きさになった。戦っていた相手が戦意を喪失したのは見て取れる。もう許してやれよ。箒に跨って、向かい合ったまま動かないのだ。脱力の制止とともに、涙声の絶叫が聞こえた。声から察するに対戦相手は彼女と同じ女子の様だ。
電撃がAさんに放たれると、空だけではなく世界が光に包まれた。余波で癖になりそうな微弱な電流を全身に感じた。ここに居合わせた全員が同じ状況で同じことを思ったはずだ。うん、下から何か漏れそうだと……。それを証拠に男女問わず、甘い声をだしいている。
こんな騒ぎに警察が出てこないのは何故かって? そりゃあんた、魔法学園の生徒も立派な警察ですからんね。魔法学園の学生手帳は学割のためだけに存在するに非ず。警察手帳としても機能しますよ。
この決闘騒ぎでどちらが何を取り締まっているのかは知らんが、勘弁して欲しい。でも一つ言えることがある。きっと辻が悪い。
しばらくして、電撃のショックで麻痺した交通機関の整備に警察がやってきた。電気系統のイカれた車の渋滞、点灯しない信号機、きっと不特定多数のお宅では電化製品の故障もあることだろう。しかも騒ぎの帳本どもは、もういない。
とりあえず今朝の惨劇を友人に知らせるべく、ポケットの中から携帯を取り出した。
「……」
携帯は俺の真似をする。つまり沈黙。昨日買ったばかりのスマホがもう壊れた。やはり辻が悪い。道端の空き缶に八つ当たりしてから、俺は歩き出す。
ページ上へ戻る