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子供と魔法

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第六章


第六章

 動物達も家具達も木々もそうした男の子を見て。言うのでした。
「本当はいい子なのかな」
「そうじゃないの?」
「そうじゃないとあんなことしないよ」
 こう言い合うのでした。
「それに反省したみたいだし」
「そうだね。それじゃあ」
「お母さんのところに帰してあげようか」
 そして皆で男の子を抱えてこの子の部屋にまで連れて行きました。そうしてベッドの上に優しく寝かせてそのうえで皆去るのでした。
 もう完全に夜になっています。やがてすっかり暗くなってしまった部屋にお母さんが入って来ました。
「御飯よ」
「えっ、御飯!?」
 男の子はそれを聞いてすぐにベッドから飛び起きました。そうしてすぐにその暗くなってしまった部屋の中を見てみますと。
 何も起こってはいませんでした。壁にかけられている絵もそのままですし時計もです。暖炉も奇麗ですし本当に何もなかったみたいです。
「そんな。あれだけ暴れたのに」
「ひょっとしてずっと寝ていたの?」
 お母さんは怪訝な声で男の子に尋ねました。
「おやつ持って来た時も寝てたし」
「おやつって?」
「ほら、机の上に置いておいたのよ」
 お母さんは机の上を指差して男の子に告げました。
「あそこに」
「あっ、本当だ」
 見ればそこには紅茶とパンがあります。ちゃんとお砂糖とジャムもあります。
「おやつ。あるね」
「そんなに疲れてたの?」 
 お母さんはまた怪訝な声で男の子に尋ねました。
「学校で何かあったの?」
「学校では何もなかったけれど」
 それでもあったのです。今まで。けれどそのことはどうしてもお母さんに言えませんでした。
 その中で今までのことを考えて。こうも言うのでした。
「夢だったのかな」
「夢を見たの?」
「ひょっとしたら」
 男の子の声は少しぼんやりとしたものになっていました。
「そうかも」
「そうなの。夢を見たの」
「多分。それでママン」
 ここまで話してそのうえでお母さんに対して顔を向けて言いました。
「晩御飯だけれど」
「早く食べなさい」
 お母さんは男の子に優しく告げました。
「いいわね」
「うん。その前にね」
 男の子は言うのでした。
「リスを逃がしてトンボと蝙蝠も放してあげたいんだけれど」
 こう言いました。
「駄目かな」
「別にいいけれど」
 お母さんはそれはいいと答えたのでした。
「あんたがやっと捕まえたのにいいのね」
「いいよ。だって皆捕まってるの嫌だし」
 夢だったのか本当だったのかわからないことを思い出しながらの決意でした。
「あとものは大事にしてちゃんとお勉強しないとね」
「あらあら、どうしたの?」
 お母さんは男の子のそんな言葉を聞いて声を笑わせました。
「急にいい子になって」
「ちょっとね」
 ここでは少し笑うだけの男の子でした。
「わかったから。皆だって寂しいし痛い思いをするんだって」
「そうよ。誰だってね」
 お母さんもこのことはわかりました。何しろお母さんが男の子にいつも言っていることですから。わからない筈がないことでした。
「寂しいし痛い思いをするものよ」
「それがわかったから。それじゃあ」
「お父さんももう少ししたら帰って来るし」
 お母さんの声が少し笑いました。
「それで皆を放してあげたらちゃんと手を洗ってテーブルに来なさいね」
「はい、ママン」
 男の子は笑顔で応えました。そしてそれからベッドから出てリス達を放してあげて晩御飯を食べるのでした。男の子はこの時からとてもいい子になりました。


子供と魔法   完


                 2009・8・13
 
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