薬剤師
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第八章
第八章
「一つ条件がありまして」
「条件とは?」
「お嬢さんをです」
グリエッタを見ての言葉である。そのグリエッタも彼を見て楽しそうに笑っている。
「私と一緒にして欲しいのですが」
「一緒にですか」
「そうです。三人で一緒にトルコまで行くことが条件です」
そういうことにするのであった。
「それが絶対の条件です」
「ふむ。トルコに行けば報酬が貰える」
「家が幾つも買えて宝石が山の様に」
「それはいい」
宝石とまで聞いて完全に乗り気になったセンブローニョだった。
「それでは早速トルコに」
「では三人で、ですね」
「うむ、行こう」
「では」
メンゴーネはここでその懐から。あの証明書を出した。しかしこう言い繕うのであった。
「ここにサインを」
「はい、それでは」
完全に報酬のことで頭が一杯になったセンブローニョはそれが証明書と気付かない。すぐにペンを持って来て素早くサインする。それで決まりだった。
「お待たせしました」
丁度ここでヴォルピーノが戻って来た。服はターバンを巻いて適当な付け髭で変装している。インチキ臭いトルコ人である。
「それで証明書ですが」
「あれっ、今話は終わりましたけれど」
「えっ、今って」
センブローニョの言葉を聞いてきょとんとした顔になるヴォルピーノだった。
「トルコ行きがですか?」
「そうですけれどそれが何か」
「僕が証明書を持って来たのに」
「証明書なら今サインしましたし」
また彼に答えるセンブローニョだった。
「それでまた証明書って」
「どういうことなんだ?一体」
訳がわからずつい腕を組んでいぶかしんだ顔になるヴォルピーノだった。
「話がわかりませんが」
「よし、これでいいな」
「そうね」
その中でメンゴーネとグリエッタが笑顔になっていた。
「これで僕達は結ばれたんだ」
「名実共にね」
「結ばれた?」
ヴォルピーノは今度は二人に顔を向けた。
「結ばれたって何がなんだろう」
「やったな、グリエッタ」
「ええ、メンゴーネ」
「メンゴーネ君!?」
「今そう言ったな、確かに」
ヴォルピーノもセンブローニョもここで気付いたのだった。
「トルコ人じゃないのか?まさか」
「そういえば似ているような」
「よし、もう変装はいらないぞ」
「ええ、そうよ」
ここでターバンと髭を取るとだった。出て来たのはまさにメンゴーネだった。
「あっ」
「本当にメンゴーネだったのか!」
「いや、騙すつもりはなかったんですがね」
今更ながら白々しく言うメンゴーネだった。
「けれどこんなに上手くいくなんて思いませんでしたよ」
「しまった、先を越されたか」
「何とっ、今度はあんたか!」
もう一人のトルコ人がターバンと付け髭を取るとそこに出て来たのはヴォルピーノだった。センブローニョはここでまた驚くことになった。
「じゃあトルコ人は一人もいなかったのか!」
「全く。こんなことなら最初から変装の用意をしておくんだったよ」
「いや、問題はそこじゃないですぞ」
センブローニョは項垂れる彼に突っ込みを入れる。
「じゃあトルコでペストのお話は」
「どうなんでしょうね」
今更極めて無責任に言うヴォルピーノだった。
「ひょっとしたら本当にそうなっているかも知れませんけれど」
「本当にって」
「僕トルコのこと知りませんし」
これまた実に無責任な言葉だった。
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