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同士との邂逅

作者:日月
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九 道化師は哂う 前編

 
前書き
この話を書くきっかけは、GS美神原作で横島が記憶喪失になる回から、もしあの記憶喪失状態が横島の本当の性格だったら…という妄想から始まりました。また、霊能力もいまいちわからないので精神的なモノ→性格?と勝手に書きました。(美神が鞭だったんで…)
ネタバレ・自己解釈・捏造多数、更に横島を美化している節があります。ものすごくシリアス、加えて心理描写が多いです。ご注意ください。

 

 

当初、両親に恵まれ多くの人間が自然と集まるその姿に、子ども―――ナルトは嫉妬を抱いた。

一言で言えば、横島忠夫という人間が子どもと大人の中間という今の年齢に達するまでの成長話。
赤ん坊から子どもに、少年から青年に。

女癖が異常に悪く、馬鹿でスケベな男の性に、三忍の一角でエロ仙人の異名を持つ男がナルトの脳裏に一瞬浮かんだ。


横島自身の視点から見た映像は、まるで映画のように流れていく。それと同時に、彼の心情が手に取るようにナルトの頭へ流れ込んできた。
映像における行動に反して内心では後ろ向きな考えを持つ横島に、次第に嫉妬という概念が無くなり。
映像内の幼子が今の横島の面差しに徐々に似ていくその様を、ナルトは目を瞬かせて眺めていた。











世界同時株安の影響を劈頭に脱した日本は、投機が投機を呼ぶ連鎖反応により開発ラッシュを迎えていた。しかしながら金融融和を背景に、増大する不良債権の中には霊的不良物件も含まれる。悪霊が巣食うビルや呪われた土地。

そういった問題を解決するのが現世の陰陽師であり退魔師のゴーストスイーパー―――GS。
不良物件の霊瘴を取り除くGS達は、その機に応じて無尽蔵に躍動していた。




GSが活躍する時代に生まれた横島忠夫。
彼は当初、霊能力のレの字も知らない子どもだった。けれど環境から、横島は普通の子どもではなくなっていく。
その原因が道化――ピエロだった。


幼子の頃、一度だけサーカスに連れて行ってもらったことがある。
普通の子どもなら、ライオンなどの猛獣を扱う動物芸や空中ブランコといった派手な曲芸に目を輝かせるだろう。しかし横島は、中でもピエロが気になった。その泣き笑い顔を見た瞬間、ドキリと心臓を鷲掴みにされたような不思議な感覚が背筋を這う。他の団員に比べて目立たないのに、客の笑いをとるのに頑張るその姿に、カッコいいとも寂しいとも哀しいとも…子どもながらに様々な感情が渦を捲いた。

元々悪戯好きだった横島は、単なる遊びのつもりでピエロの真似をし始めた。明るくおどけて、皆を笑わせる。怒られても呆れられてもへらへらとした態度をとった。

最初は父母へのちょっとした反抗だった。一般人より抜きんでいる母は、昔から横島にきつかった。尤も彼女は息子に多大な期待を寄せるあまりに厳しかったのだが、幼い横島にはわからなかった。父も母には逆らえず、おもちゃを強請っても滅多に買ってくれなかった。その一方で女遊びが激しい父が妬ましく、同時に羨ましかった。そこで特に女好きじゃなくても父の真似だと思って女好きのふりをした。女好きという共通点を持つ事で父に近づけたと勘違いし、ピエロの演技の上に演技を塗り潰した。厳しい母を困らせ、気を引きたかった。


普通の家族のように愛されたい。皆を喜ばせたい。だからこそあえて自分が笑いものになった。幼い時に出したその結論は、のちに自身の首を絞める事になるとも知らず、彼はおかしな言動を繰り返した。

サーカスのピエロを参考に、横島は演技を繰り返す。
幼いあの日に見たピエロの気持ちを知りたいなんて、そんな言い訳を心に抱き、道化を被り続けた。

わざと大袈裟に振舞い、わざと馬鹿な事をし、わざと目立ち、わざと怒られ、わざと失敗し、わざと皆に笑われようと必死になる。さながらそれは表のナルトそっくりの行動であった。
何の利益にもならないその演技は、日々続けるほど舞台に立っても不思議じゃないくらい完璧になっていく。


しかしながら小学生にもなると、周りは横島が思った通りにはならなくなっていった。
幼馴染と一緒に悪戯すると、横島にばかり矛先を向けられる。悪い事をしていなくても大抵は疑いの目を向けられた。狙い澄ましたように皆が皆、横島を非難した。そして実際に横島が潔白の時は、皆が軽口で弁解した。
仲の良い友達にもどこか軽んじられ、大人達からは問題児と見做される。母には常に呆れられ、父にはよく揶揄される。演技を止めたくても、止められない状況にまで彼は追い詰められた。
加えて父母の意見に従ううちに優柔不断な性格になってしまった彼は、本心を口に出せなくなる。
こういった蓄積が、横島の演技に拍車をかけた。


日常が彼にとっての舞台だった。いつか舞台袖に帰り本当の自分になれることを、それだけを望んで、横島は観客である周囲の人間を笑わせ続ける。しかし完璧なまでの道化自体が横島忠夫だと認識され、気づけば道化に成り下がっていた。

ピエロの気持ちはもう十分知った。もう演技なんてしたくない。

日に日にそう思うが、だからといって演技を止める事は出来なかった。完璧な道化を脱いだ後が恐ろしかった。
どうせ道化を脱いだところで偽者扱いされる。軽口だろうが、宇宙人や悪魔が化けたんだと言われることを予測し、横島は心の中で泣き哂った………―――。


そして皆が自分を理解してくれないのは自分自身のせいだと感じ、有能な父母と端整な顔立ちの幼馴染といった周囲と自身を比べ、己ばかりを責めるようになった。自覚の無いまま傷ついていった横島は、自己不信と劣等感の塊となり、同時に知らず知らず不信感を募らせていく。

笑われる晒し者といった立ち位置であることを常に頭に置き、計算し考え振舞ううちに、道化を被っていることすら忘れていった。馬鹿ですけべでおちゃらけで極度の女好きで能天気で妄想癖があるけど、人気者で中心人物である横島忠夫を演じきる。
皆が求める横島忠夫に扮し、自分が何者なのかでさえ彼は次第にわからなくなっていった。









……果たしてどれほど経っただろうか…―――。
両親が海外赴任したその頃であった。

上司の裏工作により父の勤務先が僻地の海外へ飛ばされたのだ。
そこがナルニアというジャングル奥地だと知った横島は、一緒に行きたくないと駄々をこね、一人暮らしを受理させる。
……本当は己を理解も気づいてもくれない両親と暮らすことが苦痛だった。だから舞台裏に引っ込み、本当の自分になれる時間が欲しかった…ただそれだけで横島は両親と離れ、一人東京に残ったのだった。


アパートで下宿中の横島は、バイト応募の紙を手に街中を練り歩く。学生の身で一人暮らしだと、必然的にバイトすることになる。更に両親からの仕送りは最低限で、彼はかなり切り詰められていた。

そして出会った。


亜麻色の髪を靡かせてバイト募集中の紙を貼る女性に、横島の心臓はドクリと音を立てる。
それは運命の兆候を知らせる音か因縁の残響か。それとも警報音か。
結局、彼は因縁に引きずられ、前世に流されてその女性に抱きつく。運命の分岐点は因縁によって定められてしまった。

その女性―――美神令子と出会った横島は、あれよあれよと彼女の下で働くことになる…自給250円という超薄給で。女好きが禍となり美神令子の色香に迷った横島は、彼女の助手(アルバイト)を始める。


美神令子の職業はGS―――ゴーストスイーパー。いわゆる悪霊祓いである。そんな彼女の下働くようになった横島は、除霊に必要な道具を詰めた大荷物を運ぶなど雑用紛いのことをしていた。
単なるバイトだったはずの横島は美神と共にいる事で、行く先々でなぜか面倒事に捲き込まれるようになる。

そうして面倒事から逃げ延びるたび、一般人だった彼は何時の間にか霊能力者として目覚めていった。
陽の当らない泥中に埋もれていた種が芽を出し、花を咲かせ、実を実らす植物の生長を早送りで見る如く。

若干十七歳という若さで、たった一年で、横島忠夫は急速に成長していく。それは人間としてか男としてか霊能力者としてか。どちらにせよ彼は霊能力の芽を出してしまった……自身の意思に関係なく。



最初の霊能力は[サイキック・ソーサー]と横島が名付けた、霊気の盾。
横島一人だけで闘わざるを得ない状況にて、彼の隠された霊能力が覚醒した。
拳を掲げ、一点集中。
霊気で創った六角形の盾が、横島の拳前に出現する。強靭な防御力を誇るその盾は、出現する間拳以外が全くの無防備になってしまう…諸刃の剣。されど投擲し相手にぶつければかなりの威力を放つ、防御にも攻撃にも使える技。

実際霊力を少し操れるようになった。それだけで、色々変われると横島は思っていた。変われるのが自分自身なのか自身への周囲の認識なのかは考えないようにして、それでも何かが変われると、そう信じていた。
表裏一体のその霊能力は後々幸福となるか不幸となるか、そもそも彼自身の為になるのかは実質誰にも解らない。


次に横島が手にした力は、一般に[霊波刀]の一種と考えられているもの。
右手の甲が淡い光を放ち、徐々に篭の手のような鎧を纏う。
横島は、その右手に光を見た。希望の光、救いの灯…――栄光を。だから彼はその力を、[栄光の手]と名付けた。
伸縮自在に様々な形状へ変化するソレを、最も攻撃力の高そうな武器―剣に象らせて闘う。


そうして最後に手に入れた力が[文珠]である。
足を引っ張っていてばかりの今までの自分を一蹴し、命を賭けた事で身につけた力。
いつか辿り着きたいと願っていた、美神令子の隣。
その理想の立ち位置に上り詰めたくて、彼女の助けになりたくて高めた能力。
横島は、助手ではなく戦友として美神に認められてほしかったのだ。



無類の女性好きを宣言する横島であるが、彼が抱きつく行為をするのは初対面の女性のみ。そして大抵その女性達は、横島を必ず拒むと予想できる人間である。だから会う度に抱きついてどつかれるといった漫才のようなやり取りの相方は、いつも美神だけだった。

意地っ張りで負けず嫌いな性格は、弱い自分を見せないためのもので実は寂しがりやだという美神の本心を、横島は勘付いていた。前世の彼女を慰めたいという、深遠な魂の訴えもあったかもしれない。
セクハラという行為を利用して横島は美神に抱きつく。そうすれば正当防衛という名で、彼女が遠慮なく力を振るえるから。

現世も前世もひっくるめて、横島は美神の我儘を受け入れる。照れ隠しに殴られようが、八つ当たりに蹴られようが、ストレス発散にしばかれようが、横島は大して文句は言わなかった…三途の川は見飽きたが。


そうしてGS仲間と共に様々な困難に立ち向かううち、一般人から程遠くなっていった横島は。
次第に世界を揺るがす大事件へと捲き込まれる事になる。















なるほど、とナルトは思う。
霊能力というモノはその人の性格を如実に現しているのだろう、と。

横島が最初に身に付けたのは、霊気の盾。
強靭な防御力を誇るその盾は、出現する間拳以外が全くの無防備になってしまう…諸刃の剣。されど投擲し相手にぶつければかなりの威力を放つ、防御にも攻撃にも使える技。
しかし使い所を誤れば、どう戦況が転ぶか判らぬ紛らわしい力。その力は、横島の優柔不断な性格と似通っている。

次に彼が身に付けたのは、[栄光の手]と名付けた霊波刀の一種。
様々な形状に変化出来るコレは、確かに応用力が広い。一つの形に留まらず、注がれる霊能力次第で発揮する武器である。
しかし一に定まらずに複数の形状へと変わるその様は、横島の複合観念(コンプレックス)と類似しているようだった。


そして尤も稀有な力―――[文珠]。
神々にしか扱えない、神器という伝承にすらなっているこの力。聡明叡智なナルトでさえも、この珠は神話でしか知り得なかった。

[文珠]とは、霊能力をビー玉ほどに凝縮したもので、漢字一文字の念を込めれば様々な効果を発動する。文珠を生成出来るのは、この世界、神界・魔界・人界の中でも横島ただひとり。更に予め創った文珠は、横島の体内に貯蓄でき、彼の意識下ですぐ出現及び発動出来る。

しかし、厄介な事に一度創った文珠は他の者も使用可能。一歩違えれば、この珠一つで世界を左右出来るだろう。なんせ攻撃・防御・治癒・錯乱とその力の方向性は多岐に渡る。

されど傍目には万能に見えるこの文珠も、その効果は本人の意図に必ずしも沿うわけでもない。
と言うのも、持続時間と持続能力に限りがあり、対象の状態が不適当だと発揮されないといった漠然としたモノで。加えて、その力の制御は難しい。

曖昧模糊なこの力は、横島のはっきりしない性格に基づいている。
それと対照的に、あらゆる力の方向性を完全に制御する文珠は、横島の無量無辺な心と寛容さを表象していた。
他人を受け入れられず殻に籠っているくせに、空の如く海原の如く砂漠の如き洋々とした心を持ち合わせている彼は、酷く矛盾している。

自己不信と劣等感の塊である横島の精神は、酷く危うげだ。
けれど世間からは何も考えていない軽薄で向うみずな人間だと認識され、益々彼は追い詰められている。

そんな横島を支えているのが、彼の潜在能力の霊能力だった。
精神安定剤であると共に、その精神状態に左右される力。その矛盾は、確かに表裏者の横島を現している。






もう一度、ナルトはなるほどな、と頷いた。そして同時に、横島に対して危機感を覚えた。

確かに制限や弱点も多いが臨機応変に発揮する文珠は、絶大な力と言えよう。人間はもちろん神族や魔族も喉から手が出るほど欲しい稀有な力。

けれどそんな事を全く気に留めず警戒しない横島に、ナルトは彼の前途を危惧する。横島の向後にまた凶変でも起こるのではないかと。
表情には出さないが彼は内心懸念していた。

(杞憂であってほしいがな…)

そう思うナルトの懼れた通り、映像は流れていく。その映像を第三者が観れば、先見の明があるのではないかと疑えるほど彼の読みは中っていた。

 
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