薬剤師
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第二章
第二章
「それじゃあそういうことで」
「頼んだよ」
「それで先生」
「んっ、今度はどうしたんだい?」
「グリエッタですけれど」
ここでまた彼女の名前を出したメンゴーネだった。
「今は一体何を」
「二階で裁縫をしているよ」
こう彼に答えるのだった。
「今丁度ね」
「そうですか」
「いい娘だよ」
センブローニョは惚れ惚れとした声でそのグリエッタという名前の相手を褒めるのだった。どうやらこれは娘であるらしい。
「わしもだ。知人から引き受けて後見人をしているが」
「いい娘ですか
「早く相手を見つけたいものだ」
(それはわしだ)
実は心の中でこんなことも思っていたりするのであった。
(もう長い間男やもめだ。そろそろ再婚したいものだ)
(先生も何を考えているのか油断はできないな)
メンゴーネも内心で自身の師匠を警戒していた。
(早いうちに決めてしまいたいな)
そんなことをそれぞれ考えているとだった。ここで店に蜂蜜色の髪に爽やかな顔の緑の目の派手な服の若者がやって来た。鼻が随分と高くて大きい。
「やあ、どうも」
「ああ、ヴォルピーノさん」
メンゴーネはその彼の顔を見て不機嫌な声で応えた。
「いらしたんですか」
「さて、頼んでいたのはできているかな」
「ああ、いらっしゃい」
見ればセンブローニョも彼に不機嫌な声で応えていた。表情もあまりいいものではない。
「約束のものはできていますよ」
「それは何よりだよ」
ヴォルピーノは彼の言葉を聞いてやや大袈裟な身振りで身体を動かしてみせた。その動作が不自然なまでに芝居がかってもいる。
「それじゃあね」
「ああ、メンゴーネ君」
「はい」
「もうそろそろ薬の調合に行くから」
「そうですか」
メンゴーネは無愛想な声で師匠に応えた。
「今から行かれるんですか」
「だから後は頼んだよ」
そしてこうも彼に告げるセンブローニョだった。
「そういうことでね」
「ええ。それじゃあ」
こうしてセンブローニョはそそくさとその場を後にしてしまった。後に残ったのはメンゴーネとヴォルピーノだけである。ヴォルピーノはまるで舞台にいるような動作でメンゴーネに問うてきたのだった。
「それでグリエッタさんは?」
「さあ」
これまた無愛想な返答だった。
「何処ですかね」
「あれ、このお店にいるんだよね」
「そう思いますけれどね」
これまた実に無愛想な返答だった。
「確か」
「つれないね。どうしたんだい?」
「別につれなくはないですよ」
「じゃあ無愛想か」
ヴォルピーノも全く懲りない。
「まあそれはそれでいいけれどね」
「そうなんですか」
「君はいいんだよ」
結局メンゴーネに興味はないということだった。実に素直な言葉である。
「僕はね、それよりもね」
「お薬ならありますけれど」
「いやいや、お薬も大事だけれど」
そうは言ってもどうでもいいというのは明らかだった。
「さて、それでね」
「お帰りはあちらですよ」
「何で帰らないといけないんだよ」
またしても訳のわからないまでに大袈裟な身振りを見せてきた。
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