トゥーランドット
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第二幕その四
第二幕その四
「炎より生まれ氷より冷たきもの・・・・・・」
カラフは少し俯き考え込む顔でそう呟いた。
「私を助けられるが私の命をも左右出来るもの・・・・・・」
「そうです、流石に答えられぬでしょう」
トゥーランドットは少し勝ち誇った様な顔と声で言った。
「さあ、負けを認めなさい」
「いや、私は決して負けない」
カラフは毅然として言った。
「何故ならその答えは今私の心の中にあるからだ」
「それは何だ!?」
民衆はカラフの言葉に対して問うた。
「それは姫よ、貴方だ」
カラフはトゥーランドットを見据えて言った。
「本来は炎より熱き心を持っているがそれを必死に覆い隠し氷の仮面を被っている。私に幸福を与えることも出来るが同時に死を与えることも出来る。それは貴女をおいて他にいない!」
「!」
トゥーランドットはそれを聞きはじめてその表情を変えた。驚愕したものであった。
そして上の方を振り向く。大臣達の持つ巻物の一つがゆっくりと開かれる。
「その通りです!」
今度は大臣達が一斉に叫んだ。皆それを聞き大きな歓声をあげた。
「やったぞ、遂に謎が解かれたんだ!」
「若者よ、貴方は今勝利を収めたんだ!」
民衆達が叫ぶ。役人や皇帝達も微笑んでいる。
「まさか本当にやりおるとは・・・・・・」
「ただの愚か者ではなかったようじゃ・・・・・・」
三人の宦官達も思わず感嘆の声を漏らした。カラフはそれを勝ち誇った声で聞いていた。
「やりおったな・・・・・・」
ティムールがホッとした顔で言った。
「殿下、おめでとうございます・・・・・・」
リューは胸を撫で下ろして言った。その声には何処か寂しさが漂っていた。
「これで全ては決まった」
皇帝は玉座から立ち上がって言った。
「若者よ、姫はそなたのものとなった」
民衆はそれを聞いてさらに歓声をあげた。だがトゥーランドットは蒼い顔をして父の側に走り寄った。
「お父様、お待ち下さい!」
父である皇帝の前に跪いて言った。
「私は見知らぬ男の妻になどなりたくはありません!」
今までの冷酷で倣岸な物腰が嘘のようであった。それは明らかに何かに怯える女性の姿であった。
「それはならん」
皇帝は峻厳な声で娘に対し言った。
「そなたは一国の、しかもこの中国の姫なのだぞ」
その声はまるで天からの声の様にその場を圧した。
「そんな、その様なことは・・・・・・」
トゥーランドットは蒼い顔で言った。
「私は永遠に処女であるべき存在、あの様な男の妻になれなどと・・・・・・」
彼女は顔を蒼くさせたまま言う。
「私をこの世の他の女達と一緒に扱うなどと・・・・・・」
「そうだ、そなたもこの世の女なのだ。他の誰とも変わらない」
「いえ、それは違います!」
彼女は父のその言葉に対あがらった。そして立ち上がりカラフを見下ろした。その目には激しい憎しみの炎が宿っている。
「私はあの男の心が見える。その黒い瞳には私を侮蔑する光が宿っている。私もまた一人の女に過ぎないのだと」
カラフはそれに答えない。ただトゥーランドットを見上げているだけである。
「だが私は違う、私はロウリン姫がこの世に生まれ変わった存在、誰も私を辱めることも触れることも出来ないのだ!」
「姫よ、もうたいがいにせぬか!」
皇帝はそんな娘を叱った。玉座から立つ。
「誓いを守れというのだ!そなたも誇りがあるならそれを守れ!」
「嫌です!」
彼女は感情を露わにして叫んだ。
「私は誰のものにもなりたくない、私は誇りを傷つけられるのは嫌です」
「しかしそなたは言ったではないか、謎を解いた者の妻になると」
「しかしそれは・・・・・・」
トゥーランドットは弱り果てていた。民衆も役人達を彼女から目を離さなかった。
「私はこの身を誰にもわたしたくはない、私以外の誰にも」
「姫よ」
ここでカラフが口を開いた。
「私の願いをお聞き届け下さい」
静かに語り掛ける様に言った。
「そんな・・・・・・」
彼女は蒼い顔でカラフを見た。
「私は貴女が出した三つの謎を全て解いた。今度は貴女の番です」
「しかし・・・・・・」
トゥーランドットは動けなかった。最早その身体を震わせるだけであった。
「姫よ、いい加減にするのだ。その若者の言う通りにせよ」
「けれど・・・・・・」
彼女は最早言葉を発することすら出来なくなりつつあった。
「ならば姫よ、私も貴女に謎を出そう」
カラフはトゥーランドットを見上げて言った。
「何っ!?」
これには皆驚いた。カラフは言葉を続けた。
「私の名を答えて下さい。朝日が昇るまでに。もし答えることが出来れば私の命は貴女に差し上げましょう」
「若者よ、その言葉本気か!?」
皇帝はその言葉を聞いて思わず声をあげた。
「私は嘘は言いません」
カラフは強く頷きながら言った。そして階段に足をかけた。
ゆっくりと登っていく。そしてトゥーランドットの側に来た。
「今よりその謎解きははじまります。姫よ、私の謎解きに答えていただけますね」
トゥーランドットは一言も発さず頷いた。
「よろしい」
カラフはそれを見て言った。
「私の名を答えられなければ貴女は私の妻に、答えられれば私の命は貴女のもの。今それを宣言しましょう!」
民衆はそれを聞き大いに叫んだ。こうして再び謎解きがはじまった。
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