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東方守勢録

作者:ユーミー
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第七話

「ふう……助かった……」


安堵の溜息をもらす俊司。やっと自由を手に入れた彼らは、まだ気はぬけない状況ではあるが、確かに安心感と喜びを感じあっていた。

だが、由莉香だけは複雑そうな顔をしていた。

他の人と比べて、軍に所属していた期間は短い。だが、経験と思い出が彼女を複雑な思いに引き寄せていた。自分の正義感の強さがこの結果を招いたことも知っている。それゆえに、軍を裏切る形になったことを悔やんでいたのかもしれない。

ふと自分の手を見ると、まだ若干震えているのがわかった。殺されかけたことによる恐怖と、裏切りをおこした自分に対する悔やみがそれを引き起こしていたのだ。

自分が後悔をしているかもしれない。由莉香は戸惑いを隠せずにいた。


(……!?)


一人思い悩んでいると、いきなり頭の上に軽い衝撃と温もりがはしる。

はっと前を向くと、俊司がこっちをみながらやさしいまなざしを送っていた。


「大丈夫か?」

「えっ……」

「お前は昔からこんなんだもんな。どうせ、自分がやったことは間違っていないだろうかと、思い悩んでんだろう?」

「……」

「後悔してるか?」

「ううん……後悔はしてないよ。でも、なんか……」


由莉香は何かを言おうとして、またためらっていた。

数年間は離れていたが、俊司にとってはいつものことだった。由莉香が例え間違っていないくても、間違っているのではと感じてしまうことがある。彼女の性格上しかたのないことだった。

しかし、それをコントロールしていたのは、いつも俊司だった。

だから、俊司は彼女の気持ちが全部とは言い切れないがわかっていた。だからこそ声をかけたのだった。


「なんかか……」

「うん……」

「大丈夫。確かに、もともといたところを裏切ることは勇気がいるし、罪悪感も感じるけど……間違ったことをしたわけじゃないだろ?」

「うん……」

「自身持てって由莉香。俺達は助かったし、自分も間違いに気づけた。それでいいだろ?」

「でも……私にはなにも……」


由莉香はそこから先を話そうとはしなかったが、俊司にはそれがわかっていた。

彼女はもともと敵だった。なんの罪のないこの世界の住人を恨み、攻撃していきた。だから、間違いに気づいたときはもう遅く、彼女の中には罪悪感だけが残っていたのだ。

それゆえに、これから先どうしようか迷っていたのだ。俊司達についていく事はむずかしい。かといって、戻ってしまえば殺される。完全に行き場を失っている。彼女はそう考えていた。

だから、その道を作るのも俊司の仕事だった。


「もう思い悩まなくてもいいさ。さっき仲間になったばっかだろ?」

「えっ……!?」

「あれ? 違いましたっけ?」

「違わないわ。私達を助けてくれたときからすでに仲間になったはずよ?」


俊司の問いかけに、咲夜が答える。その後ろでは、早苗たちも軽い笑みを返していた。


「でっ……でも、私は」

「もともと敵だった。じゃあなぜ俺達を助けたんだ?」

「それは……」

「ここはすべてを受け入れる幻想郷。間違いを悔やむ場所じゃないよ」

「……」


由莉香はまだ踏み切れずにいるようだった。俊司はそんな彼女を見て軽く溜息をつくと、手を差し伸べながら口を開いた。


「じゃあ、俺達の仲間になってくれるか?」

「!?」

「なんだ? 何か断る理由でも?」

「えっ……あ……」


由莉香は戸惑いを隠せずにいた。どれだけ間違いを犯そうが、彼女を攻めようとせずに手を差し伸べてくれる彼を見ながら……


「で? どうなんだ?」

「ほんとに……いいの?」

「異論ないですよね?」


俊司が回りに問いかけると、誰も反論することなくうなずいていた。

それを見て、由莉香は心のもやがはれていく気がした。受け入れてくれたことに対する感謝と、やらなければいけないことに気づいて。


「……はい」

「決まりだな」


そう言って俊司は笑っていた。


「さてと、じゃあ行きましょうか!」

「ええ!」


一同は再び歩き始める。彼らの目には、新しい希望が映りこんでいた。















(10秒だな)

不適な笑みを浮かべた男が見ているのも知らずに……















(これから罪滅ぼしがはじまるんだ……まずは他の人にも謝らないと。受け入れてくれるかな……?)


由莉香は歩きながらそんなことを考えていた。何をしていくべきか、自分にできることを必死に考えていた。


(…ありがとう。俊司君)


心の中でそういいながら俊司を見る由莉香。

そのときだった。


(!?)


俊司のそばにあった木が、一瞬ユラリと動いたのが目に映った。由莉香は不審に思い、その木を凝視して見る。

すると、かすかに半透明の何かが浮かび上がっていたことに気づいた。


(これは……!?)


由莉香の体中に悪寒がはしる。

変な文字と丸い円盤のような何か。それに、どこかで見たことのあるようなもの。










浮かび上がっていたのは魔方陣だったのだ。









(魔方陣!? まさか!)


由莉香は魔方陣を使う人間を一人だけ知っていた。脳裏に浮かび上がってきたのは、朝早くから自身の父親としゃべる男の姿。軍に忠実で、かなりの実力者である人間だった。

そして、この魔方陣が何を語っているかも悟っていた。

俊司は他の人としゃべっていて気づいてはいない。さらに、魔方陣は明らかに俊司のほうを向いている。

もはや考えることなく、彼女は走り出していた。


「俊司君! 危ない!!」

「えっ!?」


振り向こうとする俊司を無理やり突き飛ばす。



















その数秒後、なんとも表現しがたい音とともに、彼女の体をなにかが貫いていた。
















「あっ……」

「……!?」


俊司は体勢を崩しながら、目の前でおこった悲劇を見ていた。

由莉香の胴体には、半透明の何かが突き刺さっている。それだけじゃない。傷口から血液がポタポタと垂れ落ちていた。

脳内の整理が追いつかない。それに状況を考えると、由莉香は俊司を突き飛ばしていた。だったらこの攻撃はもともと自分に向けてのものだったのでは? だとしたら、由莉香は自分をかばったのか? 考えるだけで頭が真っ白になっていく。


「……」


由莉香は何も言わずに俊司を見つめた。その瞬間、俊司はやっと我に戻り、何が起こったのかもきちんと把握していた。


「ゆり……か……由莉香!?」


俊司が叫ぶと同時に、由莉香の胴体をとらえていた何かが離れる。傷口からは血液があふれていた。

その後、力を制御できないのか、由莉香は俊司を見ながらその場に崩れ去った。


「由莉香!!」


まだおぼつかない思考に鞭を入れながら、彼女に駆け寄る俊司。すぐさま傷口をおさえて出血を抑えようとするが、それでも抑えられる血液はごく少量だった。


「なんで……どうして……しっかりしてくれよ由莉香!」

「う……あ……」


痛みのせいかなにもしゃべることができない由莉香。状態は最悪だった。


「ちっ……最後の最後までじゃましやがって……」


助ける方法を考える俊司の耳に、冷酷な言葉が突き刺さる。同時に一人の男が彼の前に現れた。


「お前……」

「やあ、久しぶりだね。覚えてる?」


そう言って男は笑っていた。


「クルト……バーン」

「おお、覚えててくれたんだ。いやー感謝感謝」


男はそんなことを言いながら不敵な笑みを浮かべた。俊司は一瞬ですべてを理解する。この男がやったことだと。


「お前が……由莉香を……」

「いやー、ほんとは君を狙ったんだけどね? まさか、気づかれる上に君をかばうなんて思ってなかったからさ。嬉しい誤算かな?」

「とぼけんなあ!!!」


俊司は殺意をむき出しにすると、なんのためらいもなく彼に銃口を向けて引き金をひいた。

だが、何秒待っても弾丸が飛び出してくることはなかった。


「なっ……」

「そんな武器で俺を殺すってのか?」


俊司が使ったのはさっきまで使っていたハンドガン。だが、何度引き金を引いても発砲音は聞こえない。

よく見ると、ハンドガンの銃口には大きな亀裂ができており、とても扱える状態にはなっていなかった。


「そんな……あの時の……」


俊司の脳裏に浮かんだのは、防御壁を突破する際につかったスペルカード 変換『科学で証明されし弾薬』だった。ハンドガンからグレネード弾を発射し、防御壁を突破したのはよかった。

だが、ハンドガン自体がその反動に耐えきれていなかったのだ。

俊司の思考が音を立てて途切れていった。


「この外道が!!」


咲夜達は俊司のかわりに、ナイフや弾幕でクルトを攻撃する。だが、それと同時にクルトの足元から魔方陣が展開され、攻撃はことごとく防御されていった。


「まったく、君たちは無謀という言葉をしらないのか?」

「くっ……」

「しっかし、おもしろいねぇ? 里中君?」

「なに……?」

「君を狙ったと言ったろ? 君の能力だっけ? 『危機を回避する程度の能力』発動してないじゃん?」

「!!」


全くその通りだった。

俊司の能力は『危機を回避する程度の能力』。これまで何度も命の危機を脱出してきた。

だが、今回はそれが起きることはなかった。俊司の脳内は疑問と焦りが生まれ始めていた。


「我々は仮定をたてたのさ。真っ向から攻撃しては能力を発動させてしまう。だが……気付かれなければどうなるのかと」

「!?」

「それは今実証された。君の能力は君自身気付いていなければ発動はしない。それを言いかえるとどうなる?」

「……言いかえる?」

「そうさ。つまり、気づかなければ何もできないとうことは?」


クルトは俊司に問いかけるが、俊司は何もしゃべろうとはしない。クルトは一度溜息をついてから、口を開いた。











「何もできない……つまり、将棋で言えば……詰みの状態になるということ。そうすれば……君を殺せるってことなんだよ」 
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