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Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)

作者:BK201
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第三十七話 悪魔の正体

 
前書き
そろそろ完走しそうな位置まで来た。アルフレートはもう出ないけど、黒幕の登場だよ。
ついでに今日も二話連続投稿です。やったね。 

 

怒りの日(ディエス・イレ)の夜の最中、互いに全力で打ち合う故にその存在が脅かされるものがいた。

「――――――ぎッ」

壺中の意志である存在、イザーク・ゾーネンキントだ。彼は痛みのあまりに悲鳴を上げる。

「いた……い…」

出産を待たず広がり始めるグラズヘイムは産道を破壊しようとしていた。このままではイザークが吹き飛ぶ。
それは違うだろう。そうじゃないだろう、誕生とは。私はあなたを祝福し、あなたは私を慈しんでくれるのではないのか?私などもう要らないと、そう言うのですか?

「あ―――――が……」

子宮口が広がらない。時間の停止を起こす世界が広がって、私の出産の邪魔をしている。だからあなたは、私の為に戦ってくれているのではないのか?むしろ邪魔だと?窮屈でならぬから吹き飛んでしまえと?それではあまりに……

「あまりにも非情ではありませんか……父様……」

父親だと自分が思った人間に呪うではなく、縋るような声で言う。私という人間を抱いてくれるものが一人でもいてくれるのではないかと、そう信じて、希望をもっていたなかで……

「あなたまで、私を疎ましいと仰るのか……」

産道が壊される痛みよりも、心が痛い。涙を堪えるように彼は他者に救われるままに消え入りそうになる。だが、

《それを認めろというのはあまりにも残酷だろう》

死への契約者がここに現れる。それは突然だった。異質、と言ってもいいかもしれない。産道の内側に居られるのは御子のみだ。そこに至れる例外は存在しない。にも拘らずそれはそこに立っていた。

「だ……れ…」

《ああ、なんて残酷な結末か。君が信じたその人間は君を信じようとしない。一方が求め、一方がそれを否定する。悲壮、まさに悲劇。だからこの場を俺にゆだねてほしい。選択は常に無限だが手に取れるものは限られている。故に君に選択肢を与えよう。この手を取り、死から逃れるか、手を払い、このまま生を捨て去るか》

そんな悲劇を覆して見せようと。そう嘯く一人の影法師。常時であれば誰であろうともそんな言葉に踊らされない。だが、人は絶望を見せつけられたその時に差し伸べられる手に縋り付きたくなるのだ。それが例え、自分に意思は無いものだと信じる者でも、より深みへと贈る悪魔の手だとしても。ゆえに、イザークは手を伸ばす。このままではどちらにしろ自分が消えることに変わりはない。だったら選択するべきなのだ。

《ありがとう。君は俺を信じてくれるのだね。では、この舞台の幕を下ろそう。そして新たなる寸劇を始めるとしよう。尤も、それがどういった喜悲劇となるかはわからないが》

ここにきて、ようやく彼は己の姿を見せる。これまでは舞台に糸引く人形しか置かなかったがようやく舞台に上がれると言わんばかりに。




******




「む……」

「何が……?」

突如、シャンバラの方陣が形を歪め、そして世界を歪ませた。それに驚愕する二人。いや、二人というのには語弊はあるかもしれない。何故なら少なくともラインハルトにとってはシャンバラの方陣を邪魔だと言わんばかりに力を全力で振り払っていたのだから。
だが予想に反して陣は壊れるのではなく、形を歪ませだしたのだ。故に両者は共に疑問を抱く。これは一体何なのだ、と。蓮とラインハルトが今この中心であった以上、他者の介入など今更許すはずもないのだ。にも拘らず、何か自分たちの予期せぬところで何かが起きている。
蓮にとっては方陣に取り込まれている玲愛が気になるであろうし、ラインハルトにとってはこの戦場を濁されたことに苛立ちが募る。そして、果たして方陣は世界すらも歪ませた。

「これは……!?」

例えば、この世界が一枚の紙だとする。その紙に書かれた絵がこの世界の既知だ。そして、蓮やラインハルトはこの世界を塗りつぶす存在だ。方や色鉛筆のように書き記すような存在が蓮であり、絵の具のように塗りつぶす存在がラインハルトだ。そして互いが一枚の紙の上を自分の色に染め上げ、勢力図のように書き換えていく。これまでの戦いはまさにそんな戦いであった。
では、その一枚の紙が変化すればどうなるのか?それはまさに世界そのものへの干渉となる。チェスの盤面の形を将棋の盤面に変えるかのごとく、世界の形を彼は覆した。

その情景はまるで箱庭(エデン)。花が舞い散る庭園と、その一歩外に見える無の世界。造られた世界であり、ある種完成された世界と言えるかもしれない。だが、少なくとも蓮が思うにこの世界は良しとしていいものではなかった。ここにあるのは全てまやかし。誰もおらず、何もなく、ここには既知も未知も関係ない。まさしくここは無そのもの。座からの干渉を覇道を流すことで無理矢理掻き消しているのだ。そういった意味でもここは出鱈目だ。

「ようこそ。この美しくも狂おしい箱庭(じごく)へ」

声が聞こえる。その声には聞き覚えがある。既に総軍に呑み込まれたアルフレートの声だ。だが、その声は違う。何かが確実に違うのだ。発音?空気?口調か?そのどれでもあり、またそのどれも明確にあてはならない。

「いや、こうして他者と話をするなど水銀以来だ。まあ引き合わせたのは俺自身だが、どうした席に掛けてもらって構わんぞ」

振り返ると、そう言って和やかに西洋式の椅子に着きながら声をかけている相手がいた。その姿に見覚えはない。だが、その気配は何故かアルフレートを彷彿させる。理解が追い付かない。今、目の前にいるのは確実に別人だ。そのはずなのだ。だからこそ、それに最も疑問に思うであろう人物が問いを投げる。

「卿は何者かね?」

己の総軍の尖兵となった相手とあまりにも似通った気配を出される相手であるがゆえに。尋ねずにはいられない。

「そうだね、彼が来るのを待つまで質問ぐらいには答えよう。初めまして、私は君らの言うところの悪魔だ。以後、と言ってもあるかは分からないがよろしく」

平然と、そう言ってのけた。




******




二人の戦いの邪魔をするのは無粋であるとわかっていたし、後ろから刺すほど程俺は外道ではない。ではなぜ、このタイミングで現れたか。それは簡単だ。俺が介入出来る機会はこのタイミングしか存在せず、また、こうしなければ世界が一色に収まらないと判断したが故にだ。

「悪魔というのが言い難いのならアグレドと言ってもらっても構わないよ。略称でいうならこれもまた正しい名前と言えるだろうから」

穴が開いた先は特異点となる。そこに至れば結局は彼らの戦いを一度止めねばならなかったであろうし、また、彼もそれを良しとせず止めたことだろう。故に。穴を空けないように形を変え、導いた。俺という存在がいるこの牢獄(ゲットー)へと。
無論、これは彼への謀反でも、叛旗でもない。何故なら彼はこの程度のことで狼狽えなどしないだろう。

「ここは……どこだ?何のためにこんなことをした?」

藤井蓮が尤もな疑問を口にする。確かに彼らにとっては互いの決闘に水を差された気持ちなのだろう。だが、案ずるな。むしろ喜べ。俺は君らに選択肢を与えよう。

「牢獄、地獄、失楽園、獄界、無色界、奈落、煉獄……多くの人間がそう呼び、蔑み来ることすら拒む世界だ。そうは見えないか?」

自らの目の前には己の穢れた欲を満たすためだけの物が現れ、それ以外には何もない。望む物を総て与えられる代わりに、それ以外は何もない。
ある者ならここを極楽と言えるかもしれない。だがそんなものはここにはない。この世界はどこまでも孤独であり、得られるものはあくまで物でしかないのだ。故に、ここを極楽と言えるのは孤独を愛する者のみだ。

「何のために、という質問に対してはこうすることを俺が望んだからだ。君らはあの瞬間、既知という絵画を壊し、新たな絵画を彩ろうとした。だが、一つの絵に画家は二人も求めはしない。故に穴の開いたその先で相争う事となれば、それは最早流出ではなく墜落だ。たとえどちらが勝ってもそれでは得るものなどない。不本意だろうそれは」

そう、だからこそ、

「決着をつけたいというのならここで行ってもらう。何、ここならばいくら汚されようとも壊されようとも気にはしない。何せここの住人は俺ただ一人。その俺が認めているのだ」

「なるほど、卿も、またカールそうすると?」

そう言って俺ともう一人の人物に目を向ける。俺はその聡さに笑みを殺し、突如現れた水銀もまた一瞬だけ目を瞬かせ、微笑した。

「ああ、その通りだ。ここでは誰も例外などない」

「無論、いつもそうしていた(・・・・・・・・・)。私は何もしない」

悪戯を見咎められた子供のように笑う。ここで、流出の主を決めるのだ。俺という全くのイレギュラーすら含めた四人で。勝ったものがここから出られる権利を有する。尤もそれに関して俺は除外されているが。

「結局、お前は何なんだ―――」

蓮も戦い自体には納得を見せるが俺という存在が何なのかを尋ねる。彼とて薄々気がついてはいるのだろう。俺という存在が流出位階を持つものであると。だが、確信を持てない。故に声を掛けるのだ。

「勘付いてはいるんだろう―――だがまあ、尋ねられたのならば答えないわけにはいかないだろうね。俺は糸を引くものだ。同時に俺の正体に意味はない。俺という存在はこの世界で閉じ込められた愚鈍な悪魔に過ぎない。そして機会が巡りくるように配役を用意しただけのことだ。中々の余興には浸れたと思うがどうだ?」

俺はここから出られない。閉じ込められた醜い悪魔。それだけの存在のはずだった。だが、何の因果か俺という存在は身の半分より(アルフレート)という存在を生み出し、またその(アルフレート)(七皇帝の分体)を生み出した。俺は糸を引いてそれらの人形を少しだけ自分の都合のいい方に動かしただけ。結果、鍵を得た俺はここに立つことを許される。

「俺は結局のところ、神の僕であり、敵対者であり、悪魔であり、悪神だ。君の望む悪意ある答えを当て嵌めておいたらいい。俺はそんな存在だ」

故に憎みあうなら相争え。俺は俺のやり方で他者の望みを叶えよう。誰もが望まぬ形で夢を現実としてやろう。

「では、各々それでよいかね?」

水銀が最後の確認を取る。ああ、無論俺はそれで構わない。

「いいだろう」

そして同様にその問いにラインハルトは頷き、

「ああ、文句はない」

藤井蓮もまた肯定する。
誰もが相手を斃すという前提が変わるわけではない。配役が増え、勝敗のつけ方が単純化しただけ。

「では行こうか」

一歩踏み入れ、無の地を最後の決着に相応しい決闘場(コロッセオ)へと造り変える。それは俺にのみ与えられた権限。このごく限られた世界は俺の敷地。故にこの程度ならば造作もなく出来ることだ。

「カール」

先頭を歩く、ラインハルトは振り返ることなく、友へと声を掛ける。

「大儀だ。卿の友情、嬉しく思う。私は総ての望みを叶えられた。未知も、全力も、そして神殺しも。ただ、私がもっと早くに気付いていたら、卿と直接矛を交えていただろう。その機を逸したのが、残念と言えば残念だ」

怒りの日(ディエス・イレ)とはすなわち最終審判の日。それは天上の神すらも消し飛ばすということに他ならない。ラインハルトの最大の願いとは、つまりそれであり、灯台下暗しであったことを悔やんでいる。

「そこはお許しを。私は友人と争うことなどしたくない。あなたは最高でしたよ。ハイドリヒ卿」

「私もだ、カール。そしてアグレドといったか―――」

「何か?」

意外だったのは続くその言葉。俺に対して彼が尋ねることなどありもしないだろうに、と思っていただけにそれに多少の疑念をもつ。

「卿もまた、大儀であったぞ。卿の寄越した臣は中々に素晴らしいものだった。故に、卿もまた私の愛に抱かれるがいい」

「――――――」

らしいと言えば、あまりにもらしいその言葉。ハイドリヒにとって(アルフレート)であろうとも愛すべき一人だったというわけだ。だからこそ俺はある意味、俺としての意志を介在して答える。

「誉れ高きことだ。故に、その言葉は俺ではなく、あなたの内にいる僕へと伝えるようにしてくださることを望みます」

「フム、そうか」

ただそれだけ言って彼は再び歩みを進める。俺とアルフレートは元は同じ存在であろうとも今や別の存在だ。彼は人であり、俺は人ならざる悪魔。それだけでも彼と俺は違いすぎる。故に、アルフレートはそれを無意識に自覚した時から水銀をメルクリウスとラインハルトをライニと呼んでいたのだから。

「では、さらばだ友よ」

「ええ、さらば私の二人目」

水銀とラインハルトは別れを告げる。

「では、始めるとしよう。決着の方法は簡単だ。最後まで己の覇道を貫き通したもの、それこそがこの世界の勝者となる。互いに己の総てを懸け世界を己の者とするがいい」

では、その開戦は俺が告げるとしよう。そして、腕を振り下ろし、全員がその戦いに身を委ねた。


 
 

 
後書き
悪魔:その存在は抽象的で人の運命を狂わすもの。見えないものを表すこともあり、存外自己犠牲心が高かったりもする。ステータスのフラグがようやく回収できたってところかな? 
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