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東方守勢録

作者:ユーミー
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第四話

「……」


牢屋の中、俊司は深夜だというのに眠れずにいた。

何もしゃべらず一人でいると、脳裏に浮かび上がってくるのは仲間のことばかり。皆を逃がすためとは言えど、勝手なことをしてつかまったことは事実。心の隅では自分を責める自分がいた。

特に気になったのは、別れるまでともに行動した仲間のことだった。最後まで自分を引きとめようとしたレミリア。自分が倒れるかもしれないのに、能力を使って助けようとした鈴仙。引き止めたいという自分を抑えて、笑顔を返してくれた妖夢。その他にも、あの場にいた誰もが悔やんでいないか、心配で仕方がなかった。

それに、協力を求めてきた文のことも心配していた。自分があんなことを言わなければと、自分を責めていないかが心配だった。

だが、この中にいる限りはなにもすることもできないし、皆を安心させる手段もない。

俊司はただ無意識にため息をつくしかできなかった。









捕虜監視室前


「……よし」


扉の前では、スタンガンを持った由莉香がたっていた。彼女の周りには、気を失った二人の兵士が倒れている。

由莉香は男たちが完全に気を失っているのを確認した後、ポケットから奪取したICカードを取り出し、カードリーダーにとおした。


『カード認証完了。ロックを解除します』


アナウンスとともに扉が開く。

中に入ると、すぐ近くで扉が開いたというのに、何も疑うことなく背中を向ける一人の兵士がいた。


(ここの監視員は一人……だったらこのまま!!)


由莉香は全速力で駆け寄っていく。


「……ん?」


男もさすがに不審に思ったのか、ふと後ろを振り向いていた。だが、すでに走り始めている彼女をとめることはできない。


「くっ!」

「なっ……うぎゃあ!?」


男はまたしても変な奇声を上げながら倒れこんだ。


「鍵……あった!」


由莉香はそのまま男が持っていた鍵を奪うと、また走り始めた。












「……なんだ……今の?」


突然の奇声に俊司はポカンとしていた。それに俊司だけでなく、眠りについていた咲夜達も目を覚ましていた。


「なにか言った? 俊司君」

「いえ……いきなり外から奇声が……」


と言って俊司は外を確かめようと、鉄格子に近寄っていく。

あたりを見渡すが何も見えない。と言うか、見える範囲が狭すぎて何が起きてるかわからなかった。


「何かあったのか……ん?」


よく耳を澄ましてみれば、微かだが足音が聞こえていた。それもどんどんと大きくなり、近寄ってきている。


「誰か……来ますね」

「はい……」


足音はもうすぐそこまできていた。俊司はその姿を確認しようと、再び外を見渡す。

そこには見覚えのある少女がいた。



「えっ……由莉香!?」














「俊司君!」


俊司の声に反応した由莉香は、すぐさま彼が収容されている牢屋に駆け寄る。


「おまっ……どうしてここに」

「それはあとで説明する。とにかくここから出よう」

「はあ!? いきなり何言ってんだよ! また理由もなく変なことしようとしてんじゃ……」

「もう小学校の頃のようなことはしないよ。きちんとした理由はあるから!」


由莉香は何本か鍵を指して感覚を確かめると、その中の一本を選び鍵を回す。すると、金属音とともに鍵ははずれ、扉は音をたてて開き始めた。


「これでよし! 早くでて! 皆さんも!」

「あ……ああ」


状況が把握できないまま、俊司達は牢屋からでる。由莉香は、彼らにつけられてある手錠をはずすと、申し訳なさそうな顔をしてしゃべり始めた。


「ごめんなさい……俊司君たちが言ってること……正しかった。間違ってたのは……私だったんだ」

「由莉香……もしかして……」

「お父さんがしゃべってること……偶然聞いちゃったんだ。私達……ひどいことしてたんだね……」


そういって軽く涙を浮かべる由莉香。俊司は少し呆然としていたがすぐさま思考を取り戻すと、由莉香の頭をぽんとたたいた。


「誤らなくてもいい。過ちは誰だって犯すさ」

「……俊司君」

「ありがとな……由莉香」

「……うん」


由莉香はそういってコクリとうなずいた。


「俊司君。彼女信用できるの?」

「はい。由莉香は俺の幼馴染です。俺は……嘘をついてるとは思えません」

「……私もそう思います」


そう言って賛同したのは早苗だった。


「早苗さん……」

「あなたも騙されていただけなんですよね? それに、あの時も私に優しく接してしてくれましたし」

「でも……あの時……」

「あの事は気にしてません。憎しみは……仕方ないでしょうし、それも嘘だったってわかったのでしたら」

「……ありがとう」

「……まあ、何があったかは知らないけど、二人がそう言うなら私も信用するわ」


咲夜がそういうと、藍と橙も相槌をしていた。俊司は小声で「ありがとう」と言うと、由莉香の目にたまっていた涙をすっとふき取った。


「行こう。チャンスは一回だよな」

「うん。でも、その前にほかの人も助けないと……」


と言って由莉香が別の牢屋に向かおうとした瞬間。


「やめとけお嬢ちゃん」


男の声が彼女を止めた。


「でっ……ですけど……」

「気持ちはうれしいけどさ、俺達は自分の身を守れない。足でまといになるだけさ。迷惑かけるなら……君達だけで行ってもらうほうがましだよ。そうだよな!」


男が周囲に問いかけると、牢屋の中に入っている捕虜の全員が賛同を返してきた。


「こういうことだ。行ってくれ」

「……すいません」

「誤らなくていいさ。君達は俺らの希望になる。それでいいんだよ」

「…はい」

「えっと……そこの少年もがんばってな」

「はい……行こう」

「うん」


俊司たちは男に必ず助けると約束し、後にするのであった。







監視室を脱出した一同は、見張りの兵士に見つからないようにしながら廊下を歩いていた。


「しかしどうするんだ? このまま脱出するのか?」

「いいや、まず武器保管室に向かうよ。俊司君たちの武器はそこにあるから」

「てきればスペルカードも回収したいわね……あとナイフと」

「確かに。能力と通常弾幕ではすこし心もとないからな」


声のトーンを低くしながら一同は予定を立てる。その際にも注意は怠らなかった。

幸い、見張りの兵士に見つかったりすることなく動くことができ、武器庫の前に着いた時、監視室を出てからあまり時間は経っていなかった。


「……一人いる」

「どうするんだ?」

「これ持ってて」


由莉香は俊司にスタンガンを渡すと、そのまま飛び出して行った。だが、俊司はそんな彼女を引き留めることなく、ただスタンガンを握って何かを待っているようだった。


「なにも言わないで行きましたよ!?」

「大丈夫ですよ。だいたいわかります」

「すごいな……まるで以心伝心じゃないか。私と橙もそれぐらいできれば……」

「……すみましぇん……でも、橙もがんばります!」

「ああ。そうだな橙」


藍はそう言って橙の頭をなでていた。








「あの!助けてください!!」


由莉香は見張りの兵士に駆け寄るなりそう言った。


「どっ……どうしたんだ急に?」

「向こうで兵士の方が倒れてて……」

「なっ……すぐに向かおう。案内してくれ」

「こっちです!」


兵士は何も疑うことなく由莉香についていく。

由莉香は軽く駆け足で兵士の先を進むと、素早く曲がり角を曲がった。その先では俊司がスタンガンを持ってスタンバイをしている。


(後お願い)

(ああ)


一瞬のアイコンタクトが俊司の合図となる。

由莉香が後ろに回ったのを確認すると、俊司は少しずつ見え始めていた兵士に向けて突撃し始めた。


「はい、お疲れさん」

「えっ……うぎゃあ!?」


ほとんどおなじみになった奇声を上げながら、兵士はその場に倒れこんだ。


「これでよしっと」

「これ……ばれないんですか?」

「この時間帯はどの兵士も眠気で反応が鈍くなっています。それはもう猿でも通れるくらい……」


それは見張りの意味があるのかと、心の中でツッコミを入れる一同。それはさておき、由莉香はすぐさまICカードをカードリーダーにとおし、武器保管室の扉を開けた。

中には兵士が使うアサルトライフルやサブマシンガンをはじめとした銃と、幻想郷の住人から奪った武器が所せましに陳列されていた。


「うわっ……思ったよりも多いな」

「俊司君たちの武器はあそこあたりにあります。私はここで外を警戒していますので、探してきて下さい」

「ああ」


俊司たちは、由莉香の指示通り室内の奥で自分の武器を捜し始めた。











監視ルーム


由莉香が最初に制圧し、中に入れないようカードリーダーを壊したはずの場所。だが、それにもかかわらずドアは開いており、中には一人の男が興味深そうにモニターを睨んでいた。


「やっぱりか」


男がモニターを見ながらそう言った。その目はモニターに映る少年たちに向けてか、あるいはだらしない見張り兵士にむけてか、怒りをあらわにしていた。


「不甲斐ないやつばかりだ……少女一人に油断しすぎなんだよ!」


男はその場に倒れていた兵士を思いっきり蹴り飛ばす。そのままいらいらした顔のまま、男はモニターの前にあるテーブルにあったスイッチに手をかけた。


「このままで済むと思うな? いくら総司令官の娘だろうが……裏切り者は裏切り者だ。その罪はここで支払ってもらうぞ!」


そう言って男はスイッチを押した。











ビーッ!!ビーッ!!


「! 警報装置!? でも……監視ルームは抑えたはずなのに……」

「由莉香! どうしたんだ!?」

「たぶんばれてる……いそいで俊司君!」

「大丈夫! こっちは準備できたから!」


そう言って俊司はいつものハンドガンを握りしめていた。 
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